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地震の揺れをカットする鉄球
「壊れない建物」から「揺れない建物」へ──。耐震技術から制震・免震技術への展開は,超高層ビルなどの大きな建物だけでなく,戸建住宅にも着実に普及している。
そのなかで,「超高層の鹿島」「地震エンジニアリングの鹿島」の技術を結晶させ,実績を重ねているのが,今回紹介する戸建免震システムだ。ポイントは大小の鉄のボール。ビル免震でおなじみの積層ゴムとは全く様相が異なる。
戸建免震システム「シンドCUT」のボールベアリング支承。直径約5センチと9ミリ弱の鉄球,1.5゜の傾斜がついた受け皿(下の薄いグレー部分)で構成される。写真は説明用につくられた精密な断面模型(制作:アルモ設計)。実際にはカバーで覆われ,こうした機構は見ることができない
 地面と建物の“縁”を切り,建物に伝わる地震エネルギーを大幅に軽減することで,地面が揺れても建物の揺れを防ぐ免震技術。「揺れない建物」へのニーズは,阪神淡路大震災を機に急速に高まってきた。全半壊や火災を免れた建物でも,家具や電器製品の転倒・落下によって人的な被害が多発した。「インテリア被災」と呼ばれる二次災害だ。
 “縁”を切る装置の代表例が積層ゴムだが,ビルのように一定の重量がなければ効果を発揮しにくく,戸建住宅には適さない。そこで鹿島が開発したのが,ボールベアリング支承と,オイルダンパの組み合わせによるシンプルな構成の戸建免震システム「シンドCUT」だ。
 ボールベアリング支承のポイントとなる鉄球は大小2種類。直径約5センチの中央の球の周囲に,9ミリ弱の球が約200個つく。地震時に大きな鉄球が受け皿の上を転がり,地震の揺れを受け流すのである。その動きをより滑らかにするのが小さな鉄球だ。
 受け皿をすり鉢状にしたのも重要なポイントである。地震の揺れが収まれば鉄球は自然に受け皿の中央に戻り,建物と地面との“ズレ”を復元する機能を持つ。
 一方のオイルダンパは,地震の振動エネルギーを吸収して揺れを軽減するほか,風による建物の揺れ防止の役割も果たしている。
 システムの効果を震度に換算すると,震度6弱〜7クラスの大地震時には震度4程度にまで揺れを低減するという。阪神淡路大震災時の揺れを再現した実験では,加速度を最大1/11に低減する結果も得られている。万が一の大地震の際にも安心なのはもちろん,震度2程度から効果を発揮する。頻度の高い小さな揺れにも“効き目”があり,日常の安心を築くのである。
 また,耐久性が非常に高く,基本的にはメンテナンスフリーだ。木造・鉄骨造・軽量コンクリート造などの幅広い構造に対応できる。
 そして,ボールベアリングは360゜全方向に免震効果を発揮するため,建物の躯体そのものの耐震要素を大幅に低減でき,設計の自由度が飛躍的に高まる。既存住宅のリニューアル工事への適用も今年中の実用化をめざしている。
 戸建免震システム「シンドCUT」は,鹿島の技術による安心を住宅市場のエンドユーザーに届けるだけでなく,住宅設計における地震対策の考え方を革新し,“住みつづける”ことへの新たな可能性を秘めているのである。
当社技術研究所での戸建免震システム実験の模様。上が通常の住宅,下が免震システムを適用した住宅。その効果は一目瞭然
実際の住宅に取り付けられた戸建免震システム。左がオイルダンパ,右はカバーがついた状態のボールベアリング支承。カバーを外して断面を見せたのが左ページの写真
戸建免震システムの図解。基礎と地盤の“ズレ”を吸収するために各ジョイント部分の技術も充実している。現在のコストは“国産乗用車1台分”程度
戸建免震システム「シンドCUT」は,鹿島の関連会社テクノウェーブが装置の販売をはじめ,設計・申請・施工・管理・アフターケアまでのトータルなサービスを提供している。現在までの実績は,大手ハウスメーカーを中心に100棟を超える。
全国の工務店や設計事務所などへの普及活動のほか,さらなるコスト低減にも力を入れている。
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