特集:防災イマジネーションを高めよう

個人の防災イマジネーション
災害状況イマジネーション支援システム「目黒メソッド」
 どれだけ優れた防災支援技術や復旧・復興戦略を持ち合わせていても,個々の人間が災害状況を具体的にイメージできる能力を養っていなければ,「いざ」という時にこれを有効に活用することは難しい。防災力を向上させるには,災害状況を具体的にイメージできる人間を増やしていくことが必要だ。
 東京大学の目黒公郎教授が考案した災害状況イマジネーション支援システム「目黒メソッド」は,私たちひとり一人の生活時間の中に,災害への確かな意識づけを行っていくトレーニング・ツールである。私たちもイマジネーション能力を強化して大地震に備えよう!
1日の行動パターンを表にする
 まず,自分の1日の生活を再認識することから始めよう。縦軸に自分の1日の行動パターンを時間帯別にあげ,横軸に地震発生後の時間経過をとった表を用意する(表参照)。
 サラリーマンの平日の行動パターンであれば,「起床後朝食をとり,どんな手段で出勤し,会社ではどんな仕事をして・・・・・・」というように, 1日のスケジュールを思い起こし,表に書き込んでみよう。
災害状況イマジネーション支援システム「目黒メソッド」
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大地震発生!自分の周囲で何がおこるか?
 各行動時間において,大地震があなたを襲ったと仮定する。表の横軸に用意した地震発生からの時間経過の中で,自分の周囲で起こると考えられる事柄を表に書き込んでいく。
 さあ,イマジネーションを働かせてみよう!「通勤電車は脱線するだろうか?営業先の周囲はガラス張りのビルが林立しているぞ。いつも立ち寄る居酒屋は階段が狭くて急だ」など・・・その時々の自分の置かれている環境を思い浮かべ,起こり得る状況を考えてみる。あなたは容易にイメージすることができるだろうか?
 この表を全て埋めるには,かなりの時間を要するだろう。初めから適切な記載をできる人はほとんどいない。普段意識していない事柄をイメージすることは非常に難しいからだ。何度も表を読み返し,家族や友人とも意見交換を行い,イメージ・トレーニングを重ねていくことが重要だ。この作業を通じて認識するのは,地震の発生時刻によって自分の周囲で起こる事柄が大きく異なるということ。我々は様々な状況を想定した防災策を考えておく必要があることを実感するだろう。
 
自分のすべきことは?
 今度は,表に記入したそれぞれの出来事に対し,「自分は何をしなくてはならないか?」を考えて,同様に表を埋めていく。その際に「それを実行するために必要なものは?」「その状況下でそれは手に入るのか?」といった様々な問い掛けをしながらイメージを膨らませていくと,リアリティのある回答が浮かんでくる。

 以上が「目黒メソッド」の一連の作業だ。ひと通りの作業を終えると,かなり具体的に災害をイメージできるようになっている。問題意識も強くなってくる。しかし,まだまだ十分とはいえない。
 例えば,自分や家族の負傷などを想定しただろうか?停電で真っ暗闇になる可能性を考えただろうか?最悪の事態がイメージされた場合,どう改善すればハッピーエンドになるだろう?何度も新たな疑問を投げかけ,より最適な行動を見つけ出して行く。これが防災力を強化するトレーニングとなっていく。
 さらに,異なる季節や天候を設定したり,違った行動パターンで繰返しシミュレーションを行うと,大きく変化する事柄が見えてきたり,新たな自分の役割を認識することもできるだろう。そして,家族や友人にも実施してもらい,意見交換していくことで,双方の結束力も生まれ,いざという時の協力意識にもつながっていくのである。
 
 今後,気象庁の「緊急地震速報」が一般向けに配信される日がくれば,私たちの防災への取組みの幅は益々広がる。「目黒メソッド」で地震発生以前をイメージすることも,防災力の一層の強化に有益だ。
 防災力は,個人が災害に対して関心をもち,日常生活にその意識付けを行うことで大きな力を発揮するのである。
【参照:東京直下大地震 生き残り地図/目黒公郎監修(旬報社)】
目黒公郎 目黒公郎/めぐろ・きみろう
東京大学生産技術研究所・都市基盤安全工学国際研究センター教授。
専門分野は都市災害軽減工学。
1962年生まれ。
1991年東京大学大学院で工学博士取得後,東京大学助手,助教授を経て,2004年より現職。
「現場を見る」「実践的な研究」「最重要課題からタックル」をモットーにハードとソフトの両面から災害軽減戦略研究に従事。途上国の地震防災の立上げ運動にも参加している。
http://risk-mg.iis.u-tokyo.ac.jp



Chapter 1 企業防災のイマジネーション
Chapter 2 個人の防災イマジネーション
Chapter 3 地域防災とイマジネーション
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