[2004/04/03]


蘇れ!海のゆりかご
アマモ場再生技術の開発

鹿島と北里大学の共同研究
4月3日の平成16年度日本水産学会大会にて発表


背 景アマモ場って?参考資料システムの概要
システムの特長今後の展望

 鹿島(社長;梅田貞夫)は、北里大学水産学部(学部長;児玉正昭)と共同で、沿岸浅瀬のアマモ場再生に関する新技術を開発しました。
 アマモ場は資源育成に大きな役割を果たすだけでなく、水質や底質の浄化に大きな役割を担っていますが、沿岸域の開発などで減少し、その再生が課題となっています。
 この共同研究では、対象海域のアマモ資源を元に『増やして海に返す』、『環境にやさしく』をコンセプトとし、種から育てたアマモの苗を海域に移植することによってアマモ場を再生する技術を開発したものです。これまでに実験室レベルでアマモ種子の発芽までの期間を従来の約1/2、高発芽率による種苗の安定確保ができる事を確認し、アマモの種子の採集から発芽、育苗、移植までを一貫したシステムとして確立しました。

背 景


 沿岸の浅瀬に分布するアマモ場は、「海のゆりかご」と呼ばれ、魚の餌場、産卵、稚魚の育成場となる場所です。しかし、戦後の沿岸域の開発や埋立てや海水汚染などにより、アマモ場は減少傾向にあり、沿岸漁業生産にも影響するなど、干潟と同様にアマモ場の減少は大きな社会問題となっています。
(環境庁の調査では、1978年〜1991年の13年間に全国で消滅したアマモ場は2,077haにもなります(第4回自然環境保全基礎調査,環境庁,1994)。)
 昨年、過去に損なわれた生態系その他の自然環境を取り戻すことを目的とした「自然再生推進法」が施行されました。これに関連して政府は水産基盤整備事業として5,000ha(東京ドーム5,000個分)の藻場・干潟を5年間で回復させる目標を発表しています。
 こうした動きにともなって、近年、自然環境再生の機運が高まり、生態系保全や干潟再生への社会的な動きも活発化してきています。アマモ場再生についても自治体や市民団体、NPO法人などによって活発に行われるようになっています。
 その手法は、海域に直接アマモの種子を播いて自然発芽させる「播種」、他の海域から採取したアマモや、種子から人工的に育てた苗を「移植」する方法などが取られてきました。しかし、「播種」の場合、種子の定着率や発芽率が低い点で改善が必要であり、また、「移植」では、他地域の健全なアマモ場から株を採取することが前提であるため、他のアマモ場が破壊される懸念があります(参考資料参照)。
 また、新たな問題として、遺伝子レベルでの生態系撹乱の影響が専門家により指摘されています。すなわち同種のアマモであっても異なる遺伝子集団であることを無視した移植や播種には慎重な対応が必要です。そこで、当該海域から採集した種子をもとに、これを確実に種苗として増殖させて移植することが、生態系の保全の面からも必要と考えられています。


アマモ場って?



 アマモは、海草(うみくさ)の仲間で、水深1〜3mの浅瀬の砂泥質に群生する植物です。アマモがワカメやコンブなどの海藻と大きく異なる点は、花が咲き種子ができるということ、地下に茎を伸ばしながら繁殖する点があげられます。アマモが群生した場所をアマモ場と呼び、多くの生き物が集まり、魚の餌場や産卵場所、幼稚魚にとっては外敵から身を守る隠れ場ともなります。また、長い葉が密集していることで、波を打ち消す天然の防波堤の役割を果たし、地下茎による海底地形(底質)の安定化や窒素、リンの吸収、また、光合成により海水に酸素を供給することから、アマモ場は水質浄化や底質浄化の役割も担っているのです。

アマモ場

参考資料



アマモ場の生態と機能
アマモ場の生態と機能

従来のアマモ場造成と問題点
従来のアマモ場造成と問題点


システムの概要



 当社と北里大学水産学部(海洋基礎生産学研究室 小河久朗教授、難波信由講師)は2002年から共同でアマモ場の再生技術について研究を行ってきました。そしてこのほど、実験室レベルで種子を短期間(従来の約1/2)、高確率で発芽させることに成功し、種苗の生産効率を向上させることが確認できました。
 システムでは、まず、対象の海域からアマモの種子を確保します。採集した種子は効率のよい手法で長期保存ができることを確認しました。次に、発芽です。アマモは淡水による処理がもっとも高い発芽率を示すことを究明できたことから、淡水による最適環境下で発芽時期を制御し、大量の種苗を育成することが可能となりました。そして、定着促進型移植工法にて、海域に移植します。
 この種子確保→保存→発芽制御→大量育苗→移植までの一連の工程を同一基盤上にて実施します。アマモの種子の採集から移植まで一貫したシステムを確立することにより、限られたアマモ資源から確実にかつ短期間にアマモを増殖させ、海に戻すことが可能となりました。
 なお、北里大学では、アマモの生理・生態学的研究を中心にアマモの発芽に影響する塩分、温度特性の解明などを行い、当社はアマモ場の保全に寄与する種子の採取法および長期保存法の検討、解明した発芽条件のデータを基にした種苗生産から海域移植までの効率化のためのシステム化を行いました。

淡水処理により発芽したアマモ種子
淡水処理により発芽したアマモ種子

実験室内での生育中のアマモ苗
実験室内での生育中のアマモ苗

参考資料・システム概念図(PDF)

システムの特長



  1. 年間を通じて目標量のアマモ苗を安定的に供給することが可能

  2.  本システムでは、種子を淡水処理することで通常1〜2ヶ月かかる発芽までの期間を2週間程度に短縮させ、更に高発芽率で安定的に種苗を確保する技術を開発しました。これにより、年間を通じて目標量のアマモ苗を安定的に供給することが可能となり、実験室レベルでは種苗生産期間を2〜3ヶ月間、種苗生産の歩留まり50%以上を確保することに成功しました(海域での播種で3%以下、従来の種苗生産では20%以下)。

  3. 生態系を守ったアマモ場再生が可能

  4.  これまで行われてきたアマモ場の造成事例は、他地域から採取したアマモの移植や播種によるものであり、無差別な移植は遺伝子レベルでの生態系の撹乱の影響が懸念されています。しかし、このシステムは種子の確保・保存から発芽、種苗育成、移植の一連のシステムから成り立っており、対象海域のアマモ種子をもとにすれば、生態系撹乱はありません。
     また、アマモの遺伝子交流の実態把握についても関係機関と連携し、完全に消滅したアマモ場を復活させる場合の適切な移植評価システムの構築を行う計画があります。


今後の展望



 当社では、今年3月、葉山町漁協、地元NPO(NPO法人スクーバミュージアム)の協力のもと葉山真名瀬港で採取した種子から本システムを用いて生産した種苗を再び元の場所へ戻す試験を行いました。今回、種子の保存から苗の育成までの過程において実験室内で良好な結果を得たため、今後は、一定規模のエリアでアマモ場再生試験プロジェクトを行い、実用化に向けて研究開発を行っていく方針です。本システムの開発により、当社は沿岸域の自然再生事業の受注や再生プロジェクトへの参加を目指していくこととしています。



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