[2005/6/2]


城郭の石垣を築城当時の姿に復元

3次元レーザー測量を用いた「3次元石垣修復システム」を開発


背景本システムの概要本システムの特長今後の展望

 鹿島(社長;梅田貞夫)は、伝統的な石工の固有技術に、3次元レーザー測量や画像処理技術、シミュレーション技術などを総合的に組み込み、城郭石垣の現況把握から保存、修復に至る一連の作業を高精度に行う、「3次元石垣修復システム」を開発しました。
 3次元レーザー測量と画像処理技術を用いて石垣の現況を正確に把握した上で、築城当時の石垣の状況をシミュレーションによって再現し、修復に必要な図面を自動作成するシステムです。築城当時の石垣の状況をシミュレーションできるシステムは日本初であり、測量についても従来の方法と比較して精度と効率が格段に高まっています。

背景



 日本各地に残されている城郭の周囲には多くの石垣が残されています。しかしこれらの石垣の中には、経年や震災等による「割れ」や「孕みだし」「ゆるみ」といった現象が現れ、地震時の安全性や文化財の保護の観点から早急に修復を必要とするものが見受けられます。石垣は一部でも崩壊すると正確に復元することが不可能なため、放置すれば貴重な文化財が失われてしまう恐れがあります。
 城郭の石垣の石積み技法は、戦国時代の城に見られる自然石に手を加えずに積む「野面積(のづらづみ)」、江戸城など、石同士の面に手を加えて接点を増やす「打込接(うちこみはぎ)」、また、仙台城のように石を完全に加工して密着させ隙間なく積む「切込接(きりこみはぎ)」と、歴史を重ねるごとに高度化してきました。
 一般に石垣を修復する場合、文化財保護の観点から当時の石積技法を忠実に再現しながら築城当時の形状に修復することが求められます。具体的には、石垣をひとつひとつ解体し、孕みやゆるみなどを是正しながら、元の石を再利用して元々あった場所に積み直します。
 築城当時の姿に正確に復元するためには、現在の石垣の状況を正確に把握し、そのデータを基に築城当時の姿を表す修復図(設計図)を作成することが重要な作業のひとつです。これまで、現状の石垣の形状を把握するための測量は、石ひとつひとつにメジャーを当てて手で測る方法が一般的でしたが、この方法では計測者の経験や判断に負うところが大きく、複数の計測者によるデータのばらつきが懸念されました。さらに、測量のために石垣を取り囲む仮設足場が必要でした。
 本システムは、測定方法に3次元レーザー測量と画像処理技術を用いて、石垣に触れることなく石垣の現状を正確に計測し、それぞれの石積技法のシミュレーションが行え、正確な築城当時の修復図を作成することが可能です。
 鹿島は、仙台城の石垣修復工事において3次元CADを用いて修復図を作成するシステムを構築し、築城当時の美しい姿を復元しました。今回のシステムは、測量方法に3次元レーザー測量と最新の画像処理技術などを総合的に組み込んでバージョンアップしたものです。

本システムの概要



 石垣の修復には、まず、第一に石垣の現状を正確に把握することが重要です。本システムでは、最新の測量技術である3次元レーザー測量と最新の画像処理技術を組み合わせ、石垣全体の3次元モデルと石垣を構成する個々の石の3次元座標など、石垣の修復に必要な現状の石垣の状況を遠隔測量します。そして計測されたデータを基に、築城当時の姿をシミュレーションにより再現します。また、修復に必要な設計図、施工図を簡単に作成することができます。

 以下に、本システムの基幹となる2つのシステムを紹介します。

T. 3次元レーザー測量と画像処理技術を用いた測量システム

 今回のシステムでは、「3次元レーザー測量」と株式会社エマキ(秋月直道社長 本社;福島県会津若松市)が開発した画像処理技術「Mofixテクノロジー*」という二つの最新の測量技術を組み合わせることで、石垣全体の3次元モデルと石垣を構成する個々の石の3次元座標を遠隔測量で正確に計測することが可能となりました。この測量システムによって、仮設足場が不要になるだけでなく、測量時間も格段に短縮することが可能です。また、足場上での高所作業が無くなるため、安全性も向上します。

* Mofixテクノロジー・・・動画データから連続した高解像度・静止画像を全自動で生成するシステム。1枚の写真で収まりきらない長大な構造物などの正確な全体像を、高精細な静止画像に変換可能。

 
対象石垣の断面
対象石垣の断面

 3次元レーザー測量で求めた3次元座標と、Mofixテクノロジーで取得した画像データをマッピングする(重ねる)ことで、個々の石の精度の高い3次元座標を求めることができます。
 また、画像データを重ね合わせることで、石の表面の微細な割れや色などの情報も記録でき、後の施工管理に大いに役立ちます。

 

マッピング
 
石垣図化の例

U. 修復図作成システム

 測量システムから得られた現状の石垣のデータを解析し、築城当時の石積み技法による形状を再現します。具体的には、築城当時から変状が無い断面を抽出し、その断面を基準に築城当時の石垣形状をシミュレーションにより再現するもので、積み直しの必要な範囲とその形状を定量的に確認することができます。また、再現された形状を基に、修復に必要な図面を任意の断面で簡単に作成できます。
 日本の城郭の石積み技法である「野面積」「打込接」「切込接」に対応しており、日本に存在する全ての城郭の石垣の形状を再現することが可能です。

 
修復図(平面図)

 

修復図(断面図)

本システムの特長

 

 本システムの特長は以下の通りです。
  1. 3次元レーザー測量と画像処理技術を組み合わせて、石垣全体の3次元モデルと石垣を構成する個々の石の3次元座標を遠隔測量で計測できる。


  2. 従来の測量方法では計測者の経験や判断に負うところが大きく、複数の計測者によるデータ精度のばらつきが懸念されたが、本システムではばらつきのない正確なデータが得られる。


  3. 仮設足場が不要なため、コストや工期にメリットがあるばかりでなく、高所での測量作業が不要となり、安全性も向上する。


  4. 従来の測量方法に比較して、測量期間を大幅に短縮できる。


  5. 日本固有の「野面積」「打込接」「切込接」という3種類の石積み技法に対応しているので、日本における全ての石垣を再現できる。


  6. 再現された形状を基に修復に必要な図面を任意の断面で簡単に作成できる。



今後の展望

 

 石垣は、一度崩壊してしまうと二度と往時の姿を取り戻すことはできません。地震時に崩壊する恐れのある城郭石垣は日本に数多くあり、その対策が急がれます。
 当社では、伝統的な石工の技術と現代の最新IT技術を融合させた本システムを、石垣の現状の記録から修復計画及び修復工事まで幅広く適用して、今後も文化財の保存に貢献したいと考えています。また、本システムを利用することで貴重な技術である石積み技法の継承にも役立つものと考えています。



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