[2007/4/24]

産総研の世界初「密閉型遺伝子組換え植物工場」竣工

外界と隔離したクリーンな環境で
植物からの医薬製剤原料の安定生産を目指して

 鹿島(社長:中村満義)は、独立行政法人産業技術総合研究所(吉川弘之理事長 以下産総研という)が北海道札幌市に計画した「北海道センター密閉型遺伝子組換え植物工場」の設計、及び施工を担当。2月末に産総研に引渡しを行いました。本施設は世界初の「密閉型遺伝子組換え植物工場」であり、鹿島のエンジニアリング技術の粋を集めて完成させました。

密閉型遺伝子組換え植物工場とは

 現在、医療・臨床用に利用されている各種ワクチンやインターフェロンなどの医薬品の有効な素材の多くは蛋白質です。その医療用の蛋白質は従来、動物細胞から生産されていました。その蛋白質を自然界から抽出し、精製することは技術的に難しいとされていましたが、近年は植物体への遺伝子組換えによる有用な蛋白質の生産が注目されるようになりました。植物体からの生産は、従来の方法と比較すると、安全性、経済性、品質、安定性、環境調和性など多くの点で優れています。
 産総研では既にインターフェロンを発現するイチゴなどの開発に成功していますが、このほど、札幌市豊平区の産総研北海道センター内に、世界初の「密閉型遺伝子組換え植物工場」を設置しました。同施設は、組換え遺伝子拡散防止措置を講じた植物工場と、医薬生産用GMP基準に対応した医薬品原料製造施設を一体化したものです。
 医薬製剤原料の遺伝子を植物へ組み込んで安定的に生産を行うには、他の品種との交配の可能性を排除するため、外界と隔離したクリーンな環境で組換え植物を育成し、その植物体から医薬成分を抽出し、さらには医薬製剤の製造を行うという新しい植物工場の実現が求められました。
 鹿島は、05年に一般競争入札により本プロジェクトの設計を受託、エンジニアリング本部が詳細設計を行いました。その後、設置工事のプロポーザル(技術提案)に応募した結果、札幌支店が工事を入手しました。06年6月から工事に着手、この2月末に無事竣工引渡しを行いました。

完成した植物工場 栽培室内部
完成した植物工場 栽培室内部
※写真:産総研・鹿島提供

本密閉型植物工場の概要

 本工場は植物栽培室エリアと製造エリアに大きく二つに分かれています。
 栽培室エリアでは、厳密な空調管理、温湿度管理、照度管理、CO2濃度管理が行われ、実験の再現性を保ちます。機能的にはセキュリティ上の入退出管理に始まり、特に、外部に花粉など植物体が工場外へ漏出するのを防ぐためのフィルター制御や滅菌を施す排水処理に加え、栽培室の圧力制御も行うなど、これまでの植物工場と異なる厳密な管理が求められました。この栽培室エリアでは、イチゴ、イネ、ジャガイモ等の栽培が行われます。「作業員」、「組換え植物」、「物品」の3つの動線が明確に分離され、それぞれ厳密な入退出管理が行われます。
 製造エリアは、通常の医薬品工場と同様のGMPハード(薬局等構造設備規則:第6条)対応であり、クラス100から100000*のクリーンブース及びクリーンルームから構成されています。ここでは組換え植物体に凍結乾燥処理を施して不活性化した後、医薬成分の抽出・精製が行われ、医薬中間材料が製造されることになります。

* クリーンルームの清浄度を表す指標として、1立方フィートあたりの空気中に0.5µメートル径の粒子がどのくらいあるかで表す。クラス100は1立方フィートあたり100個程度のスーパークリーンルームを指す(通常の大気は100万個程度)

同施設のCGパース
同施設のCGパース

組換え植物の例(イチゴ・ジャガイモ)
組換え植物の例(イチゴ・ジャガイモ)
※素材:産総研提供

鹿島のトータルエンジニアリング

 鹿島では、これまでの無菌製剤、固形製剤、治験薬など各種医薬品工場建設の実績と、東洋最大級の植物工場などの施工実績で培われたノウハウを活かして本プロジェクトに対応。世界初の密閉型遺伝子組換え植物工場に求められる高い品質をクリアすることができました。  

施設概要

施設概要

今後の展望

 本施設は今後の医薬品製造施設のひとつのモデルとして期待されています。今後も鹿島では、医薬品エンジニアリング分野での多様化する顧客ニーズに応えるべく技術的チャレンジを進めていきます。

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