[2007/12/18]

BCPなど防災計画を支援する技術を拡充

−「道路ネットワーク被災予測システムを開発」−

  • 地震動による道路インフラ被害、津波・火災・建物倒壊、液状化による
    街路閉塞を簡易予測
  • 多様な表示が可能な災害情報表示システム

 鹿島(社長:中村満義)は、この度災害時マネジメント支援システム「道路ネットワーク被災予測システム」を開発しました。これは想定される大地震などに対し、物資の緊急輸送や人の避難路となる道路ネットワークの被災状況を分析・予測し、その結果を提供することでより実効性のある防災計画策定を支援するためのシステムです。
 建設業には、大地震発生後の社会基盤の早期復旧に向けての重要な役割が期待されます。鹿島においても、関係官公署からの要請への対応に加え、得意先企業の事業継続のために様々な取組みを行っています。先に発表した「BCMプラットフォーム」や、今回の「道路ネットワーク被災予測システム」等、今後も多くの得意先個別ニーズに対し、災害時マネジメントを支援する各種ツール・システムを提供し、地域の防災計画や企業のBCP(事業継続計画)策定のお手伝いをさせていただく方針です。

背景

 大地震などの被災時における自治体アクションプランや民間企業BCPの策定が進められています。それら各種計画のうち防災拠点とともに重要となるのが道路を中心とした交通ネットワークです。大地震に見舞われた際、道路は人・物資・情報を流通するための最重要手段となりますが、道路に関わる被災評価は、被害想定に十分に示されていないのが実情です。

システムの特徴

 本システムは、1.道路インフラ簡易耐震診断2.街路閉塞簡易予測3.道路ネットワーク解析システム4.災害情報表示システム、の四つから成り立っています(図1)。
1の道路インフラ簡易耐震診断では、橋梁、トンネル及び土砂崩れなどの可能性がある斜面を含む道路を対象として、道路自体の健全性評価を行います。
2の街路閉塞簡易予測では、「建物倒壊被害」、「火災延焼被害」、「津波被害」、「液状化被害」といった道路周囲環境に対し道路を閉塞する可能性のある事項について予測を行います。
3の道路ネットワーク解析システムでは、1,2の結果をもとに、想定災害に対し通行不能な道路を解析し、避難・輸送などに最適な道路を探します。
4の災害情報表示システムでは、1〜3の結果を地図上にビジュアルに表示します。

 これまでのシステムの多くは、地表面震度、液状化評価のハザード表示のみでしたが、これらに加え、道路インフラの診断結果や道路閉塞予測情報を加えることにより、より現実的な自治体の地域防災計画や企業のBCP策定に役立てることができます。また、目的に応じた災害情報をビジュアルに表示することにより、状況を分かりやすく説明することができます。

道路ネットワーク被災予測システム構成図

図1 道路ネットワーク被災予測システム構成図

システムの概要

【1.道路インフラ簡易耐震診断】
 日本道路協会など公的機関から公表されている道路震災マニュアルなどをもとに道路橋及び切土・自然斜面について、二つのレベルの簡易な道路インフラ耐震診断手法を開発しました。
 一つは自治体からの道路インフラに関するデータ入手を前提とした手法です。専門技術者でなくとも回答可能なアンケート記入方式で得た構造物型式や地盤状態等の簡易データを入力することにより診断します。もう一つは一般に公開されているデータを用いてさらに簡便に診断する手法です。例えば、橋梁については、準拠した設計基準の設計震度から耐震性能を評価します。また、斜面については、標高データから求まる斜面の傾斜と曲率を用いて診断します。

【2.街路閉塞簡易予測】
 地震時の家屋倒壊による「建物倒壊被害」、関東大震災のように震災後の火災発生・延焼による「火災延焼被害」、海岸沿いの道路などで被災の可能性がある「津波被害」、軟弱な地盤での噴砂や流動による「液状化被害」を震災時街路閉塞の要因と捉え、これら要因による街路閉塞状況の簡易予測手法を開発しました。

  1. 建物倒壊被害

  2.  公表されている人口分布から人口密度・家屋集積率を想定し、建物倒壊を予測します。これに阪神・淡路大震災など過去の地震における建物倒壊と隣接街路幅員による街路閉塞率の関係を取り入れ、建物倒壊により街路閉塞される場所を特定します(図2)。

    建物倒壊予測検討例

    図2 建物倒壊予測検討例(×は建物倒壊25%以上の位置を示す)

  3. 火災延焼被害

  4.  内閣府の予測手法を取り入れ、地震時の季節・時刻・風速の設定から、木造・非木造建物別に出火数を算定します。火災は経過時間により様相が異なるので、過去の事例も参考にして時間経過を考慮した火災延焼規模・焼失棟数を推定します。そして焼失棟数の規模と隣接道路幅員により街路閉塞される場所を予測します。

  5. 津波被害

  6.  内閣府中央防災会議で採用されている地形データをもとに、津波予測に必要な日本周辺海域水深モデルのデータを作成し、システムに搭載しました。このデータをもとに、順次細分化された大きさの異なる入れ子状格子の間で水位・流速を接続させて解析する「ネスティング」と呼ばれる手法を採用することで、対象地域の津波波高を効率的に精度良く予測します(図3)。

    津波予測のネスティング手法

    図3 津波予測のネスティング手法

  7. 液状化被害

  8.  自治体の多くで採用されている交通への支障影響度総合判定の考え方をベースに、液状化危険箇所の通行可能性を評価します。具体的には、液状化の発生危険度を3ランクで評価したうえで、最も高い場合での道路区間への影響度判定としては、「軽微な被害が発生する可能性がある、あるいはまれに被害が発生する可能性がある区間」と判定します。

【3.道路ネットワーク解析システム】
 災害発生時、道路ネットワークは避難、輸送、救助、職員召集、医療、応急復旧など、様々な役割の用途に供されます。本システムでは、各種解析機能を使い分けたり組み合わせたりすることで、それら用途に応じて適切に発災時の道路ネットワーク状況を予測することが可能です。
 開発に際しては、当社BCPの策定支援を念頭に、当社の首都圏地区をモデルとして実用性の検証を行いました。背景となる情報として首都圏の既存橋梁の位置、当社防災拠点・施工中現場・竣工済み施設などについてデータを整備し、内閣府中央防災会議の東京湾北部地震M7.3を想定災害とした1,2の診断・予測の結果から、ネットワークとしての被災時道路状況を解析しました。

【4.災害情報表示システム】
 上記1〜3の各診断・予測・解析結果を統合し、地理情報システムと連動させてビジュアルに表示する災害情報表示システム「COMMAND(COMprehensive MAnagement Network in a time of Disaster) 」を開発しました。COMMANDは、過去の大地震のデータによる確率論的シナリオ地震や公表されている各種想定地震から、検討対象地域の震度分布、液状化危険度などを予測する機能を備えており、これに想定地震に対する1.道路インフラ診断結果2.街路閉塞予測情報3.拠点等の情報と道路ネットワーク解析結果、を重ねて表示することができます。
 図4は首都圏地区における当社の震災時活動に関わる道路ネットワーク状況解析結果をビジュアル表示したものです。本システムを用いることで、想定災害に対し解析・予測された通行不能な道路や通行可能な最短ルート等が視覚的にイメージし易くなるため、より実効性のある防災計画・BCPの立案に寄与できるものと思われます。

災害情報表示システムでの道路ネットワーク解析検討画面例

図4 災害情報表示システムでの道路ネットワーク解析検討の画面例
  被災時の始点【拠点】から終点【復旧現場】の最適経路を道路ネットワーク解析システムで検索
  (ビル印は当社拠点、×は道路被害予測地点、背面は震度分布予測。

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