[2010/10/28]

遺伝資源の国内確保・供給に向けて 日本で初めて薬用植物「甘草」の水耕栽培システム開発に成功!

植物工場生産に対応できる栽培システムを開発

鹿島建設株式会社
独立行政法人医薬基盤研究所
国立大学法人千葉大学

 薬用植物をはじめ遺伝資源を国内で安定的に確保・供給することが求められる中、鹿島(社長:中村満義)、独立行政法人医薬基盤研究所(理事長:山西弘一)、国立大学法人千葉大学(学長:齋藤康)は共同で、薬用植物「甘草(カンゾウ)」の水耕栽培に日本で初めて成功し、植物工場で残留農薬の危険のない均質な甘草を短期間、かつ安定的に生産できる栽培システムを開発しました。
 甘草は現在国内使用量の100%を海外からの輸入に依存していますが、この水耕栽培システムにより、植物工場で均質な甘草を短期間に国内生産することが出来、薬用植物の国内栽培普及に向けた新たな動きが加速するものと期待されます。薬用植物は根に薬効成分を蓄積していることが多いため、今後は他の種類に対してもこの栽培システムの適用、採算性の検証を進めていきます。

 なお、11/24〜11/26に幕張メッセで開催される「アグロ・イノベーション2010」において鹿島は、水耕栽培により育てた甘草の実物を展示すると共に、本技術をご紹介する予定です。

水耕栽培500日目の甘草(鹿島 技術研究所にて)
水耕栽培500日目の甘草(鹿島 技術研究所にて)

水耕栽培300日目の甘草比較 (鹿島 技術研究所にて)
水耕栽培300日目の甘草比較 (鹿島 技術研究所にて)

開発の背景

 最近話題になっている植物工場では、葉物(レタス等)の栽培が一般的ですが、工場普及の課題は採算性であり、収益性の高い作物の生産に対する期待感が高まっています。薬用植物は、付加価値の高い植物の代表ですが、根部に薬効成分を蓄積するものが多く、植物工場における栽培技術はほとんど確立されていませんでした。
 甘草(生薬名)は、グリチルリチンを主な有効成分として根部(根およびストロン)に蓄積する薬用植物で、一般用漢方製剤において処方の70%以上に使われる最も汎用度の高い漢方薬原料の一つであり、また、味噌や醤油に甘みを付ける食品添加物や化粧品の原料などにも広く使われています。
 国内使用量の100%を海外からの輸入に依存しており、そのほとんどが野生植物の採取でまかなわれています。主要輸入国である中国の採取制限や、世界的な生薬の需要増により、輸入価格は年々高騰しており、今後ますます資源確保が困難になることが懸念されています。また、生物多様性条約関連の国内法が資源国で整備されるに従い、資源国との利益配分を考慮しないと生物遺伝資源へのアクセスが困難になってきている状況もあります。このように甘草をはじめとする漢方薬原料の安定供給には懸念が生じており、医薬、食品、化粧品業界等を中心に国内栽培への要望が高まっております。甘草の市場性の確認、最適栽培条件の探索、事業性評価などに関しては豊田通商(株)に協力をいただきました。

システムの概要

 甘草は、通常の水耕栽培では細根が大量に発生して根が肥大しません。そこで複数の環境条件を管理し、適度なストレスを人工的に与えることで根を肥大させる栽培ユニットを開発しました。
 さらに甘草を成長させるための最適な日照、気温等の条件の検証を進めています。栽培に適した環境を形成するための植物工場(太陽光・人工光併用型)を設計し、その中に栽培ユニットを配置し、甘草水耕栽培システムとしました。
 実用施設では、この水耕栽培システムに甘草苗の増殖を行う人工光型植物工場、一次加工、出荷を行う付帯施設を備えた甘草の生産工場のパッケージ化をイメージしています。

甘草水耕栽培ユニット
甘草水耕栽培ユニット

甘草の生産工場(イメージ)
甘草の生産工場(イメージ)

システムの特長

 この栽培システムには、次の特長があります。

今後の展開

 収益性の高い栽培作物とその栽培技術をセットにした施設に対する事業者からの要望は強く、甘草水耕栽培のシステムを開発しました。現在、生薬甘草の安定的な生産と品質の向上を目指して、実証データを蓄積しているところです。また、薬用植物は根に薬効成分を蓄積していることが多いため、他の種類に対しても栽培システムの適用、採算性の検証を進めます。
 今後は、甘草の商業生産を目指す企業関係者へ、植物工場の建設はもとより、苗増殖、栽培ノウハウ、栽培施設の運用サービス提供まで視野に入れた提案を行います。
 なお、医薬基盤研究所では甘草の他、口内炎・下痢等に用いられる黄連(オウレン)や鼻炎・胃腸炎等に用いられるベラドンナなどの薬用植物についても、国内確保・供給に向けた人工栽培の研究を推進してまいります。

参考

共同研究者の本栽培システムに対する取り組み

鹿島:
総合建設業として、土木・建築・開発事業など数多くの物件を国内外で手掛けるほか、近年はエンジニアリング部門・環境部門にも注力している。国内最大の生鮮トマト温室、世界初の密閉型遺伝子組換え植物工場など、最先端のプロジェクトに実績がある。
技術研究所では、建設業界でも最大級の植物関係実験装置と研究員を擁し、エンジニアリング本部と共に本研究開発の計画および主な栽培実験を担当した。

医薬基盤研究所:
本研究開発を担当した医薬基盤研究所は、医薬品の基礎研究と開発をつなぐ「橋渡し」の役割を担って平成17年度に設立した。薬用植物資源研究センターは、医薬基盤研究所の生物資源部門として、日本で唯一の薬用植物に関する総合研究センターである。
本研究開発では、甘草苗の提供、優良系統の選抜、栽培法の開発、薬効成分の分析および生薬業界への関連情報提供などを行ってきた。

千葉大学:
本研究開発を担当した大学院園芸学研究科は、植物工場における栽培作物の成分の高濃度蓄積の研究等に数多くの実績と知見を持っている。
本研究開発では、植物工場における甘草苗の育苗、各種ストレス付与による機能成分の高蓄積条件探索、薬効成分の分析などを行ってきた。

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