オリックス不動産株式会社(社長:山谷 佳之、以下「オリックス不動産」)と鹿島建設株式会社(社長:中村 満義、以下「鹿島」)は、オリックス不動産が発注し、現在、鹿島が施工中の分譲マンション『グランサンクタス淀屋橋』新築工事(大阪市中央区今橋)において、歴史的建築物である旧大阪農工銀行ビルの外壁の一部を、「曳家(ひきや)工法」により、同じ敷地内のマンション建設地点まで移動し、原形のまま再利用する計画を進めております。この「曳家工法」は、オリックス不動産の歴史的な建築物の外壁保存・再生の意向に対し、鹿島が技術提案したもので、このほど外壁の移動を完了しました。
今回、「曳家工法」で外壁部分の再利用を図った旧大阪農工銀行ビルは、明治・大正期の建築家・辰野 金吾(たつの きんご)が創立した辰野片岡建築事務所の設計により大正7年(1918年)に竣工し、昭和4年(1929年)の建築家・國枝 博(くにえだ ひろし)による改修を経て、約一世紀にわたって大阪の歴史的名建築のひとつとして市民に親しまれてきました。外壁は、正面部分(ファサード)にイスラム建築に見られる華麗な唐草文様やアラベスク文様が施され、近代建築の醍醐味である建物のコーナー曲線が美しく保存されています。
この外壁の一部(全長約30m)を新築マンションの外壁として再生利用するため、「曳家工法」により原形のまま敷地内のマンションの建設地点まで2〜4m移動することになりました。
外壁ファサード(正面部分)を保存・再利用する他の方法としては、(1)外壁躯体をパネル状に切断し、新築躯体が完成した段階で取り付ける方法、(2)ファサードを構成しているテラコッタタイルや石材をそれぞれのパーツで取り出し、新築躯体に改めて取り付ける方法などがありました。
ところが、(1)の方法では、壁の厚みが400o以上と厚いため、パネルが10tを超える重量となる点、また切断箇所が多くなり、ファサードを多く傷める点などが懸念されました。
一方、(2)の方法では、複雑な形状の装飾テラコッタを目地に沿って破損させずに取り外すことが極めて困難であり、(1)と同様、現状のファサードを傷めることが懸念されました。
もともと「曳家工法」とは、道路拡幅などに伴う建物の移動や耐震補強のため、建物全体をジャッキにより一時的に持ち上げ、レール上を「押す」もしくは「引く」という工法ですが、今回は東側と北側の外壁を「L字型」に残した状態で既存建物を解体し、外壁を所定の位置(マンション建設位置)まで移動しました。施工手順は、まず転倒防止のため万全の安全対策を施し、移動用レールの敷設など準備作業を行なった後、油圧ジャッキを用いて慎重に壁を押していきます。
1. 保存壁の転倒防止のための鉄骨補強設置 |
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2. 壁の自重を受け、足元で壁を切断 |
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3. 油圧ジャッキで移動 |
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今回、「曳家」を三段階に分けて行いました。最初に全体を南方向に約4.4m移動し、次に西方向に約1.6m移動、最後に新築建物形状に合わせるため、北側の壁を途中で切断し、間を広げるための移動も実施しました。
【第1段階】 壁をL字型のまま約4.4m南へ移動する。 (図では青から赤)
現在、現場では、保存・再生利用する外壁を同じ敷地内のマンション建設地点に移動完了し、躯体工事を着々と進めています。いよいよ来秋には、一世紀に亘って大阪の人々から愛されてきた壮麗で美しい壁面に飾られた『グランサンクタス淀屋橋』が完成、全60戸の新しい生活がスタートします。 |
マンションに蘇った壁面(1、2階部分。完成予想図) |
◆旧大阪農工銀行ビルの歴史
大正 7年(1918) | 辰野片岡建築事務所の設計により、レンガ造りの大阪農工銀行ビルが竣工 |
昭和 4年(1929) | 國枝博の設計により、大規模な改修を実施 |
昭和43年(1968) | 民間の繊維商社が建物を入手し、オフィスビルとして使用 |
平成22年(2010) | オリックス不動産が建物を入手し、マンションへの建替えを計画 |
平成23年(2011) | 4月、鹿島が建物の解体、および一部外壁を保存しながらのマンションの新築工事に着手 |
平成24年(2012) | 9月末、3回にわたる保存外壁の「曳家」を完了 |
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