[2013/10/21]

収縮ひび割れを極限まで抑える
無収縮コンクリート『クラフリート®Hyper』を開発・性能を確認

 鹿島(社長:中村満義)は、住友大阪セメント(社長:関根福一 東京都千代田区)と共同で、コンクリートの収縮ひび割れを極限まで抑える、実用性の高い無収縮コンクリート「クラフリートHyper」を開発し、その実用性と性能を実建築物で確認しました。
 「クラフリートHyper」は、収縮ひび割れを大幅に抑制するコンクリートとして2003年に開発した「クラフリート」を、無収縮コンクリート、つまり、収縮ひび割れの発生を極限まで抑えるよう改良したものです。
 これまでに5件の実構造物に対して10,000m3以上の適用実績を上げています。竣工後数年を経過したSIA青山ビル(2008年竣工)、鹿島技術研究所本館研究棟(2011年竣工)でも有害なひび割れは生じておらず、極めて高い実用性と優れた性能が確認できました。

開発の背景

 コンクリートのひび割れは、美観を損なうだけでなく、耐久性の低下に繋がると共に、漏水の原因になる場合もあることから、ひび割れを生じない、若しくは大幅に低減できるコンクリートに対する要望は極めて強いといえます。
 コンクリートは乾燥と共に収縮します。コンクリートに拘束がなければ収縮するだけで応力は発生しませんが、実際には壁や床の収縮に対して、柱や梁、地盤からの拘束があるため、収縮に応じて引張応力が生じます。時間が経過してコンクリートの収縮が進行すると、引張応力が増大し、引張応力がコンクリートの引張強度を超えた時点で収縮ひび割れが生じます。特に乾燥しやすい薄い面部材などでは、乾燥収縮によるひび割れが生じ易くなります。
 この収縮ひび割れに対する材料的な対策としては、あらかじめコンクリートを膨張させる膨張材の使用や収縮低減剤の使用などが挙げられますが、これらの対策を併用した無収縮コンクリートは非常に高価となるため、極めて限定された部位のみに採用されるのが現状でした。

「クラフリートHyper」の概要

 そこで、鹿島と住友大阪セメントは、「クラフリート」の技術を基に、汎用的な材料のみで膨張量と収縮量を制御し、長期的に膨張ひずみが残存する無収縮性能を実現しました。

1.適度な膨張量の保持

 低発熱系セメントと高性能膨張材を併用することで膨張材による膨張効果を最大限に引き出します。従来膨張材の使用量は、1m3あたり20kgという一定量で行われていましたが、実際にはコンクリートの調合や外気温などの影響により、膨張効果が異なります。鹿島では、広範な実験から構築した独自の調合設計式によってその影響程度を明らかにし、膨張材の使用量を調節して適度な膨張量を保持することに成功しました。

2.収縮量の低減

 「クラフリート」では特に指定していなかった骨材に着目し、全国400調合を超えるレディーミクストコンクリートの乾燥収縮率データベースなど、鹿島独自の知見に基づいて、乾燥収縮を小さくできる骨材(岩種・産地など)を厳選し、ベースとなるコンクリートの乾燥収縮率を500μ以下の特級レベルとしました。これにより、収縮低減剤等の高価な混和剤を使用せず、骨材のみによる収縮量の低減を可能にしました。

「クラフリート」と「クラフリートHyper」の構成
「クラフリート」と「クラフリートHyper」の構成


 「クラフリートHyper」は、汎用的な材料のみを最適量で使用することでコストアップを最小限に止めました。また、首都圏における住友大阪セメントグループのレディーミクストコンクリート工場ではJIS認証品または適合品として出荷可能であり、通常のコンクリートと全く同様に使用することができます。

実用性の確認

 こうした「クラフリートHyper」の特徴を生かし、SIA青山ビル、鹿島技術研究所研究本館研究棟などの実構造物に適用され、その性能が確認されています。

・SIA青山ビルディング

SIA青山ビルディング


建物概要
発注者  : 株式会社シンプレクス・インベストメント・アドバイザーズ
設計者  : 株式会社青木淳建築計画事務所
建物用途  : 事務所、店舗
構造  : 地上階 RC造(一部鉄骨造)
 : 地下階 RC造
延床面積  : 4,946m2
階数  : 地上9階、地下1階
竣工年  : 2008年
 SIA青山ビルは、外装表面にランダムにあいた多数の四角い窓が特徴で、意匠上の制約からひび割れ誘発目地が設置できず、コンクリートの収縮ひび割れの発生が懸念されました。
 「クラフリートHyper」を採用した結果、竣工5年後の現在においても懸念された有害なひび割れは確認されていません。また漏水や美観上の不具合の兆候もなく、事業主や設計者の意図を充分に満足させています。


・鹿島技術研究所本館研究棟

鹿島技術研究所本館研究棟


建物概要
発注者  : 鹿島
設計者  : 鹿島
建物用途  : 研究施設
構造  : 地上階 RC造
延床面積  : 8,914m2
階数  : 地上5階、地下1階
竣工年  : 2011年
 鹿島技術研究所研究本館研究棟は、1〜5階まで目地の無い大面積RC外壁となっており、白く大きな壁面が印象的な建物です。ひび割れ誘発目地を設けないフラット仕上とすることから、美観上・機能上の問題となる収縮ひび割れを発生させないことが求められ、「クラフリートHyper」を採用しました。
 その結果、コンクリート施工後2年を経た現在においてもひび割れは生じておらず、設計意図通りの施工が実現し、良好な結果が得られています。また、荷卸時のスランプ・空気量、コンクリート強度のいずれも仕様を満足する結果が得られ、打設についても大きな問題はありませんでした。

今後の展開

 「クラフリートHyper」の適用によって、ひび割れの無い高品質で美しい建物が期待できます。また、条件によってはひび割れ誘発目地が不要になる等の波及効果もあり、RC建物の外装設計の自由度が大きくなる効果も期待されます。
 今後鹿島では、長期の耐久性が要求される公共建築物や、意匠性に特徴があり特に美観が要求される建物等に、「クラフリートHyper」を積極的に提案していく方針です。


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