04KAJIMA202403メカカジマ躍進特集当社の建設事業の核となる“施工力”は,さまざまな分野のプロフェッショナルたちのたゆまぬ技術革新と鹿島品質へのこだわりのもと,築き上げられてきた。そのひとつに,メカトロニクスの発展がある。施工機械や仮設備を用いた合理的な施工方法の追求がものづくりを体現し,時代のニーズを見越した技術開発が当社の施工力をまだ見ぬステージへ牽引する。今や機械なしの建設は考えられない。昨今課題となっている建設現場の担い手不足や労働生産性の向上,働き方改革などに対する切り札としても期待は高まる一方だ。さらなる機械化,そして自動化へ。鹿島の“メカ”と,エンジニアたちが,どんな施工力をつくりだすのか。一端を探る。Field1
05KAJIMA202403マField2Field3photo:TakuyaOmura
担っています。培った経験や人脈を活かし,自らを起点に部署や現場を超え,専門性の高いさまざまな方々を結び付け,コラボレーションを生み出していくのが役目だと考えています。菊地 私は入社3年目ですが,レベルの高いことへ挑戦をするチャンスを与えてもらっていると感じています。建設業の就業者が今後不足していくなか,作業を自動化するロボットを実用化できれば,社会に大きく貢06KAJIMA202403現場で機械が“当たり前に動く”をつくる佐藤 私たちの役割の根本は,鹿島の施工を“機械”で支えることにあります。目の前にある山や構造物をどう動かし,重量物をどう運ぶか。人を助け,現場の生産性を上げる。そのコアを担う部門であることは,昔からずっと変わっていないと思います。一方で,技術分野は機械工学に電気・電子工学が合わさり,近年は情報工学とも融合し,ますます複雑化しています。菊地 機械とロボットは混同されがちですが,極端な話,黒電話とスマートフォンくらいの違いがありますよね。現在,溶接ロボットの開発(P13掲載)を担当していますが,世の中の新技術をいち早くキャッチアップし,どう落とし込むかを日々考えています。金丸 新技術に対し,現場とメーカーの間に入り,橋渡しをするのも機電社員の役割です。土木・建築の技術者がイメージしていることを,私たちが間を取り持ち具現化する。それが現場の大きな力になると思っています。佐藤 仮設備などの施工インフラを整えるのは当たり前で,新しい分野を開拓し,展開していくことに機電社員の意義が問われるのかもしれません。技術の世代が移り変わるたび,それを吸収していく。機械部はこれまでも時流や技術の進歩に応じて組織体制を変えてきましたが,見方を変えれば,トランスフォームを得意としているようにも思います。菊地 最先端の技術が1つ出るだけで飛躍的に進展する可能性のある分野ですからね。新しい技術へのキャッチアップとともに,横串の連携が大事だと感じています。機械部にはいいものをつくることを第一に,年次関係なく意見を言い合える雰囲気があり,横の連携を後押ししてくれているように感じます。金丸 開発すること以上に,機械をどう使うかを考え,実践することも大切です。私が現在常駐している河内川橋工事(P8-9掲載)では,汎用機械から現場特有の機械まで多種多様な建設機械がフル稼働しています。どんなに効率的な機械も,現場で動かなかったら意味がありません。佐藤 トラブルシューターは,機電社員の大事な役割ですよね。現場では当たり前のように機械が動いていますが,その当たり前をつくるのが本当に大切なのです。建設業界の未来をつくる金丸 初めて橋梁工事を担当しましたが,機械工学を専攻していたこともあって,現場特有の移動作業車の仕組みも割と容易に理解することができました。現場で気づいたことを指摘し合い,一日一日を進めていく今の仕事は充実しています。佐藤 私も今,仕事が楽しくて仕方ありません。入社以来,複数の現場に常駐し,また支店管理部門の機電担当者として土木・建築ともにさまざまな工種に携わってきました。本社では四足歩行ロボット「Spot」や3Dプリンターなどの新技術の活用を検討し,現在は神岡試験坑道で「A4CSELforTunnel※」(P10-11掲載)の開発の一端を鹿島における機電社員の役割とは。さまざまな専門知識をどう活かし,何を見据えているのか。メカカジマの“旬の社員”に語ってもらった。2018年入社。本社機械部と機械技術センターでの経験を経て,2019年から東北支店の成瀬ダム堤体打設工事に従事。現場の給排水やCSG製造プラントの管理を担った。2020年12月から現JV工事事務所に配属。現場のインフラ整備から汎用機械の保守管理,現場特有の機械の計画,施工管理を担当する。趣味はドライブ,キャンプ,旅行金丸拓樹かねまる・ひろき/工学府産業技術専攻横浜支店河内川橋JV工事事務所機電主任2012年入社。2019年まで北海道・東北支店でトンネルとシールド現場を複数経験。同年10月,本社機械部に配属。四足歩行ロボット「Spot」や3Dプリンターなどの適用技術開発のほか,調達機能強化,機電研修プログラムの充実に努めた。2023年9月から現プロジェクトチームに配属。「A4CSELforTunnel」のうち,自動吹付機の開発を担当する。趣味は野球,読書,保護猫活動佐藤洋太さとう・ようた/工学研究科機械システム工学科専攻機械部自動化施工推進室神岡試験坑道プロジェクトチーム課長代理2021年入社。本社機械部機械技術イノベーショングループに配属。ドローンによる現場の施工効率化業務に携わる。同年9月から,同グループにて次世代溶接ロボットの開発業務に従事。現在にいたるまで,ハードウェア・ソフトウェアを含めた新システムの企画・構想,実証および改良を検討し,現場適用を推し進める。趣味はカラオケ,旅行,サウナ菊地望きくち・のぞむ/基幹理工学研究科機械科学・航空宇宙専攻機械部機械技術イノベーショングループ出席者(左から)メカカジマ座談会
07KAJIMA202403特集 メカカジマ躍進※山岳トンネル工事を対象とした自動化施工システム献できます。建設業には,潜在的な機械化・ロボット化の可能性がまだまだ秘められているはずです。金丸 今の現場は特殊な橋梁工事なので,自動化というよりも,当工事専用の機械の開発・運用をしています。この経験を糧に,私もいずれは自動化などの技術開発にも携わってみたいと思っています。菊地 私は反対に,現場業務を経験する必要があると感じています。「鹿島スマート生産」は人とロボットの協働を目指しています。技術者がパートナーとして扱えるロボットを開発するためには,やはり現場のリアルを学ばなくてはと。佐藤 現場を知らずして開発・実装はできませんし,技術開発の視点をもちつつ現場を見ると,新たな発想も生まれるかもしれません。施工と開発の両輪がかみ合うことで,この先の未来に進み続けることができます。キャリア採用社員などの新たな知見や,グループ会社のカジマメカトロエンジニアリング(P14掲載),協力会社のみなさまと手を取り合いシナジーを創出し,リーディングカンパニーとして建設業の未来をつくっていきたいですね。リーディングカンパニーとしての今日と未来を,強くしなやかに先導するphoto:TakuyaOmura
特殊機械設備を駆使した長大アーチ橋建設 当社JVが施工を進める(仮称)河内川橋を訪れると,丹沢山地の急峻な谷あいから高い橋脚とそこから左右に伸びるアーチリブが顔を覗かせる。橋長771m,橋脚の最大高さ88m,アーチスパン220mを有する長大アーチ橋建設。架設中でありながらスケール感に圧倒される。同時に,現場に配置された幾多の施工機械とそのボリュームに驚く。08KAJIMA202403photo:TakuyaOmura新東名高速道路河内川橋工事場所:神奈川県足柄上郡山北町発注者:中日本高速道路規模:鋼・コンクリート複合アーチ橋2連 PRCポータルラーメン橋1連工期:2016年8月∼2027年8月(約定)(横浜支店JV施工)橋梁と主要機械配置の側面図 「アーチは延長するごとに,また橋脚ごとに条件が異なり,そのステップ一つひとつにミリ単位の調整が求められます」。移動作業車の作業手順を確立するために書かれた詳細ステップなどの図面は,既に900枚を超えたという。金丸機電主任は,図面で図れない手順を日々ブラッシュアップ。導入3ヵ月後には当初2日を想定していた移動作業車の移動期間を1日に短縮した。 機械設備の仕様や運用は工程にクリティカルに影響する。機電チームを率いる石松 現場はアーチリブ張出し架設の最盛期。巨大クレーンが林立し,アーチリブの先端を仮設備が覆う。「現在,計8基の超大型可変式アーチリブ移動作業車が稼働しています」と金丸拓樹機電主任は説明する。アーチリブは橋脚を起点に,移動作業車で左右にバランスよく延長し構築する。施工合理化のため,当初の計画より1ブロックあたりの施工長を大型化。最大ブロック長6.5mに対応する移動作業車を,本社・支店関連部署と連携し,新たに設計・製作した。建設現場の今日Field1メカで支える巨大クレーンやリフトから小さな通信機器まで。多種多様な機械設備を駆使した大規模橋梁工事が,新東名高速道路の未開通区間で進められている。現場で機械が稼働する。その当たり前を,機電社員が支えている。アーチリブ張出し架設に使用。ブロックごとに勾配が変化するため,角度変化に対応できる機構を備える。全8基を新規製作した。アーチリブ移動作業車台車が斜面に沿って昇降する運搬設備。最大積載荷重90t,フロアサイズ20m×8mは国内最大規模。インクラインの組立てには独自開発した工法※1を採用したほか,全体を一元管理できるインクライン総合監視システム(COMSI※2)を初適用した。※1タグチ工業と共同で特許出願中※2ComprehensiveMonitoringSystemforInclineインクライン短い区間で桟橋間の高低差を解消するための大型車両を垂直搬送可能な最大積載荷重55tの運搬設備※3。工事用リフト※3カジマメカトロエンジニアリングで製作。当現場で3回目の転活用となり,リモートメンテナンスシステムを初導入photo:TakuyaOmuraphoto:TakuyaOmura
09KAJIMA202403特集 メカカジマ躍進林立するクレーンと複数台の移動作業車が見える張り出したアーチリブ内に電動モノレールを設置。油圧ジャッキなどの資機材の運搬と,斜吊材の緊張を担う設備(全8セット,カジマメカトロエンジニアリングで新規製作)。左から,石松大輔機電長,平井慎一工事課長,成澤諒機電担当,金丸拓樹機電主任,横山由宏工事課長,岡田尚己機電担当。「高い難易度で複数の工種が同時進行する大規模現場において,機電チームが縦横無尽に現場に貢献しています」(石松機電長)大輔機電長は,「現場で自分のアイデアをダイレクトに具現化できるのが機電職の役割であり,醍醐味です」と話す。移動作業車のほかにも,現場にはタワークレーンやインク3Dモデルモノレール台車と緊張ジャッキ運搬台車ライン,工事用リフトなど,新規製作もしくはカスタマイズした機械がずらりと並ぶ。「従来技術をうまく活用することはもちろんですが,全く同じことをやっても発展にはつながりません。ちょっとしたアイデアや付加価値をつけることを心がけています」。それが諸先輩から受け継いできた鹿島の機電職だと,石松機電長は語ってくれた。photo:TakuyaOmura
10KAJIMA202403「A4CSELforTunnel」開発に実地山で挑戦 昨年ついに,当社JVが施工中の「成瀬ダム堤体打設工事」(秋田県雄勝郡東成瀬村)で,当社が目指してきた「現場の工場化」の1つの形が実現した。建設機械の自動運転を核とした自動化施工システム「A4CSEL®」を中心に,材料製造から打設にいたる全ての作業を完全自動化。高速・大容量施工をなし遂げた。 次なるターゲットは,山岳トンネル工事の変革。「A4CSELforTunnel」は,これまで熟練技能者に依存していた崩落などの危険度が高い切羽での作業を,工学的根拠に基づく作業方法・手順に再構築し,重機の自動化・遠隔化技術を駆使して山岳トンネル工事の安全性・生産性・施工品質全作業のPDCAサイクルを鹿島が回す 「現場には世界初の新型機械が何台もあります。その機械を使用した施工データの収集・分析とフィードバックを繰り返し,生産システムを日々ブラッシュアップしています」。そう話すのは,神岡試験坑道を統括する女賀崇司所長。土木技術者として山岳トンネル工事に約20年間携わってきた。危険性をはらんだ切羽近傍で作業を行う技能者の安全確保への課題と,その技量・経験に依存してきた実態を深く理解しているからこそ,「A4CSELforTunnelの実装で全工程のPDCAサイクルを効率的に回せるようになる意義は大きい」と語る。 目標は近い将来の実工事への展開。コアを担う全ての施工機械に高い完成度がの飛躍的な向上を目指す。 開発は,山岳トンネル掘削での一連の作業である①穿孔②装薬・発破③ずり出し④アタリ取り⑤吹付け⑥ロックボルトの6つの施工ステップそれぞれに適した施工機械の開発とその自動化によって進められる。当求められるため,女賀所長が機電社員にかける期待も大きい。「施工管理のノウハウをもつ土木社員と,機械・電気の専門知識をもつ機電社員が掛け合わさって初めてこ社は模擬トンネル(静岡県富士市)での技術開発を経て,2021年10月から神岡鉱業協力のもと,同社が所有する鉱山「神岡試験坑道」(岐阜県飛騨市)を実際に掘削。当社が開発した効率的穿孔・発破技術を検証する業界初の試みに挑戦している。のプロジェクトは成功します。カジマメカトロエンジニアリングとも連携し,世界初の試みを実用化レベルに引き上げ,次世代のための礎を切り拓いていきます」。女賀崇司所長(前列中央)。ほか後列左から,技術研究所岩野圭太上席研究員。機械部坪倉聖一次長,江頭昭憲課長代理。岡田聡副所長。前列左が機械部犬塚隆明主任,右が平岡耕介課長代理安全で効率的な建設生産プロセス担い手不足への対応や生産性向上,労働災害撲滅など,建設業が直面する課題の抜本的解決に向け,当社は土木部門において製造業のような「現場の工場化」を目指している。現在,山岳トンネル工事の自動化施工実験に実地山で挑戦中。土木と機電,両分野の融合が変革の鍵を握る。step1孔コンピュータジャンボstep2装薬・発破自動爆薬装填機step3ずり出し自動ホイールローダstep6ロックボルト2ブームロックボルト施工機step5吹付け自動吹付機step4アタリ取り自動ブレーカField2メカで変えるphoto:TakuyaOmura
11KAJIMA202403特集 メカカジマ躍進穿孔吹付けロックボルトA4CSELforTunnelのコアを担う施工機械と機電エンジニアstep1step5step6山岳トンネル工事の掘削作業で行われる6つの施工ステップごとに施工機械の開発が行われている。その一部を紹介する。コンピュータジャンボ自動吹付機2ブームロックボルト施工機 火薬を装填するための穴を開ける穿孔は,岩盤強度の情報をもとに穿孔計画を作成しコンピュータジャンボで自動穿孔を行う。さらに当社は,岩盤から得られるデータをもとに目標の設計断面を最小の施工量で実現する最適自動発破設計システムを開発。コンピュータジャンボと掛け合わせることで,穿孔と次のステップである装薬の最適化とサイクルタイムの低減を図っている。 吹付け作業は,吹付け面である岩盤の形状状態に合わせた異なるノズル操作が必要な熟練作業で,自動化が難しいとされていた。 当社は吹付け機械を自動化するとともに基礎的な吹付けのメカニズムを分析することで,対象面に合わせた最適な動作計画と計画通りに動作する制御システムを開発した。 開発に携わる機械部平岡耕介課長代理は,「私自身も機械の動 ロックボルト工は穿孔,モルタル注入,ロックボルト挿入の順に行われる。未だトンネル切羽近傍での人力作業が主体で,特に1本約20kgにおよぶロックボルトを高所で挿入する作業は重労働であり,技能者の負担が大きい。 2019年に当社は,ロックボルト工の一連の作業を全て機械化した1ブームロックボルト打設専用機を開発し実工事に導入。そして昨年11月,機械部江頭昭憲課長代理 2018年から開発チームに携わる機械部坪倉聖一次長は,機電社員として山岳トンネル工事の現場を長らく支えてきた。「従来は施工機械を技能者が運用できる状態に導くまでが私の役割でした。ここでは技能者の作業を理解して施工機械に落とし込み,運用も担います。施工に携わる機電社員として,作制御の要となる油圧制御を学び,試行錯誤しながら日々課題と向き合っています」とトライアンドエラーを繰り返す。昨年1月には吹付け厚さや要求される位置精度も異なる,切羽面,支保工裏,坑壁面といったさまざまな部位に,設定したは,穿孔位置への誘導から一連作業を自動化するとともに,2ブーム化により施工速度の倍速化を実現する「2ブームロックボルト施工機」を古河ロックドリルと共同開発した。 「1本挿入するのに複数の作業を要するロックボルト工を,機械化から自動化に昇華できたのは大き本当の意味でのプロフェッショナルが求められていると感じています」。若い担い手に魅力を感じてもらえる施工環境づくりを目指し,挑戦を続ける。吹付け厚さに対して±2cmという高い精度で自動吹付けを行う技術を確立。「業界をリードするプロジェクトに携われるのはやりがいになります」。実用化に向け,自動吹付機のさらなる改良を図る。な前進です」。ボタン1つで一連作業を自動で行えるのが本機の特長だと江頭課長代理は説明する。「次世代を担う若い技能者がやってみたいと思うような機械を目指していきたい」。岩盤データと理論に基づく評価式に従い,最適な穿孔・発破を実現平岡課長代理と自動吹付機江頭課長代理と2ブームロックボルト施工機ロックボルト工の一連作業を自動化する複雑な凹凸の岩盤面を平滑に自動で吹付けるphoto:TakuyaOmuraphoto:TakuyaOmuraphoto:TakuyaOmuraphoto:TakuyaOmura
12KAJIMA202403作業の半分はロボットと当社は推進中の「鹿島スマート生産」において,各種施工ロボットの開発・適用を続けている。目指しているのは,ロボットが人の代わりになることではなく,人とロボットが協働すること。その本質を見極め思考する開発チームとロボットを紹介する。人とロボットと 先端ICT・各種ロボットの活用と現場管理手法の革新で,生産性を向上させ,より魅力的な建築生産プロセスを目指す「鹿島スマート生産」。コアコンセプトのひとつに「作業の半分はロボットと」を掲げ,技能者の負担となる危険・連続・付帯作業をターゲットに,各種施工ロボットの開発と現場適用を重ねてきた。施工現場を知る当社だからこその目線で,人とロボットが協働するビジョンを追い求める。マイティフェザー®(外装取付アシストマシン)システム天井施工ロボット照度測定ロボット自動搬送システム壁面吹付塗装ロボット眼の機能に特化したセンシングカートNEWコテキング®(床コンクリート仕上げロボット)file.01建物の柱や梁などに鉄骨を用いる場合,火災時の倒壊を防止するため,通常,技能者が現場で鉄骨表面に耐火被覆材を吹付ける。その際に多くの粉じんが発生することから,技能者は真夏でも防護具の装着が必要となり負担が大きい。 耐火被覆吹付ロボットは,この作業を自動で行う。さらなる改良を図り,「ロボットの眼や足の機能改良を重点的に進めてきました」と機械部高木良介主任と技術研究所松田陸研究員は話す。開発の加速化を目的に,標準的なオフィスビルを模した鉄骨実寸大モックアップをつくり,各要素技術の機能評価がいつでもできる環境を整えた。さらに,ロボットの「眼」の機能に特化したセンシングカートを開発。現場導入前にセンシングカートで現場のデータを検出し,得たデータを独自開発したモーションシミュレータと組み合わせると,事前に現地での吹付可否を検証することができる。松田研究員は,「センシングカートはあえてソフトウェア会社を頼らずに,カジマメカトロエンジニアリングとともに開発しました。苦労した分,得た技術も大きかったです」と手応えを口にする。01耐火被覆吹付ロボット技能タイプ:耐火被覆材の吹付け施工可能高さ:4.8m能力:2つの眼(3Dスキャナと2Dライダー)で梁部材の形状・位置とロボット位置を認識。その場で吹付アーム動作と走行ルートを自動生成し,全自動で耐火被覆材を効率的に吹付ける開発者の“ココミテ!”:ロボットの眼となる3Dスキャナがパカッと開いて登場するところが,かわいらしい鹿島スマート生産ビジョンのコンセプト図高木良介主任(左)と松田陸研究員。「現場が必要としているものを,もてる技術と知識を駆使してつくりたいと思います」(高木主任)Field3メカでつくる
13KAJIMA202403特集 メカカジマ躍進file.02file.03ロボプリンは建築工事に不可欠な墨出し作業※を,全自動かつ高精度に行う。「とにかくシンプルでコンパクトにしたかった」。機械部水谷亮担当部長と建築管理本部椎田宗樹課長代理は,開発コンセプトをそう話す。 特別な装置やアプリは不要で,スマートフォンやタブレットで操作可能。スタート後は全自動で作業するため,誰でも手軽に高精度の墨出しができる。また,小型軽量で可搬性も高い。「壁際の墨出しなど,このロボットでまかなえないこともあります。ロボットが墨出し工を代替するのではなく,墨出し工がこマニピュレータ型溶接ロボットは,柱に設置すると柱周囲のレール移動を繰り返しながら自動的に柱全周を溶接する。さまざまな形状の柱に対応でき,一般的にロボットでは難しいとされる箱型断面柱(BOX柱)の連続溶接でも熟練溶接工と同等以上の溶接品質を実現した。開発に携わる機械部横山太郎次長と菊地望担当は,ロボットが「溶接工の道具」として使われる未来を見据える。「このロボットは溶接を全自動で行えることが魅力です。複数台のロボットを同時に併用すれば,少ない人数でも生産性を向上できます」。れを併用することで,生産性を2倍,3倍に押し上げることができます」と水谷担当部長は説明する。 建設現場という不確実な環境で使用することを想定し,本機はコースを外れた時のリカバリー処理も強化した。椎田課長代理は,「墨出しは各作業の開始前に完了している必要があり,私も夜間に墨を出すことが多く苦労しました」と話す。描く未来の実現に,ロボットの設置から撤去にいたる全フローへのアプローチを怠らない。アームは軽量で低コストなものを搭載する。レー自身の現場経験が旧来の現場管理を変えたいという開発意欲の原点となる。ルも現地で容易に運搬・組立てができるよう形状や素材を工夫。施工フロア内をスムーズに移動できる専用台車やテント式の簡易養生設備も独自に開発した。 大型鉄骨柱を有する超高層ビルの新築は今後も活況を呈する。「使えるではなく,使いたいと思えるロボットをつくります」。2人の言葉に強い決意が感じられる。02ロボットプリンターロボプリン®技能タイプ:墨出し大きさ:直径350mm,重さ約15kg能力:施工図面データをもとに自動追尾トータルステーション(測量機器)でロボットを±1mmに高速制御することで,高精度に実寸大の連続線や文字を床面にプリント。自由曲線も忠実に描く開発者の“ココミテ!”:走りながら高精度で線を描く圧倒的な性能と,コンパクトなパッケージング03マニピュレータ型溶接ロボット技能タイプ:鉄骨柱の溶接施工可能な柱:幅700-1500mm,板圧25-100mmの箱型断面柱能力:センサで溶接部の開先形状を計測して溶接条件を自動で算出。6軸多関節型アームで,さまざまな柱形状や角部の全周囲を連続溶接する開発者の“ココミテ!”:箱型断面柱角部のきれいな溶接の出来映え※床面などに工事に必要な基準線を描く作業水谷亮担当部長(左)と椎田宗樹課長代理。「名前のアイデアは妻と話している時に思いつきました。一度はプリン色にも塗ってみました」(水谷担当部長)横山太郎次長(右)と菊地望担当。「定期的に行う超音波深傷検査の検査員さんから『前より品質がよくなったよ』と言っていただけた時が,うれしくなる瞬間です!」(菊地担当)現場での実用化が前提で,真に必要としているものをつくっている姿を知り,私も携わりたいと思いました。「作業の半分はロボットと」というコンセプトの通り,いきなり人の代わりとなるロボットができるはずもありません。きちんと道具として使えるロボットをつくることに意味があり,そこにこだわりたいと思っています。曲線や細かな寸法を追う仕上げ墨など人が苦手とする箇所を,施工図面データ通りに描画でき,生産性向上に加え品質上でも利点があります。夜間にも墨出しを進めることが可能で,現場の戦力になっています。(KOA開発生産棟建設JV工事事務所礒野泰聖工事担当)(横山次長,前職は自動車会社でロボット開発)プリントした破線と文字の例専用キャリーケースに格納でき,持運びも容易滑らかな溶接の出来映えキャリア採用社員の活躍導入現場の声
14KAJIMA202403自動吹付機(P11掲載) 山岳トンネル工事の吹付け作業には確実な吹付け厚さの確保や仕上がりの平滑性が求められる。木崎部長は自動吹付機の開発に関する油圧の回路改造や制御設計の全てを担い,鹿島が求めるノズルワークを実現させた。 改良機検討の際,木崎部長は実機の動きの調整を当時入社1年目であった浦田達也担当に一任。「分からないことばかりでしたが,毎日刺激的で楽しく臨めました。自分で考え,やらせてもらえる環境はありがたいです」(浦田担当)。スラッシュカット工法 鹿島が開発し,世界貿易センタービルディング既存本館の解体(2023年完了)に適用された「鹿島スラッシュカット工法」。当グループは,斜めにスラブを切断できる「斜め切断カッター」のバッテリー駆動化や稼働データの見える化(クラウド化),4点自動吊上げ装置のIoT化を担った。担当した持田陽平係長は,「稼働データをリアルタイムにWEB上で表示,蓄積できるサービスに対応させました。前例がないものをつくっているので,思いついたことはなんでもトライさせてもらっています」。次世代分電盤 現場内の仮設照明を,スマートフォンなどのモバイル機器でどこからでもON・OFFできる次世代分電盤を開発した。驚くべきは開発スピード。担当した平原全担当は2022年12月から開発を開始し,3ヵ月後には試作品を披露できる状態にまで仕上げた。昨年8月以降,鹿島の11支店で導入が進んでいる。 いずれは建設業のAIやデジタル化に貢献したいと意欲を示す平原担当。「建設業特有の難しさがあることも感じていますが,第一線で活躍してきた実績と技術力をもつ上司のもと,自身も成長したいと思います」。設計制御技術部応用技術グループのメンバー。上段左上から,木崎康弘部長,平原全担当。中段左から,持田陽平係長,野口太一担当,古谷一気担当。下段左から,浦田達也担当,カインスエーウイン担当カジマメカトロエンジニアリングメカカジマを支えるエンジニア集団鹿島のメカトロニクスを中心的に支えるグループ会社。その取組みの一部を紹介する。鹿島グループ唯一の機械・電気メーカー カジマメカトロエンジニアリング(以下,KME)は,建設機械の設計・製造を生業とする鹿島グループ唯一の機械・電気メーカーであり,土木工事・設備設置工事を中心とした現場施工,機械設備の制御・システム構築,産業施設のエンジニアリング,機械設備の調達・整備・メンテナンスも行う,機械・電気関連の総合エンジニアリング企業である。「建設現場を熟知したメーカー」であると同時に「機械・電気に強い施工会社」であることを強みに,グループ外の企業からも注目されている。KMEの“旬のチーム” 近年ひときわ異彩を放っているのが,設計制御技術部の木崎康弘部長が率いる応用技術グループだ。スタートアップ企業やベンチャー企業が有する革新的先端技術と,現場が求める現場特有の条件や環境を融合して,建設現場に適合する新たな技術や装置を具現化している。「私たちの役割は,そんな両者の懸け橋的な存在となることです」と木崎部長は話す。 当グループはロボットや自動化など新領域の設計・開発を目的に2020年に新設された。先入観なく自由な発想で取り組むことを重視し,20∼30代の若手社員を中心とした構成となっている。木崎部長は,「メンバーには新開発となるプロジェクトをどんどん任せています。時には無茶振りと感じているかもしれませんね」と微笑む。「自由に考え,色々な技術を吸収し成長している姿は頼もしい」。次世代を担うエンジニアたちの活躍が楽しみだ。応用技術グループが携わったプロジェクトの一部開発の様子稼働データをリアルタイムで表示,蓄積する斜め切断カッターモバイル機器でどこからでもON・OFF可能次世代分電盤会社ホームページはこちら
15KAJIMA202403特集 メカカジマ躍進機電エンジニアの育成Column鹿島をメカでリードする機電エンジニアの育成に,当社は大きく2つの視点から育成体系を構築している。 1つ目は施工技術。現場における機械・電気の基礎知識や,仮設備の安全管理や作業計画など,現場機電業務に求められるスキルをOJT・Off-JTを通して身につけ発展させていく。2つ目は技術開発。プログラミングやロボット,データ分析などについて,基礎から高度なものまでさまざまなメニューを用意し,技術開発のスペシャリストとしての道を支援する。Off-JTは対面で行う年次研修を始め,受講者の希望に応じて自発的に学べるアイテムなども用意している。 「技術開発に関する研修は,技術革新の動向を踏まえつつ機電社員に適したものにできるよう見直しを図っています。今,特に力を入れているのは受講者が手を動かしながら学べる体験型の研修です」。そう話すのは,昨年から研修の企画・運営を担当する機械部土井原美桜担当。自身も現場を経験したのち,自動化施工技術の開発に携わるなど,機電エンジニアとしてさまざまなことを学びながら業務に活かしていく必要性を実感している。「研修を通して,機電社員の挑戦と成長を後押ししていきたいと思います」。 建設工事で使用する車両系建設機械や運搬機械は,「衛星測位システム(GNSS)」を搭載することで作業中・移動中の現在位置が把握できるようになり,地図情報やBIM/CIMの3Dモデルに重ね合わせて,さまざまな合理化が進みました。ダンプの走行経路履歴から土砂の運搬回数を把握したり,ブルドーザが設計通りの高さで盛土の材料を敷均したり(3Dマシンコントロール)などの技術開発成果が多数の土木工事で使用されてきました。これらは当社JVが施工中の成瀬ダムで高度な自動化を実現しているA4CSELでも基本技術の一部となっています。 また,建築の技術開発では20年以上前に開発され,その後消え去った施工機械がありましたが,鹿島スマート生産のさまざまな技術開発の中で,軽量化・無線化・バッテリー駆動化などを施して新しく生まれ変わったものがあります。建築の施工ロボットは建設中の建築物の中で使用するため衛星測位が利用できません。そのため,レーザースキャンやカメラ画像の処理で「自己位置推定」する最新技術を組み込むことで,フロアの中を移動するロボットを実現しています。 福島第1原子力発電所の廃炉作業は,事故直後の高放射線下での作業を実現するため,さまざまな建設機械を安全な場所から遠隔操作する「無人化施工技術」により大きな成果を挙げました。この技術は1991(平成3)年の雲仙普賢岳の噴火を契機に開発がスタートし,多数の災害復旧工事で蓄積された知見をもとにして,福島で大きく発展させたものです。 このように,当社の機械化・自動化などに係る技術は,社員が自ら開発・実装し,継続することで改良を重ねてきたものです。諸先輩方の努力の蓄積のうえ,現在はA4CSELによる現場の工場化と,施工ロボットによる「作業の半分はロボットと」の実現に向かって機械部は進んでいます。 今,機電社員は,これまでの現場施工管理に加えて新技術の開発,さらにはその現場展開・普及に至るまで,職域が急拡大しています。これからの建設業の姿,鹿島の未来図を描くには,機電社員は不可欠な存在であり,また,そうあらねばならないと考えています。鹿島の未来図を描く機電エンジニアの使命機械部 植木睦央部長Messageロボット研修の様子。プログラミングとレゴブロックを使ってロボットをつくる※レゴはTheLEGOGroupの登録商標機電社員の役割。技術開発と現場施工の両輪を回す研修の企画・運営を担当する土井原美桜担当