04KAJIMA202405ジブリパーク体験!全エリア開園記念特集新たに完成した「ハウルの城」*

05KAJIMA202405©StudioGhibli3月ついに全5エリアが開園したジブリパーク(愛知県長久手市)。2022年に開園した3エリアに加え,2期工事では周囲になじむ豊かな里山の雰囲気をもった〈もののけの里〉,スタジオジブリの作品世界がヨーロッパ風の街並みの中に表現されている〈魔女の谷〉の2エリアが誕生した。今月の特集では1期に引き続き施工に携わった当社ならではの,社員による体験レポートをお届けする。その他Photo:*大村拓也,**当社

と地域の人に認知されてきている。しかも芝生広場と同様,もともとあった花畑や池などの豊かな場所があらためて見直され,多くの人が訪れているようです。 高度成長期以降に各地で整備され,ポテンシャルはあるけれど現在はあまり活用されていない公園というのが,じつは結構あると思います。本誌2月号の特集(「公園からパークへ」)も興味深く読みましたが,ポテンシャルを活かすという視点では,ジブリパークも既存の公園と親和性をもたせ,なんとかなじませていくかたちで再生させたと言えるのではないでしょうか。造園に力を入れる 「ベースは公園」であることを意識すると,ジブリパークをつくる上では,建物・施設だけでなく,造園の設えやランドスケープも大事な要素で,力を入れたところです。元からある風景となじむような里山をつくったり,植物が将来大きくなったときの視点で位置決めをしたり…施設のまわりにも様々な植栽を置いています。樹種は造園設計者(プレック社)が選定したものを尊重しましたが,建物のイメージに合わせ,よりふさわしいものを選びました。 造園とは,いわば「土いじり」のようだと思っていて,もちろん等高線を引いた図面をつくり,築山の高さや形状を3Dシミュレーション上で検討することも十分できます。でも,本当にそこに立ったときにどう見えるかというのは,やっぱり現場で確認して納めていくことが必要なんですよね。 また「魔女の谷」は歩き回るうちに迷い込06KAJIMA202405回遊性のある「公園」 ジブリパークは愛・地球博記念公園(モリコロパーク)の中に5つのエリアが点在するつくりとなっているのですが,今回新たに「もののけの里」と「魔女の谷」のエリアができ,1期とは来場者の動線が大きく変わったと感じます。1期ではいわば3つそれぞれのエリアに“行ったきり”だったのが,2つのエリアが加わったことで,まったく動きが変わり,動線に回遊性が生まれました。元の公園の中央にある芝の広場の周囲を人がぐるぐると回っているという状態が生まれたんですね。加えて人があちこちにちらばっていて,公園自体がすごく賑やかになった感じがします。 ジブリパークのエリアを公園内に点在させる方法は管理や運営上決してうまくいかないと,テーマパークの専門家に言われたことがありましたが,ジブリパークはもともとあった公園の中につくるという考えだったので,クローズド(閉鎖的)な世界にはしたくなかった。ですから5つのエリア以外にも,公園にふらっとなんとなく来てみた,という人も楽しめるようになっています。公園の可能性 また,ジブリパークが休みの日でも,愛・地球博記念公園に遊びに来たり散歩に来たりという方がずいぶん増えました。それもいい効果だと考えています。以前は屋外イベントがあるときは賑わいがありましたが,普段の公園としては今ひとつさみしいと感じていました。それが,「あそこにいけば何かある」「魔女の谷のみえる展望台」はチケットを予約しなくても入れるスポット(土日休日・混雑日は有料)**chapter1ありそうでない,ジブリパークという「公園」||宮崎吾朗監督インタビュージブリパークで監督として制作全体を指揮した宮崎吾朗監督。1期完成の際に「触れられる」公園づくりを,と語ってから1年余りを経てついに完成を果たした。あらためてジブリパークの魅力と,「ありそうでない」世界観をつくりあげる過程を尋ねた。「魔女の谷」につくられた築山。映画『ハウルの動く城』の荒地を表現したランドスケープ*

07KAJIMA202405特集 全エリア開園記念体験!ジブリパークむような感覚にもなると思いますが,もともとある池,くねくねと曲がった道,築山,視点の変化,ミニチュアの風景など,日本の回遊式庭園のつくりをしていて,造園の考え方を活かしているのです。ありそうでない建築をつくる難しさ 一方で,建物は映画を題材とした世界観を表現するため,ある意味,方向性は明確です。1期の「ジブリの大倉庫」はどこにもないものをつくるので結構こだわって口を出したかと思うのですが,今回はある程度スタッフ,設計者,鹿島さんへお任せしていたつもりでした。が,どうでしょうか(笑)。 ただ,「サツキとメイの家」の和洋折衷スタイルといえば,イメージや材料,工法もわかっているし,落としどころもあるのですが,「魔女の谷」のモチーフとしたひとつの映画『魔女の宅急便』の世界観といわれても,ある種の擬洋風,ある種のフェイクなんです。“当時にありそうで,じつはない”ものをつくるには,設計はもとより最終的には職人さんに委ねるところがあって,実現まで非常に難しかった点はあります。 例えば日本にはあまりない石積みを,慣れた石貼りの工程で行えば,納まりが変わり,結果として求めたものと異なってしまいます。木製の建具の雨仕舞いも,コンセプトとして想定した時代にはシーリングが見えていたらおかしかったり,同じ形の建具や金具ではなくそれぞれ部位ごとに違ったり…など,微に入り細にわたって考え,設計者・施工者に伝えてきました。 彼ら彼女らにとって図面は言語ですから,こんなところまで図面にかかないといけないのか,どこまで施工図を起こすのか,また,起こした図面が次々と変更になるという状況は,大変だったと思います。そのため現場確認をする機会も増やしました。鹿島さんのチームも1期から引き続き入ってくださった方もいたので,設計者との調整を担ってくださるなど,かなり有り難かったです。結局そのキャッチボールがないとなかなか互いにわからない。やっぱり現場でものづくりの大事さを改めて感じました。本物の体験ができる価値 はっきり言うと,今は誰でも小説やアニメを発表できる時代で,それが特殊技能でもなんでもなくなったと思えるんです。プロフェッショナルがつくったものを大勢で楽しむという時代ではなくなった。建築にしても,3Dプリンターであっという間に造形はできるようになりました。けれど,本物の木を削って木組みで組み立てて左官仕上げをしてというのは簡単にはできない。だからこそ,リアルな,本物の体験ができるところにまだ価値があると信じています。 本物の木や石,鉄などの素材や伝統工法を用いてつくることはちょっと過剰なのかもしれないけれど,手抜かりなくやっていることで,「ジブリパークに行けば『本物』に触れられる」,それを目当てにお客様が足を運んでくださる…そういう装置をつくらないといけない。 バーチャルなデジタルと,体験的なアナログとが二極化していくとしたら,そのアナログの極のひとつの可能性となってほしいと思っています。ここからが始まり ジブリパークには7年以上関わってきましたが,こうして開園を迎えられ,大村愛知県知事との約束の期限を守れてほっとしています。知事には予定通り終わったことに,冗談半分で驚かれましたが。 つくっているときは本当に楽しかったです。これからは50年,100年先まで価値をもった場所にできるか,本当に残っていくのかどうか,手間をかけていくことが必要ですね。それには運営から維持管理まで,きちんと考えていかないといけない。今はやっと終わったところではありますが,むしろここからが始まりです。たくさんの人に楽しんでいただければと願っています。みやざき・ごろう1967年,東京生まれ。信州大学農学部森林工学科卒業後,建設コンサルタントとして公園緑地や都市緑化などの計画,設計に従事。その後1998年より「三鷹の森ジブリ美術館」の総合デザインを手がけ,2001年より2005年6月まで同美術館の館長を務める。また2005年開催の愛知万博では「サツキとメイの家」の制作を担当した。2006年,スタジオジブリ作品アニメーション映画『ゲド戦記』,2011年『コクリコ坂から』で監督,2014∼2015年,NHK・BSプレミアムのTVアニメーションシリーズ『山賊の娘ローニャ』でも監督を務める(2016年,同作品で国際エミー賞子どもアニメーション部門最優秀賞受賞)。2020年にはスタジオジブリ初のフル3DCG作品『アーヤと魔女』をNHK総合テレビで放映,その後2021年に劇場版が公開された。2004年度芸術選奨文部科学大臣新人賞芸術振興部門受賞。10種類以上もの石積みのモックアップを作成し検証(青いヘルメットが宮崎吾朗監督)**現場確認は,設計・施工者とのいわば「キャッチボール」作業**

圧倒的な人気を誇るジブリパーク 2022年,ジブリパークは「愛・地球博記念公園」の中に開園した。当社は,ジブリパーク整備工事の建築・造園工事に際し,ECI※方式による技術協力業者に選定され,2020年から施工に携わってきた。 2005年に開催した「愛・地球博」(愛知万博)会場となった愛・地球博記念公園の理念を継承し,愛知県が同公園内に世界的アニメーション制作会社であるスタジオジブリの作品世界を表現した「ジブリパーク」を08KAJIMA202405全体での1年間の来園者数は約261万人(推計値)で,同パーク開園直前の1年間と比べて2倍以上に増えたと公表した。整備。スタジオジブリの宮崎吾朗氏が「監督」として,制作全体の指揮と監修を担った。 2022年11月,ジブリパーク全5エリアのうち,まず「ジブリの大倉庫」「青春の丘」「どんどこ森」の3エリアが開園。愛知県は,ジブリパークが開園した2022年11月から2023年10月までの愛・地球博記念公園[2期工事概要]ジブリパーク整備工事公園緑地整備事業愛・地球博記念公園整備工事合併工事場所:愛知県長久手市発注者:愛知県設計:日本設計デザイン監修:スタジオジブリ(中部支店施工)公園西駅愛・地球博記念公園駅公園西駅口公園北口公園西口chapter2ジブリパークの全貌どんどこ森魔女の谷もののけの里青春の丘1期整備エリア2022年11月開園2期整備エリア〈もののけの里〉が2023年11月,〈魔女の谷〉は2024年3月開園今年3月,全面開園となったジブリパークは2005年に愛知万博が開催された愛・地球博記念公園の中につくられた。ここでは1期整備エリアを振り返りながら,全体を紹介する。Photo:エスエス内山雅人公園内では映画『となりのトトロ』に登場する「ネコバス」をイメージした電動低速モビリティAPMネコバスが「もののけの里」と「どんどこ森」間を走行*ジブリの大倉庫稲楼門エレベーター塔

ジブリパーク「魔女の谷」が開園する5日前のこと。スタジオジブリ宮﨑駿監督作品の2度目のオスカー受賞が決まった。 今回のジブリパーク全エリア開園にあわせて,「ジブリの大倉庫」には,米アカデミー賞長編アニメーション映画部門賞に輝いた『君たちはどう生きるか』の新たな展示も始まっている。受賞も後押しし,より注目を浴びる話題のスポットとなっている。満を持して2期完成 1期整備エリアである「青春の丘」には,もともと公園に備えられていたエレベーターを改修した高さ約30mの「エレベーター塔」や,ジブリ作品『耳をすませば』に登場する「地球屋」などが建つ「ロータリー広場」がある。 また「どんどこ森」には愛知万博の際に建てられた『となりのトトロ』の「サツキとメイの家」があり,その裏山の頂上には「どんどこ堂」という木製遊具がつくられた。そして,公園内にあったプール棟をコンバージョンし09KAJIMA202405特集 全エリア開園記念体験!ジブリパークてつくられた「ジブリの大倉庫」はジブリ作品の展示物が詰め込まれた屋内施設。2期開園に合わせ,スタジオジブリの宮﨑駿監督最新作『君たちはどう生きるか』に関連した新たなオブジェが登場。展示室の屋根に止まる「青サギ」と「ペリカン」や,「インコマン」が現れた。 そして昨年11月に「もののけの里」,今年3月に「魔女の谷」と2エリアが開園を迎えた。 10ページからは2期整備エリアの施設を『君たちはどう生きるか』米アカデミー賞受賞!「ジブリの大倉庫」にも新展示column※ECI(EarlyContractorInvolvement)方式とは「早い段階からの請負業者の関与」という意味で,2014年「公共工事の品質確保の促進に関する法律」の一部改正により可能となった技術提案・交渉方式のひとつチケットは予約制。詳しい入園方法などはジブリパークの公式サイトhttps://ghibli-park.jp/をご覧ください。取り上げる。工事を担当した当社社員ならではの見どころと歩き方を教わりながら,実際に体験する様子もレポートする。information2022年に完成した1期整備エリアを紹介ジブリパークへの期待感を盛り上げる来園者を出迎えるエリア公園北口から最も離れた森の奥で豊かな緑につつまれ,自然を感じる「19世紀末の空想科学的世界観」をモチーフとした設計により,新たなランドマークとなった「エレベーター塔」。愛・地球博記念公園にあった既存エレベーターを改修。映画『となりのトトロ』のトトロを模した高さ約5mの木製遊具「どんどこ堂」。ほぼ自然素材からつくられ,竹小舞に土塗り,爪や髭は鍛冶職人による造形。小学生までの子どもは中に入れるようになっている。Photo:川澄・小林研二写真事務所映画『耳をすませば』に出てくる建物「地球屋」は,木造一部RC造。作品の中で描かれるファサードの模様をはじめとする,丁寧な造作も必見。2005年の愛・地球博の際に建てられた「サツキとメイの家」が引き続き公開されている。この裏山を登ると「どんどこ堂」がある。青春の丘どんどこ森旧温水プール棟を大胆にコンバージョンした大空間の展示エリアスタジオジブリ作品の展示,保存を行うまさに「大倉庫」。既存建物の屋根とガラス張りの外壁を残し,難度の高い屋内工事で大空間を創出させた。広場には色鮮やかなタイルが印象的な中央階段が。現在開催されている3つの企画展示のひとつ「ジブリのなりきり名場面展」では映画の登場人物になりきることができる**「カフェ大陸横断飛行」の構造体と外部通路には現代では用いられない「リベット」接合を甦らせた*ジブリの大倉庫「ジブリの大倉庫」で会える,『君たちはどう生きるか』に登場する青サギ(写真左),ペリカン(中),インコマン(右*)

10KAJIMA202405日本の里山の原風景を体験する 「もののけの里」は映画『もののけ姫』に登場する和風の里山的風景をイメージしたエリア。足を踏み入れると,豊かな公園の針葉樹を背景に,草木や樹木の多いのどかな風景が広がっている。 『もののけ姫』内の建物をモチーフにした体験学習施設「タタラ場」は,RC造の躯体に木造の屋根が載り,芝屋根が張られた特徴的な外観。屋根の上に設けられた煙抜きから白い煙が上がっているときは,建物内で「五平餅炭火焼体験」ができる印。香ばしい匂いに誘われて中に入ると,炭火で五平餅を焼き,その場で出来たてを食べることができる。 食べ終わって外を散策。やはり『もののけ姫』に登場する「タタリ神」と,「乙事主」のキャラクターをモチーフにした力強いオブジェに目を引かれる。オブジェは鉄骨の土台にラス(金属網)とモルタルで形状をつくり,仕上げにモザイクタイルなどを貼っている。滑り台にもなっている「乙事主」は白い毛並みがカラフルなタイルや玉石で表現されていて,思わず見入ってしまう。 そのほか,「もののけの里休憩処」は1期整備エリアの建設場所にあった木造の建物を移築したもの。職人の手によって解体され,外壁の板壁や建具,外灯などの状態を一つひとつ確認した上で,再利用できるものは活用した。かつて木造の建物はこうして解体移築,再利用というサイクルが行われていたが,その思想を反映したものだ。chapter3KAJIMA流ジブリパークの歩き方[もののけの里篇]①炭焼き小屋**②乙事主(滑り台)③タタリ神(オブジェ)道標の文字は1期のどんどこ森に引き続き細川英樹工事課長(写真左)による(本誌2023年1月号参照)*⑤タタラ場とやぐら**⑥物見やぐら**④もののけの里休憩処*現場の担当者に新たな2エリアの見どころを尋ねると,それぞれの施設の魅力に加え,どういう納まりになっているのか,どうやって施工したのか,仕上げの裏側を想像してみてほしいと力を込めて話す。ここではそんな声を集めた月報KAJIMAならではのジブリパークの歩き方を紹介するとともに,実地体験レポートをお送りする。炭焼き小屋物見やぐら乙事主休憩処タタリ神タタラ場とやぐら

11KAJIMA202405特集 全エリア開園記念体験!ジブリパーク「タタラ場」は木造の屋根に芝が張られ,風景に溶け込むかのようなたたずまいであり,この「もののけの里」には昔ながらの日本の姿が表現されている。「宮崎吾朗監督は造園へのこだわりはとくに強く,造成の形状,植栽配置は必ず現地ですべて2度,3度と確認した上で施工。設計図をベースに,いかに周囲の状況に合わせて形状をつくり込めるかが大変でした」(細川工事課長)**。モザイクタイルで表情豊かにつくられた迫力ある「乙事主」は,子どもが楽しめる滑り台となっている。はしごを上るとなかなかの傾斜となっているが,細川尊匡さん(3歳)は何度も滑って満面の笑み(写真中央**,左右*)。移築された木造の「もののけの里休憩処」。解体した建材から収縮などの状態を一つひとつ確認し,再利用できるものを用いた。柱梁は伝統木造工法である金物を使わずほぞに楔(木の栓)を差し込む方法で連結されている*。体験学習施設である「タタラ場」では五平餅を焼いてみよう。15分ほど両面をほどよく焼いてタレを付ける。味は数種類から選べる。細川家は宮崎吾朗監督イチ推しのナポリタン味を体験(左から2枚目**,他*)。里山の造景触れて遊ぶ再生焼いて食べる

12KAJIMA202405ヨーロッパ風の街並みに迷い込む もののけの里から南に向かった場所に完成した「魔女の谷」は,魔女が登場するスタジオジブリ作品をイメージしたヨーロッパ風のエリア。エリアの入口には「ValleyofWitches(魔女の谷)」のサインが掲げられている。文字の一つひとつがジブリの作品を想起させ,この先の数々の仕掛けを彷彿させる。 ここは『魔女の宅急便』の「グーチョキパン屋」や「オキノ邸」,『ハウルの動く城』の「ハ時間に数回,一部が動き煙を吐く,まさに“動く城”でもある。「動く建物をつくることになるとは想像もしなかった」と微笑むのは諸岡悠工事課長代理。そして中に入れば,薄暗い雰囲気の中に,主人公たちが過ごした居間や,あの「カルシファー」の炉,「ハウル」の寝室や浴室などがあり,城の中での生活を感じられるようになっている。 「外部の形状は複雑怪奇ながら,内部は展示空間として成立させる建築物の難しさ」があったと諸岡工事課長代理。「家型」ウルの城」や「ハッター帽子店」,『アーヤと魔女』の「魔女の家」が建つほか,遊具「メリーゴーランド」や「フライングマシン」,レストラン,店舗まで盛りだくさんのエリアである。「動く」建物をつくる エリアの奥,小高い荒地の丘の上に建つのは冒頭でも紹介した「ハウルの城」で,宮崎吾朗監督が「驚きの表現性」と語る,今回工事の中でも最も注目の建物だ。高さ約20mもの迫力ある2階建ての建物は,1chapter3KAJIMA流ジブリパークの歩き方[魔女の谷篇]⑪噴水広場から望む(左から)ハッタ―帽子店,魔女のエレベーター,グーチョキパン屋*荒地でカブとの撮影を楽しむ藤木さん親子*④廃墟通り・時計塔*⑥飛行機乗りの塔⑦レストラン「空飛ぶオーブン」内観⑧魔女の口*⑤魔女の家①オキノ邸看板*⑨フライングマシン*⑩メリーゴーランド*③ハウルの城ハウルの寝室オキノ邸メリーゴーランドフライングマシン飛行機乗りの塔廃墟通り・時計塔魔女のエレベーター13人の魔女団グーチョキパン屋ハッター帽子店ハウルの城魔女の家噴水広場空飛ぶオーブン魔女の口出口入口フライングマシンホットドッグスタド ホット・ティン・ルーフ②グーチョキパン屋内観

13KAJIMA202405特集 全エリア開園記念体験!ジブリパークと呼ぶ2階の複数の建築の集合体は,屋根や外壁が鋭角同士だったり,曲面と平面で取り合うなど3Dで納まりを検討しても難しい。とにかく現場で一ヵ所ずつ確認していく作業だったという。 設備工事全般を担当した長谷川実副所長は,ここに家族を真っ先に連れてきたかったという。家族は「アニメーションの世界を実物で表現するのは大変だとは聞いていましたが,見て本当に感動しました」「中の雰囲気がとってもいい」と大興奮の様子。見事な装飾に彩られるインテリアの中の器具類にもじっくりと視線を注いでほしい。本物へのこだわりがつくる世界観 同じく長谷川副所長が担当した設備について聞くと,なんと「すべての器具がちゃんと使えるようになっている」とのこと。水道や暖房の配線,暖炉は排気口まで確かに接続の様子がわかるものもある。これら照明や衛生器具は様々な国の様々なメーカーから調達され,選定から発注管理までを担う業務には苦慮した上,特殊な形状もあって「限られたスペースでの配管や機器の納まりにとても苦労した」(遠藤駿太設備担当)。「ハウルの城」が動くのを待つ間は是非,多彩な仕上げ素材でつくられた外観をぐるりと回って見てほしい。金属やFRPを金属風に加工した蠢くような「脚」の表現,「家型」の造形に圧倒される。「建物規模では担当した中で一番小さかったですが,苦各所にキャラクターや,遊び心溢れるデザインを探すのもジブリパークの楽しみ方のひとつ。「ハウルの城」の,1階居間の流しの出窓に貼られたタイル。1期「ジブリの大倉庫」中央階段で美しいタイルを造形したユークリッド社がここではくるくる(スピログラフ)定規で幾何学模様を描いた。「四隅には城を動かすカルシファーを表す『火』の文字が隠れていますよ」と浅野成孝副所長が教えてくれた。*圧巻の迫力遊び心展示施設でありながら,建築物として触れられる本物,実用性をもっているのがジブリパークの大切な考え方である。本物へのこだわり「家型」の納まりの複雑さを見てください(諸岡工事課長代理)*1階の居間のカルシファーの炉。入り口の扉も映画のように風景が変わる把手が…*もの決め,納まりの検討のため制作した1/20模型。取材時は役目を終えて現場事務所で静かにたたずんでいた*気泡入りアンティークガラス越しに見るメリーゴーランド*様々な作品を想起させる「ValleyofWitches」のレリーフ*「飛行機乗りの塔」の窓を覆う鎧戸。開いているときに見られるあおり止めは『天空の城ラピュタ』のドーラ*「魔女の家」。「アーヤ」が使っていた洗面所のインテリア*RC造の躯体にタイル貼りではなく,本物の煉瓦が積まれているレストラン「空飛ぶオーブン」(写真上*,下**)「お父さんがこの仕事に携わっていて嬉しいです」(左端,長谷川紗希さん)*労度は今までで一番」(諸岡工事課長代理)。1階のカルシファーの炉のある居間に注目。映画の雰囲気を丹念に表現するため原寸大でスチロール削り出し模型を現場に搬入して確認した渾身の造作。吊り下がる照明器具も新規に創作したもの。「空飛ぶオーブン」のメニューより*

14KAJIMA202405 また,エリア入口付近にあるレストラン「空飛ぶオーブン」では「魔女の谷」らしく少しミステリアスなオーブン料理,デザートが饗されるが,食事の前に外観の煉瓦にも注目を。RC造の躯体にはタイルではなく本物の煉瓦が全面に積まれている。 世界観の表現に奥行きを与えるこうした仕掛けが,「魔女の谷」には溢れている。珍しい工法の数々 2期工事で特徴的なのは木造建物の多さ。しかも屋外での漆喰や石積み,ハーフティンバーなどの工法は,意匠性を保ちながらも木材の含水率管理や防水工法など厳しい性能管理が求められる。 例えば映画『ハウルの動く城』の主人公ソフィーが切り盛りする「ハッター帽子店」はハーフティンバーの外観をもつ。外壁は竹小舞の下地に土壁を塗り,色粉を混ぜた漆喰仕上げとなっている。「窓の木製建具と漆喰壁の間から水が入らないようコーキングを注入し,それが見えないよう1センチほどの隙間に角材を埋め込んで化粧をしています。現場でミリ単位に加工し,面を合わせるなど丁寧な細工が施されているんです」と,1期に引き続き木造工事を担当した緒方淳工事課長代理がその品質確保の大切さについて力を込めて解説してくれた。 その隣の,映画『魔女の宅急便』に出てくる「グーチョキパン屋」の建物も同様にハーフティンバーが印象的。実際に買える愛らしいパンの品定めとともに,構造や壁の仕上げも眺めていただきたい。 また,宮崎吾朗監督作品である『アーヤと魔女』に出てくる「魔女の家」の外塀は「ドライストーンウォーリング」といい,内部にモルタルなどを使わずに石を積むイギリス伝統の珍しい工法である。大変難度が高く,日本で施工ができる職人は10人に満たないとのこと。家に入る前に必ずチェックだ。エイジング技法の妙 「これまでは新築工事を担当してきたが,今回は『廃墟』をつくり上げた」と新田純士工事課長代理。エリアにはその名の自然素材ならではの経年変化の味わいや,使い古されたインテリアを竣工時から表現しようと施されたエイジングの数々。傷や汚れ具合にも「わざとらしくなく,ストーリーが求められた」(浅野副所長)。エイジングの妙雰囲気をつくる技『ハウルの動く城』の「ハッター帽子店」や「グーチョキパン屋」などが並ぶ*漆喰が盛り上がって塗られているように見えるのも,メンテナンスを繰り返して塗り重ねている,というストーリーをイメージしてとのこと。色味もモックアップをつくって何度も試作した*「ハウルの城」2階の怪しげなハウルの浴室。「真っ白な状態で引き渡したはずなのですが(笑)」(浅野副所長)「魔女の家」でアーヤが魔法を教わろうと奮闘する,魔女ベラ・ヤーガの作業部屋。膨大な材料に覆われているが,壁が剥がれ落ちているのがわかる漆喰壁が剥がれ落ちて煉瓦がむき出しになっている様子を「演出」。実際は木造の一部の壁に煉瓦を貼り漆喰を塗ってから,図面や現場で決めたラインまではつっている*鍛冶職人が叩きでつくった「ハッター帽子店」看板。1階のショップ内装の漆喰壁にもモールディングの装飾が施されている。見過ごしてしまいそうだが,じつはとても繊細な美しさ*「魔女の家」の躯体はクラックトラス構造(左**)を採用した木造で内外壁ともに石積み。周囲の塀(右*)はイギリスの伝統的なドライストーンウォーリング工法で接着剤としてのモルタルを使わない石積み「ハッター帽子店」の裏手の中庭。木製の建具の柱表面を削って「朽ちた」雰囲気を出し,雨水が入り込まないような建具の細工をしている。お土産を買った後,忘れずにチェック*説明する緒方工事課長代理

15KAJIMA202405チーム鹿島,完走への秘話特集 全エリア開園記念体験!ジブリパーク通り「廃墟通り」という場所があるほか,木造建物の構造体に朽ちたような雰囲気や,漆喰壁に雨だれの跡が見えるが,施工時の汚れや劣化ではない。 じつはチェーンソーやノミを使って,木の柱梁に「エイジング」加工を施した演出だという。「構造体にはあらかじめエイジング(表面を削る)する分を増して施工し,後から削っている。私自身も大工職人と削りカスにまみれながらつくりあげました」(緒方工事課長代理)。 完成直後にもかかわらず,エリア全体がまるでずっと前からあったかのようにしっとりと落ち着いて見えるのは,そうした細やかな仕掛けのおかげだろう。家族に自慢できる現場 「工事を担当したおかげで子どもたちがジブリ作品をよく見るようになった」とメリーゴーランドで楽しむ家族を前に黒田祐介次長は語る。子どもたちは遊具はもちろん,建物や造作に触り,歩き回り,あちこちで笑顔を見せていた。その笑顔をもたらしたのは,「苦心した記憶も多いが,家族に自慢できる現場」(安田優工事主任)と矜持をもって臨んだ社員の活躍あってのことだろう。「世界から観光客がやってくる場所づくりに携われたことは貴重な経験」(金木大地設備担当)──子どもから大人まで,スタジオジブリの世界観とものづくりが溢れるジブリパークを是非,見て,触れてゆっくりお楽しみください。 2期工事は造成,建築の躯体から内装,しかもハウルの城のような複雑な造形に象徴される製作までスケールが多岐にわたり,それらの各種工事の取り合いに加えて屋外という作業条件など,1期とはまた異なる難局が多かった。 所員を率いた剱持光尚所長は「限られた人数の中で1期のメンバーがいたことは大きかった」とのこと。なかでも「造園」「木造」「非木造」「ハウルの城」と4組の担当チームに分かれた所員どうしの横の連携を担ったのが1期も担当した浅野成孝副所長。経験を活かし,発注者,デザイン監修者,設計者のこだわりなどを共有していくことができた。 今回も複雑な形状,珍しい工法,精密な仕上げなど図面承認ともの決めにおいて「宮崎吾朗監督のイメージとすり合わせていく作業は本当に苦労があった」(越前晴行工事課長)。実施図面を起こすために所員はスタジオジブリの映画や書籍を確認してヒントとすることも。「見れば見るほど映画で細部までつくり込まれていることに感動し,これを現場で施工しようという意欲が出ました」(伊藤聡志工事担当)。そうしてもの決めから現場の仕上げまで,膨大な確認事項が都度発生するなか,「宮崎吾朗監督の来所を月2回から毎週にお願いし実現してもらえた」(藤木副所長)という。岡田良子副所長は「手直しは大変なことも多かったが,宮崎吾朗監督の指示は内容が的確で,できあがったものを見てさすがだなと思った」。 具体的には植栽の樹種選定から,エイジング演出で土壁が剥がれるライン(境界線)決めや,指定された海外製品が廃番だったときの代替選びなど…土壁の色をはじめ,モックアップをつくり,事前に確認したものが現場で変更となることもある。そうした要望や変更に対して「そちらはできないけれど,こうしてはどうでしょうと提案しましたが,トライ&エラー,エラー…の繰返しだった(苦笑)」と剱持所長は振り返る。対して「どんな提案もまずはやってみることが大事だと,所長から背中を押され,つねに守ってくれていた」(緒方工事課長代理)と所長への所員の信頼も厚かった。 「宮崎吾朗監督は建築や造園の知識に明るく,素晴らしい職人さんの仕事に身を乗り出されて興味をもたれるほど,ものづくりが本当に好き。困難な局面もあったが,なんとか期待に応えようという気持ちをもち続け,完走できてよかった」と,所長は改めて完成に胸をなで下ろす。teamKAJIMA「メリーゴーランド」や「フライングマシン」は,「年に一度,村にやってくる移動遊園地」をイメージした遊具だ。メリーゴーランドは「木馬の目ひとつにまでスタジオジブリのチェックが綿密に行われていた」(藤木副所長)とのこと。ジブリの世界で遊ぶ剱持光尚所長*浅野成孝副所長*「何度来ても飽きない」と藤木愛紗さん。メリーゴーランドでも思わずVサイン*一周回るごとに笑顔がはじけていくお子さんの様子に,黒田次長も嬉しそう*「フライングマシン」で歓声を上げる藤木愛紗さん・凱里さん姉弟を見守りながら「床はエイジング塗装をしているんですよ」と藤木副所長は笑顔で教えてくれた*「いつも聞いていた仕事を実際に目の当たりにすると,こんなに大変なものをつくったのかと驚いた」(黒田夫人,右端)*メリーゴーランドで藤木凱里さんが選んだのは,『魔女の宅急便』に登場するトンボが乗る自転車*越前晴士郎さん,不規則に出る噴水に次第に興奮。びしょびしょにならないか見守る越前夫妻*