22KAJIMA202405 ものづくり企業である当社にとって,独自技術はかけがえのない財産といえる。知的財産表彰(業績貢献賞,功労賞,奨励賞)は,当社技術の一層の深化・発展に対する社員の意識向上,常に新たなアイデアを発案する社内風土の醸成促進,社業発展に寄与する創造的活動の活性化を目的とし,優秀な技術開発や改良・工夫などを発明につなげ,知的財産としてさらに価値あるものへと昇華させたチーム・社員を称えようと2022年に設立された。「知的財産奨励賞」はそのひとつとして,知的財産の分野において将来が期待2017年入社。2022年度に建築設計本部において,制震に関する4件の特許出願に携わる。そのうち3件は部門開発テーマ「制免震ダンパの競争力強化」で開発中の摩擦ダンパに関する発明の筆頭発明者として,発明説明書の作成,当社知的財産部・特許事務所とのやり取りに主体的に取り組んだ。2010年入社。2022年以降,7件の発明提案を行う(累計提案:21件,累計出願:18件(2件出願準備中)。いずれも,技術提案や設計変更による発注者との協議の対象となっている工法・構造に関するものであり,筆頭発明者として現場や設計実務での経験を踏まえた実現性が高い提案を多く行っている。2008年入社。主に土壌に関する研究で,R&Dの成果である泥DRY(粘性土壌を素早くサラサラにする選別補助材)やMAKフォーマー.20(生分解性と耐候性を有する粉じん飛散防止材)について積極的に提案。これらの技術は第三者に実施許諾をするなど成果の活用展開も図られていて,権利化や契約交渉にも積極的に関与している(累計提案35件,累計出願32件)。技術研究所建築構造グループ(上部架構)副主任研究員平木達也(写真左)発明摩擦バッファを用いた鹿島式フェイルセーフ機構発明MAKフォーマー.20発明鉄道工事・基礎杭の施工方法土木設計本部地盤基礎設計部鉄道・基礎グループ設計主査井出雄介(写真中央)技術研究所地球環境・バイオグループ主任研究員河野麻衣子(写真右)4月5日,当社KIビル(東京都港区)で実施された「2023年度(2024年度期首)社長賞」の表彰式に,“発明者”のホープ3名の名前が挙がった。今回初めて社長賞として設置された知的財産表彰。そのひとつ「知的財産奨励賞」は,知的財産の分野において将来が期待される若手・中堅層の発明者を表彰する。鹿島を支える独自技術の生み手として,ますますの活躍が期待される受賞者に話を聞いた。MAKフォーマー.20の散布風景発明提案した工法の施工状況巨大地震により免震層などが大きく変形した際,独自開発の摩擦バッファが緩衝装置として作動し,過大な変形を抑制する。巨大地震による長周期地震動に対し,超高層建物全体の揺れを大幅に低減する制御層制震構造「KaCLASS」に搭載。MAKフォーマー.20は粉じん飛散・侵食防止材。本材を水で希釈しホースで散布後,約1日乾燥させると土壌被膜を形成。粉じん飛散や侵食防止効果を長期間発揮する。紫外線や降雨,強風などへの耐候性に優れる一方,土壌微生物によって分解するため環境にも優しいことが最大の特長。鉄道工事ならではの施工制約がある状況で,種々の課題を解決する工法を多数考案し特許として出願。また,設計段階での課題を的確に抽出・分析し,効果的な改善案を考案し特許出願。社外との共同研究にも携わり,社会的課題を解決するための新たな工法の開発を行った。#KAJIMA#kajimaステキシェアいいね!#2023年度社長賞知的財産奨励賞来たれ!鹿島の発明者2023年度(2024年度期首)社長賞「知的財産奨励賞」受賞者される若手・中堅層の発明者が選出され,表彰状と副賞5万円が授与される。 ここで紹介する発明者は,社長賞として第1回目となる栄えある賞を受賞した3名。技術立社である当社を,今後さらなる高みへと導いてくれることだろう。摩擦バッファ支持躯体摩擦バッファ免震層/制御層の設計想定変形免震層/制御層所定の躯体クリアランス摩擦バッファ反力用躯体摩擦バッファの配置イメージphoto:takuyaomura
23KAJIMA202405制震,土木工法,土壌と,三者異なる分野の発明者たち。発明や知的財産活動をテーマに語り合ってもらった。#初歩の初歩から学べる「知的財産教育」展開中#ひらめきは日常から#24時間考え続ける#ひらめいたら知財部へ#鹿島のノーベル賞―どのような課題意識や行動が発明に結び付いているのか?井出 難しいことが大好きでこの会社に入りました。工法や設計検討は難題であればあるほど面白いです。ただ,考えても考えても良い案が浮かばないことがしょっちゅう(笑)。もうダメかもと思った頃,電車やお風呂の中など仕事場とは別のところで,ふと何か思いつくことが多いでしょうか。平木 前回の知的財産業績貢献賞を受賞された技術研究所・栗野副所長(当時の上司)が,「24時間考え続けるくらいの気持ちでいれば,ふとしたときに思い浮かぶよ」と。実験でうまくいかないこともありましたが,アイデアを洗練させ,トライアンドエラーを繰り返す機会を与えてもらったおかげで,成果を収めることができました。河野 私はMAKフォーマー.20開発時の施工試験で,開発材料と水がうまく溶け合わず,ホースによる散布が実施できないという大失敗を経験しました。どうにか混ぜやすくできないものかとずっと考えていたある時,コーンスープを飲んでいて,この粉末ってお湯を入れるとすぐ溶けるなと。原理を調べ,環境面にも配慮したうえで色々試し,最終的に化粧品にも使用されている原料にたどり着きました。考えが行き詰まったら,他業界で使用されているものを持ってきたらどうなるかなと発想を転換するようにしています。―アイデアや暗黙知を形式知化(特許化・権利化)することについて平木 初めは特許出願に勇気がいりましたが,おふたりはどのようなきっかけで特許出願に至ったのですか?河野 初めて特許出願したのは浄化工事の現場に技術協力で携わった時です。汚染物質の分析精度が向上する迅速分析の発明者トーク!前処理剤を開発したところ,グループ内の関係者から特許出願を勧められました。井出 私は設計業務を行っていた時に先輩から「これ特許になるんじゃない?」と言っていただき,知的財産部に相談したことがきっかけでした。出願に関しては知的財産部が協力してくれるので,みなさんが想像しているほどハードルは高くないですよね?河野 知的財産部の知的財産教育も充実していますし,ハードルは決して高くないと思います。井出 知的財産部の方や弁理士さんと話すのも楽しく,勉強にもなります。平木 特許出願後は,プレスリリースなどに「特許出願済」と明記できますよね。特許が顧客や競合他社へのアピールとして受注につながる可能性を高める要素になると感じています。井出 私が発明提案している工法の特許は,開発した工法を自社のものにすることが第一の目的です。特許を取得しないと他社がその工法を実施できてしまいますので。一方で,今後は特許を取得した工法の展開にも力を入れなければと考えています。河野 特許出願後の社内外への広報活動や知財の有効活用も重要です。技術の権利化により当社の優位性を確保し,さらに社内外への周知や実施許諾契約の締結などが会社の収益につながります。―今後の抱負平木 若手・中堅層を対象とした奨励賞の設立はとても励みになります。今後選考がますます活発になればと思いますし,私自身は4月から技術研究所に異動したので,新たな特許取得にも挑戦していきます。河野 今回,個人としての受賞でしたが,決してひとりで成し得たものではありません。一緒に研究しサポートしてくれた方々あってのものです。私が開発提案した分野も,5年,10年と経てば開発当時とは異なる課題が出てくるはずで,きっとそこに技術開発のチャンスがあります。変化する時代や環境のニーズに対応した開発を続けていきたいと思っています。井出 私もここまでできたのは知的財産部,特に光成担当部長が特許出願をサポートしてくれたおかげです。大変感謝しています。今後もライフワークとして日々の課題解決を特許出願に結び付けていきます。目標は「1案件1出願」。そして,適用現場を見つけ世に広めていく活動にも励んでいきます。photo:takuyaomura