16KAJIMA202407オール東北で狼煙を上げる,当社国内初の物流施設開発(仮称)鹿島富谷物流センター新築工事昨年9月,当社は国内の物流施設開発事業への参入を表明。独自ブランド「KALOCTM」を立ち上げ,初弾として2つの建設工事に着手した。そのひとつが宮城県富谷市の「(仮称)鹿島富谷物流センター」。免震構造を採用したマルチテナント型物流施設で,開発・設計・施工のすべてを当社東北支店が担う。「みんなでいいものをつくりたい」。その一心で,全工程15ヵ月を突き進むオール東北の施工現場をレポートする。鹿島ブランドの物流施設 宮城県仙台市の北に隣接する富谷市では,東北自動車道泉ICから約3kmと,東北エリアを広域にカバーできる立地に「(仮称)鹿島富谷物流センター」の建設が進む。当社にとって国内初の物流施設開発事業のひとつで,延床面積は約4万6,726m2,4階建てのスロープ付きマルチテナント型物流施設となる。当社保有技術を活かし,圧縮力に強い鉄筋コンクリートの柱と,軽くて曲げに強い鉄骨の梁を組み合わせた「KIP-RC構法」によって大きなスパンの広々とした空間を実現。太陽光発電設備を設置するなど環境にも配慮し,ZEB認証およびCASBEE認証を取得予定だ。 工事を率いる鳥潟博志所長は,「鹿島ブランドの先駆けとなる工事を所長として担当できることは光栄です。私も鹿島に育ててもらって今があります。みんなでいいものをつくり,恩返しがしたい」と意気込む。 開発側も本事業に強い想いを込めている。東北地方のマルチテナント型物流施設としては初めて免震構造を採用した。「東北は地震が多いエリアです。開発費はかさみますが,この地で鹿島が開発するならば免震構造であるべきだと,企画当初からこだわりました」。そう話すのは東北支店開発部の松江真志グループ長。2019年から地権者をまとめて区画整理事業を推進し,事業の道筋を整えてきた。もともと山林だった計画地は事業認可取得後に土木部が宅地造成化,建築設計部が設計図を描き,現在の建築工事へとバトンが渡っている。「東北支店の開発・土木・設計・建築部門が一体となり,まさにオール東北で取り組んでいる事業です。各部が意見を出し合い,ぶつかることも多くありますが,“いいものをつくろう”と,同じベクトルで仕事ができています。少しずつ具現化されてくるにつれて,このメンバーを一層頼もしく感じます」。サイトPC化への挑戦    現場は昨年8月に着工し,今年10月の竣工を目指している。全工程15ヵ月。5月に倉庫棟の地上躯体工事を完了させた。このスピード施工を可能としたのが,サイトPC化への挑戦だ。 「今回,現場では5種類のPCaピースを用いることを計画し,そのすべてをサイト内で製作しました」。そう話すのは,次席として現場全体をまとめ上げる赤木大輔工事課長代理。現場は公道をはさんで造成された2つの宅地が並んでおり,今回は南側に物流施設を建設する。この条件を活かし,北側にPC施工ヤードを確保。工場から現場までのPCaピース運搬にかかる諸問題を解決し,PCa製作から据え付けまでの一連のサイクル確立に加え,運搬車両削減によって鳥潟博志所長赤木大輔工事課長代理開発部担当者。中央が松江真志グループ長,左が加藤誠士主任,右が関優太主任photo:takuyaomuraphoto:takuyaomuraphoto:takuyaomura完成イメージ富谷JCT富谷IC泉IC(仮称)鹿島富谷物流センター新築工事4奥州街道︵陸羽街道︶東北自動車道仙台北部道路【工事概要】(仮称)鹿島富谷物流センター新築工事場所:宮城県富谷市事業主体:当社東北支店設計:当社東北支店建築設計部用途:マルチテナント型物流倉庫規模:RC(柱)・S(梁)造(KIP-RC構法,免震構造) 4F延べ46,726m2工期:2023年8月∼2024年10月(予定)(東北支店施工)

17KAJIMA202407コストダウンとCO2排出量削減にもつなげた。「特に柱PCaは仕口※一体型としていて,長さは6.7m,最大重量約26t。それを436ピース据え付けます。工場から運搬する方法をとっていたら,今のペースで建方を進めることはできませんでした」とターニングポイントを回顧する。 柱PCaを仕口一体型とする最大のメリットは,工程の大幅短縮が可能な点だ。通常の柱PCaでは据付け後に仕口部を現場施工するが,製作時に一体化させておくことでこの工程を省略できる。仕口一体柱PCaの採用は全国でも珍しく,KIP-RC構法との組合せは社内で2例目だった。「課題は,PCa製作時に仕口部の内部へ生コンクリートをどのようにしてすきまなく充填させるかでした」。赤木工事課長代理は過去現場製作した5種類のPCa現場俯瞰事例の経験者に相談し情報を収集。本社・支店の協力のもと,充填方法の検討を重ねた。過去事例とは柱の仕様や,気候などのPCa製作環境が異なる。ナレッジを共有したうえで,今回の工事に適した生コンクリートの選定や,流れやすくかつこぼれない勾配の調整,流し込み方法などを微調整し,モックアップを用いた3回の充填率試験を経て,満足のいく充填方法を確立した。※部材と部材を接合する部分のこと。部材を固定して建物を組み立てたり,強度や耐久性を高めたりする役割がある仕口一体柱PCaの仕口部柱仕口モックアップを用いた充填率試験の様子仕口一体柱PCa製作時のコンクリートの充填イメージphoto:takuyaomura設置した免震装置北面から見た外観(2024年5月)photo:takuyaomuraPCヤード事務所スロープ棟倉庫棟photo:takuyaomura

18KAJIMA202407安定したPCa製作と建方 毎日安定したPCa製作を進めるために,現場ではサイクル工程を作成した。製作を管理した倉本凌工事主任は,「PCa部材製作の品質がそのまま建方の精度や工程に影響することを意識し臨みました」と話す。 サイクル工程の流れとして,午前中に前日施工のPCa部材を脱型し,空いた型枠に当日施工分の部材の仕口セット,型枠建込,打設前自主検査を行い,午後からコンクリート打設,仕上げ,蒸気養生までを施す。製作する5種類のPCa部材は,全部で700ピースにおよぶ。「1ピースは10以上の材料で構成されています。必要な材料を適切なタイミングで手配しないと製作が止まり,建方に影響します。とにかく物量が多かったです」と倉本工事主任は振り返る。最もピース数が多い仕口一体柱PCaは1日最大8ピースを製作し,それらをもうひとりの工事担当とともに,毎日全数を検査した。その成果を赤木工事課長代理も,「仕口一体柱PCaの建方が思っていた以上にスムーズに進んだのは,製作精度がよかったおかげです」と称える。 昨年8月に着任した入社2年目の宮こころ工事担当は,ここが初めての担当現場。配筋や免震の写真撮影と品質管理業務,仕口一体柱PCaの建方工事などを任され,「建方は流れをつかむのが大変でしたが,技能者の方々とコミュニケーションをとりながら進めることができました。柱脚の管理も行い,柱が1本1本建ちあがっていくのはほっとするとともに,達成感がありました」と充実した表情を浮かべる。 現場には宮工事担当と同年代の若手社員も多く所属する。「明るい雰囲気で,先輩方に支えてもらいながら日々取り組めています」。それを聞いた7年目の倉本工事主任は,「若手のくくりではありますがその中ではおじさん(笑)」と笑顔を見せながら,「担当工種だけではなく,工事全体を管理できるように,積極性をもってひとつでも多く学びたいと思っています」と次なるステップを見据える。計画が大事 若手社員が多い現場で,鳥潟所長が日頃から伝えているのが,計画の大切さ。そ仕口一体柱PCaの建方柱PCaは「BIMLOGI®」で進捗を管理仕口一体柱PCa製作1日のサイクルコンクリート打設・養生型枠建込右から倉本凌工事主任,宮こころ工事担当前日に打設した柱PCa脱型仕口セット▶▶▶photo:takuyaomura

19KAJIMA202407現場全景(2024年5月)のイズムは,施工計画の随所にちりばめられている。 施工計画検討時に着任した鳥潟所長は工程表作成に心を砕いた。「全工程15ヵ月は普通に施工していたら厳しいと思いました。打つ手を模索する中で,KIP-RC構法を一般的な鉄骨造と同じ考え方で組めたらクリアできるのではないかと感じ,構造設計担当者と相談して仕口一体柱PCaにチャレンジすることを決めました」。20tを超える柱PCaの建方には大型のクレーンが必要不可欠だが,施設は敷地いっぱいに建ちあがる設計で周辺スペースが少ない。さらに造成地は周囲がのり面となっていて,このままではクレーンが立てられない。そこで,敷地をぎりぎりまで有効活用できるよう,着工と同時に擁壁工事を行うことにした。また,「せっかく擁壁までつくるなら外構フェンスなどの外構工事も躯体に絡まない範囲で先行施工し,少しでも後工程に余裕をもたせるようにしました」。 外構を先行施工するには早期のもの決めが鍵を握る。この構想を実行できたのは,鳥潟所長の推進力があってこそだと赤木工事課長代理は話す。「例えば,PC製作時に仕口部内部へ充填するコンクリートは流動性・充填性の観点から,当初計画にはなかったものを私が提案しました。また,倉仕口一体柱PCaに鉄骨造の梁を組み立てる所員集合写真。2階トラックバースにて庫棟の床コンクリートは品質にこだわるため,乾燥収縮率の少ない100%石灰砕石に仕様をグレードアップしています。いずれも品質とコストの調整を要する提案でしたが,鳥潟所長が開発部門と速やかに意思疎通を図り,採用にいたりました。いいものをつくるための見極めと推進力は,とても勉強になります」。 現場は6月現在,倉庫棟の屋根・外壁や内装工事,スロープ棟工事の真っ只中。設備工事も始まると技能者数はピークを迎え,竣工まではもうひと山もふた山もある。オール東北で乗り越え,鹿島ブランドの物流施設を,この地から発信していく。photo:takuyaomura