私たちはチョークをつくるメーカーである。チョークを一番使う場所は学校であるが、今現場で何が起きているかと言えば、学校が、授業が、ますますデジタルな方向へ進化しているのだ。50年前くらいから少子化が始まり、ホワイトボードの投入、そして1990年代のPC普及から電子黒板が導入される今に至るまで、チョークのマーケットはシュリンクし続けている。 だからと言って、そのままを受け入れていくわけにはいかない。社員がそこにいてくれるからだ。当社の社員は96名中69名が知的障がい者である。これはボランティアで雇ってきたわけではなく、現場はその力を必要としている。彼らの集中力や持続力はどうやっても私にはまねできない能力である。 さらに言えば、現場は彼らの責任感で守られている。当社のような小さな会社、ことラインで一つの作品︵製品︶をつくる中で、余剰人員など一人もいない。誰かが休めば誰かがそこを埋めなければならず、どこかに必ず穴があいてしまう。だから、私が﹁あなたがいないと会社︵現場︶が困る﹂と言えば、そのことば通り受け止めてくれる。簡単に休む人がいないのは、自分が会社に行かないと会社が困ることを知っているから。まさに、﹁責任感﹂である。 こういう社員たちと共に60年以上も現場を守ってきた。だからこそ、これからも彼らが輝く場を一緒に見つけにいくのだ。それが私たちの﹁みらいをつくる﹂ことになるだろう。なりふり構わずいろいろな人や企業に言い続けていく。﹁私たちができること、私たちを活用してください﹂と。 現在、我が社の次の柱である﹁ガラスに描けて水で流せる画材﹂を世界ブランドにするという意気込みで挑戦を続けている。いつも躓いたり、迷ったりするときは、その商品名とかけて﹁きっとパス﹂する︵きっとうまくいく︶と自分に暗示をかけている。何かの一つ覚えと言われようが、とことんやっていく。 ﹁すべての世代に楽がき文化を創造する﹂を合言葉に、描くことを忘れてしまった人へ、うまい下手に囚われている人へ、描くことの楽しさをもう一度取り戻してもらおうと思っている。それを世界中に届けるまでやり続けていくつもりだ。30KAJIMA202410おおやま・たかひさ 東京都生まれ。大学卒業後、広告制作会社勤務を経てアメリカに留学。大学院卒業後、1993年日本理化学工業株式会社に入社。2008年4代目代表取締役社長に就任。2009年「キットパス」が日本文具大賞機能部門においてグランプリを受賞。2024年「キットパスバイアーティスト(エクル)」が日本文具大賞グランプリを受賞。現在、社員の7割が知的障がい者。製造ラインはほぼ100%知的障がい者のみで稼働できるよう工程にさまざまな工夫を凝らしている。障がい者雇用への理解を社会に広げるため、見学の受入れ他、全国各地で講演などの活動を行っている。vol.238