神奈川県葉山海域のアマモ場(撮影:山木克則)04KAJIMA2024112050plus鹿島環境ビジョン――現場の実践特集当社が今年5月に改定した新たな環境ビジョン「鹿島環境ビジョン2050plus」。当社グループだけではなく,顧客や社会と協力して取り組む必要性や,2050年の先を見据えた永続性がこの「plus」には込められている。今月の特集では,環境保全と経済活動が両立する,持続可能な社会の実現に向けた「脱炭素」「資源循環」「自然再興」の3つの分野における目標と,3分野が相互に関連しあうそれぞれのロードマップを示す。そこから,最前線で取り組む現場に視点を移し,実践や活動の場における現場担当者,関係者の声を交えて「2050plus」を展望する。

「2050plus」のビジョンを表す新しいロゴマーク2050年より先の持続可能な未来を見据えて 人類は社会高度化の過程で,石炭石油などのエネルギー,鉱物資源や森林・海洋などの自然資源を採集し消費する一方,大量のCO2を含む温室効果ガスや産業廃棄物を排出してきました。こうした人間活動の結果,気温が上昇し気候変動による災害の増加,エネルギー・鉱物資源などの枯渇のおそれ,生態系の変化による自然資源の減少といった状況に世界レベルで直面しています。2015年9月の国連サミットで持続可能な開発目標のSDGsが策定されたことを機に,企業にも環境に配慮した事業活動が求められるようになりました。建設業が担う責務 これに先立ち,当社グループは2013年に「鹿島環境ビジョン:トリプルZero2050」を策定しました。このビジョンが目指すのは,「環境と経済が両立する持続可能な社会」の実現であり,達成すべき将来像を,脱炭素社会(ZeroCarbon),資源循環社会(ZeroWaste),自然共生社会(ZeroImpact)の3本の柱としていました。当社は建設業を生業とするからこそ,このような環境に関する先進的なビジョンを出したのです。 建設業から排出されるCO2排出量は,建設現場での工事だけを見ればそれほど多くの割合を占めてはいません。しかし,建設資材の生産・加工,調達,輸送,さらには完成後の運用・維持・修繕から解体まで,建築物のライフサイクル全体を見渡すと相当な量になります。 建設業は投入資材や廃棄物の発生量も多く,資源枯渇の遠因を生み出すおそれがあるとともに,工事に伴い現地の自然環境に大きな影響を及ぼすことから,環境破壊・汚染への注意を怠らない努力が必要となる産業でもあります。 その建設業のなかでも,特に当社は5,500haの森林を保有管理し,地域環境,広義に考えると地球環境の保全に対する責任を自覚している企業であり,2013年の鹿島環境ビジョンの策定からこの10年間,種々の環境への取組みを進めてきました。10年間の取組み 工事から排出されるCO2排出量は22.0t‐CO2/億円から13.9t-CO2/億円へ,最終処分率は6.9%から3.0%へ,生物多様性優良プロジェクトも1年あたり4件から14件へと,この10年の取組みは着実に成果を積み上げてきました。環境負荷低減に向けたこれらの事業活動は当社の事業成長にもつながっています。風力発電など再生message常務執行役員 環境本部長内田道也05KAJIMA202411

※環境省エコ・ファースト制度https://www.env.go.jp/guide/info/eco-first/ 本年5月に閣議決定された第六次環境基本計画では,目指すべき持続可能な社会の姿を,環境保全とそれを通じた「ウェルビーイング/高い生活の質」が実現できる「循環共生型社会」とし,それに向けて,脱炭素,資源循環,自然再興を始めとする環境政策を統合的に実施し,経済社会の構造的な課題の解決にも結びつけていくこととしています。 環境省では,環境分野において先進的,独自的でかつ波及効果のある事業活動を行う,業界における環境先進企業の約束を,環境大臣が認定する「エコ・ファースト制度」を実施しており,鹿島建設さんが本年認定を受けるなど,これまで94社を認定しています。エコ・ファースト※企業の先進的な取組が他の企業に波及することにより,業界全体持続可能な社会に向けた共進化環境省総合環境政策統括官秦康之はた・やすゆきの環境保全に向けた取組が進展することを期待しています。 環境に配慮した財・サービスが市場に投入されることにより,国民や政府がこれを選択し,それが企業のグリーンイノベーションを促進し,国民の環境意識の向上や効果的な政策の導入につながるといった相互作用(共進化)により,持続可能な社会の実現に取り組んでいきたいと考えております。鹿島建設さん,そして企業の皆様におかれましては,ますますの取組の深化と環境行政へのご理解とご協力をよろしくお願いいたします。06KAJIMA202411可能エネルギーの建設技術サービス,低炭素コンクリートの開発,LCA(ライフサイクルアセスメント)の算定,ZEB設計提案,廃プラスチックの再生利用から,アマモの再生によるブルーカーボンの創出まで,脱炭素,資源循環,そして自然共生のそれぞれの分野において技術開発やノウハウの蓄積を進めてきました。これらは,顧客の環境課題への対応に寄与できるものと考えます。 一方,人の活動が環境に与える影響は,10年前になされた想定以上に拡大しています。地球温暖化は収まる気配がなく,より強力な脱炭素施策が求められるようになっています。資源循環も単に廃棄物を減らすのではなく,採掘済みの資源を効率的に使うサーキュラーエコノミーへの転換が,自然共生も保全から復活/再生に転ずる「ネイチャーポジティブ」として新たな課題となっています。新環境ビジョン「2050plus」の策定 当社は,このような環境に関する新たな時代の要請を踏まえ,今般,環境ビジョンを見直し,「鹿島環境ビジョン2050plus」として今年5月に改定しました。3つの分野「脱炭素」「資源循環」そして自然共生から変更した「自然再興」が相互に関連しあっている(相乗効果・トレードオフ)ことも認識したうえで,グループの目標や行動計画を再構築しています。 脱炭素では,自社排出CO2に加え,サプライチェーン排出CO2の削減を着実に進めるため,2030年までの各種ベンチマークを設定しました。また,自社排出CO2については2050年までの削減ロードマップを策定しました。 資源循環ではサーキュラーエコノミーの考え方を導入し,脱炭素/自然再興へのトレー脱炭素の分野では,CO2排出量を削減するための方策と,ベンチマークの数字を新たに策定。また2026年度に向け,電力グリーン化,バイオ燃料の使用などの取組みを推進する。資源循環ではサーキュラーエコノミーの実現,自然再興ではネイチャーポジティブの考えを導入する(KPIとは,KeyPerformanceIndicator,重要業績評価指標の意)ドオフに配慮しつつ,再利用/再生利用を増加し,天然資源投入量の抑制を目指します。 自然再興では,これまでの保全活動に加えて,より積極的なアプローチとなる,生物多様性の損失を止め,反転させるネイチャーポジティブの考え方を採用しました。当社が考える自然再興とは,環境への悪影響をゼロにするネガティブ低減と,生物多様性を復活/再生するポジティブ増加の取組みの大きく2つとなります。「plus」に込めた思いと次の世代へ 「鹿島環境ビジョン2050plus」の取組みは,過去10年の経験を踏まえ,当社グループだけでは実行が難しいことを認識しています。顧客との協働,またこれまで以上にサプライチェーンと密接にかかわっていくことの意思と,この取組みを2050年の先へとつなげていく永続性を「plus」に込め,当社は新たな環境ビジョンのもと,環境保全と経済活動が両立する持続可能な社会の実現を目指してまいります。今年4月,環境省からエコ・ファースト企業に認定された認定式にて八木哲也環境副大臣(右)と天野社長

CO2排出量内訳Scope1+23%自社排出Scope3サプライチェーン下流Scope3サプライチェーン上流07KAJIMA202411CO2排出における分類 建設工事におけるCO2排出は,主に施工段階で排出される燃料および電力由来のもの(Scope1+2)と,建材製造・輸送時,そして建物運用時に排出されるサプライチェーン排出(Scope3)の,大きく2つに分けられる。 当社においては,施工段階では主に現場を中心に,生産性向上による省エネや,重機の電動化,軽油に代わる次世代型燃料の使用など,自社努力での削減を実施する。 一方でサプライチェーン排出は,関係他社との協働が必要になるため,まずは自社努力が可能な範囲に注力して行っていく。すなわち低炭素建材の開発や,建物運用時のエネルギー消費量のZEB※化の普及拡大に向けた取組みを対象とする。 たとえば製造時にCO2を吸収・固定することでCO2排出量をゼロ以下にできるコンクリート「CO2-SUICOM®」は,グレードを2種類とし(表1参照),従来は舗装ブロックなど特集 鹿島環境ビジョン2050plus――現場の実践の小型のものに限られていた製品を,カーボン低減型の新設により大型ブロック擁壁などの大型製品にまで拡大し,インフラ建設市場に広く展開を可能とした。カーボンの「見える化」 サプライチェーンとの協働によるCO2排出量削減の取組みには,建物の計画・設計段階から運用,解体までの一生を見据えたCO2排出量を予め算定しておくことが重要である。そこで必要とされるのは,顧客にとっても重要な関心事である,建物のライフサイクル全体を通じたCO2排出量の「見える化」だ。全体の排出量を把握しておくことで,各ステージ間をまたぐ踏み込んだ検討が可能になる。 計画時,原材料の調達段階で排出量が「大きすぎる」との予測が立てば材料を変更する,あるいは施工時の排出量の予想から,設計に引き戻してプランを再検討するといった例である。 当社はこれをAIの搭載により自動化で行えるシステムソフトウェア「CarbonFootScope®(以下,CFS)」を,ゴーレム社と共同で開発した。 これにより建築部材のみならず,構成部材が数万点にも及ぶ設備機器のCO2排出量も正確に算定できるようになり,排出量が異なる複数のパターンを短時間でケーススタディし,合理的なCO2削減プランを顧客に提案できるようになる。CO2排出量削減のメニューを具体化し,仔細に検討するための積極的な関与を示すものだ。 次ページでは,この検討をもとに施工が進む「(仮称)錦通桑名町ビル新築工事」を紹介する。本システムの最大の特徴は,建築部材のみならず,各種設備機器のCO2排出量も正確に算定できる点にある。工事見積書などの既存データを取り込むことで,建物を構成する建築部材や設備機器の一つひとつをAIが自動で分類し,所定のCO2排出原単位と紐づける。機械学習には,当社グループが長年の建物ライフサイクル評価で培ってきたノウハウやデータが活用されている※NetZeroEnergyBuilding,快適な室内環境を実現しながら,省エネや再生可能エネルギーの利用などにより,建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物表1当社グループサプライチェーンCO2排出量の概要Scope1+2(施工時/自社施設運用時)の排出量は全体の3%程度で,施工現場を中心に主体的な削減活動を実施する。Scope3(建材製造時や建物運用時)の排出量の削減は,関係他社と協働して行っていくCarbonFootScope建設工事におけるCO2排出※1主要な排出カテゴリ1 購入した製品・サービス ※2主要な排出カテゴリ11 製品の使用〈補足〉海外建設工事においては,施工時CO2のうち協力会社が排出する分はScope3となる名称CO2-SUICOM(P)※2CO2-SUICOM(E)※2グレードCO2固定量の目安※1(kg/m3)100以上100未満カーボンネガティブ型カーボン低減型※1一般的なコンクリートとCO2-SUICOMを比較した際のCO2吸収・固定量を基準※2(P)PREMIUM,(E)ECONOMYCO2排出量削減の取組み3分野のなかから,2050年に向けてカーボンニュートラルを目指す当社の脱炭素の考え方や現在進行中の内容を見ていく。

旧建物の躯体を利用 CFSシステム(7ページ参照)を初めて現場に実運用したうちのひとつが,名古屋駅から1駅,地下鉄伏見駅からほど近い場所で建設が進む「(仮称)錦通桑名町ビル新築工事(名古屋伏見Kフロンティア)」である。 当現場は鹿島スマート生産技術の導入に加え,環境技術を積極的に採用するとともに,設計,調達,施工,更新・修繕段階におけるCO2削減のプロセスを試行するモデル現場として稼働している。08KAJIMA202411 「この9月に地下躯体工事が終わり,地上ではタワークレーンの設置,月末から地上鉄骨の建方が開始されます」と安田利博所長が紹介してくれた。 当現場におけるCO2排出量削減の実施項目のひとつに,旧建物躯体の有効利用がある。もともと敷地には,60年前に建てられたSRC造9階建ての建物があった。これを,地下の躯体ピットと外壁を補強して残置し,地下スラブを土台として新たにビルを新築する計画とした。安田利博所長(左)と新原広宣副所長(右)完成予想パース(南西から見た全体図)RDを使用するフォークリフト(仮称)錦通桑名町ビル新築工事(名古屋伏見Kフロンティア)場所:名古屋市中区発注者:当社開発事業本部設計:当社中部支店建築設計部規模:S造一部SRC造 B1,13F 約25,810m2工期:2023年12月∼2025年10月(予定)(中部支店JV施工)CO2削減プロセスを試行するモデル現場再生可能エネルギー由来の電力で稼働するタワークレーン※「高炉鋼材」は溶鉱炉で鉄鉱石を溶かし,転炉で不純物除去などの成分調整を行った鋼材で,「電炉鋼材」は鉄スクラップを電気炉で溶解し,不純物を除去して再利用した鋼材(仮称)錦通桑名町ビル 新築工事photo:takuyaomuraphoto:takuyaomura

09KAJIMA202411 実施設計段階でCFSシステムを導入し,旧建物の地下躯体を利用して内側に新築地下を計画することで,山留工を削減し,掘削や土留杭などの工事数量を低減させ,CO2排出量の削減につなげた。 設計のみならず,材料選定にあたっては,建材に由来するCO2排出量の削減を見込める低炭素建材を積極的に導入した。鉄骨は通常の高炉で生成された高炉鋼材から電炉鋼材※への一部変更,OAフロア材は金属製から樹脂製への全変更,さらに,CO2排出量の少ない高炉セメントコンクリートは地下躯体,エコクリート®R3とエコクリート®ECMはプレキャスト床版部材などに部分的に採用した。これらにより,基本設計に対してCO2排出量の35%もの削減を実現した。正確な稼働時間の把握 一方,施工面ではどうか。日々稼働する現場における取組みをたずねた。 「ひとつには,スポット作業に使用するラフタークレーンやコンクリートポンプ車の稼働時間を正確に把握することです」と安田所長は説明する。従来の現場では,1日の稼働時間は最大の8時間に固定して,当社が開発した環境データ評価システム「edes®」に入力していた。「現場では日々いろいろなことが起こるため,実際にはフルタイムで稼働していないこともありました。この取組み車体に取り付けられたセンサーGPSトラッカー(赤丸部分)CO2排出量が実質ゼロのRD(右)と,従来の軽油(左)右側にあるのが旧建物の地下躯体。これを利用し,地下構造物を新設高炉セメントコンクリートを採用した地下躯体の床スラブで大事なのは,CO2排出量の正確な値を把握すること。そのために,正確な稼働時間を計上すること。当現場では,それをより細かく計っています」。 計測方法はいたってシンプルだ。新原広宣副所長が車体から取り外したセンサーGPSトラッカーを見せてくれた。「これを運転席のシガーソケットに差し込むだけです。エンジンをかけると同時に電気が流れるので,オンオフされた時間を記録してくれるんですね。複数の機械の稼働時間がこれで追いかけられます」。 記録データは,当社システム上にある「フィールドブラウザー®」で管理されている。「業務中は,計測時間を気にすることは正直あまりないですが,毎月,環境本部から送られる稼働データを確認することで,削減効果を実感でき,より意識が高まっています」(安田所長)。時代の宿命 このほかにも当現場では,環境に配慮した取組みを積極的に進めている。タワークレーンは一般商用電力からの再生可能エネルギー由来の電力へ切り替え,重機の燃料の一部に使用する軽油は廃食油などを原料として製造される次世代型バイオ燃料のリニューアブルディーゼル(RD)※だ。従来の軽油と比べて100%のCO2削減が見込まれる。また,資源循環の一環として近く現場の職長会を中心に廃食油の回収を始める予定だ。 「やってみないことには結果はわかりません。脱炭素と資源循環への取組みは,これからどの現場でも時代の宿命として必要になります。当現場も,できることを採用してひとつずつ実行しています」(安田所長)。 環境配慮型の材料や燃料はコストが嵩むが,世の中に普及していくことで解消されるという期待もある。「エコクリート®ECMにしても,供給するプラントはまだ限られています。また,限られた予算では削減メニューの採用自体が難しい場合もあります。こうした取組みは,製造側や利用側がともに情報交換しあい,長い時間をかけてでも一般に普及できる形にして,建設業界,ひいては世の中全体で取り組んでいくことで回りやすくなっていく。普及につなげていけるよう,模範となるべく取り組んでいきたいです」。※低炭素燃料については,廃食油を原料として製造した従来型バイオディーゼル燃料(CO2削減100%)である「バイオディーゼル燃料(B100)」と,食料競合のない廃食油や廃動植物油などの原料から,水素化精製プロセスを経て製造する次世代型バイオ燃料(CO2削減100%)である「リニューアブルディーゼル燃料(RD)」がある特集 鹿島環境ビジョン2050plus――現場の実践photo:takuyaomuraphoto:takuyaomuraphoto:takuyaomura

10KAJIMA202411シールドトンネルを掘り進める計画だ。2021年11月に掘進を開始し,すでに1.7kmの下り線トンネルの掘進を終え,回転立坑で半年かけてUターンを行ったシールドマシンは,今年1月から上り線1.7kmのシールド掘進に入っている。 「順調にいけば,来年秋頃までには発進到達立坑にマシンが戻ってくるスケジュールです」と話す新川健二所長。外径15mものトンネル掘削作業では,1日に約3,000m3掘削土砂の積込みに低炭素燃料を使用 首都圏中央連絡自動車道の一部となる横浜環状南線(片側3車線・総延長8.9km)公田IC(仮称)∼栄IC(仮称)間におけるシールドトンネル工事「公田笠間トンネル工事」。この大規模土木現場が率先して低炭素燃料の使用に取り組んでいる。 本工事は横浜市栄区を東西に流れるいたち川付近に構築された発進到達立坑を起点に,上下線2本合わせて計3.4kmの公田笠間トンネル工事場所:横浜市栄区発注者:東日本高速道路関東支社設計:日本シビックコンサルタント,中央復建コンサルタンツ規模:シールドトンネル工:覆工外径∅15.00m 覆工内径∅14.19m覆工延長:3,448m 掘削土量:630,700m3立坑構造物工(発進到達):地盤改良31,500m3 掘削工16,900m3 構築工8,700m3立坑構造物工(回転):掘削工40,700m3 構築工11,900m3立坑構造物工(換気所):掘削工49,100m3 構築工11,900m3など工期:2016年4月∼2028年10月(予定)(東京土木支店JV施工)大規模土木現場がけん引するCO2削減の取組み公田笠間トンネル工事土砂ピットにおける掘削土砂の積込み回転立坑(シールド機引き抜き回転)下り線シールド坑内

証中です。また現場では最近,他の建設現場からの使用済みプラスチック梱包材を原料とした,リサイクル土のう袋の使用を開始しました。大規模工事を進める当現場の責務として,環境に配慮した工事を率先して行っていく。重機にRD燃料のステッカーを貼るなどして積極的にアピールしています。発注者からは優良事例としての評価もいただいています」(新川所長)。11KAJIMA202411特集 鹿島環境ビジョン2050plus――現場の実践廃タイルカーペットの水平リサイクル協働体制で築くサーキュラーエコノミー地域と協働した地産地消 Columnもの掘削土が出る。それを,延べ500台近いダンプカーで運び出しているという。 「ダンプに土を積む大型バックホウが10台ほど毎日フル稼働しています。今秋から掘削作業が本格化するので,このうち7台にB5(軽油)を計16万Lほど使う予定です」。重機への新燃料の使用は問題がないことを検証済みだ。「万が一,燃料が原因で重機が故障し工事が止まることがあってはならないので,新しい燃料を採用する際は慎重に進めています。この半年ほど1台の大型バックホウでB5(軽油)の使用を検証した結果,問題ありませんでした」。 0.7m3のバックホウは1日でおよそ120Lの軽油を消費し,16万LのB5(軽油)で延べ約1,300台のバックホウを動かすことができる。また,B5(軽油)はカーボンフリーなバイオ燃料を5%含んでおり,16万LのCO2削減効果は約20t-CO2,これは林野庁によると,スギ約1,400本が1年間に吸収するCO2量に相当する。大規模現場としての責務 「このほかにも,ミニバックホウにRD燃料を採用したり,並行して性能の良いエンジンオイルを使って燃費効率を上げることも検従来の代替品としてリサイクル土のう袋を適用恵比寿ガーデンプレイス(東京都渋谷区・目黒区)に設置された再生タイルカーペットB100の燃料タンク下り線シールド掘進(1.7km)▶発進到達立坑回転立坑いたち川沖積層泥岩層至栄IC・JCT(仮称)至利谷JCT38m20m◀上り線シールド掘進(1.7km) 当社の現場のみならず,サプライチェーンとの協働体制によるCO2排出量削減の取組み。今般,サッポロ不動産開発,鹿島,スミノエ,リファインバースグループの4社は,使用済みの廃タイルカーペットを原料とし,再び同じも 現在京都市で建設が進む「龍谷大学深草キャンパス施設整備計画」の発注者である龍谷大学は,「ゼロカーボンユニバーシティ」の実現を掲げ,関連部署をを学内に設けている。 当社施工による現場では,発注者ののを製造する水平リサイクルの体制を構築した。 これまで,テナントの入退去時に多く交換される床材の廃タイルカーペットは,その二層構造ゆえに混合廃棄物として中間処理施設に搬出され,多くがそのまま埋め立て処分される課題があった。これを,他の建設廃棄物と混合させずに専用台車で回収し,リサイクル施設へ直接搬出するシステムを構築。結果,昨年度は約29t(床面積6,666m2相当)の廃タイルカーペットを回収・再素材化し,製造に必要な約20tのバージン素材の使用削減に貢献した。協力を得て,敷地内に軽油代替燃料となるバイオディーゼル100(以下B100)の燃料タンクを設置し,重機による掘削に使用している。タンクはB100の少量配達・購入ができない当地域で,ローリー車1台分の大量貯蔵を実施するもの。燃料は大学の学生食堂を含む近隣施設から回収した使用済み食用油を原材料として製造する,地元の燃料販売会社から購入している。地域と協働したサーキュラーエコノミーが実現した。新川健二所長発進到達立坑から下り線1.7km,回転立坑で折り返し,上り線1.7kmのシールドトンネルを構築する公田笠間トンネル工事・シールドトンネル縦断図photo:takuyaomura

12KAJIMA202411海のゆりかご「アマモ」 近年,CO2吸収源の担い手として注目を集めるブルーカーボン。沿岸の海藻・海草などが大気中のCO2を光合成により吸収することで,生長,枯死の過程で海洋生態系内に貯留される炭素を指す。海底に貯留(固定)されるCO2は年間約2億tと推定されており,全国で消失が進む海藻草類を保全・再生する動きが活発化している。 なかでも,「海のゆりかご」と呼ばれるアマモはその代表格である。エビやイカ,小魚などの棲みかや卵を産みつける場所として機能するばかりでなく,波の流れを穏やかにし,水質浄化,さらにCO2を吸収して酸素をつくり出す,地球上になくてはならない存在だ。 当社は2002年から,技術研究所の葉山水域環境実験場(神奈川県三浦郡葉山町)の山木克則上席研究員らが,地域固有のアマモの遺伝子を保全しながら,トータルな藻場再生手法を確立する専門的な研究を行ってきた。種子の発芽促進技術や苗の移植基盤などを開発し,定着率を高める技術を適用させ,海洋条件の異なる各地の再生活動に貢献。最近では,東日本大震災の被害などにより藻場(アマモおよびタチアマモ)の減少が認められる,宮城県南三陸町が推進する「いのちめぐるまちプロジェクト」において,藻場再生の共同研究を開始した。 また,当社がメンバーの一員として参画する「葉山アマモ協議会」の藻場再生活動では,ワカメ,カジメ,ヒジキの3種の海藻類で49.7t-CO2/年(スギの木3,500本分に相当)のJブルークレジット®※を2023年度に取得した。20年以上にわたる高校生の取組み こうした当社の研究活動が全国のアマモ場再生の取組みをつないでいる。 海と山に囲まれた地形に位置する熊本県立芦北高等学校は,2003年よりアマモ場再生に取り組んでおり,その独創性に富んだ活動は全国に知られている。 「活動のきっかけは22年前,地元の漁師と親しくしていた当校教諭が,『最近漁獲量が減ってきたのはアマモが減少しているからではないか』と相談を受けたことに始まります」。 こう話すのは,活動初年度から携わり,現在同校のアマモ場再生研究班を束ねる林業科の前島和也教諭だ。「昭和50年代には,約13haの広大なアマモ場があったそうです。沿岸海域の開発やみかん畑の開墾,林業の衰退で土砂が海に流れやすくなったことなどがアマモ場衰退の要因として考えられています」。 まずは文献に載っていたさまざまな再生方法を試すところからスタートした。「技術が乏しいうえに,芦北町熊本熊県八代計石湾北高校のアマモ場再生海域2019年,計石湾のアマモ場(写真提供:芦北高校)グリーンカーボンとブルーカーボンのCO2循環図CO2排出量96億t/年のうち,陸域で21,海域で28が吸収されるが,残り52が大気中に残存する 出典:KuwaeandCrooks(2021)を改変https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/21664250.2021.1935581アマモ場再生とブルーカーボン――熊本県・芦北高校と当社の取組み本特集の最後は長年自分たちの力で「海のゆりかご」アマモ場の再生に取り組んできた,熊本県立芦北高等学校の活動を紹介する。当社の葉山水域環境実験場の研究活動が縁を結び,2023年から当社も活動に協力している。※プロジェクトの実施実績に基づき,ジャパンブル一エコノミ一技術研究組合が第三者委員会による審査を経て,認証・発行・管理するクレジット

13KAJIMA202411授業の一環で労力や時間も限られており,当初はなかなか思うような成果が出ませんでした」。30倍のアマモ場再生と豪雨災害 生徒たちの活動は先輩から後輩へと代々受け継がれ,その間アマモの移植などの試行錯誤を繰り返した。その中で,林業技術を応用した「ロープ式下種更新法」というアマモの種を効率よく散布する芦北高校独自の方法を2011年に考案。「アマモの花枝(種をつけた草体)を6月に採取し,束ねたものをロープに2m間隔で取りつけ,海域に設置します。そして波による自然の力に任せて種子を散布します」。この活動により当初0.25haだったアマモ場は,2020年6月までに7.5haと30倍に拡大。アマモ場の付近ではカニやヒラメなどが獲れるようになり,イカの卵も産みつけられたという。 しかし2020年7月に発生した「熊本県豪雨災害」により,アマモ場は壊滅的な被害を受けてしまう。「1時間に100ミリを超す降水量で,当校も1階がすべて浸水し,2週間休校となりました。10月にやっと芦北湾を訪れると,多くの土砂や流木,災害ゴミが流れ込み,アマモ場は土砂で埋まっていました。大きなショックを受けましたが,救いだったのは,約2haのアマモが堤防によって守られ,生存していたことです」。 このことをきっかけに,「アマモ場を再生させないと」と強く感じた生徒たちは,山から流れ込んだ土砂を用い,水槽内でアマモの苗栽培にチャレンジする。土砂には,アマモが育つ栄養があるに違いないと考えたのだ。 「『森から海を見つめ,海から森を見つめる』というテーマのもとに活動してきましたが,ピンチをチャンスに変える発想に,私も感動しました。豊かな森は豊かな川や海を育み,今度は逆に,海から森を評価する。森も海も一体としてつながっているんだと,生徒たちが気づいていてくれたことが嬉しかったですね」。温暖化の影響も心配事 豪雨災害からの再起を図るが,この2,3年は毎年の猛暑,さらに今夏は雨がまったく降らず,アマモが夏を乗り切れない状態が続いている。「今年は7月から9月にかけて海水の温度がずっと30度ほどで,この深刻な温度上昇がアマモの衰退に影響しています」。 そうしたなかで昨年,肥後銀行と「肥後の水とみどりの愛護基金」から,当社の葉山水域環境実験場の技術支援を紹介される。「昨年12月に当校で山木さんに出前授業をしていただきました。アマモのプロフェッショナルである山木さんのご指導ご助言や,これまで積み重ねてきた仮説や長年の疑問に応えてもらい,『これでいいんだ』と活動を続ける自信になっています」。 別の場所に自生する新たなアマモも見つかった。「小さい『コアマモ』です。通常のアマモよりも暑さに強いということで,研究を開始しました」。 並行してブルーカーボンに関する取組みにも力を入れる。「海草のなかでも,とくにアマモがCO2を蓄えやすいということや,クレジットの仕組みな特集 鹿島環境ビジョン2050plus――現場の実践アオリイカが産卵したアマモ場「いのちめぐるまちプロジェクト」による南三陸でのアマモ種苗生産熊本県立芦北高等学校前島和也教諭山木上席研究員による出前授業技術研究所 山木克則上席研究員「ロープ式下種更新法」によるアマモ植えつけのようすアマモに産みつけられたコウイカの卵。アマモはイネ科,海草(うみくさ)の一種。陸と海を行き来した進化を辿り,ワカメやコンブとは異なる。育成には農学や林学の育種技術が活かされるど,山木さんのレクチャーを生徒たちも熱心に受けていました。クレジットを取得できたら,私たちの活動を広く知ってもらい,この芦北地域,漁協さん,そしてアマモに直接還元できるような地域貢献の循環をつくり,より良い取組みにしていきたいです」(前島教諭)。 波に揺らぐアマモの穂先に豊かな未来が実っている。 芦北高校さんのアマモの活動は以前から注目していました。豪雨災害でアマモ場の大部分が消失してしまった後,陸から流入した栄養分が豊富な土砂でアマモを栽培するという,林業科ならではの発想にも感心しました。 今回,「肥後の水とみどりの愛護基金」様を通じ,芦北高校さんで海の授業をさせていただきました。前島先生は,野球部監督の熱血先生で,生徒さんと汗だくになって現地調査を行う姿に,アマモを通じた環境教育への強い情熱を感じました。 20年以上継続している芦北高校のアマモの活動を熊本県初のブルーカーボンクレジット認定につなげられればと,現地調査を行った際に,ドローン画像を用いたアマモ場面積の算出,アマモの成分分析などのクレジット認定に必要な項目の実践的な実習を行いました。ブルーカーボンクレジットには,活動の持続性に加え,生物多様性の向上や漁業,経済の活性化もあると考えています。また,温暖化でアマモが育ちにくい環境は神奈川県の地域も同じ悩みです。これを機会に,情報共有,連携をしながらアマモ場の保全に努めたいです。30倍に拡大した2020年6月のアマモ場(写真提供:芦北高校)アマモを通じた環境教育への情熱