﹁音楽プロデューサー・ベーシストの亀田誠治です﹂。いつもこう自己紹介している。実のところ﹁音楽プロデューサー﹂だけでも違うし﹁ベーシスト﹂だけでも違うのだ。 ﹁亀田さんは、プロデューサーとしてアーティストの作品に関わる時と、ベーシストとして演奏する時、どう自分を使い分けますか?﹂と質問されることがある。答えは一つだ。﹁目の前で鳴っている音楽に自分が持っている経験やスキルを惜しみなく注ぎ込むという意味で、プロデューサー亀田誠治も、ベーシスト亀田誠治も同じです。どんな時も全カメダを投入!するだけです﹂と。僕は音楽を作ることと音楽を奏でることの両翼で飛んでいて、そのどちらが欠けてもうまく飛べない。 また﹁一体亀田誠治さんは何人いるんですか?﹂なんて聞かれることもある。バンドやソロアーティストのプロデュースはもちろん、最近ではミュージカル音楽から映画音楽まで手がけ、ラジオやテレビで音楽の魅力を語り、その一方でイベントプロデュースやコラムの執筆までやっている。一見バラエティに富んでいるように見えるが、実は全部﹁音楽﹂というキーワードで繋がっている。いつだってどこでだって﹁全カメダを投入!﹂し、音楽を通して人々に感動と笑顔の波動を広げていくのだ。 投入するということは、惜しみなく与えるということだ。こうなってくると、僕が何を作ったかということよりも、何が僕を作っているのかが知りたくなってくる。 子供の頃リビングルームに転がっていたモーツァルトのレコード。小児喘息で学校を休みがちだった頃に出会ったラジオから流れてきた音楽、現実に馴染めなくて読み耽った太宰治、授業に出ずにベースの練習ばかりしていた僕を明るく迎えてくれた大学のクラスメイト⋮⋮。今思えば、多感な10代の頃に触れたポジとネガの全てが僕という人間を作っている。考えたものより﹁好きなもの﹂が断然強い。そして僕は好きな音楽を選んだ。 2019年から﹁日比谷音楽祭﹂という親子孫三世代が楽しめるボーダーレスなフリーイベントの実行委員長を務めている。トップアーティストのライブから、楽器体験、ワークショップ、美味しいフードまで、初夏の日比谷公園に集まる人は思い思いのカタチで音楽を楽しんでいる。僕は﹁感動体験﹂と﹁好き﹂が豊かな人間性を作ると信じている。だからみんなが音楽を﹁好き﹂になり、そして自分が﹁好き﹂になる、そんな生きやすい社会になるきっかけを作っていきたい。30KAJIMA202412かめだ・せいじ 1964年ニューヨーク生まれ、音楽プロデューサー・ベーシスト。椎名林檎、スピッツ、平井堅、GLAY、いきものがかり、石川さゆり、JUJU、アイナ・ジ・エンド、FANTASTICSなど数多くのプロデュース、アレンジを手がける。2004年に椎名林檎らと東京事変を結成。07年、15年日本レコード大賞編曲賞、21年日本アカデミー賞優秀音楽賞、24年第19回渡辺晋賞を受賞。その他、舞台音楽や、22年夏には、ブロードウェイミュージカル「ジャニス」の日本公演総合プロデューサーを担当。19年より開催している「日比谷音楽祭」実行委員長。vol.240