次世代につなぐ高速道路リニューアル04KAJIMA202503重要な社会基盤として私たちの生活を支える高速道路。そのほとんどは高度経済成長期につくられており,半世紀が経過した現在,劣化・老朽化が進み,大規模なリニューアル工事への対応が喫緊の課題となっている。今回は,高速道路リニューアル工事の床版更新に関して,当社が開発した3つの技術を,実工事への適用事例とともに紹介する。REBORN特集広島自動車道伴高架橋(広島市安佐南区)の床版取替工事の様子

05KAJIMA202503N 喫緊の課題 高速道路の大規模な更新・修繕は喫緊の課題となっています。私が委員長を務める「高速道路資産の長期保全及び更新のあり方に関する技術検討委員会」(以下「委員会」)は2012年11月に開始され,奇しくもその約1ヵ月後に「中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故」が発生しました。高速道路の老朽化への問題意識が高まってきた最中の出来事でした。 事故を踏まえた委員会での議論や,道路整備特別措置法に基づく国土交通大臣の許可を経て,2014年から「高速道路リニューアルプロジェクト」が始まりました。このプロジェクトは東・中・西日本高速道路3社などによる15年計画の大規模更新・修繕事業で,道路橋の長寿命化や変状箇所の修繕などが行われてきました。多くの床版更新工事 本プロジェクトが始まって10年が経過し,改めて振り返ってみると,想定していたよりも床版更新の必要性が大きく,予算としても全体(約4兆円)の約5割を占めています。それゆえ床版更新工事を視察することも多く,「SDRシステム」が適用された関越自動車道阿能川橋の床版取替工事(8ページ)や,「UHPFRC」が適用された長野自動車道岡谷高架橋の床版打替工事(13ページ)など,鹿島さんが技術開発・施工に関わった現場もご案内いただきました。工程短縮や安全性といった面で,今後の床版更新における工法として可能性を感じています。今後の課題と新たな技術への期待 少子高齢化や人口減少が加速するなかで,早急にリニューアル工事を進める必要があり,委員会では2030年度以降の新たな更新計画を検討しています。 また,高速道路だけではなく,道路インフラ全般について考えると,料金収入のない国道や地方道を更新する際,どうやって工事費を捻出するのかという大きな課題もあります。例えば,道路に過度な負荷をかける車両に対して通行料を課すなど,現実的に維持・管理できる仕組みや料金体系と併せて工事の方針を考える必要があると思います。また,海外では日本がODA(政府開発援助)で建設した道路橋の劣化・老朽化も進んでいます。過去に建設した道路橋を責任を持って更新していくなかで,自然と新たな技術が生まれてくるのではないでしょうか。近年では,ロボットによる工事の無人化やレーザーによる路面の調査など,最新技術の適用も検討されています。 従来の道路橋の新設工事では各工程・工種の受注者が明確に分かれていますが,リニューアル工事では技術開発も含めてゼネコンが全体を取りまとめて進めていくことに期待したいです。城西大学理事長兼学長 藤野陽三これからの高速道路橋梁研究の第一人者である藤野陽三氏に,高速道路リニューアル工事の課題や展望についてお話を伺った。Messageふじの・ようぞう1972年 東京大学工学部土木工学科卒業1982年 東京大学工学部助教授1990年 同教授2013年 東京大学名誉教授(現在に至る)2014年 横浜国立大学上席特別教授(現在に至る)2020年 城西大学学長,横浜国立大学名誉教授(現在に至る)2023年 学校法人城西大学理事長    なお,現在(公財)鹿島学術振興財団選考委員長を務める受賞・受章歴2007年 紫綬褒章2019年 日本学士院賞 他多数

06KAJIMA202503 「スマート床版更新(SDR)システム®」は,施工機械を移動させながら床版取替に関わる一連の工程を連続して行う「移動式工場」を実現した施工システム。 4つの工程をそれぞれの作業班が移動しながら連続して行うことにより,床版取替期間の大幅な短縮が可能となる。全断面取替,幅員方向分割取替(下記「Keyword」参照)のどちらにも適用可能。高速:大型クレーンを1台使用する標準的な施工方法と比べ,撤去から架設までの工程を全断面取替では83%,幅員方向分割取替では90%短縮できる(数値は実証実験より)[A]安全:床版撤去機・架設機の門型フレームの内部を運搬車両が通過できるため,床版の旋回を伴う揚重作業が不要となる[B]軽量:床版撤去機・架設機が軽量のため(作用荷重:約5t),大型クレーン(約60t)を使用する標準工法と比べ,鋼桁に与える発生応力を1/2~1/3に低減できる[C] 「全断面取替」は2車線規制で行うため,反対方面の2車線に対面通行で上り線・下り線を通す。一方,「幅員方向分割取替」は1車線規制で行うため,反対方面の2車線を規制する必要がなく,交通規制によるソーシャルロスを低減できる。SDRシステム概念図(幅員方向分割取替の場合)①床版縁切り・撤去撤去可能な大きさに切断した既設床版上に,新たに開発した床版撤去機から吊り下げた剥離装置をセットして鋼桁から床版を引きはがし,場外に搬出②主桁ケレン鋼桁上フランジのケレン作業(汚れや落とし)を行い,防材を塗布。新たに開発したR面取りロボットやケレンロボットを適用することで技能者の負担を軽減③高さ調整床版の高さを調整するための硬質ゴムと,床版下の無収縮モルタルの漏れ止めとなるソールスポンジを設置④床版搬入・架設新設床版を載せた床版運搬台車を架設位置まで移動。床版架設機で新設床版を吊り上げ,90度回転して架設位置まで前進して,床版を降下・設置SDRシステム標準的な施工方法SDRシステム標準的な施工方法床版架設機の移動範囲床版撤去機床版架設機大型クレーン大型トラッククレーンの旋回範囲対面通行規制全断面取替幅員方向分割取替2車線規制規制なし1車線規制A:標準的な施工方法との施工枚数の比較(幅員方向分割取替)B:架設作業範囲の比較C:施工機械の鋼桁に対する作用荷重の比較全断面取替と幅員方向分割取替の違い1つめの開発技術は,床版取替工事の工程を短縮し,交通規制などによるソーシャルロスを大幅に低減するSDRシステム。当社土木管理本部,機械部,技術研究所,土木設計本部,各支店の現場やカジマメカトロエンジニアリング,カジマ・リノベイトなどのグループ会社も連携して開発した本システムを,開発者や現場の声とともに紹介する。特長「移動式工場」で床版取替を行うシステム高速・安全・軽量全断面と幅員方向分割KeywordSmartDeckRenewalUltraHighPerformanceFiberReinforcedcement-basedCompositesUltra-highstrengthFiberreinforcedConcrete

サイトプレキャスト工場Keyword07KAJIMA202503特集 REBORN次世代につなぐ高速道路リニューアル①交通振動対応仮設プレート型継手 片側を車両が走行するなかで床版取替を行うため,交通開放側の床版(一次床版)と規制側の床版(二次床版)の接合部に充填する間ま詰づめ材の硬化中に一次床版と二次床版がずれるように振動して,ひび割れが生じてしまう。そこで,2枚のプレートとPC鋼棒によって一次床版と二次床版を仮接合し,両者が連動して振動する工法を開発。②ワンタッチ型SB種防護柵 1車線規制下の床版取替では,片側を走行する車両の誤進入を防ぐ必要がある。また,幅員も限られているため,幅30cmという最小限の占有でSB種※の性能を担保し,ワンタッチで設置・撤去可能な防護柵を開発。③車載運搬型床版撤去機・架設機 片側を走行する車両への安全性を考慮し,大型クレーンを使わずに高速(約1時間)で組立・解体が可能な撤去機・架設機を開発。10tトラックと15tトレーラーで運搬したフレームを現場で組み立て,解体時にも容易に搬出することが可能だ。 首都圏における駅の地下化工事や高速道路のトンネル工事などの都市土木工事で技術開発・現場施工を担当した経験から,2017年よりSDRシステムの開発に参加しました。機械部としてSDRシステムで使用する施工機械の計画・設計・製作・検証や,現場施工時のフォローを担当しています。全断面取替,幅員方向分割取替という2種類の取替方法に適用する仕様で,床版撤去機,床版架設機,床版運搬台車,床版移載リフターを製作し,交通 SDRシステムの開発と併せて,現場近傍にPC床版を製作するプレキャスト工場を設置する仕組みを考案し,JIS認証(JISA5373)を取得。これにより,①床版運搬費や運搬に伴うCO2排出量の削減,②床版の大型化による一層の工程短縮,および③地元企業との協業による地域経済への貢献が可能となる。都市土木工事での経験を活かした機械開発Voice技術幅員方向分割取替の主要技術 幅員方向分割取替は,1車線規制で行うため更なるソーシャルロスの低減につながるが,特有の課題も存在する。これらの課題に対応するための開発技術を紹介する。※SB種:設計速度80km/h以上の重大な被害が発生するおそれのある区間に用いられる車両用防護柵振動対応仮設プレート型継手などの開発にも関わりました。 また,施工性を検証するために,阿能川橋(8ページ)や伴とも高架橋(9ページ)の道路勾配や傾斜を再現し,そこで施工機械の組立・解体や床版の撤去・架設などの実証実験を行い,現場からの要望も反映しながら開発を進めていきました。コロナ禍の半導体不足で電気部品の納期が大幅に遅れる問題も,海外製品で代用することで完成にこぎつけました。 今後は,現場適用で得られた知見を踏まえ,安定した工程短縮効果と安全施工が得られるよう,SDRシステムの改良と床版取替の更なる生産性の向上を目指して,機械化・自動化の技術開発を進めてまいります。実証実験の様子サイトプレキャスト工場の概念図機械部三室恵史次長一次床版と二次床版を仮接合して両者を連動させる交通振動対応仮設プレート型継手幅わずか30cmの防護柵で車両の誤進入を防ぐワンタッチ型SB種防護柵車載運搬型床版架設機の組立フロー。大型クレーンを使わずに作業が可能

08KAJIMA202503最大規模の全断面取替 全断面取替のSDRシステムが適用された阿能川橋(群馬県利根郡みなかみ町)は,関越自動車道の谷川岳PAに隣接したトラス橋と鈑桁橋。凍結防止剤による塩害などにより床版劣化が進んでおり,床版取替工事を実施することになった。工事は作業抑制期間※1を避ける必要があり,阿能川橋を構成する3つの橋に対してI∼III期に分けて床版取替工事を行った。施工延長が628mと長く,II期施工の276mは1回の交通規制期間で実施する床版取替として,国内最大規模となる。実験・工事を重ねてシステムを成熟化 本現場では,2017年にSDRシステムの開発が始まり,発注者への技術提案を経て2019年にECI方式※2で技術協力業務を,続いて2021年に本工事を受注。2023年より床版取替工事が始まった。当時,現場所長を務めた宇津木一弘担当部長(現,関東支店土木部)は,「実証実験ではSDRシステムの4つの工程が問題なく実施できることを確認できたが,既設床版の劣化状態まで再現するのは難しかった」と開発の過程を振り返る。Ⅰ期施工の際に,床版鉄筋切断不良への対応や撤去床版のハツリがらの処分,主桁上の添接板への束材※3の設置に想定以上の時間がかかった。それを踏まえⅡ期施工以降では,束材の設置を省略,ハツリがらの処理方法を変更し,計画通りの床版取替を達成した。工程管理の徹底と安全性の両立 SDRシステムでは主な4つの工程をそれぞれの作業班が同時に施工するため,最盛期は約200名の技能者が本工事に関わっていた。そのため,工種ごとに進捗管理を行う担当職員を決めて,工種間で連携し,資機材搬出入のタイミングを調整したという。鹿島グループで体制を構築 本工事は当社初の工法による床版取替工事のため,鹿島グループのバリューチェーンを活かして体制を構築した。カジマ・リノベイトが既設床版撤去,主桁ケレン,高さ調整を,カジマメカトロエンジニアリングが機械の組立・解体,新設床版架設を,鹿島道路が既設舗装撤去,新設床版の防水工から高機能舗装,交通規制工をそれぞれ担当した。 現在,阿能川橋の床版取替はIII期施工が完了。今年のGW明けからは関越自動車道土樽橋の幅員方向分割での床版取替が始まる予定だ。関東支店土木部宇津木一弘担当部長関越自動車道阿能川橋の床版取替順序図※1一般的に,交通規制の必要な高速道路工事は,繁忙期であるGW期間(4月末∼5月初旬),夏期(8月中旬),年末年始(12月末∼1月初旬)を避けて行う※2建設工事の発注方式の1つ。設計段階から施工者が関与して,技術協力や設計業務を行う。EarlyContractorInvolvementの略※3新設床版に荷重を作用させないために用いる仮設部材関越自動車道阿能川橋での床版取替(Ⅱ期施工)2車線分の床版を架設する【工事概要】関越自動車道阿能川橋床版取替工事場所:群馬県利根郡みなかみ町∼新潟県南魚沼郡湯沢町発注者:東日本高速道路規模:阿能川橋―(上り線)628m (下り線)648m土樽橋―(上り線)426m (下り線)375m工期:2021年4月∼2027年2月(関東支店JV施工)関越自動車道阿能川橋最大規模の全断面取替主桁ケレン高さ調整床版搬入・架設床版縁切り・撤去photo:takuyaomuraphoto:takuyaomura

09KAJIMA202503特集 REBORN次世代につなぐ高速道路リニューアル幅員方向分割取替で渋滞を回避 広島自動車道の広島西風新都IC∼広島JCT間に位置する奥畑川橋と伴高架橋(いずれも広島市安佐南区)は,開通から約40年が経過して床版の劣化が進んでおり,床版取替工事が行われることとなった。奥畑川橋では全断面取替を採用し,上り線2車線を規制して施工。一方,伴高架橋は広島JCT付近で交通規制による渋滞が予想されるため,幅員方向分割取替を採用し,上り線を1車線ずつ規制して施工した。1車線規制ゆえの課題を事前に解決 幅員方向分割取替は,狭い幅員のなかで1車線ずつ施工するため,床版の高さ調整や分割床版接合部の設置精度など,全断面取替以上に先行施工が後施工に与える影響が大きい。そこで,現場での施工に先立って実証実験を行った。梶谷誠所長は,「伴高架橋の道路勾配・幅員を再現して各工程を確認し,事前に課題を解決したことで,実際の現場施工では当初想定以上の進捗と安全な施工ができました」と語る。第三者への安全確保 本工事は両隣の車線を一般車が走行する狭隘なエリアでの施工となるため,工事車両進入導線の確保や施工箇所の防護対策など,一般車への安全も確保した。 また,伴高架橋は,交通量の多い県道・市道や鉄道の上空と交差しており,近隣にはスーパーなどの商業施設や住宅も多い。そのため,橋梁下の防護対策として安全で作業量の少ない「吊足場工法」を採用。側面を特殊なパネルで保護し,足場作業床に特殊な防水シートを設置するなど,施工中の飛散や落下物防止を徹底した。施工を重ねて更なる工程短縮 本工事では,2車線を分割施工(I期:追越車線,II期:走行車線)としたため,I期施工を踏まえ,工法を改良してII期施工に臨んだ。I期施工ではレールを敷設後に,撤去機1台,架設機1台,リフター1台を用いて施工していたが,II期施工ではレールを敷く工程を省略し,1台で床版の撤去・架設ができる仕様に機械を改良。更なる工程短縮を実現した。「異なる条件の工事を重ねる度に,より洗練されて汎用性のあるSDRシステムになってきています」(梶谷所長)。 現在,当社では数値情報を入力すると床版の3Dモデルを自動生成するシステムを開発しており,SDRシステムとの連携も検討中である。より一層の生産性向上が期待できる。伴高架橋梶谷誠所長床版取替工事の全景。すぐ横を一般車両が通行する1車線ずつ新設床版を架設する【工事概要】広島自動車道(特定更新等)伴高架橋(上り線)他1橋床版取替工事場所:広島市安佐南区発注者:西日本高速道路規模:伴高架橋─(上り線)122m 奥畑川橋─(上り線)214m工期:2022年11月∼2025年6月(中国支店施工)広島自動車道伴高架橋幅員方向分割取替で大幅な工程短縮広島自動車道伴高架橋での床版取替(Ⅰ期施工)架設機広島高速交通広島新交通1号線撤去機県道71号(広島湯来線)リフター運搬台車

10KAJIMA202503 UFC(超高強度繊維補強コンクリート)は,150N/mm2以上と通常の3~5倍の圧縮強度をもつ鋼繊維補強コンクリート。当社開発のUFCである「サクセム®」※1で製造されたUFC床版は,橋軸方向と直角方向の2方向に高いレベルのプレストレス(あらかじめ加える圧縮応力)を導入。従来のPC床版と比較し,薄肉ゆえに床版取替に伴う道路面の高さ調整が不要で,軽量なため床版取替時の仮補強や鋼桁補強の最小化が可能。 この床版を用いた工法では,床版同士を固定する際に高強度のVFC※を間詰材に用いることで,UFC床版と目地の連続性が確保される。また,直角方向のみならず橋軸方向にもプレストレスをかけることで,ひび割れが生じにくい高耐久な床版が実 2010年に羽田空港D滑走路(東京都大田区)でUFC床版を適用した経験を踏まえ,2011年に阪神高速道路の公募型共同研究に応募し,軽量で高耐久な道路橋床版を目指してUFC床版を共同開発してきました。 私は,過去に高性能コンクリートの構造性能・実適用に関する研究開発やPC橋の設計・施工も担当しました。これらの経験を踏まえて,今回はUFC床版を使った輪荷重走行試験や部材実験で構造性能を検証し,実適用では構造2つめの開発技術は,従来の床版取替工事において現行の設計基準を満たすために床版が厚く重くなることで課題となっていた「道路面の高さ調整」が不要となり,「鋼桁補強」が最小化できるUFC道路橋床版。その特長や,阪神高速道路との共同開発のプロセスを紹介する。特長薄肉で軽量な床版工程の短縮と幅員の確保阪神高速道路との共同開発 一般的な床版取替工事では「平板型UFC床版」が使用され,軟弱地盤上の新設橋など鋼床版に近い軽さが求められる工事では「ワッフル型UFC床版」が使用される。「UFC道路橋床版」は,土木学会技術評価を受けており,NETIS※2にも登録されている。現できる。幅員方向分割取替の場合でも縦目地の間詰材にVFCを用いてプレストレスを導入することで目地幅を小さくし,車両が通行で設計にも関わりました。 検討会で先生方にご指導いただきながら共同開発を進め,2017年,阪神高速玉たまで出入路(11ページ)で初めてUFC床版を実工事に適用しました。さらに実適用で生じた課題を共同で解決して阪神高速12号守口線(2021年竣工)や阪神高速3号神戸線(2023年竣工)に活かすことができました。開発と実適用を並行して進めるタイトなスケジュールでしたが,3度繰り返すなかで技術も向上しました。その間,※VeryhighstrengthFiberreinforcedcementitiousComposites:高強度繊維補強セメント系複合材料直角方向2方向にプレストレスを導入UFC道路橋床版橋軸方向鋼桁上り線(1車線規制)幅員方向分割取替幅員方向分割取替縦目地:VFC充填一次床版定着突起二次床版PC鋼材グラウト下り線(1車線規制)幾多の困難もありましたが,当社の関連部署の技術力を結集することで,共同開発から現場での適用を実現できました。 近年では,2023年に始まった名神高速道路河かわちばし内橋の幅員方向分割取替工事にも当社のUFC床版が適用されており,より大規模な橋梁に適用するべく,現在もUFC床版の開発を進めています。技術研究所一宮利通専任部長UFC床版の輪荷重走行試験幅員方向分割施工と接合部床版の厚さと重量の比較平板型UFC床版。従来の更新用PC床版の約2/3の軽さワッフル型UFC床版。従来の場所打ちRC床版の約1/2の軽さUltraHighPerformanceFiberReinforcedcement-basedCompositesUltra-highstrengthFiberreinforcedConcreteVoice※1当社開発の超高強度繊維補強コンクリート※2国土交通省が新技術の活用を促進するために整備したデータベースシステムきる幅員を広く確保することができる。

11KAJIMA202503軽量でコンパクトな床版専用架設機 1964年に開通した阪神高速道路は,50年以上が経過し,老朽化が進んでいる。当社は,2011年より阪神高速道路とUFC床版の共同開発を開始。2018年には阪神高速玉出入路の床版取替工事で,平板型UFC床版が国内で初めて適用された。 玉出入路は1970年に供用開始した阪神高速15号堺線に接続するランプ橋。幅員は1車線5.45mと非常に狭く,縦断勾配7%と急勾配であった。UFC床版と比較して重量の大きい一般的なPC床版の取替工事で使用されるクレーンは機体重量が大きく(約25t),大規模な桁補強を要するためコストの増加や工期の長期化が予想された。そこで,狭い幅員でも作業可能な軽量(約8t)の床版専用架設機を開発。UFC床版の効果と併せると,一般的なPC床版を採用した場合と比較し,桁補強量を90%以上縮減して軽量化の大きなメリットをもたらした。工程の短縮とコストの削減 当社は,本工事に先立ち床版専用架設機の事前検証を実施。そして,玉出入路では,他社が床版撤去と吊足場設置を行った後に,UFC床版の設置工事に着手した。当時,現場所長を務めた村岸聖介グループ長(現,土木管理本部)は,「実際に床版が撤去されると老朽化で予想以上に鋼桁の位置がずれていたり変形したりしていて,現場で臨機応変に対応しました」と本工事を振り返る。 同時期に実施されたPC床版による他社工区の床版工事と比較すると,工程とコストの両方で当社のUFC床版が優位だと評価された。工程においては全体で43%の【工事概要】平板型UFC床版の施工に関する共同研究場所:大阪市西成区発注者:阪神高速道路規模:橋長22m×3径間(鋼単純I型合成桁)工期:2017年12月∼2019年3月全幅員6.250m 平板型UFC床版39枚(関西支店施工)阪神高速玉出入路軽量な架設機で桁補強を不要に短縮。コストにおいては,UFC床版が高性能で床版製品費はPC床版に比べて高額であったが,桁補強量を大幅に縮減することで逆転し,工事費全体では10%のコスト削減を達成した。他現場への適用 玉出入路への適用後も,施工方法をブラッシュアップし,阪神高速信濃橋入路橋(2020年竣工)ではワッフル型UFC床版を適用。続く阪神高速12号守口線(2021年竣工)と阪神高速3号神戸線(2023年竣工)でも平板型UFC床版が適用された。村岸グループ長は,信濃橋の現場所長を務めた後,守口線と神戸線の工事の際には他現場から応援に駆けつけ,現在はインフラ更新グループ長として全国の床版更新プロジェクトに関わっている。「UFC床版は阪神高速道路での4回の実適用を経て,技術的に完成しています」。今後の更なる需要拡大が予想される。平板型UFC床版の試験施工範囲他社施工範囲(PC床版)P0P1P2P3P4P5P6220002200022000220002200022000本線側玉出入路S-0玉出入路S-1玉出入路S-2玉出入路S-3玉出入路S-4玉出入路S-5料金所側7.0%阪神高速玉出入路の側面図阪神高速玉出入路での新設床版架設設置済みの床版上を走行する専用架設機特集 REBORN次世代につなぐ高速道路リニューアル土木管理本部村岸聖介グループ長

12KAJIMA202503 UHPFRC※1は,圧縮強度100N/mm2以上の緻密なセメント系材料に多量の鋼繊維を混ぜることで靭性を大幅に向上させた高性能材料。これまで,劣化したコンクリート床版の補修にはSFRC※2を上面に打設して増厚していたが,床版厚と重量が増加するため,路面高調整工事や下部構造追加補強が必要という課題があった。また,近年ではこのSFRCが再劣化する事象が報告されてきている。そこで 1車線規制下で,既設コンクリートの劣化部(深さ30mm)をウォータージェットで除去後,レール走行式の機械で施工。岡谷高架橋(13ページ)の工事では,延長128mの打設を約8時間で完了させた。 私は技術研究所で長年UFCなどの特殊コンクリートの開発に関わった経験から,2016年に中日本高速道路とのUHPFRCの共同開発に参加し,2023年からは岡谷高架橋での適用に際し,UHPFRCのプラント立ち上げ時から現地に赴任しました。この共同開発は,もともと中日本高速道路の公募で,当社はUFC「サクセム®」による現場打ちなどの経験や,先行して床版打替の研究開発に着手していたことからパートナーとして採択されました。 UHPFRCのような高性能コンクリートで道路橋を補修・補強するのは,日本よりも先にインフラが成熟し老朽化が課題となっているヨーロッパで生まれた考え方ですが,当社のノウハウを活かし,日本国内での環境条件に合う3つめの開発技術は,セメント系材料をより緻密にし,さらに繊維で補強した高性能材料であるUHPFRC。床版取替工事の適さない橋梁において,劣化した部位をこの材料で打ち替えると,高耐久な床版にリニューアルすることができる。既存床版の補修・補強に優れた本工法の仕組みと大規模修繕への実適用事例を紹介する。特長Voice薄層で高耐久な床版打替が可能な高性能材料効率的に劣化部を補修塩害に強い緻密なUHPFRCを当社は,耐久性や力学特性に優れるUHPFRCを薄層で打ち替えることで高耐久な床版にリニューアルする工法を開発。前述のSFRCの課題を解決した。ように開発を進めていきました。日本の道路橋床版は,凍結防止剤の散布による塩害劣化が大きな問題となっています。岡谷高架橋も例に漏れず床版の損傷が激しかったため,過去に羽田空港D滑走路のために開発した塩害に強いUFCをベースに,現場施工でもその性能を発揮するように改良を重ね,緻密でよりひび割れ抵抗性に優れるUHPFRCを開発しました。 岡谷高架橋の工事に向けては,UHPFRCを製造する専用のプラント,1車線規制下で材料供給・施工が可能な専用機械など,材料だけではなく設備や機械の開発にも着手しました。本橋の橋面工は,約3ヵ月の工程のうち7割が劣化した床版の切削や壁高欄の撤去・※1超高性能繊維補強セメント系複合材料のことで,世界的に使われる名称※2SteelFiberReinforcedConcrete:一般的な強度レベルのコンクリートを鋼繊維で補強したもの取替で,後半の2週間で一気にUHPFRCを施工します。UHPFRCの製造から,現場への運搬や打設までのサイクル速度を管理するのに苦労しましたが,設備や機械が想定通りの力を発揮し,初年度の施工を順調に終えることができ,安堵しました。 岡谷高架橋では,橋脚の耐震補強にもUHPFRCが採用されています。昨年,土木学会からUHPFRCを含む繊維補強材料に関する新たな指針が発表され,UHPFRCの更なる需要拡大に期待するとともに,これからも技術のブラッシュアップを図っていきます。技術研究所渡邊有寿上席研究員コンクリート床版へのUHPFRCの打替イメージ本工法の施工手順と機械配置図①場外からの運搬専用プラントでUHPFRCを製造し,アジテータ車で運搬②場内での運搬撹拌・打込み機能を有する運搬機械にUHPFRCを荷卸し後,だれ止め剤を添加。道路勾配に応じた流動性に調整しながら移動UltraHighPerformanceFiberReinforcedcement-basedComposites鋼繊維③接着剤塗布既設床版面に専用接着剤を塗布④敷均し・締固めUHPFRC打込み後,専用フィニッシャーで敷均し・締固め⑤仕上げ・養生後続台車でこて仕上げを行い,養生シートと飛散防止ネットで養生

13KAJIMA202503長野自動車道岡谷高架橋の全体図特集 REBORN次世代につなぐ高速道路リニューアルUHPFRCによる床版打替 岡谷高架橋は中央自動車道から長野自動車道への分岐点に位置するPC箱桁橋。1986年の開通から約40年が経過して老朽化・劣化が進み,また河川・鉄道・市街地の上空を約55mの高さで横断しており新設の架替も難しいため,供用しながらの補修・補強工事を実施することとなった。当社はECI方式で事前の調査・設計の段階から関わり,その後本工事を受注した。 橋を通行する大型車両の重量や台数が設計時の想定よりも増加し,また寒冷な地域ゆえに,冬季に多量に散布される凍結防止剤によっても床版の劣化が進んでいたが,PC箱桁橋という構造形式のために床版自体を取り替えることはできなかった。 このような課題を解決すべく,本工事の橋面工では,UHPFRCによる床版打替が採用された。当社は,2016年より中日本高速道路と共同開発を行い,2019年には実証実験も実施。UHPFRCの製造や施工機械による施工性の検証など各種性能を評価した。その後も当社独自で開発を続け,1車線規制下でも施工可能な機械を製作した。現場のコミュニケーションが大切 本工事では,下部工・上部工・橋面工のすべてにおいて補修・補強を行っているが,それぞれに施工環境上の制約があった。下部工では本橋直下の非常に狭いスペースで全19基の橋脚の耐震補強工事を【工事概要】長野自動車道(特定更新等)岡谷高架橋改良工事(平成30年度)場所:長野県岡谷市発注者:中日本高速道路規模:延長2,066m(岡谷高架橋上下線及びランプ橋4橋)上記はUHPFRC床版打替(JCT橋79mの床版取替は含まず)工期:2022年11月∼2029年10月(関東支店JV施工)長野自動車道岡谷高架橋大規模橋梁の段階的な床版打替行い,上部工では箱桁の内部の空間も外部の吊足場も高所まで資材を少しずつ運搬して施工。そして,橋面工では交通規制の期間や範囲が限られたなかで施工する必要があった。 織田一郎所長は,「いろいろな作業が錯綜するため,近接作業や上下作業が発生しないように調整している。現場のコミュニケーションが非常に大切」と言う。大規模ゆえの段階的な調査・補修 補修・補強範囲が本橋全体に及ぶ大規模工事のため,段階的調査と施工を並行。ECI方式で受注しているため,最初に交通規制や大掛かりな足場を設けずにできる範囲で劣化の状況や補修箇所を調査し,おおまかな計画を立てる。現場で足場が組まれると,より詳細な調査を実施し,計画を詰める。施工が始まってからも並行して調査を実施し,補修箇所を特定しながら進めていった。 本工事のうち橋面工は,2024∼2029年の6年間で12回に分けて実施される計画で始まり,今後も作業抑制期間を避けて段階的に実施されていく。 安心安全な高速道路インフラを次世代につなぐため,これからもリニューアル工事は続いていく。長野自動車道岡谷高架橋の側面図。床版だけではなく橋脚の耐震補強にもUHPFRCが使われる床版打替工事の全景。上下線ともに1車線規制下で施工を行うフィニッシャーでの敷均し・締固めと,後続台車でのこて仕上げ実証実験にて,床版にUHPFRCを打設する様子岡谷高架橋織田一郎所長