04KAJIMA202505そう!今年は万博。 半世紀の時を超え,大阪の地で2025年日本国際博覧会「大阪・関西万博」が開幕しました。前回の1970年大阪万博のテーマは「人類の進歩と調和」。小学生であった私に何物にも代えられない高揚感を味わわせてくれました。身体で感じ,心に刻まれた記憶として今でも鮮明に思い出すことができます。この感動を再び体感できることはとても感慨深いものがあります。 「100年をつくる会社」として,諸先輩方からの英知と積極果敢に挑戦するDNA「進取の精神」を引き継ぎ,2025大阪・関西万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」への取組みを推進してまいりました。 コンセプトは「People’sLivingLab(未来社会の実験場)」。100年先を想い,最先端の技術でサステナブルな未来社会をこの会場に提供するべく,様々な企業などとのコラボレーションにより先端技術のPoC(概念実証)を行い,持続可能な社会実現に向けた建設のサーキュラーデザイン導専務執行役員関西支店長 茅野毅名称:2025年日本国際博覧会(略称「大阪・関西万博」)会期:2025年4月13日∼10月13日(184日間)場所:大阪市此花区夢洲テーマ:いのち輝く未来社会のデザイン(DesigningFutureSocietyforOurLives)特集Message「100年をつくる会社」として
05KAJIMA202505あのワクワクが55年ぶりに大阪に帰ってきた!4月13日,2025年日本国際博覧会「大阪・関西万博」が開幕した。大阪・夢洲に設けられた155haの広大な敷地で開催される世界大注目のイベントには,日本開催の万博史上最多158ヵ国・地域,7国際機関が参加する。当社は,建設の力でこの未来への希望を示す大阪・関西万博を盛り上げていく。これから訪れる人,まだ足を運ぶ予定のない人にもぜひ読んでほしい!当社ならではの見どころとともに,さあ,読者の皆さまを,万博会場にご案内しよう。入,BIMによる生産性向上,社会課題解決にチャレンジしてまいりました。 当社は大屋根リングの西側に位置するフューチャーライフゾーン(グリーンワールド工区)全体の会場建設を担当するとともに,西ゲートを入ってすぐの場所に世界初の工法による環境配慮型コンクリートドーム“サステナドーム”を協賛,建設しました。また,テーマプロデューサーが「いのち輝くとはどういうことなのか?」を深掘りし表現したシグネチャーパビリオン2棟の建設と,加えて海外パビリオン1棟の建設にも挑戦しました。“当社の取組み”を是非ご覧いただき,できれば現地を訪れ,五感で体感してみてください。 「きっと,よくなる。」ブルー,ホワイト,グリーンの3つのカーボンサイクルを回しながら,サステナブルな社会の実現を推し進め,将来を担う子どもたちが大人になった時,誇りに思える社会を築くべく,夢ある「未来のカタチ」に新しい発想で挑戦しつづけてまいります。©エスエス
06KAJIMA202505 大阪・関西万博で会場内に建設されたパビリオンなどは,万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を具現化する重要な役割を果たします。これらの施設は,単なる展示場にとどまらず,訪れる人々が各々の可能性を確認しあい,新たな「いのち」のありようや社会のかたちを検証し提案する,二度とない機会を提供する場です。 大規模かつ革新的なプロジェクトに,設計から着工・完成に至るまでのすべての過程において,チーム一丸で挑戦され,様々な困難を乗り越えられた皆さまには,その姿勢に深い敬意を表します。特に,細部にわたるまで丁寧な仕事をされたことで,他の施工者にも良い刺激を与えていただきました。 グリーンワールド(GW)工区では,実施設計当初から大屋根デザインの変更や東西トイレの追加設計がありましたが,設計・施工ともに真摯にご検討いただき,「安心・安全の鹿島」の精神と「良いものを作る」という社員の皆さまの思いによって,品質の高いものを仕上げていただきました。 また,シグネチャーパビリオン「いのち動的平衡館」「いのちめぐる冒険」では,皆さまの柔軟な対応でプロデューサーの想いが形になりました。リアルとバーチャルをインクルージョンした多様な体験施設が完成したことを誇りに思います。「いのち」について考え,その概念をアップデートする場所となるパビリオンであると自信をもってお勧めできます。 開幕後約2週間が経ち,鹿島さんが成し遂げた成果に対して,心から感謝しております。そして,会場に訪れる人々が得られる新たな知見や感動が,未来を切り開く力となることを願ってやみません。ぜんぶのいのちと,ワクワクする未来へ。Messageきたぞ!半世紀ぶり大阪での万博 万博は,地球規模の様々な課題に取り組むために,世界中から人やモノ,英知が集まる場だ。1970(昭和45)年にアジア初の万博が大阪で開催された。 あれから55年。半世紀の時を経て,再び大阪に万博が帰ってきた。人間だけではなく,多様な生物や自然も含めた「いのち」に着目。自らにとって「幸福な生き方とは何か」を問う,従来にはなかった試みとなる。 本万博は,大阪・関西,そして日本全体の成長を持続させる起爆剤になることが期待されている。いくぞ!世界とつながる海と空の空間へ 大阪・関西万博は,大阪市内臨海部に位置する人工島「夢洲」で開催される。四方を海に囲まれたロケーションを活かし,会場のシンボル「大屋根リング」による円環状の主動線を設け,それにつながるよう離散的にパビリオンや広場を配置した。 また,世界中の人々が安心・安全に楽しめるようユニバーサルデザインを多く採用し,会場全体でバリアフリーを実現。個性あふれる建築物や展示,アトラクションが,来場者を優しく出迎える。やるぞ!「想像以上!が,万博だ。」 大阪・関西万博では,「People’sLivingLab(未来社会の実験場)」をコンセプトに,スマートモビリティ・AI×ロボット・ヘルスケア・GX(グリーントランスフォーメーション)などの新技術を先行体験できる。未来社会をただ考えるだけではなく,行動することによってリアルに描き出そうという試みが,本万博最大の特徴だ。 近年流行している「イマーシブ(没入感)」を取り込んだ展示物には,その世界観にあっという間に引き込まれ,圧倒されることだろう。 今後も,鹿島さんの技術力と創造力が,多くの人々の心に残る素晴らしい建物を生み出し続けることを期待しています。(公社)2025年日本国際博覧会協会施設維持管理局の皆さん左から,西浦吉起係長(いのちめぐる冒険担当),大澤幸生係長(GW工区担当),青木竜介課長代理(GW工区担当),角田啓一課長代理(GW工区担当),飯塚研人係長(いのち動的平衡館担当,撮影時不在)きたぞ,いくぞ,やるぞ,万博!グリーンワールド工区いのち動的平衡館いのちめぐる冒険サステナドーム©Expo2025大阪・関西万博公式キャラクター「ミャクミャク」当社が担当した5つの施設 当社は,①サステナドーム(ジュニアSDGsキャンプ),②グリーンワールド※1工区,③いのち動的平衡館,④いのちめぐる冒険,⑤海外パビリオンの5つの建設に携わった。次ページ以降では,各施設の見どころとともに,関係者しか語れない完成までの秘話も紹介する※2。※1フューチャーライフゾーンと西ゲートゾーン(一部)を合わせた工事期間中の名称※2本特集では,誌面の都合上①∼④のみの掲載となります提供:(公社)2025年日本国際博覧会協会提供:(公社)2025年日本国際博覧会協会photo:masaonishikawaphoto:hiroshimatsuki(SolidDesignLab)
07KAJIMA202505特集 そう!今年は万博。 2017年に本格化した2025年国際博覧会の大阪誘致を受けて,当社は2025年国際博覧会のオフィシャルパートナーとなりました。そして,関西支店では万博を契機とする夢洲の開発を推進・支援していくため,2018年7月に部署横断の「夢洲まちづくり開発推進チーム」が発足し,以後同年11月の万博大阪開催決定を機に,営業部に万博・IR推進グループを設置,様々な活動を行ってきました。 同チームが最初に着手したのは,大阪建設業協会100年史「1970年万国博の建設工事」の記録をもとにした埋立地・夢洲のインフラや施設整備に必要な技能者・資機材などの膨大な物量の分析でした。2005年愛知万博の資料や施工時の体験談も集め,輻輳する会場整備の工程・交通網などの課題を早期に抽出し,関係各所への提言活動を進めました。 その後,各工区の入札や各パビリオンへの提案活動を行い,グリーンワールド工区,シグネチャーパビリオン,海外パビリオンと複数の工事を担当することができました。 設計・施工・監理という建設業務以外にも,サステナドームや舗装用のCUCO®-SUICOMブロック(8ページ参照)の協賛,ジュニアEXPO2025教育プログラムへの参画など,万博の機運醸成に向けた様々な活動に日々取り組みながら,なんとか開幕を迎えられた,というのが今の心境です。社内外の多くの皆さまにご協力いただいたことを改めて感謝申し上げます。 施工中は,当社施工の建築物ももちろんですが,競い合うようにデザインされた数々のパビリオンが出来上がっていく様子を楽しみに観てきました。会期中にはサステナドーム内で展示や体験プログラムも実施いたします。皆さま,ぜひ大阪・関西万博をご堪能ください。きてな,万博!これまでの万博への取組みを紹介します。Message また,当社では万博の機運醸成と当社の万博での取組み紹介を目的とした特設サイト「KAJIMAEXPOTOUR」を開設しております。パビリオンの紹介とともに,会場建設時の様子や当支店の施工案件を楽しむコンテンツも公開していますので,ご覧いただければと思います。当社関西支店大阪・関西万博チーム左上から時計回りに,三好大輔課長代理,三輪敦事業推進グループ長,橋本さおり担当主任,乗岡愛子課長代理,谷口昌利京都営業所長,山田稔明建築工事部長,仲田雅洋建築工事部長,石黒大輔万博・IR推進グループ長発注者:(公社)2025年日本国際博覧会協会基本設計:安井・昭和・東畑設計共同企業体/日建設計・日建設計シビル・パシフィックコンサルタンツ共同企業体/鹿島建設・飛島建設共同企業体実施設計:鹿島建設・飛島建設共同企業体/日建設計/パシフィックコンサルタンツ一部監修:藤本壮介建築設計事務所(関西支店JV施工)グリーンワールド工区大屋根リング提供:(公社)2025年日本国際博覧会協会※画像はイメージです。実際の会場とは配置・建物形状が一部異なる場合がございます。また本画像の無断転載・複製は一切できませんKAJIMAEXPOTOURはこちらから西ゲート発注者:(公社)2025年日本国際博覧会協会基本設計:小野寺匠吾建築設計事務所実施設計:鹿島建設・小野寺匠吾建築設計事務所グループ規模:S造 2F 延べ972m2(関西支店施工)いのちめぐる冒険発注者:(公社)2025年日本国際博覧会協会基本設計:NHA|NaokiHashimotoArchitects実施設計:鹿島建設・NHAグループ規模:S造/サスペンション膜構造 1F 延べ967m2(関西支店施工)いのち動的平衡館東ゲート(夢洲駅)静けさの森基本設計:当社関西支店建築設計部実施設計:当社関西支店建築設計部規模:RC造 1F 延べ265m2(東京建築支店・関西支店施工)サステナドーム
08KAJIMA202505グリーン万博で最先端技術を発信 サステナドーム(ジュニアSDGsキャンプ)は,西ゲートをくぐった右側前方に構える。当社は,子どもたちに地球温暖化や環境問題を学ぶ機会を提供するため,大阪・関西万博未来社会ショーケース「グリーン万博・キッズエクスペリエンス」ブロンズパートナー協賛者として,NEDO※1と共同で約8ヵ月をかけサステナドームを建設。本万博のコンセプトである「People’sLivingLab(未来社会の実験場)」を踏まえ,当社は“世界初”の「環境配慮型コンクリート」と「KTドーム®工法」を組み合わせた環境配慮型コンクリートドームに挑戦した。 世界各地の英知が集結する万博は,SDGsに対する当社の技術力をアピールする絶好の機会。“世界初”の試みにこだわり,部署横断で企画・検討が始まった。環境配慮型コンクリートのひとつである「CUCO®-SUICOM※2」はCO2を吸収・固定させるための炭酸化養生の際に密閉空間が必要となり,当社保有の「KTドーム工法」は施工時に密閉空間を作り出す。これら両者の特徴をうまく融合させたドームを作るのはどうか?という意見から,このプロジェクトが始まった。環境配慮型コンクリートの実証 サステナドームには,2つの環境配慮型コンクリートが使用されている。1つ目はドーム躯体主要箇所に用いた「ECMコンクリート」。2つ目はECMコンクリートを覆うように吹き付けた「CUCO-SUICOMショット」である。両コンクリートの吹付けによるドームの建設と,CUCO-SUICOMショットの建物躯体への部分的な適用は“世界初”であり,当ドーム全体で従来の吹付けコンクリートと比べ約70%(約18t)のCO2削減を実現した。 それだけではない。「CUCO-舗装ブロック」をサステナドーム入口にも適用。素材や世界初技術の結晶体「サステナドーム」5,00010,00015,00020,00025,00030,0000材料由来のCO2排出量(kg)CO2排出量約70%削減ECMコンクリートによる削減効果▲13,359kgCUCO-SUICOMショットによる削減効果▲4,620kgサステナドーム従来ドームCO2排出量の削減短工期・低コストを実現×ECMコンクリートCUCO-SUICOMショット環境配慮型コンクリートKTドーム工法ドーム型シェル工法※1国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構※2NEDOグリーンイノベーション基金事業「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発」にて開発されたカーボンネガティブコンクリート。CUCOは,本事業を実施する当社らが幹事会社を務めるコンソーシアム炭酸化養生のイメージ図。KTドーム工法でドーム本体と内膜を設けることで,CUCO-SUICOMに必要なCO2を充填する密閉空間が生まれるドーム入口に敷設したCUCO-舗装ブロック。横にはドーム建設の経緯を紹介するプレートが立つ詳細はこちらからコンクリート由来のCO2排出量削減効果 サステナドームでは,ジュニアSDGsキャンプと題し,子どもたちを対象としたワークショップが開催される。当社が7月に予定する「KAJIMAなぞときワークショップ〜サステナドームの怪人〜」は環境問題を見て,聞いて,学ぶだけではなく,自らも楽しみながら学べる没入型の謎解きアトラクションとなっている。「怪人からの挑戦状」を解き明かすことができるかな!?columnSUSTAINABILITYDOMEKAJIMAなぞときワークショップ〜サステナドームの怪人〜photo:hiroshimatsuki(SolidDesignLab)photo:hiroshimatsuki(SolidDesignLab)
09KAJIMA202505特集 そう!今年は万博。製作時期,メーカーがそれぞれ異なる10種類のブロックをエントランス前に敷設した。NEDOと当社は,さらなる技術進歩を求め,半年間の万博開催を通じて,人々の往来や環境の影響によるブロックの品質変化をモニタリングする実証実験も行っている。正円→楕円体への挑戦 「KTドーム工法」とは,工場製作したドーム型のポリ塩化ビニル(PVC)膜の内側に配筋してからコンクリートを吹き付け,躯体を構築する工法だ。PVC膜膨張後に内側から躯体工事を行うため,天候の影響を受けにくく,工期短縮や建設コストの低減が可能となる。従来は「正円体」でしか使用していなかったが,国土が狭い日本で様々な敷地形態にも柔軟に対応できるよう,難易度の高い「楕円体」でも製作できないか,当工事の設計コーディネーターを務めた荒井康昭専任部長は試行錯誤を重ねた。「正円と楕円は,一見大きな差がないように思えますが,楕円は正円とは異なり曲率が一定ではなく,位置によって方向の異なる配筋が必要となるので,構造計算の難易度が格段に上がります」。 楕円の縦横比をどこまで変形できるか?ドーム工法の第一人者である米国ドーム・テクノロジー社の事例や当社建築設計本部の構造部門の意見をもとに何パターンも計算。また,敷地の地盤条件により,今の形(高さ5.45m,直径23m×18m,延床面積265m2)が限界であることがわかり,この大きさ・形で挑戦することになったという。「今回の難題に対しては,自動生成やデザインの変化を容易に行うことができる『コンピュテーショナルデザイン』などを活用し,楕円体の構造解析モデルを作成しました。結果,合理的な配筋方向と解析モデルの整合性が取れた構造計算が可能となりました」と充実感をにじませつつ苦労を語った。 この史上初の挑戦を絶対に成功させると,現場を指揮した矢島英明所長(当時)は当時を振り返る。「設計も複雑ですが,施工も同様に大変でした。特に,楕円体の配筋は頂点に近付くと,鉄筋間隔が詰まるので,通常の施工方法では困難でした。そこで,これまで当社が施工した全てのKTドーム工法で鉄筋工事を担当した三浦洋司工事担当考案の『レーザー照射によるレベルおよび基準出し』を行いながら配筋するといった工夫を取り入れました」。 ひっそりと佇むこのドームには,関係者の隠れた努力も埋め込まれている。荒井康昭専任部長矢島英明所長コンピュテーショナルデザインを使ったドームの構造解析モデルドーム内の配筋状況。頂点に進むにつれ,鉄筋間隔が詰まる設計担当者。左から,疋田力斗担当,瀧下裕治担当,近藤亮設計主任,石田美優設計主任重すぎるスタンプCO2が詰まったコンクリート製一人で挑戦するもよし,二人で協力して持ち上げるもよし,力自慢の挑戦者を募ります!工事関係者。社内外の注目度も高かったので無事完成して安心したと,一同胸をなでおろした ドーム内に常設される「KAJIMA謎解きベース」。エリア内にはちょっとした謎が散りばめられているとか…。 CO2-SUICOM製のベンチや約12kgの「重すぎるスタンプ」などを展示。ドームで配布する謎解きMAPを手に,実際にCO2を吸収したコンクリートに触れながら,楽しく学べるよ!KAJIMA謎解きベースmustplay!Yphoto:hiroshimatsuki(SolidDesignLab)
10KAJIMA202505提供:(公社)2025年日本国際博覧会協会大迫力×近未来エンターテインメント「グリーンワールド」グリーンワールドの見どころグリーンワールドとは? グリーンワールド※工区は,瀬戸内海の美しい景観を望むことができる開放的で緑あふれる空間で,屋外イベント広場や,交通ターミナル,エントランス広場など,大人数が集まることができる。パビリオンが立ち並ぶ密度の高いエリアとは対照的に,万博体験の幅を広げることができるゾーンだ。同工区にある大小30施設の実施設計・施工を当社JVが担当した。※フューチャーライフゾーンと西ゲートゾーン(一部)を合わせた工事期間中の名称 大阪・関西万博は入退場口が会場の東西2ヵ所にあり,電車での来場者を「東ゲート」が,タクシーやバスでの来場者を「西ゲート」がそれぞれ出迎える。このうち,西ゲートを当社JVが担当した。 西ゲートは,短辺・長辺方向の両方向に広がっていく船底型の大屋根を備えた印象的な構造で,木天井が来場者を温かく迎え入れる。設計を担当した荒井専任部長は次のように当時を振り返る。「実は,大屋根は基本設計時の形状から,会場デザインプロデューサーの意向で大きく変わりました。天井は船底型に,屋根は来場者から直接見えない内どい方式に,屋根先端は薄くシャープに見せる,というデザインになりました。着工までの時間が限られているなかでの変更だったため,設計当初から1 来場者を迎える見応え満載の「西ゲート」施工図作成を専門とする当社建築管理本部西日本プロダクションセンターも参画し,精度の高い施工図レベルでの納まりを検討しながら設計を行いました」。 また,サーキュラーエコノミー※や脱炭素の取組みの一環として,天井に当社グループ会社かたばみが保有する兵庫県佐用町の森林から出る「間伐材」を利用した。間伐材は質や形状が不均一なため,実はその多くが廃棄されている。しかし,「世界に様々な人種が存在するように,節がある色々な木があってもよいのでは」と当社が提案し,採用に至ったという。この想いをカタチにするにあたり,当工事の松村茂樹統括所長(当時)は「間伐材は性状が不均一なため,湿気による反りなどが発生して追加対応に追われたこともありましたが,完成した今は仕上がりにとても満足しています」と語る。 西ゲートにはその他に,試行錯誤を重ねた雨水排水ルートや,木の上にしなやかにすらりと自立しているようなサインデザインなど,当社のこだわりがたくさん詰まっている。来場した際に,ぜひ注目してみてほしい。天井面積の25%にかたばみの社有林(間伐材)を活用した※資源を効率的に循環させ,持続可能な社会を作るとともに成長を目指す経済システム来場者を招き入れる幅140mの西ゲート。夜間でも煌びやかにサインが輝く松村茂樹統括所長GREENWORLD
11KAJIMA202505特集 そう!今年は万博。 「万博の顔」といえばパビリオンを連想する方が多いと思うが,グリーンワールドは,万博のもうひとつの顔を持っている。それは,イベント会場としての顔だ。万博では毎日様々なイベントが企画されており,参加したいイベントのある日に会場へ足を運ぶのも,賢く楽しむ方法のひとつである。本万博にはイベント会場が大小14あるが,最大1万6,000人を収容するEXPOアリーナ「Matsuri」はグリーンワールド内に設置されている。 EXPOアリーナは,芝生広場を取り囲むようにステージ棟や楽屋棟,音響機器が入るFOH棟を配置。来場者が今まで体験したことのない近未来エンターテインメントを提供する。ステージ棟は高さ12m×幅50mと関西地方最大級で,音楽ライブ・トークイベント・映像イベントなど多種多様に活用できるよう設計されている。 「大屋根リング」の外側に位置するグリーンワールドは,西ゲートから会場中心の「静けさの森」への入口の役割も果たす。来場者がゲートを通り,リングを抜けて「静けさの森」に近づくにつれ,だんだんと森に足を踏み入れていくような体験のできる緑化計画となっている。 ゲート前は,インターロッキングブロック舗装を海に,植栽帯を島に見立てた日本庭園のようなデザイン。また,ブロック舗装の濃淡で,波のきらめきを表現する。 加えて,EXPOアリーナへのエントランスゲー2 万博体験の幅を広げる「EXPOアリーナ」3 森と海への移り変わりを体感できる「ランドスケープ」 この巨大な建物を限られた時間で作り上げるには,施工の生産性向上が不可欠だった。「短期間の実施設計,早期着工という条件をクリアするために,設計用の3DCADソフトと,構造BIMソフトを併用しました。設計用の確認申請図から施工用のロール発注用構造図・製作図の作成まで,建設プロジェクトのあらゆるフェーズで活用し,施工の効率化を図りました」と宮本克己所長(当時)は話す。トには,日本の伝統的な植物である「竹」を使用し,日本らしさを演出。来場者を優しく中へ誘導する。 加えて,楽屋棟やFOH棟,トイレ棟などは,閉幕後に解体されることを想定し,プレハブ建物などをリースとすることで,持続可能な建築を実現。本万博が取り組むサーキュラーエコノミーにも対応した新時代のイベント会場が誕生した。 「万博=パビリオン」と注目されがちだが,グリーンワールドにも見どころはたくさんある。四方を海で囲まれた史上初の万博を感じに,立ち寄るのはいかがだろうか。屋外イベント広場ステージ棟のBIMモデル「祝祭する島々,協奏の森」をコンセプトに,小島をイメージした植栽帯が点在する 提供:(公社)2025年日本国際博覧会協会竹のエントランスゲート。アリーナ外からステージ棟を望む提供:(公社)2025年日本国際博覧会協会宮本克己所長提供:(公社)2025年日本国際博覧会協会設計担当者。左から瀧下裕治担当,近持真寛設計主査,花岡航設計主任(意匠設計担当),荒井康昭専任部長(設計コーディネーター),渕上陽介設計主任(構造設計担当)工事関係者(中央は茅野関西支店長),施工中のEXPOアリーナをバックに※NEDOと当社による実証実験の一環として,EXPOアリーナの歩道(赤枠)にもCUCO-舗装ブロックが使われているphoto:KousukeArai
12KAJIMA202505生物学者/作家1959年,東京都生まれ。京都大学大学院博士課程修了。青山学院大学教授・米国ロックフェラー大学客員教授。2007年,サントリー学芸賞を受賞し,90万部を超えるベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)や『動的平衡』シリーズ(木楽舎)など,“生命とは何か”を動的平衡論から問い直した著作を数多く発表する建築家1985年,愛知県生まれ。京都大学工学部建築学科卒業後,東京大学大学院在学中にAteliersJeanNouvelに勤務。帰国後,内藤廣建築設計事務所を経て,2019年より橋本尚樹建築設計事務所(現・NHA|NaokiHashimotoArchitects)主宰。主な作品は「玉造幼稚園」,「丹波山村庁舎」など細胞を構成する構造体である「クラスラ」がパビリオン内で光を放つ提供:(公社)2025年日本国際博覧会協会いのちを知る「いのち動的平衡館」いのちはうつろいゆく流れの中にある 生物学者・福岡伸一プロデューサーによる「いのち動的平衡館」は,生命が「動的平衡」を保ちながら,うつろいゆく流れの中で,ひととき自律的な秩序を表す姿を体現する。 ふわりと浮かんだ大きな屋根,それは生命がうつろいゆく流れの一瞬の状態であるように,つねに形を変え動的なバランスを取りながら浮かび上がることを表現し,うつろいゆく生命のような建築となっている。 大阪・夢洲にて,大阪・関西万博が開幕し,私はテーマ事業プロデューサーとしてパビリオン「いのち動的平衡館」を作りました。 「動的平衡」は私の生命論のキーワード。秩序は必ず無秩序に向かう,これを「エントロピー増大の法則」といいます。これに抗っているのが生命です。あえて自らを壊しつつ作り直すことによって,エントロピー増大と戦っているのです。これを「動的平衡」と呼びます。逆に,動的平衡の状態にあるものを生命と定義することもできるでしょう。パビリオンでは,この「いのち=動的平衡」を表現したいと考えました。 建築は「エンブリオ」と名づけました。エンブリオとは生命 「動的平衡」という概念を建築で表現する。 福岡先生からのお題は難題でした。およそ一年,模型を作っては,案を捨てるという,千本ノックを受けるような濃密な時間を共にするなかで,ようやく辿り着いたのが「うつろう建築」というアイデアでした。先生が「生命はうつろいゆく流れである」と仰るのに対して,私は建築も,やわらかく,動いている,と応えました。 建築の現場で感じる鉄のやわらかさ,建て方の過程で組み上がった建築の系がしなやかに変形する様などが,私の発生の初期段階のことで,生命を包む一枚の薄い膜のように,ふわりと大地に降り立って,今まさに分裂しようとしています。内部には一本の柱もなく,エンブリオ自身のバランスと張力によって自立しています。 パビリオンの中にあるのは,繊細な光の粒子が明滅する,立体的なシアターシステム「クラスラ」。クラスラとは細胞内骨格に由来する言葉で,闘争の歴史だと思われがちな生命進化は,実はむしろ共生や協力といった利他性によってもたらされました。利他の歴史は,細胞内共生・多細胞生物・有性生殖など,太古の昔から始まっています。私たちは,今一度,生命の基本原理である利他性に立ち返る必頭の中でこのアイデアを膨らませました。静的なものから動的なものへ,建築の概念を揺さぶるようなパビリオンを実現したいと思いました。実施設計・施工の過程でもチームには随分と苦労をおかけしました。ほぼ全ての図面が3Dでしか描けない扱いづらいジオメトリは特に厄介でした。 半年の会期後,解体はされますが,この過程で培われたノウハウを後世に残すこともこの仕事の一部だと考えるようになりました。皆さんとありったけの知恵と情熱を注いで取り組んだこの「いのち動的平衡館」が,会期中もそして会期プロデューサー 福岡伸一氏クリエイティブパートナー 橋本尚樹氏MessageMessage要があるのです。分断や対立,あるいは環境問題を考えるためのメタ視点となるはずです。これが,私が込めたパビリオンのメッセージであります。後も建築の新しい可能性を示唆する存在として生き続けてくれたらと心から願っています。 本展示は,生命の「動的平衡」を体感するインタラクティブな光のインスタレーション。自らの身体が粒子化して環境の中に溶け,その粒子が多様な環境に生きる多様な生命のあいだを行き交いながら生命史をるダイナミックな生命絵巻の空間体験を通して,来場者は自らの生命もまた「動的平衡」の流れの中にある利他的で相補的な存在であることを感じ,生命の本質としての「動的平衡」を知ることになります。DYNAMICEQUILIBRIUMOFLIFE「いのち動的平衡館」の注目展示
13KAJIMA202505特集 そう!今年は万博。花岡 この建物は幅が25m超ありますが,内部に柱がありません。基礎フレーム・屋根リング・ケーブルの3要素がお互いにバランスをとり,絶妙な平衡状態を保つことで,無柱大空間を実現しています。クリエイティブパートナーの橋本さんが仰る「やわらかく動く建築」を実現可能にしてくれたのは構造設計の金子さんでした。金子 ケーブル膜構造は,ケーブルを固定する端部がRC造やS造で,ケーブル自体に張力が加わっても端部が変形しないのが一般的です。しかし,この建物はケーブル張力を調整すると屋根リングも変形するという世界でも稀な,日本では初めての構造でした。設計中は,ものすごくプレッシャーを感じました(苦笑)。今回,意匠設計者がデザイン検討のために作ったモデルデータで直接,構造解析するために「Grasshopper」というコンピュテーショナルデザインツールを当支店の構造設計として初めて利用しました。Grasshopper上で風洞実験の結果などの荷重を作成・入力することで,解析ソフト上での変更作業も削減され,その結果スムーズな構造検討が可能となりました。今後,このような複雑形状の建物を設計するには必要な技術だと感じています。境 施工に関しては,設計段階から利用していたBIMが活躍しました。まっすぐな部分がない屋根リング鉄骨に対して,屋根膜・壁膜・出入口部分などの2次部材をどのように取り付けるのがよいのかBIMで議論しながら進めました。特に,納まりが難しかったトップライト部分は3Dプリンタにて模型を製作し,形状を見える化しながら検証しました。施工できる納まりをまとめるのにこれだけで数週間を要するほど,ここは大変でしたね。花岡 この時期は毎週東京に行って,橋本さんらと打合せをしていましたね(笑)。加えて,この建物は,屋根だけではなく外壁にあたる部分にも透明な膜が使われています。この外周膜を支持する部材や基礎を隠して屋根が浮いているように見せる納まりに苦労しました。木田 やわらかく動く建物なので,施工においては特に,雨水の浸入にとても気を遣いました。私の経験上,建物の外壁に膜のようなやわらかい素材を使うことはほぼありません。硬い鉄骨とやわらかい膜の取合いをどう止水するか,散水試験を何度も行いながら,進めていきました。あともう1つ苦労した点と言えば,鉄骨建方時の仮設足場計画ですね。立体で自由な曲線を描く鉄骨を建方する際,鉄骨についているケーブル・膜取付用の金具が,足場と干渉する恐れがありました。ここでもBIMをフル活用し,足場割付の変更などの調整を行いました。太田 BIMは設備の施工でも大活躍でした。この建物は,夏開催で建物内の暑さが厳しくなることが予想されたため,建築設計本部と支店建築設計部の協働で温熱シミュレーションを行いながら設計されました。また,屋内の空調ダクトや屋上に置いている機器類の見え方もBIMで検証しながら,展示の世界観を壊さないように,工事を慎重に進めていきました。昼間の外観もとても見応えのあるものですが,ライトアップも非常に美しく仕上がっています。来場者には夜の「いのち動的平衡館」もぜひ味わっていただきたいです!写真左から,益田太平設計主任(空調衛生設備設計担当),疋田力斗担当(意匠設計担当),金子寛明アシスタントチーフ(構造設計担当,現建築設計本部),花岡光設計主任(意匠設計担当),大平直子担当部長(設計コーディネーター),境治彦所長,木田哲也工事主任,太田翔也設備主任(※現場従事者の役職は当時)「Grasshopper」で構造解析モデルを作成し,その結果を反映したBIMモデル鉄骨建方時の仮設足場計画BIMデータ。2D図面より圧倒的に早く検証ができ,工程上のキーポイントになった(木田工事主任)座談会で振り返る日本初の膜構造建築物誕生の実話プロデューサー・クリエイティブパートナーの「動的平衡」という表現を,カタチにできるよう図面にした当社の設計部隊と,それをカタチにした施工部隊。担当者とともに,日本初に挑戦した物語を座談会形式で振り返る。CME
14KAJIMA202505アニメーション監督/メカニックデザイナー/ビジョンクリエーター1960年,富山県生まれ。大学在学中から,メカデザイナーとして活動し,その後「闘将ダイモス」ゲストメカデザインでデビュー。サンライズ作品では,「機動戦士ガンダム0083STARDASTMEMORY」,「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」にデザイナーとして参加する。主な代表作は「マクロス」シリーズ,「アクエリオン」シリーズなど建築家1984年,東京都生まれ。2018年に小野寺匠吾建築設計事務所(OSO)設立。公共案件から地域創生・住宅・商業・オフィス・家具デザインまで国内外問わず幅広い分野で活躍する。dezeenAwards2018,FRAMEAwards2019をはじめ,多数の賞を受賞『超時空シアター』でVRの没入感×MRの一体感が体験できる©ShojiKawamori/VectorVision/EXPO2025いのちを育む「いのちめぐる冒険」いのちは合体・変形だ! アニメーション監督を務める河森正治プロデューサーによる「いのちめぐる冒険」は,「いのちは合体・変形だ!」をコンセプトに宇宙・海洋・大地を通して,テーマである全ての「いのちを育む」ことを表現する。 ランダムに積み上げられた57個の「セル(細胞)」が多くの隙間や空間の連なりを生み出すことで,多様な命を育む礁のように,ダイナミックに生命を刺激し,感性をひらく建築となっている。 パビリオン「いのちめぐる冒険」のコンセプトは「いのちは合体・変形だ!」。コンセプトの通り,私たち人間は日々何かを食べて合体したり,身体の中で変形したりを繰り返しています。魚を食べれば,魚の生態系である海の恵みを奉授しているし,その海に降りそそぐ太陽の恩恵も得ています。日々の当たり前が奇跡的なことだと気づくきっかけを創出できる体験を構築しようと思いました。パビリオンを訪れた方には,「いのちは合体・変形だ!」であるということを体感し,今,共にこの地球という星に生きている全てのいのちには上も下もないということに気づき,生物多様性保全の重要 初めて河森プロデューサーにお会いしたのは2021年の秋頃だったと思います。 その頃すでに河森さんの言葉の断片を繋ぎ合わせながら建築コンセプトのスタディーを進めていて,模型をたくさん作っていました。最初の打合せに模型をお持ちしたところ,すぐにイメージが膨らんだようで会話が弾んだことをよく覚えています。普段ご自身がデザインされる変形・合体型のロボットはLEGOを使って考案されているということも知り,スタディー模型を大量に作る僕の設計スタイルと相性が良性に目覚めてほしいと願っています。 鹿島さんには万博パビリオンの計画から施工まで,多大なるご尽力を賜り,感謝申し上げます。タイトなスケジュールのなか,また非常に暑い夏を無事故で安全に乗り越えて,想いを形にしていただきました。皆さまの高い技術力と熱意のおかげで,魅力あふれるパビリオンが完成し,多くの観客をお迎えすることができます。またパートナーとして生態系観測企画なども一緒に推進できることにも心から嬉しく思っております。 この素晴らしい建築・展示が,未来への希望や感動を生かったのかもしれません。打合せにはいつも模型を持っていき,模型のスケールやサイズが大きくなるにつれて展示テーマや表現手法も具体性を帯び,最初のコンセプトから最後のディテールに至るまで,時間をかけて一緒にイメージをカタチにしていきました。 河森さんは根っからのクリエイターなので感覚的にイメージを膨らませ,かつ,野生の直感で大胆に物事を決めていくところがあります。そんな河森さんらしい冒険心をそそるパビリオンが出来上がったのではないかと思います。プロデューサー 河森正治氏クリエイティブパートナー 小野寺匠吾氏MessageMessageむ場となるよう,引き続き一緒に共創していきましょう。 最大の目玉は,カメラ付きVRゴーグルを用いて表現した,個人での「没入感」と鑑賞者全員の「一体感」を行き来する『超時空シアター「499秒わたしの合体」』。宇宙スケールの食物連鎖を体感できるストーリーで,「今ここに共に生きる奇跡」を届けます。これまで数々のSF作品を生み出してきた河森プロデューサーが描く「宇宙スケールの食物連鎖」とは!?イマーシブ展示で存分に感じ取っていただけます。LIVEEARTHJOURNEY©ShojiKawamori/KENTAAMINAKA「いのちめぐる冒険」の注目展示
15KAJIMA202505特集 そう!今年は万博。芸術的なバランスの実現渕上 本パビリオンの特徴である「57個のセル」は,1辺が2.4mである立方体の鉄骨構造ユニットであり,上下のセル同士の角度は30度で重なり合うように構成されています。通常の建物ではどのように力が伝達されるかを想定しながら構造計算を進めますが,積み重なっているセルは立面・平面方向にランダムに突出していること,さらには角度が多方向に向いていることから,どのように力が伝達されるのかを事前に想定することが難しかったです。そこで,一つひとつのセルを群として検証することで,単独では不安定に見える箇所についても,各セルが複合的に組み合わさることで,構造的に自立していることが確認できました。荒木 施工に関しては,着工前に積上げの検証をするため,施工性とバランスを確認できる3つのセルを選定し試験的に積み上げました。本設の基礎がない状態での積上げ施工だったので,2段目を積んだ後,吊っているワイヤーを外した時は,積み上げたセルが下がってこないか正直怖かったですね(笑)。セルの重みで多少たわみましたが,そのたわみ幅も設計値通りだったので,渕上さんに「さすがですね」と連絡しました。渕上 自信はありましたが,その連絡を受けて少しホッとしました。中川 この実物によるシミュレーションは河森プロデューサーにも現地で見ていただきました。この試験施工で,絶妙な力学的バランスを実感しましたね。また,この成功には施工図を担当した池田さんが直前まで結合部材をミリ単位で調整してくれたのも大きいです。池田 当初,設計図上にはセルとセルの間に隙間がなかったので,少し隙間を設けないとコンクリート同士が割れてしまうと思いました。そこで,渕上さんと連携しながら微妙な位置調整を何度も何度も行いました。荒木 その試験施工のおかげで,支えを置く位置や向きを考慮した正確な施工計画を行うことができ,積上げは順調に進めることができました。「どう積み重なっているのか」という建築的な目線で見ると,非常に面白い建物だと思います!細部までこだわりぬいた設備デザイン益田 「いのちめぐる冒険」は建物のカタチに注目がいきがちですが,やはり展示物が主役の建物です。なので,展示物の邪魔にならないよう,展示室の設備の色や形状,音,気流環境に配慮しました。中川 特に,「宇宙の窓」はパビリオンの目玉として実施設計期間中に大きく造りが変わりましたが,超高精細映像と大判ガラス,天井面ぎっしりの空調設備が実現できたのは,益田さんの“空間を上手に使った提案力と調整力”があったからです。益田 「宇宙の窓」での要望は頭を抱えましたね。設備機器を置く場所がなく,配管も見せないようにしたいというなかで,展示チームなどと何度も打合せを行い,機器配置や色,配管ルートなどを工夫することで何とか実現できました。黒田 電気設備系統もほとんど地中配管で構成しました。セルの積重ねという建物の構造上,電気器具を設置する配線をどのように通すか悩みました。限られた敷地のなかで,ここまで配線を埋める設計をしたのは長い会社人生でも初めてのことでした。中川 関係者の多くの想いと苦労がつまったこの「いのちめぐる冒険」はサーキュラーエコノミーの一環として,大阪・関西万博閉幕後のリユースも検討されています。本万博の「Legacy(レガシー)」として未来に受け継がれる「セル」にも期待しています!左手前から時計回りに,荒木秀樹工事課長,池田寛課長(施工図担当),中川恒所長,黒田憲二専任部長(電気設備設計担当),益田太平設計主任(空調衛生設備設計担当),渕上陽介設計主任(構造設計担当)(※現場従事者の役職は当時)セルの試験施工状況を視察に訪れた河森プロデューサー(右)と小野寺クリエイティブパートナー(左)中央に見えるのが「宇宙の窓」。「左右対称に吊られた設備がメカみたいでカッコいい」と中川所長は絶賛する 提供:(公社)2025年日本国際博覧会協会想像を,カタチに。星に生きるいのちを作れ!設計・施工者による合体座談会「57個のセルを合体させよ!」この難題に立ち向かった当社の設計・施工チーム。それぞれが自分の役割を全うするため試行錯誤の日々を過ごしてきた担当者らに冒険を回顧してもらった。HY