04KAJIMA202507——森もり林と鹿島グループ日本の国土の3分の2を占める森林は,先人から受け継いだ大切な資産である。環境課題の重要性が年々高まるなか,鹿島グループは100年以上も前から,森林を読み解き,いかしながら,次世代へと着実につなぐ多様な取組みを進めている。草木の緑がいっそう鮮やかに息づく今月は,「GREENKAJIMA」を旗印として鹿島グループが進める,山林管理から建設,運用までの「みどりのバリューチェーン」に関する取組みを紹介する。特集社有林上空からのデータ取得あてま高原リゾートベルナティオでの鹿島グループ会社自然体験研修ワークショップの様子
05KAJIMA202507森林と鹿島グループのはじまり 鹿島の山林経営は約120年前,創業家2代目の鹿島岩蔵が北海道の尺別山林を取得したところに端を発する。1902(明治35)年に釧路に近い尺別の地を明治政府から借り受けて牧場経営を計画し,1912年に同地の所有権を取得。豊富な原生林を管理・育成して森林経営に転換した。 その後,1940(昭和15)年に鹿島組山林部が発足し,緑化造園などの事業基盤を築く。翌1941年には,グループ会社のかたばみ興業(現・かたばみ)を設立し,山林経営業務を継承。戦後,鹿島守之助社長(当時)による「太平洋戦争で荒れ果てた森林を再建することこそ国家再興の基礎である」との信念のもとに森林を所有し,植林も実施するなど,維持・管理を継続している。全国49ヵ所に約5,500haの社有林 鹿島グループは全国49ヵ所に,東京ドーム約1,170個分に相当する,約5,500haの社有林を保有し,それぞれの特徴を捉えた維持・管理を続けてきた。この社有林は温暖化を防ぐCO2の吸収源としての役割も高まっている。全体で230億円相当の環境価値,2.7万t-CO2/年のCO2吸収力を有している※。※「企業の生物多様性保全活動に関わる生態系サービスの価値評価・算定のための作業説明書(試行版)」平成31年3月環境省に基づく試算鹿島岩蔵鹿島守之助社有林から伐期を迎えた木を伐りだす社有林の日影山で見られる動植物す新東北支店ビル外観パースシンガポールジュロンレイクガーデンのゴージュ(渓谷)KX-FORESTKARUIZAWA 鹿島軽井沢泉の里保養所
06KAJIMA202507社有林協議会の発足 鹿島では,国際的な脱炭素に向けた取組みの本格化により森林価値への注目が高まるなか,2023年に「社有林協議会」を発足した。創業家2代目鹿島岩蔵の頃から続く社有林に関し,さらなる利活用推進に向け,森林情報データの整備に基づく長期的な計画策定や,効率的な管理を促進するためだ。 開発事業本部資産運用部と経営企画部を中心に,グループ事業推進部,技術研究所(以下,技研),建築設計本部,環境本部,建築管理本部,土木管理本部,グループ会社かたばみが構成員となり,長期的な観点から適切な管理・施業※を実施し,持続可能な森林経営を目指して活動する。デジタルで森林づくりを総合支援 鹿島は,森林所有者が行う森林づくり計画の提案,森林経営・活用を総合支援する「ForestAssetⓇ」の提供を昨年6月から開始した。ForestAssetの特長は計測から解析,評価,計画策定,そして実際の森林経営までトータルサポートすることにある。そのなかで,スウェーデンのDeepForestry社製の森林内を自律飛行し,3次元点群データを取得可能なドローンの活用や,名古屋大学との共同研究により開発した上空を飛行するドローンから取得したデータの解析をはじめ,森林の水収支に関する研究,1000年先を見据え森林を知る※森林における,植林,間伐などの一連の作業森林づくりをトータルサポートする「ForestAsset」の概要2024.09 「森林を知る」「森林をいかす」「次へつなぐ」という3つの取組みを積極的に行い,これからも適切な維持管理と新たな価値創出につとめていく。 “長い年月をかけて育まれた森林は,自然から預かり,先人から受け継いだ大切な資産です。鹿島グループは,1000年先を見据え,森林を読み解き,いかしながら次世代へと着実につないでいきます。”日本列島には地形や標高の違いによって様々な樹木が分布しているため,自然条件や地域の実情に合った形での整備・保全が重要だ。そのために,まず森林の現状を知り,読み解くことが不可欠となる。鹿島公式Webサイト「鹿島グループの森林」では社有林に関する取組みを紹介していますそれぞれの森林の最適なあり方を考える
07KAJIMA202507らに,ForestAssetは日本経済新聞社主催の特に優れた新しい製品やサービスを年に一度表彰する「2024年日経優秀製品・サービス賞」の最優秀賞のひとつに選出されるなど,社会の喫緊の課題に応えるものとして,ひろく注目を集めている。 山田グループ長は「お客様が知らないこと,かつ知るべきことを提示し,森林の新しい付加価値を提案することで,その地域の資産・自然資本になるような一助となりたい」と力を込めた。※1適切な森林管理によるCO2などの吸収量を「クレジット」として国が認証する制度※2「民間の取組み等によって生物多様性の保全が図られている区域」を国が認定する区域ForestAsset開発チーム。左から山口毅志副主任研究員,山田グループ長,大久保主任研究員森林上空から取得した3次元点群データ森林内ドローン伐採前カラマツ林(人工林)3次元点群データ特集 GREENKAJIMA――森林と鹿島グループ倒木リスク評価技術など,様々な最先端の技術を導入している。高度な技術を複合したサービス 計測によって得られたデータはデジタル空間上で高精度かつ立体的に可視化。鹿島独自の自然環境調査技術を組み合わせることで,生物多様性や森林の水源かん養機能を高めるプランなど,木材生産機能も含めた森林の持つ多面的な機能を向上させ,また各種クレジット制度(J-クレジット※1など)や認証制度(自然共生サイト※2認定など)と組み合わせることで森林の価値を最大化するプランを立案し,そのためのアクションを支援する。 サービス開発の中核を担った技研の大久保敏宏主任研究員は,「『データの取得』『提供されたデータの評価』といった部分的なサービスにとどまらず,森林づくりをワンストップでトータルサポートできるのが強みです」と説明する。開発チームを率いる技研山田順之グループ長は,「本サービスはドローンが象徴的に捉えられがちですが,ドローンだけでできることは限られます。他にも樹木の点群データ化や,倒木を診断する技術などを組み合わせることで成り立っています」と高度な技術の複合であると強調し,課題に応じたサービスの提供を心がける。森林の新しい付加価値を提案 「地形をはじめ,例えば,倒木が増えている地域,木材をもっととりたい地域,鹿による食害が多い地域など,それぞれの森林が抱える課題に同じものはありません」(大久保主任研究員)。森林に関する技術への問合せは,本サービス発表後100件を超えており,山林に限らず,公園や都市の緑地管理者からの引き合いも増えている。 東京都調布市は,鹿島のデジタル森林計測技術を活用し,崖線樹林地などのグリーンインフラ活用に向けた,水源かん養機能を調査。地域住民参加型の適切な維持管理手法の再考にデータを活用する。さ森林上空からのデータ取得森林内自律飛行ドローンによるデータ取得グリーンインフラ機能の評価例森林の水収支に関する現地調査
08KAJIMA202507森林をいかす森林資源それぞれの適切な活用を検討,促進する鹿島グループでは木材を活かした設計・施工・技術開発を行っている。特に自社施設における社有林活用では,木材サプライチェーンの上流(山主)から下流(建設)までの広い視野で木材利用に取り組んでいる。CASE1Point1Point2Point3鹿島東北支店ビル制震快適社有林『鹿島の木造』をつくる 鹿島は,このたび東北エリアの拠点「東北支店ビル(仙台市青葉区)」を,純木質耐火集成材を採用した本格的な木造建築に建て替える。既存社屋は宮城県沖地震(1978年),東北地方太平洋沖地震(2011年),福島県沖地震(2021年)など幾度の大地震に見舞われながらも50年以「木造制震構造」×「純木質耐火集成材」 一般的な中高層の木造ラーメン構造では,柱梁接合部の剛性・耐力の確保が難しく,耐震性に課題があった。そこで,日本の建築様式にみられる「欄らんま間」に着想を得て,木部材の剛性と耐力を最大限利用しながら地震エネルギーを吸収する制震システムを新たに開発。鹿島の保有技術である純木質耐火集成材を組み合わせた,木造制震構造「欄間制震システムTM」(特許出願済)を初めて採用する。「木に囲まれたワークプレイス」×「最先端のデジタル技術・環境配慮技術」 執務スペースは,木材の特性を活かしたスケール感を持つ多柱空間で構成し,日本の木造建築の歴史のなかで培われてきた感性に寄り添う空間とする。また,豊富な井水の熱を空調に直接利用した輻射パネルの採用など,自然力を活かした設備計画とし,それらを最先端のデジタル技術で制御する。さらに先進的な環境配慮技術と組み合わせることで,新たな木造のウェルネスビルディングを目指す。「鹿島グループの森林」×「持続可能なサプライチェーン」 使用する構造用木材は,約1,810m3を予定している。これは,一般的な木造住宅80棟超分に相当する。木材の需給バランスを考慮しながら,日影山(10~11ページに関連記事掲載)をはじめとする東北エリアの複数の社有林からカラマツを供出するほか,山林・木材関係者と密接に連携し木材調達を進める。林業と建設業をつなぎ,持続可能なサプライチェーンを実現する。上にわたり機能してきた。新社屋は災害拠点としての機能も引き継ぎ,地域の安全安心なまちづくりに寄与すべく,2026年秋に着工,2028年度内の竣工を目指す。 本計画を,鹿島の木造中高層建築のフラッグシップビルと位置づけ,日本の歴史,風土のなかで培われてきた技術や文化,感性を大切にした『鹿島の木造』をつくりあげる。CASE2KX-FORESTKARUIZAWA豊かな自然環境を保全・利活用 昨年10月に完成した自社保養施設「KX-FORESTKARUIZAWA 鹿島軽井沢泉の里保養所」(16∼17,24ページに関連記事掲載)では,地域の景観や生態系と調和した環境を創出するとともに,現地伐採木の活用をはじめとするサーキュラーエコノミーに資する取組みを行った。一連の過程における持続可能な開発アプローチや,自然環境に配慮した様々な試みが評価され,ランドスケープに特化した国際的な環境認証制度「SITES※1」の最高ランク「プラチナ」を国内の宿泊施設として初めて取得。さらに,国土交通省が2024年度に創設した「優良緑地確保計画認定制度(TSUNAG)※2」の最高ランク「トリプル・スター」を取得した。※1米国の認証機関GBCI(GreenBusinessCertificationInc.)が審査を行う。プロジェクトの計画,設計,施工,その後の運営管理にいたる一連のフェーズにおいてランドスケープのサステナビリティが評価される※2民間事業者等による気候変動への対応,生物多様性の確保,Well-beingの向上などに貢献する良質な緑地確保の取組みを国土交通大臣が評価・認定する制度日本の伝統建築で採用されてきた欄間と鴨居に着目し,柱と梁で構成される架構に下側梁(鴨居)を加え,欄間上のスペースに制震ダンパを設ける内観イメージ。木の多柱空間で構成される日影山
09KAJIMA202507新東北支店ビル建設は,建築設計本部や技研,建築管理本部をはじめ,各部署から鹿島の英知を結集して臨む,新たなチャレンジに満ちたプロジェクトとなる。培われたナレッジと長年社員に愛されてきた支店ビルへの想いを受け止め,100年先の未来を描き具現化するのが,自らもエンドユーザーとなる東北支店建築設計部のメンバー。今の想いを聞いた―――設計のポイントについて教えて下さい藤田 旧支店ビルの無駄のないスケルトン・インフィルな構成は,鹿島昭一最高相談役と最高裁判所などを手掛けた岡田新一氏という二人の巨匠のセッションにより生まれたものです。この設計思想を受け継ぎ,現代における新たなオフィスビルを計画しています。石津 南北の分散コア配置を踏襲し,人の動線と設備ルートを集約,中央の執務スペースは床下に設備の供給レイヤーを設けることなどでスケルトン・インフィルを徹底しています。これにより設備のメンテナンスや更新が容易になるとともに,将来の多様な社会ニーズや使われ方に対応できるようなフレキシビリティのある構成としています。―特徴的な外観ですね藤田 執務スペースの柱および梁は,耐火集成材の現あらわし※となっています。その構成を素直に表出したデザインで,かつて仙台城でも使われていた日本の建築様式「懸かけづくり造」を想起させるデザインにもなっています。―構造計画については?中辻 木造中規模ビルでは,地震力に抵抗するため,柱梁断面が長大になりやすい。そこで,木架構は鉛直荷重が負担できる断面として,鹿島の制震技術を組み合わせ,地震エネルギーを吸収させることで,適材適所の構造計画としています。 断面の算定方法,スケールの正解が全くわからない手探りの状況だったので,過去の木造建物の構造計算書などを参考にしながら検討を進めていきました。木の現しとなり,スケールが意匠デザインにも直結しますし,この算定は重要でした。Interview石津 柱を極力無くすロングスパンが主流のなか,今回のオフィス空間は適正な距離で柱を設けます。ここに一番の挑戦があると思っています。働く社員に心地よいと思ってもらうにはどうしたらいいのかを考え続けています。―皆さんはエンドユーザーにもなりますね藤田 支店在籍者にアンケートをとり,9割を超える社員から回答をもらいました。今後長く支店ビルを使う若手社員には,部署・種別の垣根を越えて集まってもらいワークショップも実施しました。また,3年間の仮移転先では,フリーアドレスやABWに取り組み,自分達に合った働き方を模索します。丁寧に説明しな建物概要場所:仙台市青葉区設計:当社建築設計本部,東北支店建築設計部用途:事務所規模:木造(制震構造)一部S造 B1,9F延べ約8,872m2新東北支店ビル外観パース(左)と旧東北支店ビル本プロジェクトに携わる東北支店建築設計部のメンバー。左から東琢哉設計主任,石津翔太設計主任,熊谷淳副部長,宮本誠グループ長,藤田健治支店次長,中享佑設計主任※壁や天井で隠される構造体を露出させることがら意見を集め,皆でつくりあげたいと思います。中辻 仙台市役所も面する東二番丁通り沿いで人通りも多い。一般の方にも「木のビル」で通じて,社名が出てくるような建物にしたいですね。石津 自ら設計してエンドユーザーにもなることは滅多にない経験だと思います。ユーザーの声をダイレクトに聞くことにもなると思うので緊張感もありますが(笑),木に囲まれた空間で働ける日が待ち遠しいです。Point1Point2Point3生物多様性の保全サーキュラーエコノミーに資する取組みWell-beingの向上,環境教育の実施 絶滅危惧種となる植物の保護・移植や,種子を含む表層土壌の保全・再利用,新植する樹種を在来種に限定した。さらに,地域固有のヘイケボタルを保護し自然に戻す活動やムササビの巣箱の設置などにも取り組んだ。 現地で伐採した樹木を当施設の建設資材や家具材として活用。伐採した本数以上の樹木を敷地内に新植した。現地の気候に適した植栽計画とすることで,外構は無潅水での管理を実現している。 自然の地形を活かしたウォーキングコースの設定や運動プログラム(ヨガ)の計画など,利用者の健康増進に役立つ取組みを行う。また,自然の動植物について楽しく学べる自然環境教育プログラムも実施している。特集 GREENKAJIMA――森林と鹿島グループ設置した巣箱に現れたムササビ家具などへの現地伐採木の活用定期開催する自然観察会の様子
10KAJIMA202507次へつなぐ長期的な視点で維持・管理を行い,森林の価値を継承する森林の「多面的機能」を持続的に発揮するためには,人の手によるきめ細やかな森林の整備・保全が必要となる。日影山・ボナリ山林を例に,鹿島グループの森林の維持・管理の現場を見てみよう。山林の維持・管理に必要なこと 日影山・ボナリ山林(福島県耶麻郡猪苗代町)は鹿島が1977年から保有する112.33haの山林で,40年以上にわたり建築用材などを生産するために管理している。自然の力によって形成される天然林(ブナ・ミズナラなどの広葉樹)と人の手で育まれる人工林(スギ・カラマツなどの針葉樹)がバランスよく配置され,周辺地域(中ノ沢温泉)の用水取水地があり,洪水緩和や水源かん養林として重要な役割を担っている。2011年にCO2クレジットであるJ-VER認証※を取得。広葉樹林エリアでは生物多様性保全のための管理を実施してきた。 山林の維持・管理は具体的に何が行われているのか。鹿島グループの山林を管理する,かたばみ緑化造園本部山林部の塩塚真吾副部長は「まずは森林経営計画を作成し,その計画に則って施業を進めていきます」と説明する。森林経営計画とは,森林法に基づく5年を1期とする森林の施業と保護に関する計画のことをいう。 同山林の現場管理を担うかたばみの矢口慎課長は「計画を立てるには森林の一次情報が必要ですが,広域の森林を全て歩いて調査するというのは物理的に不可能です」と指摘する。人手による調査が困難な場合に活躍するのが,デジタルを活用した技術となる。「鹿島の技研と連携し,ドローンなどを活用して森林情報のデータ化を進めています。これにより全国各地に広がる鹿島グループの山林管理を効率的に行うことが可能となっています」(矢口課長)。 「現場では森林経営計画に基づき,皆伐,間伐,植林などの施業計画・管理を行います。森林経営計画は5年ごとですが,木が成長し,伐期を迎えるには通常50∼60年の長い年月がかかるため実際は何十年も先まで見据えながら道筋を描いています」(塩塚副部長)。豊かな森林は,次のサかたばみ塩塚副部長かたばみ矢口課長 森林は生物多様性の保全,気候変動の緩和,木材や紙の原料・きのこなどの食料・薪などの燃料の提供,水源かん養といった役割のほか,私たちに自然とのふれあいの場を提供している。さらに,斜面崩壊・土石流の防止,洪水の緩和,海岸林による津波被害の軽減といった防災機能も担っている。施業内容例森林の多面的機能Keyword間伐を行った森林は,光が地表に届いて下層植生が豊かに育ち,森林の持つ多面的機能が増進伐採(搬出)。伐採した原木を林業機械を用いて搬出し,建築用材やパルプ材として利用下刈り。苗木の成長の支障となる雑草木を刈り払う作業間伐。将来残す樹木の成長を阻害するものを選んで伐採
11KAJIMA202507イクルへとつないでいく施業の積み重ねによって育まれているのだ。適切な管理と生物多様性「自然共生サイト」に認定 伐採は環境に悪影響を与えるイメージを持つかもしれないが,樹木の健全な成長を促す間伐は,手つかずの状態に比べ様々な効果をもたらす。間伐などの適切な管理を施すと,これまで影となっていた場所にも日の光が届き,明るい環境を好む動物などが生育するようになる。日影山・ボナリ山林では,多様な生きものとその棲み処が守られている。当地では鹿島環境本部主導のもと,生きもの調査によって,希少種18種を含む500種以上の動植物が見つかり,生物多様性の保全に貢献する場所として,環境省の「自然共生サイト」に認定されている。 塩塚副部長は「鳥の棲み処になりそうな枯れ木をあえて残すなど,解析データから生きものの背景を予測し,山林の活用方針と照らし合わせ,それぞれに合った計画を作成・手入れを続けていくことが必要だと考えます」と生物多様性保全のポイントを説明する。目指す施業 矢口課長は「林業は地域ごとに施業の仕方が大きく異なります。全国の森林を横断的に扱うところは少ないので,各地域の特徴を知るかたばみにはその点に強みがあると考えます。地域の信頼できる協力会社と連携し,施業を継続していきたい」と意気込む。 塩塚副部長は施業という投資に対して,50年かけて回収する山林経営は,ビジネスとして成立させにくい現状が続いていることに触れ,「木材生産以外の価値も含め,『いかに山林の価値を最大化できるか』ということに取り組み始めています。新たな環境の時代に合わせてどのように仕組みを構築し,施業に反映させていくのかを考えています」と今後の長期的なビジョンを語った。※J-クレジットの前身となる認証制度 鹿島グループは,「1000年をつなぐ森林づくり」の一環として,日影山から集めたどんぐりを発芽させ,山に戻す「どんぐりプロジェクト」を開始した。2023年秋にどんぐりを採取し,2024年4月に鹿島KTビル(東京都港区)内にある植栽地に植え付けた。その後,春に芽吹き,夏の厳しい暑さを乗り越え成長した苗木は,社員の手に導かれ,再びどんぐりが紡ぐ新たなサイクルColumn日影山から集めたどんぐり日影山で見つかった希少種など。上からオオアカゲラ,クリンソウ,ニホンカモシカ種植えされ,芽吹いた様子社員の手で植林天然林と人工林がバランスよく配置される日影山日影山点群データ。上図は写真ではなく,レーザーで取得したデータをカメラ画像にあわせ色付けしている。下図のグラデーションは高度を示す特集 GREENKAJIMA――森林と鹿島グループ生まれた山へ植林された。 一粒のどんぐりに新たな緑を吹き込み,次世代につなぐ森林づくりをこれからも継続していく。
12KAJIMA202507ジュロンレイクガーデン緻密な調査を重ね,様々な知見を統合することで風土に適した緑地環境をデザインする鹿島グループは「みどりのバリューチェーン」をテーマに,みどりに関する技術やノウハウ,グループ連携による多様性を活かし,どのフェーズにおいても顧客のニーズに応えられる体制を整えている。グループが連携し,ハード・ソフト両面での社会資産構築を提案した,シンガポール「ジュロンレイクガーデン」の取組みを紐解く。第3の国立公園の再整備計画 東京23区よりやや大きい国土面積に約600万人が居住するシンガポールは,世界で2番目に人口密度が高い都市国家でありながら,都市ビジョンに「CityinNature」を掲げる緑化先進国でもある。同国を代表する国立公園には,世界遺産にも登録されているシンガポール植物園と人気観光施設ガーデンズ・バイ・ザ・ベイがあり,これに続くシンガポールのハートランドにおける,第3の国立公園の整備計画として2016年に,シンガポール公園庁(NParks)主催のジュロンレイクガーデン・セントラル&イースト設計入札(国際コンペ)が行われた。 ジュロン湖に浮かぶ2つの島に設けられた日本庭園と中国庭園など計34haを再整備するこのコンペは高い注目を集め,世界のランドスケープ業界をけん引する著名事務所を含む31チームが参加した。そして二段階の審査を経て,鹿島グループのランドスケープデザイン社(以下,LD。18∼19ページに関連記事掲載)を中心としたチームが最優秀賞に選定された。選定された要因は,生物多様性を重視した提案であったこと,ジュロンレイクガーデンでしか体験できない空間やプログラムを取り入れ,活かした提案であったことが挙げられた。デザイン×環境技術×マネジメント 鹿島グループチームの屋台骨となったLD吉田謙一常務取締役はコンペ当初に現地を訪れた印象について「成熟した樹木や大きな木陰,園路,水辺の景観など,公園として既存の『資源』が豊富にあった。これらの資源を最大限に活かし,この場所が培ってきた歴史を新たな計画に取り込みたいと感じました」と振り返る。「ランドスケー左からLD吉田常務取締役,一力大智プロジェクトリーダー。提案当初からチームをまとめ上げたジュロンレイクガーデン写真撮影:阿野太一緑陰と風と落水によるクールスポットとなるゴージュ(渓谷)。技研の屋外温熱シミュレーションが活かされる。奥に見えるのはセノーテ(泉)ムーン・ランタン・テラス。中国庭園で中秋に行われてきた伝統行事「中国提灯祭り」をモチーフとしたあずまや群MasterPlanJURONGLAKE(ChineseGarden)(JapaneseGarden)LakesideGardenJLGCENTRAL
13KAJIMA202507プの役割は,自然とひと,環境と社会にバランスのとれた関係を築くことだと考えます。『美しい場所や空間』をつくるだけでなく,様々な意味と役割を伴うことが大切です」と今回の提案の軸となる考えを明かし,“デザイン×環境技術×マネジメント”のハイブリッドなパッケージとしてランドスケープを捉えることに挑戦したという。様々な専門的知見を統合 そして,高い技術力と専門的知見を持つ鹿島グループと,コンテクストを理解したローカルパートナーとのアライアンスが実を結ぶ。 鹿島の技研は,生物多様性や水質浄化技術,エンジニアリング事業本部のノウハウを取り入れた多目的利用型の植物工場,カジマアイシーティとの協力によるICTを活用した公園マネジメントなどに関する技術提案に加え,風と温熱環境のシミュレーションを実施。LDと連携して,風の道や効果的なクールスポットの配置を考慮したデザインを提案した。環境本部は,屋外の暑熱緩和策や,竹・貝殻といった自然素材をリサイクルする仕組みなどを提案。鹿島グループのアバンアソシエイツは都市計画コンサルティングの専門性を活かし,ジュロンレイクガーデンを含む地域活性化の仕組みなどを示した。そしてLDが,デザインの骨格を担い,海外事務所を含めたチーム内の高度な専門分野の技術,知見のポテンシャルを最大限に活かすまとめ役となった。 鹿島の環境技術に関してLDとの橋渡し役を担った技研の高砂裕之上席研究員は,「メンバーそれぞれが各分野の専門家ですが,同じテーマでも視点の違いを感じることが多くありました。個々の技術やナレッジを具体的な提案やデザインに向けていかに組み立てるかが鍵となりました」と連携のポイントを話す。加えて「単純に鹿島や日本の技術を現地に持っていくということではなく,どうすれば地元の方にとって魅力的な公園になるかということに心を砕きました」と現地のコンテクストを理解するローカルパートナーとのコミュニケーションも重要だったという。 コンペから8年が経過した昨年9月,工事は無事完了し,待望のオープンを迎えた。高砂上席研究員は,「森林も公園自体もこれから成長していくことになります。時間とともに変化する姿を見ていきたいですね」と感慨深げに話す。高砂上席研究員ジュロンレイクガーデン発注者:NationalParksBoard(NParks)[設計]ランドスケープ:ランドスケープデザイン,SaladDressing★ 建築:Liu&WoArchitects★設備・構造・土木:AECOMSingapore★積算:DavisLangdonKPK★環境技術・エンジニアリング:鹿島技術研究所,環境本部,エンジニアリング事業本部,カジマアイシーティ地域活性化提案:アバンアソシエイツ生態調査:Camphora★水環境整備:NetatechEngineering★照明:LPASingapore★(★印はローカルパートナー)特集 GREENKAJIMA――森林と鹿島グループノースポンド。技研が提案した水質浄化技術が活かされる白糸状に白濁した滝と,鏡面となる水盤のコントラストが特徴のウォーター・ウォール・コート。公園内の新たなクールスポットとなる日本庭園の池を拡張し,NParks(シンガポール公園庁)が持つ睡蓮コレクションを展示するリリー・ポンドビジターセンター
14KAJIMA202507鹿島グループ会社自然体験研修ワークショップ昨年9月,鹿島グループ会社合同の自然体験研修ワークショップ(主催:鹿島建築管理本部,事務局:Kプロビジョン,大興物産,ランドスケープデザイン,かたばみ)が初めて開催され,8社から計28名の若手∼中堅社員が参加した。自然を研修に取り込む この研修は,グループ会社の人事担当者で構成される人事ワーキンググループが中心となり企画された。昨今の採用売り手市場化に伴う離職・人材流出への対応,中堅社員の育成強化というテーマのもと,「グループ会社間での人脈形成」「チームビルディングスキル強化」を主目的としていたが,森林の多面的機能のひとつ『保健・レクリエーション機能』に注目し,「自然環境・生物多様性への意識の醸成」を目的の軸に加えた。事務局の中心として企画に携わったKプロビジョン小幡峻HRM室長代理は,「参加者が美しい自然に触れ,それを共有することで,普段は異なる領域の業務を行う者同士が同じ感覚を呼び起こすファクターになった」とその意義を唱える。最適な研修フィールド 開催場所は,「あてま高原リゾートベルナティオ(新潟県十日町市。以下,ベルナティオ)」。東京電力を主体に鹿島ほかで構成される第三セクターが運営している。この施設の特長は,自然との共生をホテルのサービスに取り込んでいる点だ。東京ディズニーランド約10個分,510haもの広大な敷地では,自然を保全しながら,それらを活かした数々のアクティビティが創出されており,本研修にはうってつけの施設という一面もある。 研修プログラムは,ベルナティオ開発のプロジェクトストーリーに触れ,多くの鹿島グループ会社の連携により成しえた事業を通じてグループの総合力を学ぶことからはじまる。そして,『あてま森と水辺の教室ポポラ※(以下,ポポラ)』が持つ生物多様性プログラムを活用し,体験型研修を受講するという流れだ(研修プログラム一覧は左表)。 ベルナティオ開発初期段階からプロジェクトに携わり,現在は鹿島開発事業本部から当間高原リゾート東京営業所に出向し,ホテルの運営,営業を担当する伊藤恭子所長は,「いつ来ても四季折々の自然が出迎えます。ベルナティオにはハード,ソフト両面で研修に最適な環境が整っています」と本研修との親和性の高さを強調する。同じく昨年4月から出向している美しいみどりの中で,人と人が共感しあい,新たな気づきや人脈を形成する※ベルナティオのネイチャーアクティビティグループが担当し,東京電力社員2名とベルナティオ社員13名で運営されている(2025年5月時点)。オープン以前から十日町市の動植物や生態系の調査・保全活動を継続的に実施し,これらの結果を踏まえ,人と自然のかかわりによって築かれた自然環境の仕組み・大切さを理解できる自然体験プログラムを宿泊者や企業・学校の方々に提供している間伐体験を通じてチームビルディングスキルを学ぶ。健全な森林の維持にもつながる自然体験研修WSプログラム自然体験研修WS事務局の中心となったKプロビジョン久保有理子グループリーダー(左)と小幡室長代理圧倒的な開放感で,自然と表情も和やかに伊藤東京営業所長
15KAJIMA202507休憩中も自然とふれあう杉本功太マネージャーも,「ゆっくりと流れる時間と季節の移ろいが魅力。ぜひ,研修以外でもご家族やご友人と本物の自然を体験しにきてほしい」と呼びかける。大好評の研修ブラッシュアップし,次回開催へ 研修受講者の事後アンケートからは,「鹿島グループ各社の仕事と人のつながりを交流により実感した」「日頃からSDGsや生物多様性という言葉は耳にするが,身をもって体験することで理解できた」など人脈形成やグループ会社間の理解,生物多様性への理解に役立ったという声が多く届いた。 鹿島グループ内でも評判となっている本 「研修会場に入った瞬間に,この研修は大成功すると確信した」と事務局が絶賛するメイン会場の『水辺のホール(2010年竣工)』は,建築家・安藤忠雄氏によって設計され,鹿島が施工した。屋根はキャンチレバーで大きく張り出し,深い軒下空間は,内外の空間が連続する“縁側”空間を生み出す。大窓を全面オープンにすると,自然に開け放たれ,夏でも自然の風や音を感じることのできる,爽やかな空間だ。 1泊2日というスケジュールで,寝食をともにする参加者との交流も人脈形成には重要。ベルナティオは,研修受講生が宿泊するのにぴったりな『フレンズルーム』を備える。中央の共有リビングスペースに4つの個室がつながるこのプランは,鹿島が特許を取得している大人気の部屋タイプだ。研修の後はリビングスペースで会話を楽しみ,個室での就寝や研修の準備ができるプライベート空間も設えている。Focusメイン会場となった水辺のホール最高の環境!非日常とWel-beingを体感 富井さんは関東の大学に通っていた学生時代に,研究室の教授がベルナティオ開発時より敷地内のブナ植林の研究をしていた縁で,自身もその研究に携わるようになった。その後,あてまの自然に魅了され,十日町市に移住。以来ポポラ前身の「あてま自然学校」の頃から当地の自然共生を職員となり見守ってきた。本研修でもポポラスタッフの一員として研修受講者に分かりやすくレクチャーしてくれた。 そんな富井さんのイチ押しは,ベルナティオが誇る美しいブナ林。特に5~6月の新緑シーズンは一度見てほしいと言う。日本有数の豪雪地帯,十日町市の厳しい冬を知ってから,春が訪れると特にありがたみを感じると笑う。地元の方と結婚された際の挙式会場は,水辺のホール。実は富井さん夫妻が,水辺のホール挙式第一号なのだそう。Personあてま森と水辺の教室ポポラ 富井知子さん特集 GREENKAJIMA――森林と鹿島グループ研修は,今年10月に2回目の開催が予定されている。Kプロビジョン小幡室長代理は,「効果の高い研修をグループ会社で連携して実施できるのは,費用対効果の面でもメリットが大きい。素晴らしいフィールドが与えられるのは恵まれたことなので,今後もブラッシュアップを続けたい」と次回開催を見据える。当間高原リゾート杉本マネージャー。WSでは講師として登壇研修受講者アンケート大人気の『フレンズルーム』BeforeBeforeAfterAfter