僕の仕事はテレビCMの演出です。かれこれ43年間続けさせていただいています。テレビCMの最終目的は、見ていただいている皆様を何らかの行動にお導きすることです。例えば企業や商品のことを知っていただいたり、覚えていただいたり、買っていただいたり。お店やイベントに足を運んでいただいたり。 そのために自分の商品や企業の良いところを見ていただく人々に﹁自慢﹂しようとするのですが、自慢ばかりしている人はあんまり好きになってもらえませんよね。でも自慢したい。でも嫌われたくない、と大変悩ましい世界なわけです。 ところが﹁自慢しても嫌われない魔法﹂があるんです。それが﹁アイデア﹂だったり﹁クリエイティブ﹂と呼ばれるものです。世にいる広告クリエイターと言われる人達は年がら年中この﹁アイデア﹂を探し求めています。 この﹁アイデア﹂と深く関係しているのが﹁心﹂。CMを見ていただいた人が﹁わあ、きれい!﹂﹁かっこいい!﹂﹁面白い!﹂﹁なるほど!﹂﹁感動!﹂⋮⋮つまりCMで皆様を何らかの行動にお導きする前にまず、心を動かしてもらうことがとても大事だと僕は考えています。それもプラスの方向に動かせたら⋮⋮ほんの少しでも良いんです。見ていただく皆様の心をちょっとプラスに動かす。 僕の仕事である﹁演出﹂。これが見ていただく皆様の心をプラスに動かすためにとても大きな働きをするのではなかろうか、と睨んでいます。 この﹁演出﹂という仕事。その名の通り現場で演者さんの演技をつけたり、映像の世界観を構築したり、という仕事なのですが、僕がいちばん大事にしているのは一緒にCMをつくっていくチームの演出です。現場で僕は﹁監督﹂と呼ばれますが、監督の仕事は﹁ヨーイ、スタート!﹂と掛け声をかけるだけではなく、撮影・照明・美術・録音・スタイリストさんメイクさんなど現場にいるスタッフ一人一人に目配りし、調和をはかり、チームの一体感を醸成することだと考えています。さらにはクリエイターさん達、クライアントさん、営業さん達も巻き込んで一丸となり、現場全体で大きなエネルギーを生み出す土壌をつくる。この大きなエネルギーは現場にいる演者さん達に伝わり、良い演技が生まれていく。演者さんのいないCMであってもそこに命が宿っていく。 僕にとっての﹁つくる﹂。それはまずチームの和をつくること。そしてそこで生み出されたテレビCMによって、見ていただく皆様と広告主様との間に素敵なコミュニケーションを﹁つくる﹂。その結果、みんながしあわせな世の中を﹁つくる﹂ことにCMが少しでもお役に立つことができたなら⋮⋮そんな願いを胸に毎日一生懸命頑張っています。ありがとうございます!30KAJIMA202508なかじま・しんや CMディレクター、東北新社クリエイティブ・アドバイザー、武蔵野美術大学客員教授。1959年福岡県生まれ、大阪育ちの江戸っ子。武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒。83年「ナショナル換気扇」でCM演出デビュー。アリナミンV「魔人Vシリーズ」、日清食品カップヌードル「hungry?シリーズ」(93年カンヌ国際広告映画祭グランプリ受賞)、サントリー「燃焼系アミノ式」「伊右衛門」、リクルートAirペイ「オダギリジョーシリーズ」などを演出。2024年鹿島CM「KAJIMAはつくる」豊島美術館篇ではクリエイティブ・ディレクターと演出を担当。他に劇場用映画1996年「ウルトラマンゼアス」、2010年「矢島美容室THEMOVIE」などの監督も。vol.248