•危険回避•被害確認•二次被害防止•最低限の措置本システムの想定ターゲット•応急措置•被害初期調査復旧フェーズ復興フェーズ•被害詳細調査•復旧工事発災緊急フェーズ応急フェーズ16KAJIMA202509今後30年以内に南海トラフ地震が発生する確率は約80%,首都直下地震が約70%など,日本では近い将来,複数の大規模地震が高い確率で発生すると予測されている。鹿島グループでは,災害時の迅速かつ正確な対応力強化とその効率化を進めるため,地震などにより被災した建物状況の判定を自動化する技術を開発し,報告書作成までの自動化にも取り組んでいる。生成AIを活用した災害対応の新たなステージを切り開く,この取組みを紹介する。#kajimaステキシェアいいね!#被災建物状況の判定と報告書作成を自動化へ時間軸とターゲット損傷度と損傷内容被害状況画像きたるべき日に備えて建物被災状況の迅速な把握 建設業の社会的使命のひとつとして,災害発生時における建物やインフラの被災状況の把握と応急対応がある。これらの被害を迅速かつ正確に把握し,危険箇所を特定することは,二次被害を防ぎ,速やかな救援活動にもつなげることができる。 鹿島技術研究所でリスクマネジメントチームのリーダーである高井剛専任部長は「大規模地震発生時に,企業はBCPの観点から建物の使用可否の判断が求められます。さらに自治体からの帰宅困難者の受け入れ要請なども想定され,緊急事態下において迅速に建物の被災状況を把握することは,その受け入れ可否の判断においても重要となります」と話す。一方で「建物を安心して使えるかは,本来,構造設計者など専門技術者の判断が必要になりますが,人員には限りがあります」と指摘する。大規模地震発生直後の対応には,現地での調査に多くの人員と,莫大な時間が割かれる。このような課題に対応するため,鹿島グループは被災建物情報の判定を自動化するシステムを開発した。生成AIを活用した被災状況自動判定システム このシステムはユーザーがアップロードした被災箇所の画像をAIが認識し,詳細な説明を提供する。当社からイー・アール・エス※(以下,ERS)に出向し,この開発の中心を担う竹内香苗エンジニアは,「柱・梁・構造壁などの構造部材の損傷度の自動判定,またその被害状況の生成AIによるテキスト化までが実用化の域に入っています」と語り,専門技術者による部材判定との一致度も非常に高いという。さらに,「天井や間仕切り壁といった非構造部材についても,被害状況のテキスト記述は相当なレベルでの回答が得られることを確認しております」と話し,部材や設備機器などの種類が多い非構造部材における有効性も確認済みだ。技術研究所高井剛専任部長損傷内容近寄らないと見えにくい程度のひび割れ(ひび割れ幅0.2mm以下)肉眼ではっきり見える程度のひび割れ(ひび割れ幅0.2∼1mm程度)比較的大きなひび割れが生じているが、コンクリートの剥落はごくわずかである(ひび割れ幅1∼2mm程度)大きなひび割れ(2mmを超える)が多数生じ、コンクリートの剥落も著しく鉄筋がかなり露出している鉄筋が曲がり、内部のコンクリートも崩れ落ち、一見して柱(耐力壁)の高さ方向や水平方向に変形が生じていることが分かるもの。沈下や傾斜が見られるのが特徴。鉄筋の破断が生じている場合もある柱・耐力壁の損傷度12345大変形・変状ひび割れ自動判定  【現況】①人が被害状況を整理分類(部位特定・図面との照会)②人が部材判定③人が被害のレポート化④人が建物使用可否判断AIなどにより極力自動化本システムの目的

17KAJIMA202509鹿島BCP訓練での活用状況#災害列島 #建設業×生成AI #グループ連携 竹内エンジニアには,令和6年能登半島地震発生直後に最前線で業務にあたった当社社員へのヒアリングで,印象に残ったことがある。「ひとつの損傷の調査報告に,社内用,お客様用で報告書のフォーマットが異なっていることに加え,保険会社に出すためのもの,補助金申請用で自治体に出すためのものなど,数多くの報告書が必要なことに驚きました。事務作業の省力化に貢献することで,有事の際に役立つことができたら」と力を込める。災害発生直後はとにかく膨大な数の写真を撮影し,それにコメントをつけて報告書にしなければならない。その手間がAIの力を使うことで大幅に削減可能となる。 また,ここまでの開発過程について,「鹿島グループの生成AIに関するTeamsコミュニティに相談したことがきっかけで,鹿島ITソリューション部データ・システム技術グループの技術開発支援プロジェクトからプロトタイプを開発していただきました。生成AIによる画像認識ツールを丁寧に説明してもらい,カスタマイズした開発にもご協力いただきました」(竹内エンジニア)と振り返る。システム活用のための土台 本システムは当社が今年3月に行ったBCP訓練でトライアル採用された。訓練日の自社ビルの状況について,社員から送付されてくる画像を,リアルタイムで生成AIにて判定し,その情報を災害対策本部で共有した。 高井専任部長は,「通信ができないなどの不測の事態にも備え,さらにブラッシュアップを続けていきます。もっと判定の精度を上げられると,災害時だけでなく,平常時の劣化診断にも使えるようになり,活用の幅も広がります」とさらなる改良に意気込む。きたるべき日に備え,システム活用のための土台を築いている。ERS竹内香苗エンジニア※災害リスクに関する調査,分析,評価およびコンサルティング業務などを手掛ける鹿島グループ会社。生成AIを活用する以前から部材損傷度評価の自動化に取り組んでいる被害状況画像CASE1CASE2本システムの全体像プロンプト(評価判定条件)出力(判定結果)(テキスト)専門技術者判定結果テキストDB最適レポートXLSXLLM※(ChatGPTなど)独自学習システム修正,経験・知見ひび割れは肉眼ではっきり見える程度で、幅は1mmを超えているように見えます。コンクリートの剥落が著しく、鉄筋が露出していますが、鉄筋の変形は見られません。これらの観察結果から、壁の損傷度は「損傷度4」に該当すると考えられます。鉄筋が大きく露出しており、コンクリートの剥落が著しいです。鉄筋の曲がりや破断が見られます。柱の高さ方向の変形も生じているように見えます。これらの観察結果から、柱の損傷度は「損傷度5」に該当すると考えられます。CASE1CASE2※LargeLanguageModels,大規模言語モデル生成AIによるテキスト自動生成例(構造部材)