04KAJIMA202510message知財専門家,技術・知の創造と社鈴木草平国立大学法人 東京大学産学協創推進本部 知的財産契約・管理部長 アカデミア・大学にとって最大の使命のひとつが,技術・知の創造と社会課題解決に繋がるその成果の社会実装です。そして,その社会実装実現に必要不可欠なツールとなるのが知的財産です。価値ある資産であると同時にツールとしての知的財産をどのように使いこなせるか,アカデミア・大学において知的財産を扱う者は上記使命をも左右すると言っても過言ではありません。企業においても,競争優位の源泉となる技術・イノベーション創出を保護・活用する知的財産を扱うためには,同じように知識・経験に裏打ちされた知的財産の専門家が必要になります。建設業界のリーディングカンパニーである鹿島さんがこの知財専門家育成に大変力を入れてこられ,その人材教育やインフラ整備,さらに必要な投資を怠ることなく長年継続されているのは,時に事業や経営を左右することになる知的財産を,企業の重要な資産と戦略ツールに位置付けておられる証であると思います。 近年は知的財産を含めた様々な産学連知的財産×技術立社鹿島が考える知的財産とは特許やブランド,表現といった知的財産は,企業価値を向上させ,さらなる成長へと導く重要な役割を果たす。近年,日本の知的財産の流れは,共有と保護のバランスを図る取組みが進み,また,産学官が連携したイノベーションも盛んに行われている。技術立社として新たな価値創出を成長戦略に掲げる当社は,技術開発だけでなく,知的財産を取り巻く環境の変化に対応する経営戦略の策定や様々な企業,大学との協業・協創にも取り組んでいる。本特集では,これらの取組みの重要性とともに,現場のアイデアから生まれた特許技術,当社の先進的な知的財産の取組みについて紹介する。特集
05KAJIMA202510会実装すずき・そうへい1986年4月ソニー(現ソニーグループ)入社。海外営業本部,業務部などを経て知的財産センター長,ソニー知的財産ソリューション代表取締役社長などを歴任2022年5月ソニーグループ退職。その後は企業や研究機関などで知的財産関連業務を担当2025年1月東京大学産学協創推進本部知的財産契約・管理部へ入職。2025年4月知的財産契約・管理部長 現在に至る。外部機関として,日本知的財産協会常務理事,日本特許情報機構理事,工業所有権協力センタ−理事,知的財産研究教育財団評議員などを歴任携活動も活発です。鹿島さんと弊学との間でも産学協創による価値創造ビジョンを共有し,2023年より包括的な連携に基づきテクノロジーと社会課題の解決に向けた「建設の次世代数値シミュレーション」の社会連携講座を共同で設立・運営しており,おかげさまで産学連携の新モデルとして世間から広く注目されております。 今年度,鹿島さんは,経済産業省が毎年,知的財産権制度の発展および普及・啓発に貢献のあった企業を表彰する知財功労賞を,建設業界で初めて受賞されました。おめでとうございます。これまでの多岐にわたる知的財産を活用した鹿島さんの社会課題解決の取組みが,高く評価されたものと感じています。また,今年度から日本知的財産協会の会長に押味会長が就任なされたことは,特に建設業界における知的財産の重要性があらためて認識される良い機会になると思います。 これからの鹿島さんの知的財産活動の一層の広がりに期待をしております。×企業成長
06KAJIMA202510社業の根幹をなす知的財産 構造物は,工法,機械,資材など,技術という様々な知的財産(以下,知財)を活用し,建設される。構造物は有形資産である一方,知財は無形資産であり,ナレッジの最たるものである。「昨今の知財活動は,アイデアの権利化に留まらず,知財がイノベーションの源泉であることがより意識され,知財を保有する他者との連携も進められています。当社でも,オープンイノベーションの推進を目指すべく,スタートアップや産学連携など,他産業,他社との情報交換や協業・協創を進めています」。こう説明するのは,当社知的財産部(以下,知財部)の櫻井克己部長だ。日本知的財産協会※の理事なども務め,当社の知財活動を社内外から広い視野で考察する。 知財活動において重要なのは技術だけではない。「技術立社である当社において成長戦略の鍵を握る知的財産2024.092024.09“技術”という知財で社業に貢献するには,社員の高い知財マインドの醸成が必要です。それこそが当社の成長戦略の源泉のひとつとなります」。技術そのものだけではなく,技術を生み出す人材こそが,当社の知財活動においては重要なのだという。知財の保護と標準化の連携 他社との差別化を図ることで企業競争力を高める「知財の保護」は,いわば知財を独占するもの。他方,知財のライセンスを進めることで開発した技術などの普及力を高めるのは「標準化」に向けた活動であり,両者は相反すると考えられてきた。しかし昨今,標準化や共同開発による技術の「オープン化」と知財の保護による「クローズ化」をともに行う「オープン・クローズ戦略」が企業競争力を高めるとされ,知財の保護と標準化の連携が重視されている。 「建設業界では,工法,機械,資材など幅広い技術が必要で,1社単独で開発できることは限られており,協業は以前から浸透していました。一般的に協業での知財戦略はオープン化することで,技術を共有しマーケットを広げることができるため,業界全体の底上げや自社の利益向上に繋がります。そのうえで,必要なノウハウや自社が得意な部分はクローズ化し,競争と協業領域を使い分けることで,他社との差別化を図っています」。知財活動は連携のもとに成り立つ 知財部は,基本理念と3つのミッション(7ページ上図参照)のもと,技術の権利化や特許侵害などへのリスク対応に加え,R&Dや技術開発支援にも参画している。 特徴的なのは,社長直轄の部署として知的財産部櫻井部長※知的財産に関する調査・研究・政策提言などを行っている一般社団法人知的財産を取り巻く環境は,社会動向などにより常に変化している。企業はその変化をいち早くキャッチし,経営方針や将来の技術開発に役立てていく必要がある。当社では,その一連の流れに知的財産部が深く関わっている。 まずは,知的財産部における活動の特徴や現在の体制,知的財産を活用した経営戦略について紹介する。知財活動イメージ図競合他社の土地係争領域係争領域他社の枝に立ち入らない(リスク対応)他社の枝を立ち入らせない(当社事業優位性の確保) 果実:特許,ノウハウ, 営業機密,著作,データ・作り方(権利化)・売り方(活用)鹿島の土地知財人材育成(教育啓蒙)何の木をどこに植えるのかR&D戦略・知財戦略共同開発共同開発成果オープンイノベーションスタートアップなどとの連携土地を耕すオープン・クローズ戦略イメージ図
AJFLKH分野分野分野分野分野D分野分野G分野I分野E分野C分野B分野07KAJIMA202510との整合性などを確認したうえで,開発やアイデア出しが進められています」と説明する。当社は技術開発の事前調査にIPLも活用。知財は,企業が経営資源を投資した開発成果であるため,それらの情報を分析することが,業界・競合・提携先などの動向や戦略を推測するための参考情報となる。この入念な事前調査が当社の特許権の取得率の高さにも繋がっているという。「知財部には,土木・建築など領域を超えた全社の知財が集結し,俯瞰的な視点から分析を行うことができます。それぞれの事業部門や開発部門での情報に知財情報を加えることで,開発方針検討の一助としてほしい」と語る。 当社の知財部は,権利化業務などに加え,経営に資する技術開発へも深く関わっている。特集 知的財産×企業成長 技術立社鹿島が考える知的財産とは組織化されていること。これにより,知財活動を会社幹部や関連部署と共有し,連携しやすい体制をつくっている。また当社は,2023年度から「社長賞」に知的財産表彰制度を設置し,知財人材を育成するとともに,社員の知財への意識改革も進めている。「技術開発は,土木管理本部・建築管理本部・技術研究所などの関連部署と知財部が密接に連携していく必要があります。その中で私たちは,他社の特許出願・取得や登録動向の調査を担っています。また,特許出願については,開発者と知財部が二人三脚で取得に向けた対応をしていきます。これらの連携をスムーズに進めるため,日々のコミュニケーションを重視しています」。 そのほか,当社は2023年に建設業界の技術研究所として初となる海外オフィスKaTRISをシンガポールに設立。現地の大学,官公庁,民間企業と共同研究を行うとともに,海外での知財活動にも取り組んでいる。知財情報の展開と活用 知財部は昨年,IPランドスケープ※(以下,IPL)を経営戦略や技術開発などに活用することを目標に,「知的財産情報活用グループ」を新設した。IPLとは,R&D・事業方針などの立案に際し,知財の専門的見地に基づいて,知財関連情報を可視化,分析した結果を共有する活動を指す。清水友香子グループ長は,「一般に,技術開発の初期段階は開発の有効性などが曖昧で先が見えにくい傾向にあります。そのため,開発前の段階から市場や技術情報を収集するとともに,将来のトレンドを予測し,自社の方針知的財産部知財情報活用グループ清水グループ長※IntellectualProperty(知財)とLandscapeを組み合わせた造語就任の挨拶を述べる押味会長基本理念当社に受け継がれてきた「進取の精神」をもとに産み出される知的財産により鹿島の豊かな未来を支援する自他社の知的財産の尊重鹿島グループの知的財産を大切にすると同時に第三者の知的財産も尊重する知的財産の創出と活用社内のあらゆる場面で生み出される技術・ノウハウ・アイデア・データなど知的財産の知財化を進めそれを活用することによって企業価値の向上を図る知財人材の育成知財創造を担うのは「人」であり,鹿島グループの知的財産について啓蒙活動・人財育成を進める知財の観点から,社内各部署のプロと協働し,事業分野の成功に貢献建築土木営業経営企画R&D部門A社B社C社D社知財部 今年,建設業界として初めて,日本知的財産協会の会長職に当社押味会長が就任した。本協会は,世界最大の知的財産のユーザー団体で,業界・業種の枠を超え約1,400社が所属する。会員企業各社が知財活動を推進することで,企業経営に貢献し,それを通じて日本の産業発展に寄与するこ建設業界から初!押味会長が日本知的財産協会の会長に就任columnとを目的に活動している。今回の就任にあたり押味会長は「知財活動は広範囲化するとともに,常に変化,複雑化,高度化しております。当協会が先頭に立ち,企業の知財部門の力が企業経営や競争力向上に貢献できるよう,皆さまと一丸となり取り組んでまいります」と抱負を述べた。IPLの活用例。技術開発の事前調査において関連部署に共有した図を一部加工。類似性の高い特許ほど近くに配置され,特許が密集している箇所が赤く表示される。(当図は,VALUNEXが提供するVALUNEXReaderを用いて当社が作成)
08KAJIMA202510 コンクリート構造物の施工に欠かせない型枠工事は,上下2本1組の鋼製パイプを手で支えながら締め付け作業を行う在来工法が70年以上続いている。今回開発した「型枠一本締め®工法」は,使用部材を軽量化し,かつパイプの1本化に成功。これにより,施工の簡素化と歩掛り,安全性の向上などを実現した。 開発のきっかけは,都心大規模再開発における基礎躯体工事での合理化工法の検討だった。在来工法は重労働かつ,熟練の技術が必要だが,技能者の高齢化や若年入職者の減少などが課題となっていた。この課題を解決すべく,4社共同※で開発がスタート。使いやすさなど,技能者の声も参考にしながら開発を進め,当工法が完成し,特許を取得した。また,機能性の良さなど,多くの現場から「使いたい!」との要望があり,他社への展開時期を当初の予定から早めてオープン化を図り,現在では土木工事を 当建築現場は,39階建てのタワーマンションを中心に,スーパーや図書館などが一体となった複合施設を建設する。現場を率いる深尾成博所長とともに,所員は現場の様々な課題に対し,ユニークなアイデアを連発。現在,10を超える特許を出願・取得している。そのなかでも一押しは「空中モックアップ」だ。タワーマンションのガラスの見え方に関係者の関心が強かったため,よりリアルに再現できるよう,現物原寸モックアップをクレーンで吊り上げ,同じ位置,同じ角度で見せる案を思いついた。その後,技能者からの「クレーンで吊り上げるモックアップは初めて見た」との言葉をきっかけに特許を出願し,取得に至った。深尾所長は「この特許取得をきっかけ特許出願メンバー(左から片山祥仁設備課長代理,深尾成博所長,山下雅和次長)空中モックアップ当社開発担当者(左から建築管理本部建築工務部工事グループ佐藤貴弘次長,東京建築支店建築工事管理部工務グループ小野寺利之グループ長,建築管理本部建築技術部技術企画グループ掛谷誠課長)。当工法は社内外で多くの賞を受賞している含め,様々な現場で適用が進んでいる。当社の開発担当者は特許取得について「特許は,技術が公的に認められた証。そのため,使う側にとっては安心感があり,普及・展開にも繋がります。自社の技術力アピールという点でも,特許は非常に重要な要素です。また,特許は取得だけではなく,今まで注いできたリソースをロイヤリティとして回収する仕組みも大切です。まさに実りを収穫するとも言えます」と特許取得の効果を説明する。当工法は,現場からの声を参考に生まれた事例だ。に,所員・協力会社からより一層,アイデアや新たな取組みが出てくるようになりました」とモチベーション向上への繋がりを振り返る。その後も,現場ならではのユニークな発明を次々と考案し,特許を出願している。深尾所長は「まず現場の課題解決が特許に繋がるFile.1 70年ぶりの新工法型枠一本締め工法File.2 ユニークなアイデアが続々!?大阪市淀川区十三東計画東敷地新築工事型枠一本締め工法の動画はこちらから※当社,岡部,丸久,楠工務店型枠一本締め工法での施工の様子(千葉市立新病院整備工事)その他のユニークなアイデアはこちらからはしっかりと基本を身につけ,技能者とのコミュニケーションで得られる情報に耳を傾けてください。改善を意識し具現化していけば,特許に結びつくアイデアがその中にあるかもしれません」と,アイデアマンとしての心構えを教えてくれた。▼鋼製パイプ:2本1組(約2.73kg/m×2本)新型アルミパイプ:1本(約1.62kg/m×1本)在来工法型枠一本締め工法
09KAJIMA202510特集 知的財産×企業成長 技術立社鹿島が考える知的財産とは隅肉溶接箇所隅肉溶接箇所隅肉溶接箇所貫通孔 当土木現場は,西武鉄道新宿線中井駅(東京都新宿区),から野方駅(東京都中野区)間の約2.4kmを地下化し,踏切除却により交通渋滞の解消や地域の一体化を図る事業で,それに伴い新井薬師前駅を地下化する。当現場を担当する井原啓知工事課長は,今までに19件の特許を出願(うち7件取得済)し,当社の第1回知的財産奨励賞も受賞している。 今回この現場で,上向き溶接を不要とした「鋼板固定方法及び鋼板固定構造」を発明し,特許を取得した。H鋼杭天端へプレートを溶接する際,技能者が杭天端下に入り込み,鋼板の下面とH鋼杭の上端側面を上向きで溶接する必要があるが,施工性の悪さと品質低下に加え,溶接スペース確保のための掘削には線路への影響が懸念されるなどの課題があった。そこで,右図のように,上端面の周縁部および貫通孔の内側面との角部(右図緑色の箇所)の下向き溶接が可能な構造を発明し,施工性の改善と品質向上を実現した。井原工事課長は「特許は,研究分野に関するものという印象を持っていましたが,実際に自分が出願を経験し,現場での工夫が特許に繋がるということを実感しました」と話す。一方で,「特許出願ではなく,まずは技術的課題の解決を常に意識しています。そしてその解決策に特許性がある場合は,特許取得を通じて当社の競争力を高めるとともに,社会全体の技術発展にも貢献したい」と,現場での工夫がもたらす可能性と抱負も語ってくれた。特許は課題解決の過程から生まれることがある。現場にはその種となる“課題”がたくさんあり,知財の宝庫とも言える。現場の課題を斬新なアイデアで解決すると同時に,特許に繋げた事例を,開発担当者の声とともに紹介する。File.3 生産性と品質をともに向上西武鉄道新宿線中井~野方駅間連続立体交差事業に伴う土木工事第1工区建築管理本部建築工務部工事グループ中村担当部長 当社では,各支店の技術系部門に知財キーパーソンを任命している。彼らは,現場で生まれたアイデアの発掘や様々な知財リスクへの対応において,現場と知財部とを繋ぐ,重要な役割を担っている。知財キーパーソン会議で,自らの特許取得の経験から,知財活動の重要性を伝えた建築管理本部建築工務部工事グループの中村雅之担当部長に,現場における知財活動の意義を伺った。「特許出願や権利取得はゴールではなく,それをビジ知的財産とその先にある未来を見据えてcolumnネスとしてどう活かすのか,どのような価値を見出すのか,その先が重要です。その価値のひとつとして,協力会社との協業があります。ともに考え知財を共有することで,協力会社の施工力や技術営業力が向上し,長期的視野で当社の発展にも繋がっていく。我々の本業はものづくりであり,施工技術の改善はまだ道半ばと言えます。建設業のリーディングカンパニーの一員として,日々,課題解決とアイデア創出に取り組んでほしいですね」。井原工事課長上向きで溶接をする様子▼H鋼杭の天板に下向きでプレートを溶接する様子本発明の溶接構造
10KAJIMA202510オープン・クローズ戦略の活用スマート床版更新(SDR)システム®は,施工機械を移動させながら床版取替に関わる一連の工程を連続して行う「移動式工場」を実現したシステム。4つの工程を各作業班が移動しながら連続して行うことで,床版取替期間の大幅な短縮が可能となる。 当技術の開発は,高度経済成長期に整備された高速道路の劣化・老朽化が進行し,2014年に国の施策の一環として「高速道路リニューアルプロジェクト」が開始されたことにある。当社は,このプロジェクトで大きな割合を占める床版取替工事の工程を短縮し,交通規制などによるソーシャルロスを大幅に低減するSDRシステムを開発。2022年に初弾となる特許で本システムの基本コンセプトに関する権利を取得し,標準化を目指して他社への展開を始めた。また,2024年にはより権利範囲の広い特許を取得した。当技術の特許のライセンス活動に携わる知財部ライセンスグループの井阪伸博グループ長は,「当社を代表する重要な特許のひとつで,オープン・クローズ戦略に非常にマッチした技術,取組みといえます」と話す。 当技術ではコンセプトに関する基本的な特許を2件,そのほか,施工機械や仮設設備などの特許も多数,出願・取得している。「床版取替工事は今後,全国各地での需要が見込める大きなマーケットです。そのため,当初は基本特許のみを許諾し,本技術を用いて行う工事の一定のシェアを確保することを目指していました。しかし,ソーシャルロスの低減という大きな目的に対して,許諾対象特許を広げ,シェアを拡大する方針へと転換しました。オープン化でさらなるシェア拡大を図りつつ,一部の特許をクローズ化し,施工ノウハウやデータの秘匿化とあわせた他社との差別化による競争力強化を図っています」と,オープン化とクローズ化の使い分けを解説してくれた。関越自動車道阿能川橋(群馬県利根郡みなかみ町)での床版取替オープンでシェア拡大,クローズで差別化による競争力強化~スマート床版更新(SDR※)システム~知的財産部ライセンスグループ井阪グループ長SDRシステムについての動画はこちらから※SmartDeckRenewalphoto:takuyaomuraSDRシステムの概念図(幅員方向分割取替の場合)
11KAJIMA202510特集 知的財産×企業成長 技術立社鹿島が考える知的財産とは CUCO®-SUICOM※1は,2008年に当社らが開発したCO2-SUICOM®※2の技術をベースに,CO2削減量の最大化を図るカーボンネガティブコンクリート。CO2-SUICOMの開発を契機に,環境配慮型コンクリートのさらなる研究・開発と汎用性の向上を目指していた当社は,デンカ,竹中工務店とともにコンソーシアム「CUCO」を発足させ,国のグリーンイノベーション基金事業を受託した。CUCOの最大の特徴は,民間企業,大学など55もの団体が集まり,産学連携で社会実装を目指した研究開発を進めていることだ。当社からも土木・建築・機械など各専門部署のメンバーがCUCOに参加している。 CUCOは3つの柱【①材料の開発,②開発した材料を用いた,より大きな構造物への適用,③品質評価方法の開発】を研究のメインテーマに掲げている。このうち,③品質評価方法の開発は技術を社会実装するうえで非常に重要となる。なぜなら,CO2の吸収,固定に成功しても,その固定量の測定方法に共通の基準を持たなければ,固定量を公正に扱うことができないからだ。CUCO内のルール作りや対外的な対応などのマネジメントを担う,当社技術研究所の坂井吾郎主席研究員は「現在,測定方法について,国内規格であるJIS化が進められており,CUCOの活動で得られた知見もそこに活かされています。将来的には国際的に通用する規格としてISO化し,海外での日本のプレゼンス向上を図ることが目標とされています」と話し,CUCO-SUICOMなどの環境配慮型コンクリートの技術の普及を図るために,まずは品質評価方法の「標準化」を目指すというアプローチが重要だと説明する。 CUCOでは,10年間という長期にわたって,55団体が同じ方向を目指し,情熱を持って技術開発に取り組めるよう,年度ごとに技術論文や特許,開発案件の目標数などを定め,それに向けて各々が尽力している。坂井主席研究員は,「CUCOは,日本を代表する英知が結集し,国際標準化を目指す,いまだかつてないプロジェクトです。地球温暖化というグローバルな社会課題の解決に向けて貢献していくものです。このような機会に恵まれることはなかなかありませんので,プロジェクトを通じて少しでも社会の役に立ちたいと考えています」と語った。※1NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「グリーンイノベーション基金事業/CO2を用いたコンクリート等製造技術開発」のコンクリート分野において開発されたカーボンネガティブコンクリート※2当社,中国電力,デンカ,ランデスが共同で開発した,世界で初めてCO2排出量の実質ゼロ以下を実現した環境配慮型コンクリート。製造過程でCO2を吸収し,コンクリートに固定する産学官連携で国際標準化を目指して~CUCOの取組み~CUCOのホームページはこちらcolumnphoto:Hiroshimatsuki(SolidDesignLab)「CUCO-SUICOMショット」を吹き付けた「CUCO-SUICOMドーム」内観新日下川放水路(高知県高岡郡日高村)での「CUCO-SUICOM型枠」の適用箇所大阪・関西万博に建設した「CUCO-SUICOMドーム」消波ブロック「CUCO-SUICOMテトラポッド」(「テトラポッド」は不動テトラの登録商標)技術研究所坂井主席研究員
縁遠いと思っていた特許平田 私は今,低炭素コンクリートの研究開発に携わっています。初めて特許を出願したのは入社1年目の時でしたが,それまで大きな発明でないと特許は取れないと思っていて,高いハードルを感じていました。束河 私も1年目の時に初めて出願しましたが,それまで自分には縁遠いものだという印象でした。デヴィン 特許は…“アニメの超有名な博士キャラ”が発明するものという印象でした(笑)。私も同じく1年目の時に出願をしました。打合せ資料を見ていたら省力化に関するアイデアを思いつき,上司に相談したところ「これは特許になるのでは?」と助言していただき,それが人生で初めての特許に繋がりました。12KAJIMA202510課題解決の過程が特許に結びつく上瀧 私は主に鉄骨ハイブリッド構造の研究をしていますが,建築構造の分野は既に成熟しており,新たなアイデア創出が難しい分野と言われています。そのため,既に使われている工法や開発中の工法に対する課題や要望を現場や構造設計者などから聞き,課題を整理して解決策を考えることが新たな特許に繋がっています。岩本 私は大規模トンネル工事の現場にいますが,日々課題に直面しています。現場勤務の方は,他現場での経験を活かして課題を解決することも多く,現場ならではの発想もたくさんあります。この課題解決への過程こそが特許に繋がるチャンスだと思っています。束河 私は今,光ファイバに関する計測技下瀬美術館瀬戸内海の多島美を映す術の研究に取り組んでいますが,アイデアを思いついても,実現性が低いなどの課題が出てくることがあります。そんな時は角度を変え色々な切り口でアイデアを見るようにしています。また思いついたアイデアは既に特許化されていることも…。既存の特許の課題を整理しなおして,もう一歩進んだ発明にできないか,特許を進化させるという視点でも考えるようにしています。特許出願の強力なサポート体制デヴィン 特許出願にあたって,私は特許明細書の独特な表現を解読するのに苦労しました。分からないところを知財部に問い合わせすると,丁寧に教えてくれ,とても強力なサポート体制だと感じました。上瀧 特許に関する書類は独特で難しい若手発明者座談会特許のチャンスは誰にでもある!「天才的な発想でなければ特許にはならない」。特許と聞くとそんな印象を持たれやすいが,実は,身近な疑問や課題を解決する過程から生まれる特許も多い。今回,特許出願を経験してきた若手社員5名の座談会を開催。「発明者」としてアイデアが特許に繋がる発想の転換や開発への想い,今後の目標を語ってもらった。岩本拓也いわもと・たくや(2016年入社)横浜支店庄戸トンネルJV工事事務所 工事課長代理(2016年∼2023年まで技術研究所土木構造グループ所属)発明分野:RC・SRC構造物の工期短縮・省力化累計提案:10件,累計出願:26件デヴィン・グナワン(2020年入社)技術研究所土木構造グループ副主任研究員発明分野:コンクリート構造,RC部材構築の省力化技術累計提案:16件,累計出願:31件束河春奈そくがわ・はるな(2021年入社)技術研究所土木構造グループ副主任研究員発明分野:RC・SRCのプレハブ・プレキャスト構造,構造物の計測技術累計提案:6件,累計出願:17件上瀧敬太こうたき・けいた(2020年入社)技術研究所建築構造グループ副主任研究員発明分野:鉄骨ハイブリッド構造,制震技術累計提案:1件,累計出願:11件平田真佑子ひらた・まゆこ(2020年入社)技術研究所建築生産グループ副主任研究員発明分野:建築材料累計提案:3件,累計出願:7件※累計出願件数は,筆頭以外も含む
13KAJIMA202510特集 知的財産×企業成長 技術立社鹿島が考える知的財産とはので出願者だけでは対応が厳しいと思います。出願する際は,アイデアと資料を整理し知財部に相談すると,その後の手続きをサポートしてくれるので心強いです。平田 サポート体制は万全ですよね。今後,建物の老朽化が課題になってくるので,長期的に使えるような研究に携わり,上司や知財部と相談しながら特許取得にも挑戦したいです。岩本 相談することは大事ですよね。ちょっと馬鹿みたいな発想も,それを膨らませて違う角度からアドバイスをくれる上司や先輩,同期が当社にはたくさんいると感じています。まずは相談してみるのも大事ですよね。そこから新たな発想が浮かぶかも?!特許を通じた目標束河 私は,建設業の担い手不足などの社会課題に対して,プレキャストなどの新技術を広げて解決したいという想いを持っています。また,最近気になっている技術は「鹿島スラッシュカット工法®」。建物の解体時,スラブ切断の角度を変えるだけで大きな効果が出る技術に衝撃を受けました。私もちょっとした工夫で大きな効果が出る革新的な発明に携わりたいです。上瀧 かっこいいですね!私は,成熟した建築構造の分野でも,より設計や施工の合理化に繋がるキラリと光る技術を開発して「技研の鉄骨と言ったら上瀧だ!」と思ってもらえるような,研究者になりたいです。岩本 今は現場勤務のため,現場がどんなものを必要としているのか日々実感する毎日です。技研にいた経験を活かし,技研と現場の架け橋となれるよう意識して働いていきたいです。誰にでもチャンスはある!全員 課題に対し,工夫して解決策を出せば,それが特許に繋がるチャンスになるかもしれません。特許は個人の力だけではなく,当社の組織力を結集して生み出すもの。この会社はそのサポート体制も万全です。アイデアを思いついたら…思い切って上司や知財部へ相談してみましょう。そこにハードルを感じたら,同期や同年代の特許出願経験者に相談してもいいと思います。全国発明表彰受賞の対象となった「HiDAX-R®」の模型。発明者は栗野治彦技術研究所副所長2024年度知的財産奨励賞の受賞者【全国発明表彰】主催:発明協会(2024年受賞)・文部科学大臣賞日本を代表する幾多の研究者・科学者の功績を顕彰するもの。「圧力副室付加による振動エネルギー吸収効率増倍式ビル用制震オイルダンパの発明(特許6000872号)」・発明実施功績賞同発明の実用化へ貢献した当社への顕彰。【知財功労賞】主催:経済産業省特許庁(2025年受賞)当社の知財活動への顕彰。総合建設業として初の受賞となる。社内表彰制度の確立や当社の知財体制,知財を活用した建設業界の社会課題解決の推進などが評価され,受賞に至った。Award社外表彰当社は,昨年と今年,知財活動の功績を称える権威ある賞を外部機関から受賞した。【知的財産表彰】(社長賞に設置)優秀な技術開発や改良・工夫などを発明に繋げ,知財としてさらに価値あるものへと昇華させたチーム・社員を表彰するもの。事業に対する顕著な貢献のあった技術などを発明したチーム・社員を表彰する「功績賞」,知財の分野において後進育成などで長年功績のあった社員を表彰する「功労賞」,知財の分野において将来が期待される中堅・若手社員を表彰する「奨励賞」の3つの賞がある。Award社内表彰知財人材育成に力を入れ,知的財産の社内表彰制度を設けている。「課題やアイデアが見つかったら,特許出願にチャレンジしてみましょう!」と語る若手発明者のメンバー