物を創る、創り上げるのは人間にとって喜びであり、一寸した達成感で、手、指を使うことが心を生き生きとさせてくれているのだろう。 だが一方、人間の物創りはとんでもないものまで作り出した。武器の数々である。 戦争は多くの犠牲者を出し、歴史・文化をも破壊しつくす。 ここで私が思い出すのは〝二〇〇一年宇宙の旅〟という、五十年以上前にスタンリー・キューブリック監督の製作した映画である。 その冒頭に描かれるのは原始人類の社会のエピソードなのだが、一人の原始人類の彼︵?︶は横たわる動物の白骨の中から大腿骨をつかみ取ると残る骨を叩き、砕き始める。 やがて彼の仲間達は大腿骨を手に手に群れを成して﹁水場﹂へ向かう。そこには﹁水場﹂を我がものにする敵対するグループが居る。大腿骨を手にした彼等は﹁水場﹂を奪い返す為に手にした大腿骨で相手を威し、打ち叩く。逃げ惑う敵の中からリーダーらしき者が残り吼え続けるが、数人で攻撃し、倒れるリーダーを打ちつづけ、殺してしまうのである。 彼は勝利の雄叫びを上げ、手にした大腿骨を空高く投げ上げる。白々とした骨はスローモーションで青空を舞い、画面はオーヴァーラップして巨大な回転する宇宙ステーションとなる。 人間は手を使い始めてやがては宇宙を旅するまでに進化してきたという巧みなプロローグである。 物を創り出す、物を壊す物も創り出す、それが人間なのだろう。 今、我々の身の回りで便利に使われているものは殆どが武器の技術から生まれたものといえるし、武器として進化させられたともいえる。 スマホもインターネットからの技術であって、運転するもののいらない乗りもの、ドローンは、兵器としてウクライナやイスラエル等で使われ、多くの命が奪われている。 映画に戻ってみると、人間というものは何かを思いつくとまず闘いに使えないか、相手を倒せるものにならないかと考えるものということだ。 一九〇三年に生まれた、ライト兄弟の飛行機も、第一次、第二次の世界大戦によって僅かな時間で進化を遂げた。爆弾を多く運ぼうと爆撃機は大きくなり、戦後あのジャンボジェットを生んだのである。 一見便利そうに変わって行く社会で、人間は何処へ向かうのだろう。34KAJIMA202512いしざか・こうじ 俳優1941年東京都生まれ。1962年にテレビドラマ『七人の刑事』(TBS)でデビュー、大学卒業後劇団四季に入団。TBSドラマ『ありがとう』シリーズ(70)や、NHK大河ドラマ『天と地と』(69)『元禄太平記』(75)『草燃える』(79)で主演を務める。1976年映画『犬神家の一族』の金田一耕助役で主演。その他同監督作品の『細雪』(83)『おはん』(84)『ビルマの竪琴』(85)『四十七人の刺客』(94)など多数出演。また芸能界屈指の博学として知られ、司会者、クイズ番組の解答者としても活躍。2009年NHK放送文化賞を受賞。近年の主な出演作に、テレビ朝日『相棒』シリーズ、NHK大河ドラマ『べらぼう∼蔦重栄華乃夢噺∼』など。vol.252