16KAJIMA202512暮らしを守る砦を築く二級河川閉伊川筋藤原地区河川災害復旧(23災662号)水門土木工事特集02603
17KAJIMA202512日本最大級となる津波対策水門2011年3月,東北地方沿岸部を気象庁観測史上最大の巨大津波が襲い,宮古市には高さ8.5m以上の津波が到達した。三陸海岸の中ほどに位置する宮古市街には,過去の津波被害の経験から,宮古湾に面した海岸線および市内を流れる閉伊川の両岸に沿って防潮堤が築かれていた。しかし東日本大震災では川を逆流した巨大津波が防潮堤を乗り越え,内陸の市街地にも多大な被害をもたらした。この事態を受け,高さ10.4mの津波にも耐えられるよう,海岸線に沿った防潮堤を構築し,閉伊川河口部には津波対策水門を新設する震災の復興整備事業が計画された。従来よりもさらに高い壁で,海岸線の守りを強化する。水門は川幅いっぱいの全長約160mに及ぶ土木構造物で,4つのスパンにそれぞれ開閉式のゲートを備え,平時は船が通れる仕様となっている。5基ある堰柱は高さ最大約40m,閉門時にゲートを受け止める底版と床版は厚さ4mのRC造。高さ,幅ともに津波対策水門としては日本最大級となる。だが立ち現れるその姿は,空に伸びていくようにスマートで,遮断のための水門というよりも風景をつなぐ橋のように感じられる。「この水門は復興のシンボルとしても位置付けられていて,特徴のひとつが景観に配慮したデザインです。堰柱に付属する操作室・機械室は一般的な水門と比べてコンパクトにし,堰柱は四角形断面の四隅を斜めに面取りしています。また,管理橋は市道を兼ね,宮古市街を一望できる場所になります。外国籍の大型クルーズ船も停泊する宮古港と,三陸を代表する景勝地・浄土ヶ浜を結ぶ観光ルートの一部としても期待されています」。そう話すのは川畑勝所長。2014年の着工時から現場を担当し,2017年から所長を務めている。東日本大震災から丸15年の節目となる3月。今月の特集では,当社JVが施工中の津波対策水門建設現場を紹介する。岩手県宮古市を流れる閉伊川は,豊かな自然の中で多様な生き物を育んできた。閉伊川が壮大なリアス海岸に注ぐ河口部で,自然と向き合う大工事に挑んでいる。02603
08KAJIMA202603宮古湾閉伊川宮古市磯鶏宮古港浄土ヶ浜山口団地宮古海側から見た完成予想パース左岸と同様に構造物を構築し,完成後に仮締切を撤去する。また,管理橋に取り付く道路を川の両側につくっていく。左岸側の取り付け道路脇には,ゲートを操作するための管理棟を建設する(以上,写真4点*)左岸側の構造物ができあがったら,仮締切内に注水し,鋼管矢板や土を撤去する。その後の2期工事(右岸側)では右岸側に仮締切を築き,残る2基の堰柱を構築していく。締切部分と右岸の間に仮排水路を設け,仮排水路の上には工事用動線としての仮桟橋が設置される締切内の川底を掘り下げ,地盤改良,鋼管杭の打ち込み工事を行う。その後,水門堰柱の底版,床版,堰柱本体をコンクリートで構築する。写真は杭工事中の様子で,手前には海岸線に沿った防潮堤の構築工事を行うクレーン船も見えている川の中に鋼管矢板と鋼矢板で二重の囲いをつくり,その間に土を詰め,仮締切を設置する。水の影響を受けずに工事が行えるよう,締切内の水をポンプで抜く。陸地では工事用に防潮堤を一部解体撤去するため,代わりの仮防潮堤を築く。水抜き前の締切内でボーリング調査をしている様子が写真で確認できるSTEP1 左岸側仮締切設置2016年2月撮影自然の厳しさに直面上流を背にして左手の左岸側を対象とした1期,次いで右岸側の2期に分けて進められた工事は,いくつもの困難に直面した。まずは着工時のこと。仮防潮堤基礎工事のために掘り進めた地盤の支持深度と事前に入手していた地質・土質調査ボーリングデータの整合が取れず,至急の追加調査が行われた。この地域一帯はかつて山地だった起伏に富んだ地表が海面下に沈んだリアス海岸で,その複雑な地形のために,数mしか離れていない地点でも支持地盤の深さが大きく変わることがあるからだ。続く地盤改良工事では,過去の津波で生じた瓦礫や転石など多様な地中埋設物が多数出現。その後の基礎杭工事でも,これらの予測不能な土二級河川閉伊川筋藤原地区河川災害復旧(23災662号)水門土木工事場所:岩手県宮古市発注者:岩手県設計:ニュージェック規模:水門工(延長164.4m,津波防御高さTP+10.4m) 防潮堤工226.5m その他付帯設備一式工期:2014年3月∼2027年3月(東北支店JV施工)STEP2 左岸側水門本体STEP3 左岸側仮締切撤去・右岸側仮締切設置STEP4 右岸側水門本体・取付道路・管理橋2018年4月撮影2022年3月撮影2024年3月撮影
09KAJIMA202603KEYPERSONP1P2P3P4P5計画河床高▽TP-5.3504,00031,50015,7505,000非航路部34,8505,000非航路部34,850非航路部34,8505,000164,400航路部34,8505,0005,00039,500H.H.W.L▼TP+0.970カーテンウォール下端高▽TP+2.790H.W.L▼TP+1.590計画津波高▼TP+9.400管理橋桁下高▽TP+12.58カーテンウォール上端高▽TP+10.4007,610管理橋床版底版カーテンウォール操作室・機械室鋼製ゲート堰柱砂礫層砂質土層花崗岩層地盤改良部分シルト・粘性土層(単位:mm)右岸側仮締切の内部。人が立っている場所は川底と同じレベル。水門近くでは津波時に強い洗掘の力が作用するため,厚いコンクリートで底版・床版を築いている。写真右手前のブロックも洗掘を防ぐため,1個あたり2tの重さがある水門断面図。航路に当たる左岸から2スパン目(P2,P3間)は2枚の鋼製ゲート,そのほかの3スパンはコンクリートカーテンウォールと鋼製ゲートからなる。閉門時にはゲートが底版・床版まで降下し,カーテンウォールと一体となって津波を堰き止める。ゲートの青色は市民投票で選ばれた青森県出身の川畑所長。長い単身赴任生活が続くが,力の源は帰省のたびに妻が持たせてくれる冷凍惣菜青森県出身の工藤副所長。梓川頭首工で水門工事を経験し,本工事では監理技術者を務める。東北支店の現場は初めて中の状態に悩まされた。対岸側での2期工事では,想定外の被圧地下水の存在にも苦しめられた。そして,県内に記録的豪雨をもたらした平成28年台風10号の被害があった。河川水量と流速の急激な増加により,工事範囲への河川水浸入を防ぐ仮締切周囲で,激しい流れが川底の土砂を削り取る洗掘現象が発生。その深さは10mにまで及び,仮締切は損壊,内部に水が流入する事態となった。自然を相手にする土木工事の厳しさに現場は何度も頭を抱えては,その困難を乗り越えてきた。早期完成へ知恵を振り絞る災害復旧という使命と,かつてない規模という課題を併せ持つこの現場。工藤匡貴副所長は「工程短縮」を常に意識してきたという。「大型水門にデザイン性が加わった複雑な構造に,読めない地層,隣接している他の復興工事との取合い,漁期や航路の制約もあり課題山積でした。発注者・設計者と打合せを重ね,追加調査や仮設も含めた構造変更,施工ステップ見直しなどをJVから提案していきました。その結果,海岸線の防潮堤はプレキャストに,操作室・機械室はSRC造に変更し,他工事のヤードと交錯しない水面から施工。通常ドライ状態で施工する管理橋や機械設備施工者によるゲート設置も水上架設にし,仮締切の移設と同時並行することで工程を短縮しています」。水上工事について,右岸全体の工事を管理する大久保和博次長は次のように話す。「例えばクレーン船は揺れる波の上で玉掛などの作業を行うので,安定した地上に比べて事故リスクは高いです。波や干満差の影響を受けるため,常に気象,海象を気に掛け,天気予報を注視し工事の実行・中止を判断しています」。思い通りにならない自然条件と向き合い,日々現場に目を配る。特集右岸左岸
10KAJIMA202603KEYPERSON本工事では最盛期には3団の船班に分かれ水上工事を行った。「現場を通り抜ける一般船舶の航路を常時確保するため,漁協などへの航路変更の連絡や調整が欠かせません。この現場では発注者である岩手県が調整役を担ってくれており,円滑に進行できています」と,大久保次長は感謝を口にした。設計への変更提案の一例がカーテンウォールの内部構造だ。水門のカーテンウォールは建築での用語とは異なり,津波の圧力を受ける躯体を指す。約40mのスパンをもつカーテンウォールはPC(プレストレスト・コンクリート)を採用した。工事を担当した荒渡光貴次長はこう話す。「PC桁は一般的に,コンクリート硬化後にスパンの両端,本工事では堰柱側からコンクリート内のケーブルに油圧ジャッキで引張力を掛け,ケーブル端部の処理を行い引張力を解放するという順序で施工します。しかし,それではカーテンウォールが完成するまで堰柱の構築が進められません。そこで函型カーテンウォールの内部からケーブルを引っ張る方法を提案し,両工事の同時施工を実現しました」。施工の手順を考慮して設計を考える,総合建設業の広い視野があっての提案だった。杭工事の新工法採用も奏功した。仮防潮堤での回転圧入による花崗岩削孔実績をきっかけに,1期の杭工事の一部を打撃工法から回転圧入工法に変更。騒音・振動を抑え,後述する河川生物への配慮にもつながった。2期では改良された新工法により,効率的な杭配置が可能になり,工事全体がスピードアップした。自然と共存する工事宮古市は本州有数の「サケが獲れるまち」。川と海の接点である河口部での本工事では,環境への影響を特に注視し,漁業との両立が目指された。「海で青森県出身の大久保次長。所員とは「プライベートでも親しく,何でも言い合える間柄」入社時から東北支店に配属され,「現場配属当初は雪に驚きました」という福岡県出身の荒渡次長(左)函型PCカーテンウォールの構造。黄色い線がコンクリートにプレストレスをかけるケーブル。赤色で示した部分にケーブル緊張端部があり,函の内部に技能者が立ち入りケーブル端部の処理ができる。(右)カーテンウォール内部*あらかじめケーブルを配置し,コンクリートを打設。コンクリート硬化後,桁内の緊張端部からケーブルを引っ張る引っ張る引っ張る緊張端部固定端部人通孔人通孔固定端部2期工事・杭工事の様子。回転圧入工法を採用し,昼夜施工による工程短縮を図った(2024年3月)*緊張端部
11KAJIMA202603成長したサケが故郷の川へ上する秋から冬にかけての4ヵ月間と,人工ふ化させた稚魚を放流する5月中旬は,水中での振動や騒音を伴う作業は行わない取決めを結んでいます」と川畑所長は話す。また,現場は毎年,閉伊川漁業協同組合が主催する閉伊川支流でのアユ,ヤマメ,イワナなどの稚魚放流会に,近隣の自治会・子供会育成会と一緒に参加している。「子どもたちが水に触れて楽しそうにしている姿を見ると,自然と共存するための工事の意義を改めて感じますし,明日からもまた頑張ろうという気持ちが湧いてきます」(川畑所長)。震災から15年「着工当初は周辺でも多くの工事が行われていました。復興工事のために期間限定のコンクリートプラントもあって,3ヵ所のプラントから生コンクリートを調達して一日で1,000m3を打設する日もありました。他社の現場にも,この日は水門のためにコンクリートを使わせてくださいと言って工事の調整をしてもらっていましたよ。建設業がみんなで協力して復興工事をしていました」と工藤副所長は振り返る。川畑所長はこう続けた。「着工時と比べ,いまは普通の生活が戻ってきていると感じます。この15年間は,震災・復興だけでなくいろいろな環境変化がありました。サケの漁獲量は地球温暖化や海水温上昇の影響で日本全体で減少してきていますが,いま宮古では新たにトラウトサーモンの養殖に力を入れています。東北人の真面目で前向きなエネルギーを間近に感じていますね。この先,宮古のみなさんに安心安全な日々を過ごしてもらえるように,私たちは着実に水門をつくるんだという気持ちで臨んでいます」。予定工期はあと1年間。住民に安心を届けられる日はもうすぐそこにある。右岸側仮締切内への注水を翌日に控えたJV社員の集合写真内陸側の閉伊川左岸から見る水門。閉伊川を横断する管理橋は市道を兼ね,宮古市街を一望できる場所になる着工してから毎年参加している稚魚放流会。昨年6月は,閉伊川支流山口川で,ヤマメとイワナを放流した*特集*:現場提供写真写真撮影(特記ない場合):大村拓也(2025年12月撮影)