最終回未来の地図はどうなるか1 「TheBombingofRafah」(2015年) ▲2014年のガザ侵攻において最も激しかった爆撃の一つを対象に,複数の画像や映像をもとに空間モデルを構築し,被害状況や爆弾の詳細を検証した。イメージ・コンプレックス。ラファのブラック・フライデー。 ▲ラファの全体図には以下の要素が含まれている。収集した全写真・動画からの視点と煙柱の測定値。衛星画像で観測された空爆と砲撃によるクレーター。移動中の戦車と装甲車両の進路。基準点。トンネルが存在した可能性のある位置。ガザ地区の住民の証言で記述された弾道。(2014年8月1日午前11時39分に撮影されたラファ東部地域のプレアデスの衛星写真を使用)https://forensic-architecture.org/investigation/the-bombing-of-rafah図版提供:ForensicArchitecture12KAJIMA202603
手法は,私たちがものを見る目や感じ方にも一石を投じるものだ。渡辺信一郎原作・監督のアニメーション「LAZARUS ラザロ」2 は,近未来の人類に訪れる,文字通り絶体絶命の状況から幕を開ける。天才の呼び名も高い科学者デニース・スキナーが開発した鎮痛剤「ハプナ」は,万能の効き目で瞬く間に世界中で普及する。ところが,そこには隠された狙いがあった。薬の発表から3年後,スキナーはヴィデオメッセージで人びとに伝える。ハプナを服用した者は3年で死に至ると。その効果を打ち消す薬が欲しければ,世界のどこかにいる自分を探し出せというわけだ。この任務にあたったのが訳ありのメンバーで構成された「ラザロ」だった。2050年代を舞台とする同作には,ラザロの一員でウィザード級のハッカー,エレイナがコンピュータを駆使して情報収集を行う様子も描かれている。彼女の操作に反応して球状のディスプレイに次々と映し出されるデータ群は,世界の状態から必要なも地図はこれからどんなふうになってゆくだろう。来し方を眺めてきた最後に,行く末を想像する手がかりをいくつか見てみたい。冒頭の図は,研究機関フォレンジック・アーキテクチャーによるものだ。2010年に建築家のエヤル・ヴァイツマンらが始めたプロジェクトで,通常は国家機関が用いるフォレンジックス(科学捜査)の手法を,国家が隠する事件の解明に使う。例えば,殺人や爆破などの現場について,監視カメラの映像,人びとが撮影した写真,SNSへの投稿,現場に残る物と痕跡などの断片的なデータを集め,コンピュータ上に構成した現場の空間モデルに関連づけて,それぞれの断片だけでは見えない出来事の推移を浮かび上がらせる試みである1。ヴァイツマン自身が指摘していることだが,そうしたモデルがどこまで妥当であるかの検証には慎重を要する。とはいえ,放っておけば闇から闇へと葬り去られる事件に,技術とデータを駆使して従来とは異なる光を当てる2 「LAZARUSラザロ」(2025年)「LAZARUSラザロ」Blu-rayDiscBOXVol.1,アニプレックス,2025年。第3話,15分30秒。図版提供:MAPPA3 「gogh:FocuswithYourAvatar」(2024年,ambr)図版提供:著者(キャプチャ)214KAJIMA202603
pp.06–15 デザイン―江川拓未(鹿島出版会)のをリアルタイムに抽出・構成・表現する情報統合マップでもある。黎明期の映画を彷彿とさせる無鉄砲で緻密なアクション,洗練された音楽と映像の快楽と,数々の痛切な社会批判があいまって放映時は毎回目が離せず,後にはBlu-rayディスクも手にしたことを蛇足ながら付記したい。現在のパソコンは,数万規模のファイルを扱うことができる。私も1万点ほどの書籍,数千曲の音楽,数百本の映画をはじめとするデータをPCの記憶装置に溜め込んでいる。こうなるともはや何がどこにあるかも分からないし,検索だけで対応できるものではない。だが,困ったことに目下のコンピュータは,そのような量のデータを人間が扱いやすいように設計されたものではない。せめてもう少しどこに何があるかを把握できるよにするには,適切な地図が要る。例えば,PCのデスクトップを見た目から部屋のような場所にして,幾度も使ううちに自然と覚えてしまうようなインターフェイスにできまいか。アプリ「gogh:FocuswithYourAvatar」は,コンピュータ上に自分だけの小さな部屋を作って,勉強や作業に集中する手助けをするツールだ3。この部屋の棚に本やアルバムの見た目をしたファイルを配置してゆけば,自分だけの図書室のようにPCの記憶装置を扱えるのではないか,とそんな夢想をしている。流動する広くて多様な世界を,厖大で手に負えないネットやデータを,あるいは自分の脳裡に去来するものを,それでも身の丈で扱えるようにすること。私たちには,想像と思考のツールとしての地図が必要なのである。山本貴光 TakamitsuYAMAMOTO文筆家,ゲーム作家,大学教員。著書に『文学のエコロジー』『記憶のデザイン』『マルジナリアでつかまえて』『文学問題(F+f)+』『「百学連環」を読む』他。共著に『図書館を建てる,図書館で暮らす』(橋本麻里と),『高校生のためのゲームで考える人工知能』(三宅陽一郎と),『人文的,あまりに人文的』(吉川浩満と)他。2021年から東京科学大学(旧東京工業大学)リベラルアーツ研究教育院教授。34月号より新連載「ボールパーク 都市のなかの田園」が始まります。ご期待ください。15KAJIMA202603