04KAJIMA202604鹿島の技術とひと特集

05KAJIMA202604次の100年をつくる挑戦今月の特集は,鹿島の技術力と,それを創り,育む社員の姿に迫る。一つひとつの技術,一人ひとりの新たな挑戦が礎となり,顧客,さらにその先の社会に貢献する「次の100年」を築いている。

06KAJIMA2026042024.092024.09建物を揺れから守る 鹿島は,地震大国日本の建設会社として,人々の安心・安全を守る建物をつくるため,制震技術の開発に長年注力している。業界に先駆け,制震構造の研究を行い,日本初の本格的な建物用オイルダンパや超大型TMD※1などを開発,様々な建物へ適用してきた。 その中で,現在,鹿島を代表する最新の制震技術が「HiDAX®-Re」と「E3SKY®」だ。シンプルな構造が発展につながる 鹿島式高性能オイルダンパ「HiDAX※2シリーズ」は,既存建物の制震改修や大型超高層ビルの建設など,建物に応じた性能を取り揃え,数々の超高層ビルに導入されてきた。近年では,ダンパ内部の制御弁を最適なタイミングで開閉させ,オイル流量をコントロールする鹿島独自のロジックを用いたオイルダンパ「HiDAX-e」や,地震の揺れを利用し建物の揺れを止める振動エネルギー回生システムVERS※3を搭載した「HiDAX®-R」を開発している。鹿島の制震技術開発を統率する栗野副所長は「技術は普及・展開することが重要です。HiDAXの開発当初,複雑で高機能な装置を構想していましたが,思い切ってシンプルな仕組みへ方向転換しました。この決断が,普及型のHiDAX-eやエネルギー回生式HiDAX-Rなど,時代のニーズに合わせた発展形へとつながる鍵となりました」と振り返る。そして2025年,世界最高レベルの制震効率を発揮するHiDAX-Reが誕生した。 栗野副所長のもと,HiDAX-Reの開発の中心となっているのが福田グループ長。この技術の特長は「電気を使わずに建物の揺れを止める環境配慮型のオイルダンパ」だという。開発に伴い,電気不要の仕組みを構築し,油圧装置の改良などを行ってきた。「従来型VERSの作動には電気が必要でしたが,電気不要とすることでVERSの効果を構造設計に取り込むことが可能になりました。本技術の開発には,これまでの開発で培った技術を最大限活用しました」と説明する。現在は,普及に向けたエビデンス収集のため,実適用した建物での装置観測を行っている。 福田グループ長は新技術の誕生や発展について次のように話す。「ダンパの開発前に油圧シミュレーション解析を行いました。当時の最新ソフトは精緻な反面,パラメータが多くて扱いにくく行き詰まったことがあります。その時,HiDAXの開発に携わった先輩から,シンプルなモデルを使い自分でプログラミングした方がいいと助言をいただきました。先人のノウハウを活用できたことで開発を進められました」。 過去の技術を応用し,活かす。この経験がHiDAX-Re誕生につながった。先入観の排除が新技術を生む TMDと呼ばれる錘型の質量ダンパは従来,風揺れ対策が主であった。鹿島はこのTMDを,制震装置として発展させ,D3SKYを開発。屋上に錘を設置するだけなので,既存建物の有効床面積減少などを解決し,「居ながら®工事」が可能だ。 このD3SKYをさらに発展させたのが鹿島式増築制震技術E3SKY※4。開発を担う矢口主任研究員はこの技術の特長を「既存建物の延床面積拡大など,増築部分がそのまま制震装置として機能する制震技術。錘でしかなかった部分が,増築部分として日常的に使用できる画期的な技術です」と説明する。 アイデアの源は,矢口主任研究員が中心となって建築設計本部有志で参画した,2022年度日本建築学会技術部門設計競技最優秀賞受賞の既存建物の再生技術世界をリードする制震技術HiDAX-Re/E3SKY※1TunedMassDamper。建物に設置した錘の揺れにより,地震時の建物振動を制御する※2HighDAmpingsystemintheneXtgeneration※3VibrationEnergyRecoverySystem※4Energydissipation×Expansion×EnvironmentofSimpleKajimastYle 地震による建物の振動エネルギーを一時的に補助タンクに蓄え,それをダンパの制震効率を高めるアシスト力として利用し制御エネルギーに変換するVERSを搭載。電気を一切必要とせずエネルギー回生を可能にする。建物制震用オイルダンパとして世界最高レベル(一般のオイルダンパの約4倍)の制震効率を発揮する。 なお,HiDAXシリーズは,都市部の超高層ビルを中心に多く導入され,現在の適用件数は71棟(設計,施工中を含む)に達している。TechSpotlight-1HiDAX-ReHiDAX-Re。電気不要でVERS作動が可能

TechSpotlight-207KAJIMA2026042024.092024.09提案だった。「日本は成熟したストックマーケット時代に突入し,今後は,既存建物を使い続けていく流れになると思います。中低層建物の耐震性と機能向上の両立を実現するE3SKYは,制震技術の新たな形を確立しました」と力を込める。アイデア誕生の鍵は「目の前の現象に向き合い,先入観を取り払うこと。E3SKYはD3SKYの技術を平時にも使えないのかという,先入観を取り払ったからこそ誕生しました」と語る。 E3SKYは現在,鹿島技術研究所本館に適用するため,工事が進んでいる。技術とマインドを継承し,次世代へ 鹿島の技術開発の強みは,過去の技術を検証し,時代に合わせ昇華させていくところにある。「技術を継続していくには,技術が生まれた背景を理解し,開発した先人のマインドを継承することが大事です。それが今の鹿島の競争力につながっていま栗野治彦(右)福田隆介(左)矢口友貴(中央)技術研究所副所長1991年入社。小堀研究室,建築設計本部構造設計先進技術グループを経て,現職。入社以来,制震技術開発に携わる。HiDAXシリーズの生みの親であり,全国発明表彰「文部科学大臣賞」を受賞技術研究所建築解析グループグループ長1998年入社。情報システム部(当時)にて建築構造解析を担当。以来,構造解析が専門。「制震技術と構造解析はつながるものがある」と,栗野副所長から声が掛かり,制震技術の世界へ飛び込む技術研究所建築構造グループ主任研究員2008年入社。建築設計本部で生産施設などの構造設計を担当。東日本大震災の後,同部先進技術グループで制震技術の研究・開発,実建物への適用・展開を経験。学生時代から制震技術を学ぶ役職は取材当時特集 鹿島の技術とひと受け継がれた技術とマインドがつなぐ,新たな制震技術へのバトン鹿島技術研究所(東京都調布市)屋上。この場所にE3SKYを導入した増築階が建設される 増築部を既存建物に対する大重量TMDとして利用する。TMDは,建物にダンパを介して錘を取り付け,固有振動数を最適に調整することで振動を抑制する仕組みを持つ。これにより,非常時での耐震性向上と,常時での建物機能向上を両立。増築部として設置するため「居ながら工事」を可能とする。 従来のTMD制震装置と比較し,錘重量を格段に大きく取ることで,建物の地震時変形を大きく低減できる。また,既存建物の構造特性の多少の変化に対して,制震効果の変動が少ないなどの特長を持つ。E3SKYphoto:takuyaomuraE3SKYイメージ。枠内が増築制震部分E3SKY構造概念図す」(栗野副所長)。「技術開発成功の裏には,栗野副所長のような『絶対にこの開発を成功させたい』という,強い熱量を持ったエンジニアが必ずいます。それがさらなる技術の発展へとつながります。その姿勢を,開発に取り組むメンバーと共有し,次世代へつないでいけるよう,これからも精進します」(福田グループ長・矢口主任研究員)。 これから新たに誕生する技術にも,彼らのマインドはしっかりと受け継がれていくだろう。

08KAJIMA202604施工管理から維持管理まで 光ファイバは通信技術として開発されたものだが,光ファイバ自体がセンサとなり,ひずみ・温度・振動の分布計測が可能なため構造物のセンシング手段としても注目されている。鹿島は,高い耐久性を備え,半永久的に計測を行えることや,信号が伝わる際の情報損失が少なく,長距離の計測が可能であるなど多くの特長を持つことに着目し,高性能光ファイバ技術を活用した独自の測定器を開発。汎用性が高いことから,橋梁,トンネル,ダム,のり面など,様々な工種で業界に先駆けて実適用してきた。そして,安全や品質確保を目的とした施工管理での活用にとどまらず,損傷の有無や部位を把握する維持管理における活用へと発展させている。 光ファイバセンシング技術の開発に携わり,本技術の改良や普及を主導する永谷グループ長は「構造物に光ファイバを組み込むことで,“内側”から遠隔でタイムリーなモニタリングが可能となるため,人手に依存しない安心・安全な管理が可能になります。特に,人海戦術による点検が必要な,大きな道路や下水道,河川堤防など長大構造物での活用に効果があると考えています」と説明する。また,「鹿島には,光ファイバをどのように設置すれば効果的かなど,建設会社としてのノウハウがあります。さらに熱海ビーチライン※での実証も含めた独自の知見を活用することができます」と強みを強調する。膨大なデータの解析 センシング技術とともに重要なのは,光ファイバから得られるデータの解析技術だ。毛利研究員はこの技術開発の一翼を担う。「例えば道路に光ファイバを敷設した際には,車両の重量・位置・走行履歴などの振動データ,舗装の温度データ革新的インフラセンシング光ファイバ が計測できます。これらの情報を組み合わせることで,舗装の劣化進行が懸念される箇所を抽出できます」と説明する。その一方で,「光ファイバから得られる計測データは膨大です。実際に起こった現象との関連性や相関性を丁寧に結びつけていく必要があり,この分析は容易ではありません」と苦労を語る。  膨大なデータと日々向き合う毛利研究員だが,「光ファイバがもたらす情報の価値を最大化すべく,丁寧に検証を続けています。計測データから,新たな発見があるとやりがいを感じます」と話す表情からは,ひたむきさと充実感が伝わってくる。未来社会を支える技術へ 永谷グループ長はこれまでの開発を振り返り,「光ファイバの敷設と言っても,初めは道路にテープで貼るところからスタートしました」と笑う。「研究は失敗してなんぼ。スピード感を持ってアクションし,不具合が 鹿島とSUBARUの2社は,2024年9月からスバル研究実験センター美深試験場(北海道中川郡美深町)において,鹿島の光ファイバセンシングおよび,SUBARU技術研究所の協調型自動運転※1の技術を用いた路車協調型自動運転※2の共同研究を進めている。 この研究成果をもとに,阪神高速道路の「コミュニケーション型共同研究制度」を活用し,2024年12月から「光ファイバセンシング技術を用いた道路インフラの自動運転支援技術」に関する実証実験を開始した。 大阪・関西万博が開催された2025年,2社は,その会場へのアクセス道路として使用されていた「阪神高速道路淀川左岸線(2期)海老江区間」(当社施工)に,大阪市協力のもと,光ファイバセンサケーブルを敷設。当該区間においてシャトルバスや実験車両を走行させ,道路に作用する走行荷重によるひずみや振動を検知・計測し,道路モニタリングを行った。 この道路モニタリングによってリアルタイムに得られる車両位置情報を自動運転車両と情報共有することで,車両位置の検出が困難なトンネル内での合流をユースケースとして,路車協調型自動運転の実証実験を行っている。日本初!路車協調型自動運転の実証実験TechSpotlight※1自動運転車両と周辺を走行する車両およびサーバーなどとの間で情報を通信することにより自動運転車両の走行を支援する自動運転システム※2自動運転車両と道路インフラ,周辺を走行する車両およびサーバーなどとの間で情報を通信することにより自動運転車両の走行を支援する自動運転システム路車協調型自動運転の実証実験の様子※鹿島と鹿島道路が設立した合同会社が運営する静岡県熱海市の自動車専用有料道路。一部区間を試験区間とし,道路に敷設した光ファイバで様々な実証実験を行っている

09KAJIMA202604あれば即座にリバイスする。その繰り返しです」と話す。技術開発が進むのと同時に,近年はインフラの維持管理を取り巻く環境も大きく変化している。「高度経済成長期につくられた構造物の老朽化に伴う問題が増え,インフラマネジメントは転換点を迎えていると感じています。施設の管理者となる顧客にヒアリングすると,危機感の高まりが伝わってきます。この技術を通じて,“つくって終わり”ではなく,その先の維持管理の重要性を改めて認識する機会となっています」と明かす。 現在,光ファイバセンシング技術は,自動運転への活用(TechSpotlight参照)など,未来社会を支える技術としても存在感を高めている。「凍結など路面の状態や環境情報をモニタリングし,車両の運行データと連携させることで,より安全かつ効率的な交通システムの構築が可能になります。これが実現すれば,日本の競争力を高めるものにもなるでしょう」と今後の展望を力強く語った。特集 鹿島の技術とひと構造物を内側から診る光ファイバの敷設サンプル。ロードカッターを用いて深さ数cmに光ファイバを簡易に埋設することができる光ファイバに光が入射すると,光ファイバ内で散乱を起こしながら伝搬する。その光の信号を測定器がキャッチし,ひずみや温度,振動を計測する。高性能光ファイバは分布計測が可能で,計測時間は秒単位。ひずみは±1μ単位という精度の高さ阪神高速道路淀川左岸線(2期)海老江区間にて。白線部分に光ファイバが敷設されている光ファイバ計測による3台のダンプ(時速20km・車間距離10m)通行検知例。グラフの色は振動の強弱を示し,重量の推定に用いる永谷英基(奥)毛利輝(手前)技術研究所土質・地盤グループグループ長(取材当時)1997年入社。技術研究所と現場勤務を経験し,社内外双方のニーズにマッチした技術開発を主導する。土質・地盤グループ員は全国各地の現場を飛び回るためノマドワーカーのようと話す技術研究所土質・地盤グループ2024年入社。現部署に配属。現場配属を予想していたため「意外だった」と入社当時を振り返る。現在は光ファイバのニーズと可能性の大きさにやりがいを感じているphoto:takuyaomura

10KAJIMA202604GREEN×EXPO2027のシンボル 大阪・関西万博に続く,日本での国際博覧会,「GREEN×EXPO2027(2027年国際園芸博覧会)」が,2027年3月19日から9月26日まで横浜で開催される。GREEN×EXPO2027のテーマは「幸せを創る明日の風景」。鹿島はここに出展予定で,会場のシンボルとなる「KAJIMATREE」と名付けた高さ約60mの木造タワーを手がける。 KAJIMATREEの設計を担うのは,木造ビルの設計経験などを有する設計者たち。注目ポイントについて,設計を主導する原嶋CFは次のように話す。「大阪・関西万博で人気を博した大屋根リングで使用された木材をリユースしてつくります。形状や寸法を最大限活かしながら,自然と人が共栄する未来風景の象徴として,木造タワーを出展します」。木材は,万博サーキュラーマーケット「ミャク市!」の入札を通じて調達。強度実験や補修作業を経て使用される。記憶に強く残るものを 大樹や菖蒲のような植物,雅楽の楽器「笙」にも見えるファサードは,見る人にとって多様な印象を与える。さらに自然との共生をイメージした「大地と空をつなぐ」有機的な存在として,大地から伸びる姿を演出する。原嶋CFとともに意匠設計を担う小林ACFは「足元には大樹の根のように,足を踏ん張り大地のエネルギーを吸い上げ,タワーの上昇感を際立たせる外構デザインをしています」と説明する。 小林ACFは前例のないタワーの設計に骨を折った。「『どんなタワーをつくろう…』から始まっているため,何度も何度も線を引き直しました。それでも『見たことのないものをつくろう!』という気概で乗り越えて完成予想イメージ。2026年6月の着工を目指す KAJIMATREEでは,鹿島が長年,制震のパイオニアとして培ってきた技術を活かした木造制震技術が採用されている。この技術は,日本の伝統建築に着想を得たもので,複数の木材を鋼製のダンパを使って組み合わせ,風や地震に対してしなやかにエネルギーを吸収する仕組みをもつ。高いタワーなど塔状の建物は,風や地震による横からの力によって建物全体が曲がるような変形が大きくなる特性がある。KAJIMATREEは,この特性に対して効きがよくなるようにダンパを配置して建物の安全性を高める「組木制震システム」を導入する。 この制震システムは,2種類のダンパによって構成されている。ひとつは柱と柱の間に設置される「柱間制震ダンパ」であり,鹿島の新東北支店ビルで採用された「欄間TechSpotlight組木立面変形イメージ※鹿島の優位技術である制震技術と保有技術である純木質耐火集成材を組み合わせて開発した木造制震構造。日本の建築様式にみられる「欄間」に着想を得て,欄間状のスペースに制震ダンパを設け,木部材の剛性と耐力を最大限利用しながら地震エネルギーを吸収する制震システム境界梁制震ダンパ柱間制震ダンパ層の中間に配置し振動エネルギーを吸収するとともに「組木」を強化するスパン中央に配置し振動エネルギーを吸収する組木制震システムKAJIMATREE大阪・関西万博の大屋根リングをリユースした木造タワー制震システム™※」を縦方向に応用したものである。もうひとつは建物の四隅にある柱の集合体(コア)間を連結する梁に設置される「境界梁制震ダンパ」。これらのダンパは連携して風や地震のエネルギーを吸収することが可能だ。一つひとつの木部材が一体となって大きな外力に抵抗できる特性をもっている。揺れ風荷重地震荷重

11KAJIMA202604特集 鹿島の技術とひときました」と2年がかりで粘り強く形を進化させてきた。「バーチャル技術なども進化していますが,建設業の出展としてリアルなもので表現することにこだわりました。見てくれた人の記憶に強く残るものになったらうれしい」と笑顔で話す。このタワー,構造がすごい 原嶋CFは「構造がとにかくすごい!」と強調する。構造設計を担当する高谷GLは,「これほど大規模な木材のリユースは前例がなく,構造強度の評価など新しい取組みが必要となりました。技術研究所と連携し,接合部分など十分な強度を保てるように確認しながら慎重に設計を進めています」と語る。 このタワーでは,鹿島が新たに開発した木造制震技術「組木制震システム(TechSpotlight参照)」を採用する。高谷GLは,「この技術は建物の四隅に構造材を集約配置できるものであれば,実際の超高層ビルにも展開できると考えています。上に向かって少しずつ柱が減る架構で,空間づくりに向いています」と先々の応用を見据えている。考えを巡らせるきっかけに 原嶋CFはKAJIMATREEを「豊かな自然と森が生み出す木材と,人が培ってきた技術を融合させ,持続可能な未来社会の在り方を体現するものです」と説明する。「万博の施工から約2年の間,屋外に晒されていた木材は,特に外周側がグレーに変色しています。性能が落ちているように見えますが,実はそうではなく表面を少し削るだけで鮮やかな木肌が現れ,その生命力の強さに驚かされます。また,木材には様々なパビリオンのサインなどが付いているなど,大阪・関西万博の記憶が随所に残っています。木材が持つ森の記憶や万博での記憶,さらに施工に携わった方々の想いに触れながら眺めていただき,物を大切にする気持ちや,人の想いを未来へつなぐ大切さ,そして自然と人が共栄する未来の都市の在り方について考えを巡らせるきっかけになればと願っています」。 リユース木材に,鹿島の最新の制震技術を組み合わせたKAJIMATREEは,どのような「明日の風景」をみせてくれるのだろう。模型(KAJIMATREEを真上から見る)※外構計画は今後変更となる場合がありますリユース木材の前にて。穴の開いている箇所はそのまま接合部分に利用したり,埋木したりして構造材として使う自然と人が共栄し,調和的な関係を築く未来の象徴をつくる原嶋宏樹(中央)小林春香(左)高谷真次(右)建築設計本部構造設計統括グループ(医療・教育文化・商業)グループリーダー(以下,GL)1996年入社。建築設計本部をはじめ,米国出向や技術研究所勤務など構造設計に関わる幅広い業務を経験。万博会期中は大屋根リングが損傷しないでほしいと祈っていたそう建築設計本部建築設計統括グループ(木推進グループ)チーフ(以下,CF)2006年入社。これまで商業ビルやオフィス,教育施設,音楽ホールなど多様な建物の意匠設計を担当。KAJIMATREEをきっかけに建築分野や鹿島を志す人がいたらうれしいと話す建築設計本部建築設計統括グループ(木推進グループ)アシスタントチーフ(以下,ACF)2021年入社。HANEDAINNOVATIONCITYなど,鹿島の開発プロジェクトの意匠設計を担当。机上だけでなく,ものづくりを最後まで見届けたい!という想いが入社の決め手photo:shinjiroyamada

12KAJIMA202604建設現場で課題解決の切り札となるロボット 昨今,課題となっている建設業の担い手不足や高齢化に伴い,働き方改革や生産性の向上を図る建設ロボット。鹿島では,成長戦略のひとつに,デジタル化の推進による業務効率化を掲げ,建設工事でのロボット技術の実装・展開を進めている。 建設が進む都内の大規模都市開発の超高層ビル工事では,建設ロボットを導入。その開発に情熱を注ぐ若手社員がロボットとともに活躍している。耐火被覆吹付ロボットやシステム天井ボード取付ロボットのシステム設計から運用までを担う松田担当は,鹿島のロボットの強みを,「現場での使い勝手にこだわっていることです」と自信をもって話す。検証と課題解決を重ね,使いやすいロボットを生み出す 建物の柱や梁に鉄骨を使用する場合,鉄骨の耐火性を高めるため,耐火被覆材を吹き付ける作業が行われる。その作業は,多くの粉じんが飛散するため,技能者は保護具の装着が必要だ。その作業を代わって行うのが耐火被覆吹付ロボット。従来,BIMや図面データを読み込ませロボットを動かしていたが,現場では資材の位置など常に状況が変化する。松田担当は「その度にロボットが混乱し,自身の位置を見失っていました。それを解決するため,ロボットの上部に3Dスキャナを載せ,点群データを用いて,ロボットが吹付対象の梁を認識できる仕組みを構築しました」と説明する。 吉田担当は,ロボットアームの制御と動作検証用のシミュレータ機能の開発を担う。「最初にシミュレータ上で機能や動作を検証した上で,現場環境を模擬した実物大モックアップで実際に動かすという流れで開発しています」。これにより,細かいソフトウェア変更もしやすくなり,開発スピードも向上した。 清水担当は,システム天井ボード取付ロボットの開発を担当し,ロボットがボードの取付位置に移動する機能の設計を担う。「自分たちが実際に開発してつくったロボットが現場できちんと動き,ちゃんと役に立っている姿を見た時にやりがいを感じます」と話す。 現場でロボットが当たり前に働く未来を目指して,これからも開発に情熱を注いでいく。松田陸(中央)メカトロニクス・ソリューション部機械技術イノベーション室吉田武史(右)清水宏太(左)2022年入社。高層マンション現場の施工管理や技術研究所で点群データを用いた物体検出技術を研究し現職。ロボットが作業対象物を認識する機能「センシング」を担当2023年入社。学生時代はロボットアームの研究を行い,そこで培った専門知識を,担当する耐火被覆吹付ロボットに活かす。ロボットアームを動かす機能「モーション」を担当2024年入社。部内の研修でロボットの面白さに惹かれ,建設ロボットの開発を志望。ロボットが自分の位置を認識し移動する機能「ナビゲーション」を担当メカトロニクス人とロボットの協働耐火被覆吹付ロボット現場で活躍するシステム天井ボード取付ロボット人と調和して作業するロボット技術の開発photo:takuyaomuraphoto:takuyaomura

13KAJIMA202604棚田OPSODIS1スマート農業の実証地域と一体で日本の伝統を守り,活かす立体音響スピーカー棚田を未来へつなぐ 棚田は米の生産に加え,洪水軽減や土砂災害防止,生物多様性保全など様々な役割を担う。しかし,傾斜地という立地や農道の未整備,担い手不足などから耕作放棄地が増加している。鹿島は,新潟県十日町市の棚田(ふれあいファーム三ヶ村)で,地域と連携したスマート農業の実証・導入を行い,持続可能な棚田の保全に取り組む。その取組みにより,自然共生サイト※の認定も受けた。 野中副主任研究員は「棚田やため池,雨量のデータ収集を行い,それを基に数値解析をし,豪雨災害防止のモデルづくりや,スマート農業への通信環境整備などを行っています」と取組みを説明する。三浦研究員は「この分野は鹿島の中でも珍しい取組みで,やりがいを感じます」と話す。棚田の在り方を議論するため,地域のワークショップに参加する寺田主任研究員は,「そこに住んでいる方々と連携し,私たちの想定とは違った考えに面白さを感じます。地域によって地情熱は不可能をも可能にする 鹿島と英国サウサンプトン大学が共同開発した立体音響技術「OPSODIS®」。鹿島はこの技術を搭載した小型スピーカー「OPSODIS1」を開発した。その特長は,ひとつのスピーカーで左右,前後,上下,遠近の立体空間を再現し,聴く者に没入感と臨場感形や気候は異なりますが,ここでの取組みをモデル化し,他の棚田にも広げていきたいですね」。を与えること。ヘッドホンは,左右の耳に異なる音やスピードで届けるため,立体的な音の再現が可能だが,スピーカーでは不可能とされていた。村松部長は「OPSODISは,それぞれの耳に届く不要な音を消し,左右の耳が独立した音を拾うことで立体的な音の再現を可能にしました」と原理を説明する。 棚田を愛する3人の想いが,美しい景観と伝統を未来へつなげる。 これを鹿島の技術として広めたいと,商品化に乗り出した。建設会社では異例のスピーカー開発。そこには村松部長の情熱があった。「試聴した時の衝撃は今でも忘れません。絶対に売れる!という強い想いでここまで来ました」と話す。 一般商品販売が未経験の鹿島は,ファーストステップとしてクラウド野中沙樹副主任研究員(中央)寺田裕佳主任研究員(左)村松繁紀三浦奈都(右)2023年入社。同部署に配属。月に1度は棚田を訪れ,数値解析を行う。棚田は景色も良く,綺麗な水が流れ美味しいお米がつくれる場所。存続のために力を尽くしたいと,棚田愛は誰にも負けない2020年入社。土木構造グループを経て現職。棚田の保全を担当する。初めは棚田のある山間部の天気の変わりやすさや,生き物の多さに驚いたそう2023年入社。前職の国連で政府の都市計画サポートや途上国開発ローン事業などを経験。学生時代に設計を学んでいたことから,キャリアを活かしつつ建築に携わりたいと思い,鹿島に入社技術研究所立体音響プロジェクトチーム/オプソーディス・リミテッド東京事務所事業推進統括部長1993年入社。建築設計本部,カジマヨーロッパを経て現職。2002年にOPSODISを知り,「こんな技術が鹿島にあるのか」と衝撃を受けた。本業の傍ら,オペラ歌手としても活動するため,音響へのこだわりは人一倍強い技術研究所サスティナブルソサエティラボファンディングを開始。9.2億円以上の支援金が集まり,今年3月,一般販売が開始された。今後,海外でのビジネス展開も予定している。 村松部長は「音楽や映画だけでなく,環境音を流すことで実際にその場所にいるような気分になれる,癒しと幸せを感じられる存在にしたい」と,最後に夢を語ってくれた。日本オーディオ協会「音の匠」など多数の賞を受賞したOPSODIS1OPSODIS1公式HP今年3月から一般販売が開始された不可能を可能に特集 鹿島の技術とひと同部山田順之グループ長(左)と,現地調査を行う野中副主任研究員(中央),三浦研究員(右)※民間の取組み等により生物多様性が図られている区域photo:takuyaomuraphoto:takuyaomuraphoto:hisaakimihara