スロープを上り,トンネルを通り,この小さな都市の奥深くへと進むと,人々は ― 少なくとも私は ― 突然,目の前に鮮明に現れる光景に圧倒される。青々とした広大な緑,完全で調和のとれた,きらめく,入念に手入れされた,庭園 ― 。A.BartlettGiamatti,TakeTimeforParadise,1989近年,日本には「ボールパーク」の名を冠した野球場にレストランや遊園地,ホテル等を併設したアミューズメント施設が誕生している。野球発祥の地アメリカでは,ボールパーク(ballpark=baseballpark)とは単なる野球場やスタジアムを超え,都市と深く結びついた公園的な場所として一世紀以上をかけて発展してきた。世界的な建築評論家であり,大の野球愛好家のポール・ゴールドバーガー氏は,それを「都市のなかの田園」(rusinurbe)と呼ぶ。今月からの新連載は彼の著書『ボールパーク』から,歴史ある魅力的なボールパークとそれと密接に結びつく都市の物語を9回にわたって紹介する。それではプレイボール!1回 ボールパークへようこそ―プレイボール!ブルックリンにできた最初の囲い付き野球場 Illustration:FrankLeslie'sIllustratedNewspaper14KAJIMA202604
サンフランシスコ湾を望むオラクル・パークは,MLBサンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地。見事に都市構造と一体化した事例のひとつである。ダウンタウンの南,海運業の衰退により寂れた裏町のチャイナ・ベイシンに建設されたが,数年後には高級ホテルや商業施設等が立ち並び,野球場への散策を楽しめる場所に変貌。街並みと一体化し,都市と海をつなぐボールパークに,観客は徒歩やバスなどの公共交通機関でやってくる。「初期のボールパークがそうであったように,21世紀のボールパークも都市生活と密接な結びつきをもった場となりうる。野球の伝統は,郊外化の波に飲み込まれてしまってはいないのである」とゴールドバーガーは語る。Photo:KAJIMA,200015KAJIMA202604
オラクル・パークは最もチケットが入手困難なボールパークのひとつと呼ばれる超人気の球場。球場内からは,ライトフィールド(右翼席)越しに海が見渡せる。もともと前身のキャンドルスティック・パークは湾沿いの別の敷地にあり,冷たい強風と湿気に悩まされる過酷な環境にあったが,鹿島が当時事業計画から資金調達,設計施工にいたる開発マネジメントというモデルを構築して完成させたスタジアムでもある。写真は2000年開幕時の様子。建設当時はパシフィック・ベルパークと呼称した。Photo:KAJIMA,200016KAJIMA202604
デザイン―江川拓未(鹿島出版会)ジャイアンツの偉大な強打者バリー・ボンズ(1964 ―)が初めて海へ飛び込むホームランを放った際,球団はそれを「スプラッシュ・ヒット」と名付けた。その後,ボンズはキャリアを通じて35本の「スプラッシュ・ヒット」を記録。ボンズは引退したが,いまも毎試合のように「スプラッシュ・ヒット」を待ち望むファンが海上でカヤックを楽しんでいる。ここは初期の伝統的なボールパークで見られたように,場外の人々も野球を楽しみ,街とボールパークが一体となった祝祭空間のムードが漂っている。ポール・ゴールドバーガー PaulGOLDBERGER建築批評家。「ニューヨークタイムズ」紙の建築批評家として15年間活躍し,建築に関する執筆活動によりピュリッツァー賞を受賞した。「ニューヨーカー」誌の建築批評家を経て「ヴァニティフェア」誌の寄稿編集者を務める。著書多数。近著はBallpark,WhyArchitectureMatters,BuildingUpandTearingDown:ReflectionsontheAgeofArchitecture,UpfromZeroなどがある。ニュースクールで教を執るかたわら,建築,デザイン,歴史的保存,都市について全米各地で幅広く講演を行っている。ニューヨーク在住。坂本和子 KazukoSAKAMOTO東京生まれ。翻訳家。日米で建築を学び,建築設計・建築教育に携わった後,翻訳家として活動し,建築・デザイン分野の書籍,展覧会,ウェブサイト等の翻訳を数多く手がけている。最近の訳書に『建築という芸術 評伝フランク・ゲーリー』(2024年,鹿島出版会)など。PaulGoldberger,Ballpark:BaseballintheAmericancity,Knopf,2019Photo:CourtesyCityKayak17KAJIMA202604