24KAJIMA202604当社は,医療現場の業務効率化と,患者一人ひとりにとって最適な病院環境の実現を目指し,2023年7月から順天堂大学と共同で,デジタル技術を活用したスマートホスピタルの実証研究に取り組んできた。約3年間にわたる実証研究の成果とともに,当社が考える医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の可能性について紹介する。竣工後も進化し続けるスマートホスピタル鹿島が考える医療DX 当社は,2021年に設置したデジタル推進室を中核に,全社一体でDXを推進している。建築部門では,営業本部,建築設計本部,建築管理本部,技術研究所,鹿島建物総合管理などの関連部署やグループ会社が連携し,オフィス,工場,病院,まちづくりなどの分野で,お客様の課題解決と価値創出に取り組んでいる。 医療分野では,医療DXや働き方改革への対応,医療従事者不足の深刻化など,社会的課題が顕在化している。当社は「竣工後も進化し続けるスマートホスピタル」をコンセプトに,建物の企画・構想段階から課題を整理し,解決策を設計・施工へ反映している。さらに竣工後も,デジタル技術を活用し,快適で質の高い医療環境とサービスを提供していく。 現在は大学などの外部機関と連携し,スマートホスピタル関連ソリューションの研究・開発を推進している。今後も当社は,建築とデジタルの融合により,医療の未来と社会課題の解決に貢献していく。鹿島・順天堂大学による共同研究 スマートホスピタルの実現に向けた当社の取組みの一つとして,2023年7月,鹿島・順天堂大学「パーソナル・アダプティブ・スマートホスピタル共同研究講座」を開始した。本研究講座では,患者一人ひとりに最適な医療を提供する「パーソナライゼーション」の考え方に基づき,病院の建物や環境を患者に合わせて最適化する「ホスピタルアダプテーション®」という新たなコンセプトを提唱している。当社のデジタル技術を活用し,順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター*各テーマの研究内容は26∼27ページに掲載高齢者に優しい病院づくりを目指した検証を,産学連携で進めてきた。 共同研究テーマ*は3つ。「そと部屋®」を利用した認知症対策・予防,メタバースを活用した情報発信と地域医療連携の推進,AI+デジタルツインによる転倒・転落予防だ。研究は「順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター」(以下,順天堂東京江東高齢者医療センター)を舞台に,総勢約70名のスタッフ(順天堂50名・鹿島20名程度)が参画した。 3年間の研究期間では,初年度に研究計画の詳細検討,2年目にデータ計測・検証,最終年に研究成果のまとめと社会実装への検討を行ってきた。本共同研究は,2026年6月末に現在の研究講座期間が終了を迎える。鹿島・順天堂大学「パーソナル・アダプティブ・スマートホスピタル共同研究講座」【設置期間】2023年7月∼2026年6月【対象施設】順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター場所:東京都江東区規模:S造 7F 404床 延べ33,255m2竣工:2001年10月(改修:2016年12月)設計:磯崎新アトリエ(改修:当社建築設計本部)施工:当社東京建築支店当社Webサイト「鹿島の医療DX 竣工後も進化し続けるスマートホスピタル」
25KAJIMA202604鹿島・順天堂大学「パーソナル・アダプティブ・スマートホスピタル共同研究講座」について,順天堂東京江東高齢者医療センターの宮内克己院長を囲み,当社のデジタル推進室・営業本部・技術研究所・建築設計本部の担当者が,ともに研究に取り組んだ3年間の活動を振り返った。(以下敬称略)#kajimaステキシェアいいね!#鹿島の医療DXVoice空間での運動指導などについては,引き続き順天堂のスタッフの皆様と一緒に検討を続けていきたいです。宮内 加齢により筋力や認知機能などが低下し,要介護状態に向かっていく「フレイル」を予防するために,運動効果が注目されており,非常に期待しています。共同研究講座は一旦終了しますが,各種研究を社会実装まで成長させるべく,今後も研究活動を継続していきたいと思っています。私たちの良きパートナーとして,鹿島の総合力に期待します。共同研究を通じ,鹿島のファンになりましたライクな個室空間の演出として,患者さんの入院生活の満足度を高める効果があると思います。星野 それは新しい発想ですね。宮内 「転倒予防」も重要なテーマでした。高齢者が転倒すると,次に待っているのは寝たきりの生活です。今回,カメラを置いて転倒原因や行動を知ることができたのは非常に良かったです。転倒はベッドから起き上がる際のリスクが高いです。プライバシー上の課題はありますが,個室での検証もしていきたい。——今後,鹿島に期待する点について根本 私は長年,医療福祉施設の営業活動に携わってきました。超高齢社会を迎え,高齢者医療が重要性を増す中,まさにその現場で働く方々との共同研究は私にとって大きなやりがいでした。必ず今後の仕事に活かしていきます。宮内 それは嬉しいお話です。鹿島の皆さんの丁寧な対応と仕事に対する熱量には感心させられます。すっかり鹿島のファンになりました。根本 3年間の研究期間はあっという間でしたが,宮内院長に発案いただいたメタバース宮内院長(中央)と右から当社デジタル推進室・真下英邦室長,営業本部・根本絢子課長(兼務デジタル推進室),技術研究所・権藤尚専任部長,建築設計本部・星野大道統括グループリーダー順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター宮内克己院長——今回の共同研究の意義について宮内 鹿島からお話をいただき実現した共同研究で,我々の持つ知を育て,社会実装を目指して取り組む機会を得ることができました。非常に感謝しています。真下 今回の共同研究では,最前線の医療現場で活躍されている順天堂の方々と建設の専門家である当社社員が,異なる専門性を持ち寄って共創することで新たな気付きがたくさん誕生しました。我々にとっても大変貴重な機会となりました。宮内 今回の共同研究は,「高齢者に優しい病院づくり」をテーマとし,特に認知症に焦点を当てました。鹿島の技術である「そと部屋」には感心しました。あの自然な明るさの変化とリアルな音響は,さすが,総合建設会社の技術力です。我々にはない発想でした。権藤 「そと部屋」はオフィスにおいてリフレッシュや生産性向上に繋がるウェルネス空間として開発し,病棟向けにカスタマイズしました。今回,「そと部屋」を利用した認知症患者さんの睡眠時間や症状など,医療現場の実データを得ることができ,患者さんの改善傾向も見られており,大変感謝しています。宮内 さらに症例数を増やして検証していきたいです。星野 私は入社して以来,医療施設の設計を専門に担当してきましたが,今回の共同研究では普段の設計業務からは得られない視点からも病院関係者の方々と意見交換できたのが新鮮でした。仮説,検証を経て得られた知見は,今後の設計に活かせると感じています。宮内 「そと部屋」は,病院のエンタメ要素としても期待できるのではないでしょうか。ホテル
26KAJIMA202604竣工後も進化し続けるスマートホスピタルTheme「そと部屋」を利用した認知症対策・予防ThemeAI+デジタルツインによる転倒・転落予防今回の共同研究は,順天堂東京江東高齢者医療センターを舞台に新たなデジタル技術を活用した高齢者に優しい病院づくりを実証。鹿島は,医学的見地からの自社技術の効果検証や,今後の病院設計に資する新たなノウハウの獲得を,順天堂は,患者満足度の向上やスタッフの業務負荷軽減,経営改善を期待し,研究活動を展開した。 「そと部屋」は緑や木材といった自然要素とともに,外で感じる光や音を室内空間に能動的に取り込み,外にいるような開放感を得てストレス低減・リフレッシュできる当社開発の技術。これを認知症医療へ応用し,病棟から出られない入院患者が外を感じることで得られる効果について検証を行った。 認知症患者が一日の大半を過ごすデイルームの一角に「そと部屋」を配置。天井には間接照明「スカイアピアー」を設置し,天空を演出した。臨場感のある音を再生できる「サウンドエアコン」を採用,実際の公園で録音した日常の音源にこだわっ 病院内インシデントで最も多いのが,歩行時などの転倒・転落。医療スタッフの数に限りがあり,対応が追い付かないことが課題だった。 順天堂東京江東高齢者医療センターの施工を担当した当社は,建設時の図面データから「デジタルツイン」と呼ばれる建物の立体モデルをコンピュータ上に構築し,患者の転倒・転落予防に活用することを提案した。その仕組みは,認知症病棟のデイルームや廊下に設置した複数台のカメラ映像から行動認識AIが転倒・転落を検知,ナースステーションのモニターにあた。今回は新たにLEDパネルを要素として追加し,近隣の公園に地域のシンボルである東京スカイツリーを配した風景を投影した。入院患者にとって一日の時間変動を認識できることが重要と考え,映像には朝昼晩の一日の時間変化を表現し,季節の移ろいも感じることができるようにした。 「そと部屋」設置後,約1年をかけて認知症患者の睡眠時間,投薬状況,認知症の評価尺度の変化などについてデータを蓄積,効果を分析した。その結果,夜間の睡眠時間が長くなり,評価尺度が改善する患者が見られた。薬剤を用いない建築空間による療法として大きな波及効果が期待される。るデジタルツイン上に発生場所や映像を映し出し,アラートを発するもの。看護師がリアルタイムに状況を把握でき,患者の療養生活の安全性向上・スタッフの業務負荷軽減に繋がると考えた。 今回の検証では,当初想定していなかった病棟特有の物理的な状況が原因で,AIの未検知・誤検知が多発し,アラート発報の段階には至らなかった。一方,約4ヵ月にわたり収集した転倒・転落時の映像情報は,対策・予防に有用であると明らかになった。「そと部屋」のLEDパネルに映し出した昼間の景色 AIの転倒検知は,思うような検証結果が得られず残念でしたが,病院向けのAIを作る必要があることを認識できました。 一方,カメラで記録した患者さんの転倒時の映像は,有用なデータとなりました。患者さんがどんな場所で,どんな行動過程において転倒したのか,どんな転び方をして,どこを打撲したのか。医療現場では,リアルタイムに見られない場合もあります。カメラによって,死角なく患者さんの過ごし方が見える病棟を作ることができれば,患者さんの安全と,スタッフの業務効率化に繋がります。鹿島さんにとっても,今回の研究を,医療施設の設計に役立てることができるのではないでしょうか。鹿島の皆さんの献身的な頑張りに感謝致します。 「そと部屋」という室内環境をつくることに,新しさを感じました。認知症患者の方は,突然知らない所に来て,「一体ここはどこなのか?」と不安を感じています。それを少しでも払拭するためには,心地よいと感じる日常空間が必要です。 「そと部屋」の作り込みには,色々な意見を採り入れていただきました。この病院の患者さんは江東区在住の方が多いので,地域のシンボルであるスカイツリーや近くの公園を風景にし,川の流れや風を感じる音などにこだわりました。 認知症ケアの目標は現状維持です。入院という大きな環境変化で悪化する方が大半である中,そと部屋ができて以降,患者さんはとても安定しています。私の経験からの感覚的な評価ではありますが,その効果は非常に大きいと思います。Voice認知症患者に大切なのは日常を感じることのできる空間佐藤典子看護部長 Voice試行錯誤が進歩の糧になる植木理恵副院長・診療部長共用部(デイルーム,廊下)ナースステーション①転倒発生③AIが人の骨格を推定し 転倒を検知行動認識AIサーバー②カメラが転倒 映像を取得④デジタルツインに表示植木副院長(右)と研究担当のデジタル推進室・中山理沙課長代理
27KAJIMA202604#kajimaステキシェアいいね!#鹿島の医療DX①ChatGPTとアバターによるAI施設案内②3Dカメラのスキャン画像を活用した地域医療連携の推進③メタバースを活用した患者教育Themeメタバースを活用した情報発信と地域医療連携の推進 順天堂東京江東高齢者医療センターは,1階に総合案内窓口,2階に外来受付・診療室が配置されており,初めての来院者や高齢の患者からの質問により,1階窓口が繁忙であるという課題があった。この解決に向け,窓口業務内容を分析した結果,主にマスク着用などの声掛け,挨拶,院内施設案内が中心であることがわかった。 デジタル推進室で開発し,オフィスビルで実証 患者の転院先検討の際,施設を見学するのは時間がかかり日程調整も難しいという課題があり,解決策として3D画像の活用を試みた。検証では,転院件数の多い3施設(回復期リハビリテーション病院・医療療養型病院・介護老人保健施設)の建物内を3Dカメラで撮影し,説明情報を加えたスキャン画像を作成。ソーシャルワーカーが患者・家族に説明する際に,この3D画像をパソコン上で見ながら「デジタルツアー」を行い,効果を検証した。 体験した患者や家族にアンケートを実施した結果,「転院先のイメージがついた」「不安感が軽減された」「転院先を決める際の参考になった」などの前向きな意見が多数を占めた。 在宅患者の自宅での日常生活,特に食事や運動,睡眠の実態などの把握は難しい。目指すは,身体的・社会的フレイル予防。 順天堂大学が行ってきた研究を発展させる形で,メタバース空間上にバーチャルトレーニングルームを作成し,遠隔で在宅患者に運動指導を行い,その効果を検証していく計画を検討中である。 人手不足,働き方改革による時間の制約への対応が,当センターでは喫緊の課題です。鹿島さんと一緒に業務効率化に向けて何をすべきか,時間をかけて議論しました。繁忙を極めていた総合案内の会話データをAIで分析したところ,定型的な業務に時間がとられていることがわかりました。AIによる人の検知や会話の内 患者さん,ご家族からの反応は非常に良好で,デジタルツアー後の良い表情が印象的です。「最初に自動再生のツアー動画が見られると,もっとわかりやすい」など,改善に繋がるご意見もいただきました。口頭説明のみの場合と比べ,その後行われる患者さん,ご家族との電話時間が減少する傾向が見られたのは驚きました。実証研究に参加したソーシャルワーカーは,全員が「患者さんにとって有益だ」と話しています。 今後はさらに多くの病院や施設の3D画像を見比べられるようにしたいです。また,患者さん,ご家族,転院先のスタッフが同時にログインしてコミュニケーションが取れるメタバース空間ができると,より安心感の醸成に繋がると思います。実証実験に参加できて本当によかったです。VoiceAIの可能性をもっと広げていきたい浅岡大介消化器内科科長 教授#DX #ホスピタルアダプテーション #そと部屋 #メタバース #デジタルツイン3D画像で転院先を説明する池田ソーシャルワーカー(左奥)メタバース空間上でのバーチャルトレーニングイメージ自宅にいる患者と,順天堂東京江東高齢者医療センターにいる医師やリハビリスタッフが,メタバース空間に同時にアクセス。患者が運動する際,体に装着したセンサーで運動量を把握し,アバターで可視化する浅岡教授(左)と研究担当のデジタル推進室・財前恵課長1階の総合案内窓口に設置したAI施設案内した,ChatGPTとアバターによるAI施設案内を順天堂東京江東高齢者医療センターの1階に設置し,受付従事者の業務改善の実証を行った。 その結果,マスク着用等の声掛け,挨拶に関し,業務量が2〜3割削減された。一方,院内施設案内は,アバターに向かって話しかける必要があり,この回数が少ない結果となった。本研究で,人とAIの役割分担の確立が必要であることがわかった。Voice患者さんに,安心できる療養環境を届けたい池田陽子課長補佐 ソーシャルワーカー 容判断,正確な回答などの性能アップにはかなりの時間を要しましたが,今回,業務効率化の効果を確認することができました。 AIアバターは,受付業務以外でも医療業界がかかえている色々な課題を解決できる可能性を感じています。是非これからも一緒に挑戦を続けていきましょう。