﹁本当にお前は子どもと遊ぶのが好きだな﹂̶̶これは、社会人野球チームに入った時にコーチから言われた言葉でした。球場の裏の広場で遊ぶ子どもたちと、よく休日に一緒に遊ぶ約束をしたりしていました。 子どもは決して愛想笑いはしない。本当に楽しい時に心から笑顔が弾ける。私はこの笑顔を見ると幸せな気持ちになります。プロ野球の選手から球団のコーチ、ベースボールアカデミーのコーチ、そして現在の保育士というこれまでの人生を振り返ると、子どもの笑顔を作り出すことに生きがいを感じてきた人生だったと思います。 選手時代、コーチが球場へ連れてくる子どもと仲良くなり自宅へ招いたり、50歳を過ぎてからは、アカデミーに通ってくる小学生や、そのきょうだいと仲良くなったりする日々でした。横浜に住んでからも自宅の近所の子どもたちを家に招き、絵本や紙芝居を用意して読んであげたり、好物のフルーツを提供したりと、子どもたちが喜ぶ笑顔が好きで大サービスをしていました。近所の信頼関係がある親子はもとより、外出した先の電車やデパートで出会った見知らぬ赤ちゃんにも﹁いないいないばあ﹂をしてしまうこともあります。﹁いないいないばあ﹂は玩具がなくても赤ちゃんを笑顔にできます。保護者にしてみれば﹁変な人﹂に見られたこともあったと思います。しかし、この﹁いないいないばあ﹂には子どもの脳や感情の成長を促す効果があるということを保育士の勉強を始めた頃に知り、そうだったんだと納得したこともありました。 球団退団後、早く亡くなった妻を思い、人生は一度きり、残った時間をどれだけ有効に使えるかが大事だと実感。それなら子どもにかかわる仕事をしたいと思い立ち、勢い、近所の保育園を訪ねて回りました。門前払いが続く中、唯一現在勤めている法人の施設長に保育士資格の取得を勧められ、勉強することにしたのです。 保育士になり、子どもを送り迎えする保護者の方の笑顔も楽しみになりました。﹁今日は〇〇さん、こんなことができるようになりました﹂とか﹁こんなことをして楽しんでいました﹂など、ちょっとした会話の中でも保護者がホッとしたり喜んで笑顔を見せてくれたりします。それもまた楽しみのひとつです。 子どもは日々、遊びから楽しさを見つけ出すことに一生懸命です。手元にあるものを何でも遊び道具にしてしまう魔法使いでもあります。私が勤務する保育園では自然に触れる体験を通して、心豊かでたくましく生きる子どもの育成を目指しています。水、泥、石、砂、草木などに思い切り触れることができる環境にあります。私も、さあ今日はどうやって子どもたちを楽しませ、笑顔を作り出そうかとワクワクして、ひとり微笑みながら仕事に取り組む日々です。34KAJIMA202604たかざわ・ひであき 保育士元プロ野球選手1958年北海道生まれ。中学で野球を始め、苫小牧工業高校、社会人チーム王子製紙苫小牧を経て、79年プロ野球ロッテオリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)に入団。千葉ロッテや広島東洋カープで活躍し、通算1005試合出場。俊足強肩で知られ、ベストナイン、ゴールデングラブ賞など受賞。88年にはパ・リーグ首位打者を獲得。92年に現役引退後は千葉ロッテでコーチを務め、2008年から子ども向け野球教室マリーンズ・ベースボールアカデミーのコーチに就任。子どもと接する喜びに目覚める。18年退団。20年保育士の資格取得を目指して専門学校に入学。21年63歳で資格取得。現在は社会福祉法人どろんこ会が運営する保育施設大豆戸どろんこ保育園(横浜市)で保育士として勤務。vol.256