18KAJIMA202606地球温暖化の影響により,台風や集中豪雨による災害が頻発している。この状況を踏まえ,建物に対する効果的な対策を講じるためには,風雨の影響を的確に捉え,その挙動を高精度に把握する解析技術が重要となる。梅雨時の6月,#kajimaでは当社の降雨・雨水に関する最新の解析技術などを,開発担当者の声とともに紹介する。#KAJIMA#kajimaステキシェアいいね!#リスク評価に寄与する一貫解析システム▶降雨解析・雨水流動解析を紐解くニーズにマッチした解析技術 降雨解析システムは,重力や建物周辺の気流解析をもとに雨滴の挙動を予測するもの。この予測を用いることで,計画建物の壁面や,屋根面などに付着する雨量を算出し,設計時の雨水排水量の設定に役立てることができる。 同システムの開発を担った伊藤嘉晃上席研究員は,「当社では一律の計算指針に従って設計排水量を算出していますが,設計者にヒアリングすると,過剰なスペックになる場合があると感じていることが分かりました。そこで,当社保有のビル風の解析技術と雨の挙動解析を組み合わせることで,合理的な設計排水量を決められるのではないかと考えました」と話す。 解析時は,まず,気象データを活用してその計画地の降雨量,風速,風向きを設定。続いて,計画建物と周辺街区の3次元モデルを構築し,設定した条件で気流解析を行い,得られたデータをもとに降雨解析を実施する。同システムの開発により,設計者の望んでいた場所ごとの排水量をダイレクトに求めることができるようになった。実測による精度検証 降雨解析を用いた建築物に対する雨水排水設計は,これまで国内にほとんど例がなかった。伊藤上席研究員は,実測による解析の精度検証を行っている点を強みとして挙げる。「当社の西調布実験場にある技術研究所伊藤嘉晃上席研究員高さ約25mの建物まわりに雨量計を設置し,実測を行うとともに解析の検証を進めています。今後は,超高層ビルでの精度向上を目指し,高層ビルでの実測も進めていきます」。本当に正確な解析ができているのか。机上の計算だけでなく,地道な検証による品質向上を欠かさない姿勢がうかがえる。降雨解析システム雨水排水設計に課題がある建物の例降雨観測地点実際の降雨量と降雨解析による基準化降雨量の比較検証結果降雨解析・雨水流動解析の活用プロセスC地点を基準とした基準化降雨量の評価
19KAJIMA202606降雨解析と雨水流動解析の流れ雨水の流れを視覚的に把握 建物表面に付着する雨量を解析する降雨解析システムに対し,雨水流動解析システムは,それ以降の建物表面に付着した雨水の流下プロセスを解析する。 同システムを開発した中島慶悟主任研究員は「雨滴が壁面や屋根面を流下するプロセスや雨樋・排水管に流れ込む性状を予測し,豪雨時のオーバーフローやドレンからの逆流の有無を,建物の完成前から視覚的に把握することができます。また,各ドレンの排水流量を定量的に評価し,稼働率を把握することもできます」と解説する。 中島主任研究員は,技術研究所の重点テーマである『粒子法※1の建設分野への応用』に取り組む東京大学社会連携講座のメ Focusンバーとなり,その検討分野の一つとして,雨水排水設計の合理化を目指した研究開発を始めた。「降雨解析からの連続性も考慮し,雨滴が建物表面に付着した後のプロセスを解くことで一連の解析技術の付加価値を上げられると考えました」と語る。実用化のために 中島主任研究員は解析技術のポイントについて次のように説明する。「雨水流動解析を実現するため,表面張力や動的接触角※2などの雨水が持つ物理的な特性をモデル化し,解析に組み込んでいます。これにより,実現象に近い雨水の流れを再現できるようになります」。このような特性を考慮しなければ,粒子がピンポン玉のように転がっていくようなシミュレーション結果になってしまうのだという。 一方で,雨滴のスケールが建物のスケールに比して非常に小さいため計算量が多くなり,解析には時間を要する。「複数の雨滴を一つの粒子で表現するモデルなどを検討し,解析負荷の低減に向けた取組みを継続していきます。また,適用現場から,建物全体の解析や建物表面素材を考慮してほしいといった要望も寄せられていますので,フィードバックを活かしつつ改良を進めていきます」。※1流体を粒子群でモデル化し,流体の挙動をシミュレーションする手法※2液体が固体表面に着液しながら動く際に,液体と固体表面が形成する接触角雨水流動解析システム技術研究所中島慶悟主任研究員現在施工中の「赤坂二・六丁目地区開発計画」(東京都港区)では,降雨解析と雨水流動解析を活用した雨水排水設計が行われた。以下は解析の流れと,対応例である。降雨解析を用いた市街地における降雨量の分布大屋根と雨樋の雨水流動解析排水管内の雨水流動解析ドレン配置の改良により大屋根へのオーバーフローが抑制されているドレンが十分に機能していない箇所からオーバーフローが発生雨への場の設置により大屋根へのオーバーフローが抑制されている大屋根へのオーバーフローの低減により軒先から外部への雨水の流出を抑制【対策後】【対策前】雨の傾斜が大きくドレンが十分に機能していない箇所からオーバーフローが発生大屋根からの流入流量が多い箇所で軒先から外部への雨水の流出が発生ドレンと仕切り板の間に雨水が溜まりオーバーフローが生じていたため,仕切り板のすぐ上流側にドレンを配置する改良が必要である【対策前】場の設置による雨形状の改良,ドレン配置の改良によりドレンの稼働率が向上して,壁面側雨から大屋根へのオーバーフローを抑制した【対策後】ドレン配置の改良により大屋根へのオーバーフローが抑制されているドレンが十分に機能していない箇所からオーバーフローが発生雨への場の設置により大屋根へのオーバーフローが抑制されている大屋根へのオーバーフローの低減により軒先から外部への雨水の流出を抑制【対策後】【対策前】雨の傾斜が大きくドレンが十分に機能していない箇所からオーバーフローが発生大屋根からの流入流量が多い箇所で軒先から外部への雨水の流出が発生
20KAJIMA202606 一般的に雨水排水設計では,壁面積に「0.5」を掛けた面積に屋根面積を加え,排水流量を評価します。今回,降雨解析ではその「0.5」の妥当性や,総雨量の精査,雨水流動解析では特殊形状の大屋根で雨水が想定通り流れるかを確認するためにシミュレーションをお願いしました。 降雨解析では,風が強く正面で受ける側は「0.5」を少し超える箇所が見られた一方で,壁全体で見ると「0.5」に満たない部分もあり,その分布がビジュアルで確認できました。ムービー形式で視覚的にも分かりやすく,設計時点では考慮が難しい周辺建物の影響も解析に反映されており,非常に有用なシミュレーションだと感じました。また,雨水流動解析では,豪雨時に雨水があふれる箇所を特定できたため,樋の形状変更やせき板設置などの具体的な対策を講じることができました。一つひとつのルーフドレンがきちんと機能していることが,視覚的にも数値的にも確認できた点は有益でした。 今後は,シミュレーションから計画設計までをワンストップで提供できる体制が整うなど,より充実したサービスが実現されることを期待しています。「赤坂二・六丁目地区開発計画」で意匠設計を担当する三菱地所設計の森田チーフアーキテクトに,当社が実施した降雨解析・雨水流動解析についての感想を伺いました。voice三菱地所設計建築設計一部アーキテクチュラルグループ業務部森田悠詩チーフアーキテクト一貫解析を実現! 技術研究所で防災・減災技術の開発チームを横断的に率いる近藤宏二プリンシパル・リサーチャー(以下,PR)は「降雨解析システムと雨水流動解析システムの開発により,広域の気象解析→都市域の降雨解析→建物表面の雨水流動解析→河川や内水の氾濫解析という,一貫解析が可能となりました」と説明する。この一貫解析の特長は,数千kmの広域の気象解析から数百∼数十kmの地方レベルの気象解析,数kmの都市域の強風・降雨解析,さらには数百∼数mの建物レベルの強風・降雨解析,雨水流動解析へと,徐々にスケールを縮小しながら精度を向上させられる点にあるという。世界に例のない解析技術 技術研究所には気象解析をはじめ,高潮解析や,外水氾濫解析,内水氾濫解析など多岐にわたる解析技術がある。これらに降雨解析・雨水流動解析が新たなピースとして加わったことで,平時から災害時にわたる切れ目のない,より厚みのあるサービス提供が可能となった。 近藤PRは「気候変動が進行した際,風と雨がどのように変化するかまで考慮した上で,将来建物に及ぼす影響を評価することができます。一連の評価を通じ,顧客に災害対策や設計合理化のための判断材料を提示できることが強みであり,これほど多くの解析技術を保有し,一気通貫でサービスを提供できる会社は世界でも例がありません」と胸を張る。 さらにこの一貫解析システムは,当社が提供する「水災害トータルエンジニアリングサービス」(右上図参照)へ連携し,風水害のリスク評価に必要なデータを提供することで「予測」にも活用される。地球温暖化の影響による風水害の激甚化が懸念される中,その影響を精緻技術研究所近藤宏二プリンシパル・リサーチャーオープンデータを活用した気候変動影響予測と水害予測
21KAJIMA202606#一貫解析システム #水災害トータルエンジニアリングサービス #Wind-DrivenRain #粒子法に予測し,BCP(事業継続計画)に反映させるためには,一貫解析システムが不可欠となる。必要な解析技術をカスタマイズ 近藤PRは一貫解析の強みを語る一方で,「常にフルスペックの解析を行うのではなく,設計や施工への適用においては,状況やコストに応じて必要な技術をピックアップし,部分的に取り出した検討も可能です」と説明する。最近では,建設業での活用にとどまらず,気象解析技術を損害保険会社へ展開していることを明かした。 当社の気象解析技術は,①過去に生じた気象イベントを詳細に再現することができる,②過去に生じた気象イベントが温暖化の影響により将来どのように変化するか評価することができる,③過去に生じた台風を様々な経路でシミュレーションすることができる,という特長がある。これらを活かし,保険会社が想定する様々な状況に対応した気象イベントを再現することで,保険料の算定や新たな保険商品の開発に寄与している。 近藤PRは今後の展望について「引き続き一貫解析システムの実適用を推進してまいります。さらに,氾濫解析や降雨解析・雨水流動解析はBCPにおける適用が進んでいますが,解析結果と不動産認証制度『ResReal※』や保険ビジネスとの連携など,新たな分野への適用も進めていきます」と語った。一貫解析システムに携わる技術研究所の皆さん24時間降雨量(多摩川流域)降雨量にもとづいて河川流量を予測河川流域の降雨量にもとづいて河川流量を把握した例河川流域での降雨量について気象解析結果などを用いて評価し,流出解析をすることで河川流量を把握。河川流量をもとに河川氾濫の発生可能性を予測する河川流量の時間変化(多摩川)※不動産のレジリエンス(弾性力,回復力)を可視化する日本初の認証サービス。不動産が有するリスクと対策効果の評価が行われる。当社グループ会社イー・アール・エスが参画する予測,予防,対応の3つのフェーズに合わせた当社の4つのプロセス自然災害に対するBCPを,リスクを把握する「予測」,リスクに備え対策を講じる「予防」,非常時に機能低下を最小限にとどめるために避難・復旧などの措置を講じる「対応」の3つのフェーズで整理している▶水災害トータルエンジニアリングサービスのフロー