共働き世帯が当たり前になった今、多くの働く親たちは仕事と家庭の両立に向き合っています。職場では成果や責任を求められ、家庭では子育てや家事、家族のケアを担う。働き盛り世代にとって、家庭と仕事は人生の両輪です。 私はこれまで8000人以上の親と向き合ってきました。その中で、多くの方が口にする言葉があります。 ﹁家庭が落ち着くと、仕事に驚くほど集中できる﹂。 反対に、家庭に不安や緊張があると仕事にも影響が及びます。子どものことで悩み続けたり、夫婦関係がぎくしゃくしたりすると、集中力や判断力は低下し、新しい挑戦へのエネルギーも失われていきます。家庭と仕事は別々のものではなく、深くつながっているのです。 この関係性を説明する上で参考になるのが、組織開発やリーダーシップ論で知られるダニエル・キムの﹁成功循環モデル﹂です。このモデルでは、成果を生み出す出発点は﹁関係の質﹂にあるとされています。信頼関係があると思考の質が高まり、行動の質が向上し、良い成果へとつながる。そして成果がさらに関係性を強くする好循環が生まれます。 これは家庭にも当てはまります。親子や夫婦の関係の質が高まると、家族の中に安心感と信頼感が育ちます。その結果、子どもは自ら考え、主体的に行動するようになり、勉強や生活習慣、人間関係にも良い変化が生まれます。 そこで私は、あえて﹁戦略的﹂なほったらかし教育を提唱しています。これは放任ではありません。親が先回りして管理するのではなく、子どもが自分で考え、選び、行動する機会を意図的につくる教育法です。たとえば、朝起こしてあげるのではなく、目覚まし時計を選んでもらって、自分で使わせて起きるようにさせる、などといったことです。親は監督者ではなく伴走者として関わり、必要以上に介入しない。その中で主体性や問題解決力、自ら学ぶ力が育っていきます。 家庭に良い循環が生まれると、親の心にも余裕が生まれます。その余裕は仕事への集中力や創造性、挑戦するエネルギーへと変わります。そして仕事で得た充実感が、再び家庭に良い影響を与える。家庭と仕事は対立するものではなく、互いを支え合う関係なのです。 これからの時代の子育て支援は、単なる福利厚生ではなく、働く人が安心して力を発揮できる環境づくりの一環として捉える必要があります。家庭が元気になれば、働く人が元気になる。働く人が元気になれば、組織も社会も元気になる。 共働き世帯が増える今、家庭の関係の質を高めることは企業の持続的成長の土台です。子育て支援は目の前の家庭を助けるだけでなく、未来の顧客を育てる投資。一つひとつの家庭の笑顔が職場や社会、次世代へと広がる循環こそ、これからの時代に必要な経営戦略といえるのではないでしょうか。30KAJIMA202608いわた・かおり家庭教育コンサルタント、株式会社ママプロジェクトJapan代表取締役 これまで8,000人を超える親と対話を重ね、「ガミガミ言わなくても勉強する子に育てる」を合言葉に、子どもの主体性を引き出す独自メソッド「戦略的ほったらかし教育」を提唱。親が自分を犠牲にせず、自信をもって子育てできる社会づくりに取り組む。著書に『「天才ノート」を始めよう!』『戦略的ほったらかし教育』(Amazonベストセラーにランクイン)ほか。NHK、日経クロスウーマン、東洋経済オンラインなど各メディアへの掲載多数。「子どもは学び体質、親は幸せ体質」を掲げ、家庭教育の力で日本をエンパワメントすることを目指す。vol.260