16KAJIMA202512特集042609始まりの地で魅せるチームワーク住友重機械工業新居浜統合本館プロジェクト
17KAJIMA202512新規性と持続可能性を両立した計画 穏やかな瀬戸内海に面する工業都市,愛媛県新居浜市。住友重機械工業創業の地であるこの場所で現在,新社屋の建設が進んでいる。本計画はS造7階建ての統合本館を新築,隣接敷地に建つ既存4階建てRC造の建屋を新厚生棟として2階建てに減築およびリニューアルし,2棟をブリッジでつなぐもの。 約1,000人の従業員が最先端の精密機械開発・設計業務に従事する本館のデザインは,金属光沢をまとう斜め柱と梁の構造架構が印象的だ。彫り深い構造フレームは日射遮効果を生み,室内の空調負荷を低減させる。一方,食堂や屋上庭園を備え従業員のウェルネスを支える厚生棟は,サーキュラーエコノミーの視点から既存建物を有効活用する減築工事を選択し,資材および重機や運搬車両の燃料に由来するCO2排出量を新築比で85%以上削減する。新規性と持続可能性を両立した設計および,施工における高い技術力と安全面への配慮が発注者から高い評価を受け,コンペを勝ち抜いた。 昨年の着工を皮切りに,本館の新築,厚生棟の既存建屋減築,リニューアルを行うこの工事。今月の特集では,鉄骨建て方が進む本館の現場を紹介する。設計施工の強みを最大化する 現場を率いる作間慶彦所長によると「鹿島四国支店開設の足掛かりとなったここ新居浜市には,江戸時代の1691年に開坑し,高度経済成長期の終わりまで銅などを産出,住友グループの発展に寄与した別子銅山があります。いま私たちがつくっている本館は,外観,内観ともに別子銅山を思い起こさせる個性的な建築物です。普通の形状ではない建物は,当然のことながら施工難易度が上がり,工事費も高くなりがちですが,この現場では基本設計段階から施工者の視点052609企業アイデンティティを具現化した意匠と,特徴的な建築を安全に建設する高い施工力でコンペを勝ち取った,企業の地域拠点の設計施工プロジェクト。現場の指揮を執りBIMを操る二刀流の所長のもと,所員がそれぞれの持ち場を守る建築現場のチームワークを紹介する。
06KAJIMA202609KEYPERSON外観パース。工場敷地とまちの接点に建つ,企業の顔となるオフィスビル。本特集で紹介するのは左側の統合本館の現場作間慶彦所長BIMを使いこなす次世代所長。新居浜市の親族に統合本館のパースを見せたら,「新居浜にこんな都会的な建物ができるのか」と驚かれたという溝淵博己副所長香川県出身で,自ら手打ちしたうどんを振る舞う「うどん屋ぶっちー」を現場事務所内に不定期で開店する麺職人でもあるを取り入れることで,課題を克服しています」。 当社は設計施工を担える総合建設会社の強みを生かし,設計段階から所長候補者を指名。施工者の視点や知見,実際のコスト感を反映した生産設計を可能にする体制づくりを行っている。プロジェクトの初期段階に集中的にリソースを投下する「フロントローディング」の考え方で,プロジェクト全体での効率と生産性を向上させる取組みだ。施工者視点を設計に生かす たとえば本館を特徴づける斜め柱は,基本設計の時点で当初は鋼管としていたものを,作間所長の要望によりH鋼への変更を検討し,確認申請へと進めた。「H鋼にすることで建物の鉄骨総重量を少なくできる。その差は大きいと考えました。建物全体の柱本数が少ないなか,斜め柱をH鋼に変更すれば構造設計が難しくなることは承知していましたが,建築設計本部の意匠・構造設計担当者と話し合い,メリットとデメリットを見極めて,つくるものを決めていきました」。そう話す作間所長の施工者視点は,ディテール検討にも発揮された。「ジグザグに伸びる斜め柱が折れ曲がる細かな位置などのディテールは,私もスケッチを描き,BIMで立体的に確認しながら設計担当者と意見交換を進めました」と言うように,施工性に影響する箇所などについて設計・施工が一体となり詳細な検討を重ねていった。 設計と施工の関係性について,作間所長はこう付け加える。「設計者も施工者も,建築が好きだから鹿島で働いている。このプロジェクトの意匠設計担当者とは以前,別の現場でも一緒に仕事をしたことがあり,腹を割って話せる関係ですし,いい建築をつくりたいという思いをもつ同志です」。内観パース。自然光に照らされる竪坑階段断面パース統合本館竪坑階段新厚生棟新居浜↓別子銅山新居浜IC新居浜市役所JR予讃線高松方面→←松山方面松山自動車道瀬戸内海住友重機械工業新居浜統合本館プロジェクト場所:愛媛県新居浜市/発注者:住友重機械工業設計:当社建築設計本部/用途:事務所,食堂規模:統合本館―S造一部CFT造 7F新厚生棟―RC造 2F 総延べ15,560m2工期:2025年8月∼2028年10月(四国支店施工)
07KAJIMA202609特集CFT柱に大梁を架ける技能者たち斜め柱周りの仮設足場やハシゴを受ける部材,柱の継ぎ手箇所を溶接前に仮固定する治具などは,この現場で独自に考案した一分のミスも許されない緊張感 こうして定めた設計を,いかに施工するか。工事計画を任せられた溝淵博己副所長に話を聞いた。「本館建設工事は斜め柱を含む外周部と,鉛直柱からなるコア部分に分けて進めました。設備の物量が多いコア部分から先行して建て方を行い,工期終盤に集中しやすい設備工事を分散させるようにしています」。 取材に訪れた6月は外周部の建て方が終盤を迎えていた。これまでの工事で印象に残る箇所を聞いた。「斜め柱が目を引きますが,コア部のCFT*1 柱も厳密な品質管理が必要です。鋼管柱内へのコンクリート充填で万が一ミスをしたら工事のやり直しが広範囲に及んでしまうので,一分のミスも許されません。私にとっては現場配属初年度以来のCFT柱の工事で,今回責任者として担当でき,思い入れが一層強いです。また,タワークレーンの計画に携わるという夢も,この現場で叶いました」(溝淵副所長)。階ごとに異なる足場計画 CFT柱に囲まれたコア部分には,建物を斜めに貫通する吹抜けがある。銅山内部に掘られたシャフト(竪たて坑こう)にちなみ「竪坑階段」と名付けられた,インテリアを象徴する空間だ。日々の工事計画を担う山下健司工事課長は,この空間について次のように話す。「吹抜けは施工者泣かせです。床がないということは,足場の計画が難しくなるということです。この建築ではさらに,吹抜けの位置が各階で異なっているので,一つひとつ計画する必要がありました」。吹抜け位置に合わせて床を支える鉄骨梁の組み方も各階で異なり,下階とは取り回しが変わってくる。この個性的な空間の実現には,表面に現れない部分で数多くの調整が重ねられている。 「斜めの吹抜けが1階から7階までつ*1 CFT:鋼管の内部にコンクリートを充填した建築構造。鋼管とコンクリートが補強し合うことで,耐震性,耐火性など複数のメリットがある大スパンの執務空間はレイアウト変更も容易で,建物の価値を延ばす上の柱に付属する治具溶接に適した間下の柱に付属する治具
08KAJIMA202609KEYPERSONながっている建築というのは,なかなかほかでは見られないのではないでしょうか。5階には自然光を取り入れるダクトを設置して,吹抜け内を照らす設計です。銅山で坑道を掘り進めた先に太陽の光が見える,それに似た感動を味わえるはずです」と山下工事課長は表情を輝かせた。 毎日の工程管理も工事課長の役割だ。山下工事課長に残る工事への意気込みを聞いた。「朗らかな所長と用意周到な副所長の背中を見ながら,プロジェクトの成功に責任を感じ,日々奮闘しています。目下の目標は,斜め柱の外装やその他仕上げを滞りなく進め,10月の外部足場解体という工程のマイルストーンを守ることです」。機器の試運転まで気は抜けない 敷地は稼働中の工場敷地内にあり,現場周辺には車両通行制限時間が設けられている。この立地条件が,本工事の難易度を一段と引き上げた。設備工事を担う新田悠斗担当はこう話す。「通行制限がある環境のなか,広いとはいえないヤード,大量の設備機器という相反する条件です。工程通りに屋上へ設備機器を据え付けられるよう,2基あるタワークレーンの揚重能力を踏まえながら安全かつ効率的な工事計画を考えています」。雨風を凌ぐために工期終盤に集中する設備工事。それを管理する新田担当は竣工というゴールに向かうアンカーともいえる存在だ。 しかし,そうして迎える竣工も,まだ終わりではないという。温熱環境は様々な要因が相互に影響するため,高度なシミュレーションを行ってもその通りの結果が得られないこともあるからだ。「大きな吹抜けがあるこの建物では,快適性の確保が重要な課題です。試運転でいい結果が出るまでは気を抜けません」と新田担当は引き締まった表情を見せる。下階では内装,設備の工事が進む竪坑階段と名付けられた吹抜け空間は,6ページの内観パースのようになるこの建築の見せ場(現場提供写真)山下健司工事課長趣味は写真で,被写体を求めて風光明媚な四国の各地へ足を伸ばす。最近の思い出は愛媛県と高知県にまたがる四国カルストで撮影した星空新田悠斗担当釣りを愛し,今年,50cmのマゴチを新居浜の磯で釣り上げた。昨年結婚した妻と一緒に海水魚を飼育。重い水槽の手入れなど,家庭内でも設備を担当する
09KAJIMA202609年次・役職などは取材時点写真撮影(特記なき場合):大村拓也(2026年6月撮影)BIMを使いこなす所長 難易度の高い工事を安全に工期内で完了させるという現場の使命を達成するため,本工事では設計施工の強みを生かした積極的なフロントローディングで設計の精度を上げ,「着工前の未確定事項」や「想定外な状況」を減らしてきた。秘策のひとつを作間所長に聞いた。「従来のフローでは基本設計,実施設計が完了した後に協力会社と契約を結び,詳細な検討に着手するので,基本設計時点で納まりなどのディテールを決定することは実質不可能でした。このプロジェクトは設計施工案件で自分が所長候補として参画できたので,基本設計段階から協力会社を特定して,実施設計レベル,施工図レベルで図面の密度を高めていきました」。 この実現にはBIMマネージャー*2 ができる,二刀流とも呼べる作間所長のスキルが役立った。所長自らBIMを用いた検討,合意形成を早い段階から行い,未確定事項を順に解決していき,これからつくる建築を早い段階から高精度に具体化してきた。その結果,設計の手戻りを少なく,そして予定生産コストとの差を非常に小さく抑えられている。「施工の責任者である所長が,基本設計段階から細部を検討し決定していく。これが究極の生産設計だと私は考えています」と作間所長は話す。 最後に,所長として現場で最も重視していることを聞いた。「鹿島守之助会長の『事業成功の秘訣二十ヵ条』第四条に,人をつくらぬ事業は亡ぶ,とあります。一緒に働く皆にこの現場を経験してよかったと思ってほしい。そのために現場内の懇親の旗振り役もやりますし,事務所の設備をよくするなど,皆が笑顔で働ける現場づくりを心掛けています」。自ら手を動かして所員をリードする所長と,思いをひとつにした所員が持ち場を守るチームワークで,まだ見ぬ建築に挑んでいる。現場集合写真。撮影時も和気あいあいとした雰囲気だった工場敷地の一角,正門横という立地も工事の難易度を上げている特集*2 BIMマネージャー:業務効率化に加え,合意形成や意思統一のツールとしてBIMを操り,プロジェクト関係者をリードする役割BIMをフル活用して設計検討を進めた