04KAJIMA202610建設機械の自動運転を核とした自動化施工システム「Aクワッドアクセル4CSEL®」は,ダムやトンネル工事に続き,複雑な地形や条件が交錯する造成工事へと活躍の舞台を広げている。今月の特集では,建設現場の生産性と安全性を押し上げる,自動化施工による造成現場の最前線に迫る。土木分野で進む「建設現場の工場化」 「A4CSEL※1」の名称は,4つの「A」で始まる「Automated:自動」「Autonomous:自律」「Advanced:先進的」「Accelerated:加速」のワードから,当社が実現を目指す「建設機械の自動運転を核とした自動化施工システム」のあり方を示している。 「A4CSEL」のコンセプトは,少人数で複数の自動化建設機械を動かし,安全に施工を行うこと。最適化された施工計画・作業方法をデータ化し,それらの作業データを基に,最少の人員で複数の自動化建設機械を同時に,かつ自律的に連携させることで,極めて効率の高い施工を可能とする自動化施工マネジメント技術である。人手不

足,低い労働生産性,なくならない労働災害という建設業界の構造的課題を抜本的に解決し,「建設現場の工場化」を実現する狙いがある。 2009年に技術研究所で開発を開始。以降,材料の運搬,敷均し,転圧といった繰返し作業の多いダム工事を中心に継続的に実現場へ導入し,改善・改良を重ねた。2015年,五ケ山ダム(福岡県那珂川市,コンクリートダム)の堤体打設で自動振動ローラの現場導入と自動ブルドーザの実証実験に着手。2016年には大分川ダム(現・ななせダム,大分県大分市,ロックフィルダム)の堤体盛立工事で自動ダンプトラック・自動ブルドーザ・自動振動ローラの連携に成功,05KAJIMA202610小石原川ダム(福岡県朝倉市,ロックフィルダム)で2018年に本格適用した。成瀬ダム(秋田県雄勝郡東成瀬村,台形CSG※2ダム)では2020年に十数台の自動化建設機械で堤体のCSG打設を施工,2022年には同ダムで最大月間打設量における日本記録を更新した。 また,2021年には,大規模土砂災害からの復旧工事である赤谷3号砂防堰堤工事(奈良県五條市)でも採用された。さらに,これらの技術を将来の宇宙探査へ応用することを目指して,JAXAや他の研究機関との共同研究開発も進められている(2016年∼)。 一方,山岳トンネル工事での自動化施工の実用化も果たした。神岡試験坑道掘削工事(岐阜県飛騨市,2021年)での技術実証を経て,2024年には穿孔からロックボルト施工までの6ステップを担う「A4CSELforTunnel」が完成した。 そして,次なる挑戦は,造成工事における自動化施工だ。「A4CSELforEarthworks」――造成工事特有の条件を克服し,「現場の工場化」を目指して,現在,複数の現場で各種自動化建設機械の実証が進む。※1A4CSEL:Automated/Autonomous/Advanced/AcceleratedConstructionsystemforSafety,Efficiency,andLiability※2CementedSandandGravel:現地発生材(土石)とセメント,水を混合して得られる材料のこと(12∼13ページにA4CSEL年表掲載)新名神高速道路城陽工事photo:takuyaomura

06KAJIMA202610A4CSELforEarthworks開発の背景 当社は,国土交通省が2024年に発表した建設現場の生産性向上の取組み「i-Construction2.0」が推進する建設現場のオートメーション化に資する取組みとして,ダム・トンネル工事に続き,造成工事における自動化施工システム「A4CSELforEarthworks」の技術開発・実適用を急速に推し進めている。 造成工事の盛土作業は,材料の積込み・運搬,敷均し,転圧というダムの堤体打設同様の繰返し作業が行われる。しかし,造成工事の場合,盛土材料に現場発生土などが使用され,施工場所や気候条件による土質性状の不均一,また地形や高低差などに変化があるため,造成工事特有の条件に対応した技術開発が必要だった。 「A4CSELforEarthworks」では,ダムで培った自動ブルドーザによる敷均し,自動振動ローラによる転圧機能をさらに高度化するとともに,バックホウによる積込みと,造成工事の仮設道路を走行できるアーティキュレートダンプトラックによる運搬の自動化に成功。造成工事における一連の盛土作業の自動化が完成した。増える適用現場 現段階では現場の工事条件に応じて最適な自動化建設機械を導入し,実施工への適用が進む。岡崎市阿知和地区工業団地造成事業(愛知県岡崎市)では自動振動ローラ2台,次ページで紹介する新名神高速道路城陽工事(京都府城陽市)では自動ブルドーザと自動振動ローラが導入されている。さらに,4種の自動化建設機械を連携させた実現場への導入が見据えられている。・経路・軌道自動生成・重機プログラムへ指令・施工状況のモニタリング施工管制システム作業指示自動バックホウ自動アーティキュレートダンプトラック自動ブルドーザ自動振動ローラ施工マネジメントシステム自律自動運転システム管制室現場自動運転プログラム自動運転プログラム自動運転プログラム自動運転プログラム機体情報重機管理システム・自動で作業工程作成積込み運搬敷均し転圧施工計画システム岡崎市阿知和地区工業団地造成事業に導入された自動振動ローラ▶鹿島西湘実験フィールドでの自動アーティキュレートダンプトラックと自動バックホウの試験施工風景A4CSELは「施工マネジメントシステム」と「自律自動運転システム」からなる。施工マネジメントシステムで最適化された施工計画・作業方法をデータ化し,各種建設機械へ指示を出す。指示を受けて施工した建設機械は得られた作業データを施工マネジメントシステムへフィードバックすることで,次の作業指示データのさらなる最適化・高度化へとつなげる

07KAJIMA202610特集 A4CSEL最前線――大規模造成工事に適用 造成現場のフロンティア111899京都京都東IC沓掛IC瀬田西IC大津IC信楽IC甲南IC草津田上IC草津JCT久御山JCT大山崎JCT・IC城陽JCT・IC八幡京田辺JCT・IC高槻JCT高槻IC守口JCT門真JCT京滋バイパス京都縦貫自動車道京奈和自動車道第二京阪道路名神高速道路滋賀県三重県大阪府京都府新名神高速道路新名神高速道路大津JCT(仮称)栗東湖南IC琵琶湖新名神高速道路城陽工事現場高速道路本線造成工事に初適用 新名神高速道路は,三重県四日市市から兵庫県神戸市までを結ぶ高速道路として,全線開通に向けた建設が進んでいる。当社が担当する城陽工事は,工事延長約3.7km,切土約460万m3,盛土約397万m3におよぶ国内でも有数の大規模造成工事である。 本工事が行われているのは,多様な地質区分が混在する複雑な地盤条件を有するエリアであり,かつて山砂利の採取場として掘削・埋戻しが繰り返されたために地形が変化している状況だった。また地盤も軟弱なことから,約90万m3の基礎地盤改良が行われた。2021年に開始した工事は,橋梁下部工や地盤改良の多くが完了し,現在は本線盛土工が中心となっている。 盛土工では,道路計画面より高い地盤を掘削し(切土),低い箇所に土砂を敷き均し,締め固めて嵩上げすることで,安定した道路基礎面を造成する。現場は作業の生産性・安全性向上と省人化を目指してA4CSELを導入。道路の縦断,横断方向に勾配変化がある複雑な形状への対応,多様な土質を扱う施工など,高速道路の造成ならではの課題に挑戦している。 造成工事は,毎日数千m³規模の土砂を動かしながらその施工範囲が刻々と変化していくため,地形や土質に応じたきめ細かな判断がその都度要求される。品質・出来形・工程を安定的に管理し,生産性を向上させるには,最適化された施工計画に基づく自動化建設機械による土工事の効率化が最大の鍵となる。省人化を図りながら,城陽の現場ではいかに工期・品質の安定性を確保しているのだろうか。新名神高速道路城陽工事は大津JCT(仮称)∼城陽JCT・IC間にあたる。右はドローン撮影による俯瞰写真(2026年7月24日)。向かって右側が造成工事中の高速道路本線photo:takuyaomuraphoto:takuyaomura新名神高速道路城陽工事発注者:西日本高速道路関西支社場所:京都府城陽市設計:オリエンタルコンサルタンツ,復建調査設計,八千代エンジニヤリング他規模:工事延長3,660m(土工延長3,660m,橋梁延長553m)切土460万m3 場内盛土397万m3函渠工─ボックスカルバート2ヵ所 下部工─橋台2基,橋脚18基 地盤改良工90万m3他(関西支店施工)――新名神高速道路城陽工事

08KAJIMA202610いかなる工事環境下でも 城陽工事では,現在約150万m3の盛土を対象に,無人で動く自動ブルドーザ1台,自動振動ローラ1台の計2台と,有人操作によるナビシステム搭載のアーティキュレートダンプトラック2台が連携して自動化施工が行われている。 取材日は気温40℃に届きそうな猛暑日。遮蔽物の一切ない炎天下のもと,進入してきた有人のナビシステム搭載ダンプトラックが,待機している自動ブルドーザの直前で停止し,土砂が滑り落ちる。自動ブルドーザは,ダンプトラックの実際の荷下ろしの位置情報と,周辺地形の計測結果に基づき,荷下ろしされた土砂を計画通りに敷き均す。この作業状況は現場から約2km離れた工事事務所に設置したオペレーションルームで管制員1名が管理している。自動振動ローラは,管制から指示された転圧範囲をもとに高精度な走行・転圧を実行する。それぞれの機械には動作範囲が重複する重機に対して衝突を防止する機能が備えられ,人為的な操作ではなく,機械そのものの自森田真幸所長松永光示工事課長城陽工事で活躍するA4CSEL施工ステップ律的な走行を可能にしている。 加えて,本現場に試験導入されたのが,転圧後に品質チェックを行う測定装置を自動運転でけん引する「A4CSELAGV」だ。 これにより,A4CSELで施工計画から施工,品質管理まで一気通貫でできるようになった。現場実装でシステムをアップグレード 赤谷3号砂防堰堤工事を経験し,A4CSEL導入2現場目となる森田真幸所長は,「現状は自動化施工ですべてを完結させるのではなく,自動化施工の能力を最大限に生かせるよう,現場で試行錯誤を重ねながら,有人と無人の区分けを現場で工夫し運用しています」と話す。「さらに造成現場への対応として,A4CSELの開発を担当するメカトロニクス・ソリューション部自動化施工推進室と連携し,システムの改良を進めてもらいました。多面勾配でも,自動化建設機械で所定の形に敷き均せるようになってきたのは大きな進化ですね」。 細かな開発項目を含めると現場からの 現場では,ナビシステム搭載アーティキュレートダンプトラック(有人),自動ブルドーザ(無人),自動振動ローラ(無人)が連携して自動化施工を行っている。 また,地盤の締固め品質管理手法「Geo-DXCompaction®」の測定装置を自動運転でけん引する「A4CSELAGV」が試験導入されている。1運搬:アーティキュレート   ダンプトラック(ナビシステム)2敷均し:ブルドーザ(自動)3転圧:振動ローラ(自動)4品質管理:A4CSELAGV(自動)工事事務所のオペレーションルーム。施工データをリアルタイムで確認し,異常や施工条件の変化があれば即座にフィードバックする有人ダンプトラックが運搬ルートに従って盛土エリアへ土砂を搬入自動ブルドーザが設計データに基づいて敷き均す自動振動ローラが規定回数・規定条件で転圧A4CSELAGVが測定装置を自動けん引し,品質を管理photo:takuyaomuraphoto:takuyaomuraphoto:takuyaomuraphoto1∼3:takuyaomura

09KAJIMA202610特集 A4CSEL最前線――大規模造成工事に適用 我が国では,少子高齢化の進展に伴う建設業の担い手不足や技能者の高齢化が大きな課題となっており,社会インフラの整備・維持管理を持続するためには,生産性向上と安全性確保の両立が不可欠です。A4CSELは,こうした課題の解決に資する革新的な技術であり,弊社では国が推進する「i-Construction2.0」が目指す建設現場のオートメーション化の推進と,高速道路事業における新たな施工モデルの確立を期待して導入を決定しました。また,本工事を通じて得られた知見が建設業界全体へ展開され,業界が抱える課題解決に寄与することも期待しています。 現在の施工状況を通じて感じるA4CSELの大きな価値は,施工の効率化,省人化,安全性向上にあります。従来は熟練技能者の経験や勘に依存する部分が大きかった施工プロセスにおいて,自動化施工の有効性が着実に発揮されていると感じています。実際に現場で自動化施工を目の当たりにした際には,自律的かつ円滑に稼働する建設機械に大きな感銘を受けました。建設生産システムの新たなステージへmessageA4CSELが実際の高速道路工事で実装され,日常的な施工として運用されている状況を見ると,建設生産システムが新たなステージに入ったことを実感しています。 一方で,現場運用に向けた事前調整や,現時点では有人対応が必要な施工箇所などの課題もあります。しかし,こうした課題に一つひとつ取り組みながら知見を蓄積することで,本工事においてA4CSELがさらなる施工の自動化・最適化を実現し,生産性向上や安全管理の高度化に一層寄与することを期待しています。また,本工事で得られた知見が高速道路事業にとどまらず,業界が抱える人手不足や働き方改革といった課題解決にも貢献することを期待しています。鹿島さんには,卓越した技術力と挑戦する姿勢をもって建設業界の革新をけん引し,次世代の建設現場づくりをリードしていただきたいと考えています。西日本高速道路 関西支社新名神京都事務所 城陽東工事区 工事長金清翔平 富山県富山市の森林地帯で進められている平だいら等処分場建設工事では,隣接する既存処分場の埋立残容量の減少に伴い,埋立容量744万m3,切土量288万m3,盛土量77万m3におよぶ管理型最終処分場を新たに整備している。 A4CSELは,その既設処分場の埋立廃棄物の流出防止を目的とした外周部の堰堤盛土工事において,A4CSEL自動振動ローラを堰堤盛土の転圧作業にも適用column自動振動ローラの転圧作業(左)と自動ダンプラトラックの試験走行(右)の様子有人ブルドーザによる敷均し後,自動振動ローラによる転圧作業を実施している。 また,現場内の仮設道路を活用し,自動ダンプトラックの試験走行にも取り組んでいる。造成工事特有の曲線線形や大きな縦断勾配,不均質な路面環境における走行精度の向上に加え,長時間連続運行の実現を目指し,技術検証を進めている。フィードバックは約20件ほどに上ったが,自動化施工推進室でそれらの項目を包括するシステム・アップグレードを行い,半年かけて機能を実装させた。自動化施工の最前線として 工事全体の監理,マネジメントを担当する松永光示工事課長は「A4CSELを導入する最大のメリットは,技能者の経験や勘だけに頼らず,施工データに基づいて施工を最適化できることです。運搬,敷均し,転圧を一体的に管理できるため,均一で安定的な施工が実現します」と話す。 今後,工事は盛土の最盛期に入る。現在1ヵ所で適用しているA4CSELを,別の盛土エリア1ヵ所にも展開し,自動ブルドーザ2台,自動振動ローラ2台の計4台で自動化施工を実施する予定だという。 「自動化施工を最後までやり切ったという実績を残すことで,次につなげていく。自動化施工のリーディングカンパニーとしての当社の取組みや技術開発を発注者も応援してくださっています」(森田所長)。 「現場運営で大切なのは,発注者,協力会社,職員が意思疎通を行い,同じ目的を共有しながら工事を進めていることです。自動化が進んでも,現場を支えているのは当たり前ですが『人』。A4CSELを導入したことで,発注者との協議,工程調整,施工計画立案,協力会社との連携など,人による高付加価値業務に集中できる環境が整ってきました。関係者と力を合わせながら,安全を最優先に,高品質なインフラを完成させ,城陽工事で培った自動化施工の経験や知見を,今後の建設業全体の発展につなげていきたいです」(松永工事課長)。 そして,「A4CSELforEarthworks」は,現場条件に応じて4種の建設機械(自動ブルドーザ,自動振動ローラ,自動バックホウ,自動アーティキュレートダンプトラック)を組み合わせながらその適用数を増やし,技術の精度を高めながら「現場の工場化」を目指していく。

に定着しています。2.0は,2040年度を見据え,建設現場において3割の省人化,生産性の1.5倍向上を目指して取組みを進めていくこととしています。自動化施工の意義とその道筋横尾 土木現場では,事前に最適な施工計画を立案し,施工中は日々変化する条件に応じて計画をタイムリーに修正しながらPDCAを高速で回していくことが生産性向上の要となります。しかし,この部分はこれまで人の裁量に依存してきました。この「要」の部分を人の裁量から脱却させるには,施工計画をシミュレーションで最適化し,シミュ10KAJIMA202610あらゆる建設生産プロセスのオートメーション化へ石川 生産年齢人口の減少や高齢化により建設業の担い手不足が非常に深刻になる一方で,近年,インフラ整備に加え,災害対応や老朽化対策も増えています。限られた人員と予算で社会資本を維持するには,生産性向上は非常に大きなテーマです。国土交通省はi-Constructionをさらに深化させたi-Construction2.0(以降,2.0)の策定で,測量,設計,施工,施工管理,検査までを含めたあらゆる建設生産プロセス全体の高度化,オートメーション化を目指しています。小澤 10年前にi-Constructionが始まった頃と比べると,今はDXやAIが当たり前の時代です。自動車をはじめ多くの業界で自動化技術が進む中,建設業界でも,省人化しつつ安全かつ快適で,生産性の高い施工を実現するためには,自動化は避けては通れません。松田 データ連携やリモート管理も含めて働き方そのものを変え,建設業をより魅力ある産業にしていくことが重要です。石川 i-Constructionの開始当初は,ICT施工の導入に対して,地方の建設企業の中では「初期投資に見合うのか」と慎重な空気がありましたが,国が旗振り役となって現場の状況にあわせて段階的に普及を後押しした結果,「原則ICT」といえるまで建設現場の生産性向上や業務,組織,プロセスや働き方の変革を目的として,i-Constructionの取組みやインフラ分野のDXを推進する国土交通省。2024年には「i-Construction2.0」に進化させ,さらなる「省人化」を加速させている。こうした国の施策と当社のA4CSELの挑戦およびその将来像について,国土技術政策総合研究所の石川博基氏,小澤直樹氏,松田奈緒子氏を迎え,当社土木管理本部・横尾敦,メカトロニクス・ソリューション部・出石陽一のメンバーで座談会を行った。社会資本マネジメント研究センター長大臣官房 インフラDX総合推進室次長石川博基社会資本マネジメント研究センター社会資本施工高度化研究室 室長小澤直樹社会資本マネジメント研究センター社会資本マネジメント研究室 室長松田奈緒子〈座談会〉建設現場のオートメーション化国の施策とA4CSELの挑戦国土技術政策総合研究所国土技術政策総合研究所(国総研)は,国土交通省の技術面を支える研究機関。社会資本整備に関わる計画・設計・発注・積算・施工・維持管理などを対象に,建設現場の生産性向上や省人化,DX,AIの活用,データ連携,カーボンニュートラルなどの社会課題に対する技術的な検討を行っている。また,民間企業などが開発した新技術を社会実装につなげるため,ガイドラインや基準,マニュアルづくりなどを通じた国の施策の後方支援により,公共工事の現場での普及を促進させる役割も担っている。

11KAJIMA202610特集 A4CSEL最前線――大規模造成工事に適用レーション通りに建設機械を稼働させ,条件が変わればその変化を反映したシミュレーションをリアルタイムで実施し,得られた修正計画を再度建設機械に指示する仕組みが必要です。つまりデジタルツインと自動化施工です。生産性向上を徹底的に追求すると必然的にデジタルツインと自動化施工による施工マネジメントに辿り着くのです。出石 土木現場では,天候や地質などの現場条件の変化や,技能者が行える仕事量の変動の影響で施工計画通りに工事が進まないことが多々あります。これに対して,A4CSELでは最適な施工計画を,自動化建設機械によって確実に進めることができます。また,自動化建設機械から作業データがリアルタイムに上がってくるので,進捗に応じた即時の対応ができます。さらに,作業データを分析し,自動化施工システムのプログラムを書き換えることで,生産性を向上させることができます。小澤 自動化施工の意義は,単なる省人化ではなく,建設業全体の持続性を高められることにあります。AIやICTの急速な進展を背景に,大手だけでなく中小企業にも活用が広がりつつあり,現場での有効性が認識され始めています。石川 自動化施工を一気に広げていくのは難しいので,まずはダムやトンネルといった大規模工事で実装し,そこから中規模,さらには地域の建設会社が担う工事へと段階的に拡がっていく形になればと考えます。大手ゼネコンが先行投資して現場実装を進め,メーカーやリース会社が扱える状態になれば,建設現場のオートメーション化に向けたトップランナー施策建設現場のオートメーション化を実現・建設機械のデータ共有基盤の整備や安全ルールの策定など自動施工の環境整備を進めるとともに,遠隔施工の普及拡大やAIの活用などにより施工を自動化1.施工のオートメーション化・BIM/CIMなど,デジタルデータの後工程への活用・現場データの活用による書類削減・監理の高度化,検査の効率化2.データ連携のオートメーション化(デジタル化・ペーパーレス化)・リモートでの施工管理・監督検査により省人化を推進・有用な新技術等の活用により現場作業の効率化を推進・プレキャストの活用の推進出典:国土交通省「i-Construction2.0∼建設現場のオートメーション化∼」https://www.mlit.go.jp/tec/constplan/content/001738240.pdfより一部編集3.施工管理のオートメーション化(リモート化・オフサイト化)中小企業も使いやすくなり普及が一気に進むでしょう。実際,遠隔施工ができる建設機械がリース会社から提供されるなど,初期投資の壁を低くする動きが出ています。松田 その際に大事なのは,施工単体ではなく,設計や契約,施工管理,検査まで含めた全体の最適化です。BIM/CIMやデータ連携を通じて,書類作成や検査業務も効率化させ,現場の負担を減らす必要があります。「建設生産プロセス全体の最適化」の中で自動化施工を位置づけることが大切です。A4CSELのさらなる展開横尾 2009年,自動化施工やデジタルツインがまだそれほど叫ばれていない頃からA4CSELの技術開発が立ち上がりました。競争力を上げるには生産性を上げるしかない,そのためには施工をどう最適化すべきか,というところから考えました。土木管理本部 土木技術部 部長横尾敦メカトロニクス・ソリューション部自動化施工推進室 室長出石陽一出石 A4CSELの技術開発は,振動ローラによる締固め作業を自動化するところから始めました。その後,ブルドーザによる敷均し,ダンプトラックによる運搬,バックホウによる掘削・積込みを自動化しました。2015年の五ケ山ダムを皮切りにダム現場を中心に現場導入を開始し,2020年から24年まで成瀬ダムで本格的に導入しました。現在は,これまで培ってきた技術をさらに発展させ造成工事へ展開していて,その一環として高速道路の盛土工事へ導入しています。ただ,ダム工事は施工条件が比較的安定しているのに対して,造成工事は土質や地形が日々変わるので難易度は高く,生産性を上げるにはさらなる技術開発が必要です。横尾 山岳トンネルでも発破,装薬,ずり出し,吹付け,支保工などの掘削技術の自動化・遠隔化はほぼ完了し,現場施工を通じた改良フェーズに移行しつつあります。シールドトンネルについても自動化・遠隔化技術とデータ連携・可視化技術を組み合わi-Construction(2016年度制定)「ICTの全面的な活用」「全体最適の導入(規格の標準化)」「施工時期の平準化」の3つの柱からなる。調査・測量から設計,施工,検査,維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスでICTを活用し,建設現場の生産性を2割向上させる。i-Construction2.0(2024年度制定)今よりも少ない人数で,安全に,できる限り屋内など快適な環境で働く生産性の高い建設現場を実現することを目指す。2040年度までに,建設現場の省人化を少なくとも3割,すなわち生産性を1.5倍以上に向上することを目指す。①施工:建設機械の自動化・遠隔施工の普及拡大,AIやデータ共有基盤の整備②データ連携:BIM/CIM等のデジタルデータの活用による,書類作成や検査業務の 大幅な効率化③施工管理:リモート技術を用いた施工管理・監督検査による省人化の徹底

12KAJIMA202610技術研究所で開発開始五ケ山ダム大分川ダム(現・ななせダム)鹿島西湘実験フィールド小石原川ダム振動ローラ自動施工システムの実証実験実施JAXAとの共同研究開始初の本格的なダム堤体の盛立作業実施(小石原川ダム)自動振動ローラの現場導入と自動ブルドーザの実証実験実施(五ケ山ダム)/次世代建設生産システムA4CSELを発表せPDCAを高速回転させる取組みを進めています。さらにはシンガポールの政府機関との共同研究で海外展開にも着手しています。同国では大規模な埋立て工事が計画されており,省人化に国の政策的な後押しがあるので,A4CSELとの相性が良いだろうと考えています。(29ページに関連記事掲載)出石 今後,自動化施工を普及させるために解決すべき課題があります。まず,機械を自動化するためのコストです。今は協力会社やレンタル会社が保有している建設機械を改造しているのでコストオンになります。機械メーカーや機種ごとに制御する仕組みが違うので,機械ごとに自動化するための仕様を変える必要があり,これもコストオンの要因です。 技術面では,複雑で非定常な現場条件への対応を可能とすることに加えて,汎用化・標準化を進め,より使いやすいシステムにすることが必要と考えています。横尾 私もコスト面の課題が最も大きいと思います。鹿島だけが使っている限り,コストは下がりません。多くの会社が使えるように汎用化し,標準化することが重要です。だから「鹿島のA4CSEL」にとどまらず,「日本のA⁴CSEL」にしていかなければいけない。今後は汎用化・標準化に加え,AI活用によるさらなる高度化,運用・保守体制の構築が鍵になります。自動化の普及に向けた課題石川 自動化施工の普及に向けて,安全ルールや責任分界といった制度面の整備が必要です。国土交通省がその方向性を示す際に,技術的な裏付けを担うのが国総研の重要な役割であると思っています。また,民間が開発した高度な技術が社会実装につながるよう,その道筋をつけ,普及のためのマニュアルやガイドラインを整備することも我々の役割です。小澤 さらに重要なのは,メーカーや機種の違いを超えた総合的な連携です。異なる建設機械間の相互接続性やインターフェースの標準化がなければ普及は進みません。また,自動化技術は初期投資が大きく単独の企業で抱えるのは難しい。また,中小の企業でも広く使える仕組みにすることが必要です。現場条件は一様ではないので,協力会社も含めた教育訓練や運用体制づくりも重要です。松田 BIM/CIMのようなデータ基盤をどう有効活用するかも課題です。設計者と施工者ではモデルに対して求める視点や詳細度が違いますので,設計・施工・維持管理の各段階で何を標準化し,何を現場ごとに調整するのかを整理する必要があります。国総研はその整理を技術面から支える役割があります。横尾 施工者はどうしても今の現場をどう改善するかというアプローチになりますが,今後は将来の建設現場はこうあるべきだというバックキャスト的な視点が重要です。協調領域については,安全ルールやセキュリティ,物理シミュレーションの標準,建設機械の共通制御信号など,最低限のルールや規格はぜひ整備していただければと思います。電気自動車の充電規格のように共通部分が決まれば,その上で各社が十分競争できます。出石 協調領域という切り口では,通信インフラも大きな課題です。山奥の造成やダムの現場では通信環境を整えるだけで大きなコストがかかります。通信インフラの整備が進めば普及が促進されます。また,自動化施工を導入する現場を増やし,多くの人に自動化施工に携わってもらうことが重要です。国が旗振り役としてけん引していたHistoryofA4CSEL200920142016201220182015ブルドーザ自動運転の造成工事の適用性実験実施振動ローラとブルドーザ,ダンプトラックの自動化・3機種連携に成功(大分川ダム)/鹿島西湘実験フィールド開設(神奈川県小田原市)2017

13KAJIMA202610特集 A4CSEL最前線――大規模造成工事に適用成瀬ダム堤体打設工事神岡試験坑道岡崎市阿知和地区工業団地造成事業赤谷地区河道閉塞対策工事「A4CSELforTunnel」完成。山岳トンネル掘削の6ステップの自動化・遠隔化に成功/「A4CSELforEarthworks」を岡崎市阿知和地区工業団地造成事業に適用成瀬ダム堤体打設工事においてA4CSELによるCSG堤体打設を開始ダム工事における月間打設量国内最高記録を成瀬ダム堤体打設工事で更新だけると,普及は大きく進むと思います。自動化により建設業を魅力ある産業に松田 今の若い世代はデジタル環境の中で育っており,便利なものを使って効率化することはごく自然な感覚です。彼ら彼女らにとって,DXや自動化を取り入れた建設現場は,ものづくりと先端技術が融合した魅力的な場になり得ます。データ連携やリモート管理まで含めて働き方そのものを変え,建設業をより魅力ある産業にしていくことが重要だと思います。小澤 この分野は若い世代の関心を集めやすいですし,多様な人材が建設に関わる可能性を広げますね。出石 これまで建設業には少なかったソフトウェアに長けた人材がA4CSELに魅力を感じて異業種から入社してくれた例があります。また,ソフトウェアに強い若い世代が中心となり現場のシステム全体を改善し,生産性や安全性が上がるという状況が生まれています。松田 ITなど異業種からも人材が集まっているというのは,建設現場に新しい魅力が生まれている証拠です。そうした先進的な取組みが,他の施工者や小さな会社にも波及することを期待しています。「人」が創造性を発揮できる建設現場へ出石 私たちの仕事は「あのダムは自分がつくった」と言えるもので,社会に残るものをつくり,地域に貢献できる実感が大きいです。そこに自動化などの最先端技術が加わることで,さらに新しい挑戦ができ,未来に向けた自身の成長を実感できる。そうした現場に興味を持ってもらえたら嬉しいです。横尾 建設業の魅力はやはり「ものづくりの喜び」です。AIや機械にできることは任せ,人間は新たな価値創造に挑戦する。人は高度な意思決定と創造的な仕事に集中し達成感を味わう。それがこれからの建設現場だと思います。松田 若い世代にとって魅力ある現場とは,デジタル技術を自然に活用しながら,ものづくりに関われる現場だと思います。効率化と創造性が両立する場にしていくことが重要ですね。小澤 本日は,鹿島さんの「やるんだ」という信念を強く感じました。建設業全体をリードする役割をぜひ果たしていただきたいです。トップランナーが走ることで,中小企業もついていきやすくなります。石川 自動化が進んでも,最終的な判断や調整など,人が担う部分は多く残ると思います。AIは選択肢を出してくれますが,その中で何が最適なのかを見極め,調整し,決断するのは人です。そこに建設の仕事の面白さがあります。A4CSELの現場を見れば,昔の3Kのイメージとは全く違うことが伝わります。若い世代にとって魅力ある現場を示す意味でも,鹿島さんには引き続きけん引役をお願いしたいです。(2026年8月4日,於鹿島KIビル)202320212019202420202022CSGの製造から打設までの一連の作業を自動化する「現場の工場化」を成瀬ダム堤体打設工事で実現JAXAと月面での遠隔操作・自動運転を目指した遠隔施工実験を実施/災害現場に初めてA4CSELを導入(赤谷地区河道閉塞対策工事)/「A4CSELforTunnel」を開発(模擬トンネル)/複数現場を一括管制する「遠隔集中管制システム」を開発JAXAと月での無人による有人拠点建設の共同研究成果を発表