経済的に自立したのは20歳で一人暮らしをはじめたときだったが、自信を持って自立した生活ができていると言えるようになったのはつい最近だ。まず掃除の必要性をあまり感じないので、虫が湧くまでゴミを放置してしまう。食事はほとんど外食や買ってきたもので済ませ、﹁料理するの?﹂と聞かれれば﹁できないよ﹂と答えていた。 30歳になる手前で恋に落ちた相手が、たまたま排水溝掃除なんかを進んでやる男性で、二人暮らしをはじめてからは当然のように彼は排水溝の掃除をしてくれていたし、飯もつくってくれていた。その人と結婚し、子供を授かり、ぐぐぐと産み、ぎゃーぎゃー泣き喚く子を二人で見ていると、当然彼は私の食事より子のミルクを優先するわけで、そうすると私はお腹が空くのだが外食をする余裕はないので、﹁するか、料理﹂と思ったわけである。 一人暮らしのときもまったく料理をしなかったわけではない。でも、食材を買ってきて頑張ってつくったわりに期待はずれの味がすることが多くて、その度に少し自分が削れる感覚があったので、なるべくやらないようにしていた。でも、今の私はお腹が空いている。野菜や肉を切り、調味料を入れて炒める。夫に﹁とりあえず味覇とか入れとけばなんでも食べられるよ﹂と言われたので、その通りにしてみた。暗い部屋で、子を抱きながら食べてみる。べちょっとした野菜にダマになったウェイパァーがしがみつき、梅雨の公園みたいだった。 しかし、なんだか私は自分に希望を感じた。完成したもののどうしようもない不味さよりも、その過程で感じた気持ちよさが強かったからだ。包丁で野菜をリズミカルに切る心地よさや熱した油に野菜を入れたときの音の気持ちよさが私の体を高揚させてくれた。それは、この閉塞的な世界に光をもたらすようだったのだ。そうして私は、料理をするようになった。ついでに排水溝の掃除もするようになった。 20歳のころから﹁無駄づくり﹂というテーマで無駄な発明品をたくさんつくってきた。﹁オンラインミーティングからそれとなく脱出できるマシーン﹂や﹁イヤフォンを絡ませるマシーン﹂など、思いついたものをつくることを続ける中で、物をつくることの楽しさや自己表現することがそばにある心強さは人生を通して経験していたはずだった。 なぜ今まで料理をしてこなかったか振り返ると、﹁いいものができるかできないか﹂で考えていたからである。自分を満足させるものをつくり上げることはそれなりに時間がかかってむずかしい。でも、手足を動かしてとりあえず何かをつくることはすぐにできる。成果物が不味いものでもかまわない。つくるしかない。つくっているその瞬間に、私の世界が光で満ちるのだ。30KAJIMA202610ふじわら・まりな作家、無用発明家、コンテンツクリエイター頭の中に浮かんだ不必要なものをなんとかつくり上げる「無駄づくり」を活動の中心に据え、YouTubeをはじめとするSNSで数多くの作品を発表。2013年にYouTubeチャンネル「無駄づくり」を開設して以降、これまでに300個以上の“無用な発明”を制作。「実用と無用」の狭間にある創造性をテーマに、国内外で個展・ワークショップ・執筆・教育活動を行う。2022年に株式会社無駄を設立。ForbesJapan「世界を変える30歳未満の30人_30UNDER30」、JCIJAPANTOYP(青年版国民栄誉賞)会頭特別賞など受賞歴多数。NHKEテレ《ノージーのレッツ!ひらめき工房》「くっつけラボの新発明」など教育番組にも出演。vol.262