検索
水域環境を保全・再生する技術
地球環境保全への関心が高まる中で,「生物多様性」にどう向き合うかが大きなテーマになっています。
当社もその重要性を認識して,多彩な活動を展開していますが,その中で水域環境の保全,再生の研究に取り組むのが葉山水域環境実験場です。今月はカニ護岸パネル,アマモ場育生,サンゴ礁再生・・・と注目を集める「水域環境を保全・再生する技術」を検索します。
担当の3人の研究員に聞きました。
水域環境研究の拠点
 当実験場は,神奈川県葉山町の御用邸からも程近い場所にあります。民間企業では数少ない水域環境の研究施設で,建設業では唯一の存在です。1984年の開設以来,「水域の社会基盤整備に貢献する」をテーマに,生物多様性と建設事業の共生を目指した水域環境の保全・再生技術に関する様々な研究に取り組んできました。
 ここでの研究の成果として実用化されたもののひとつに「カニ護岸パネル」があります。都内の護岸整備などに使用され,クロベンケイガニなどの生息環境を保護しています。

「海のゆりかご」を再生する技術
 衰退したアマモ場の再生技術については,5年前から研究してきました。アマモは日本沿岸の浅瀬に生息する海草類の一種で,魚の餌場,産卵,稚魚の育成場になることから「海のゆりかご」と呼ばれ,水域の生態系維持に欠かせない存在です。
 最初に取り組んだのは,種子の発芽促進技術でした。通常,自然界におけるアマモの種子の発芽率は1〜3%ですが,塩分や温度を調整することで,80%以上に向上させることに成功しました。
 その次は,種苗を海底に移植するメニューの整備です。せっかく移植した種苗が波に流されることのないよう,波の強さをシミュレーションする技術とともに,波の影響度別に3種類の移植基盤を開発しました。(下記参照)
 これらのアマモ場保全活動の取組みは,2008年度より水産庁の「環境・生態系保全実証調査事業」に適用されました。また,昨年の「全国豊かな海づくり大会」(農林水産省後援)では,当社が参画し葉山町漁協やNPO法人からなる「葉山アマモ協議会」が,「水産庁長官賞」を受賞するなど注目を集めています。
「海のゆりかご」アマモ場 技術研究所・葉山水域環境実験場
波の条件に応じた3種類の移植基盤
波の影響
アマモの移植実証実験 
移植直後 移植6ヵ月後

サンゴの再生技術
 沖縄の海などでサンゴ礁の死滅が問題となっていますが,従来までのサンゴ再生事例では,自然から採取したサンゴの枝を移植する手法が多く,ドナーとなるサンゴの破壊が懸念されてきました。
 私たちの実験場では,サンゴが自然着生しやすい網状の基盤を開発しました。基盤をサンゴ産卵期の数ヵ月前に海底に設置すると,海藻類の一種であるサンゴモが基盤表面に付着します。このサンゴモがサンゴの幼生を誘引し,着生率を大幅に高めるのです。沖縄県の慶良間諸島で行なわれた実証実験では,基盤設置から1年後の平均生存率が8割を超えるという結果を残しました。
 この手法は,海中のサンゴの卵・幼生を,自然に着生させて育成するため,環境への影響が少ないのが特徴です。基盤は,網が自然に分解するトウモロコシの成分を使用しており,安価で軽量,光の透過性にも優れています。基盤に着いたサンゴは,人工構造物などの別の基盤にも簡単に取り付けることができるのも利点です。
 当社は昨年から,沖縄県にある国内最大規模のサンゴ礁域「石西礁湖」で国が進める自然再生プロジェクトに協議委員メンバーとして参画しており,この海域でも再生技術の活用を計画しています。

 実験場におけるこのほかの研究テーマとしては,湖沼やダム湖の水質改善策として注目を集める「マイクロバブル」に関する研究や,水域環境の保全に寄与する沿岸の希少動物の生態研究も行なっています。今後も環境共生社会の更なる推進を目指して,生態系,生物多様性の維持・保全につながる技術研究に取り組んでいきます。

「葉山アマモ協議会」の皆さん。真名瀬漁港でアマモの花枝を採取した
サンゴを着生させる基盤 基盤に着生して間もないサンゴ
当社開発の長寿命コンクリート「EIEN」は,低アルカリ性で耐久性も高い。サンゴ礁の人工基盤としても試験を実施した
水域環境と建設事業の共生を目指して
左から山木克則さん,リン ブーン ケンさん,中村華子さん 「ここは企業の実験場として,充実した設備があります。水域環境に関する現場支援業務も行なっているので,大いに活用してもらいたいですね。今後更に研究を深耕して,埋立や護岸などの港湾工事に寄与するような技術を確立したいです」(リンさん)

 「水域環境への取組みは,実証実験などを行なう地元の皆さんの協力が不可欠です。今後も連携して良い方向に進めたい。当社は,小学生を中心に出前授業を通じて,水域の生態系や生物多様性について,わかりやすく教えています。企業のCSRの取組みとして,そういった活動を継続していきたいですね」(山木さん)

 「水域希少生物の生態研究を通して,生態系と建設事業の共生に向けた活動に貢献できれば,と思います。企業の環境への取組みが注目される中,この実験場からどんな技術が飛び出すか,楽しみです」(中村さん)