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市民が集う施設を目指して

武蔵小金井駅南口第1地区(再)1―V街区公益施設・商業業務棟建築工事のうち「(仮称)小金井市民交流センター」工事

美しいまちづくりを進める東京都小金井市。市内は閑静な住宅地が広がり,緑豊かな公園や大学などの教育機関が点在する。JR中央線武蔵小金井駅は,昨年末に高架化工事が完了。南北の街の一体化とともに南口の整備が進む。
その核となるのが「(仮称)小金井市民交流センター」だ。キーワードは「逆斜楕円錐形」。
シンボリックな外観で小金井市の新しい顔になる。



Map 【工事概要】
武蔵小金井駅南口第1地区(再)1―V街区公益施設・商業業務棟建築工事のうち「(仮称)小金井市民交流センター」工事

場所:東京都小金井市
発注者:都市再生機構 東日本支社
設計:ヘルム・アクト環境計画設計共同体
規模:RC造一部S造 B1,5F 延べ 6,457m2
工期:2007年1月〜2010年11月
(東京建築支店施工)
武蔵小金井駅南口で進むまちづくり

南口のまちづくり

「黄金に値する豊富な水が出る」ことから転じて「黄金井」「小金井」になったと言われる小金井市。「滄浪泉園(そうろうせんえん)」など市内3ヵ所が東京都の名湧水に選定され,武蔵野,野川,小金井の都立3公園がある。多くの大学や研究施設があり,文教都市としての一面も持つ。都心へのアクセスも良く,住宅地域が市内の大半を占める。

一方,JR中央線が市を南北に分断し,「開かずの踏切」が長く市民の悩みの種になっていたが,高架化事業を契機に南口の再開発事業は大きく進展した。

武蔵小金井駅南口第1地区第一種市街地再開発事業は,「水と緑とふれあいのある美しいまちづくり」がテーマ。交通広場,フェスティバルコートと呼ばれる二つの広場の周囲に,商業・業務施設,(仮称)小金井市民交流センター,大規模店舗,住宅・専門店からなるまちづくりが進む。

当社は,商業・業務施設棟と(仮称)小金井市民交流センターを担当。先行して竣工した商業・業務施設「ライフサポートショッピングセンター」(2009年9月開業)のあと,現在,(仮称)小金井市民交流センターを施工している。2006年に閉館した旧公会堂の代替施設で,文化ホールの機能に加え,市民交流・市民文化振興の場を目指す。

再開発が進むJR武蔵小金井駅南口。前面が交通広場,左から商業・業務施設,施工中の(仮称)小金井市民交流センター,住宅・専門店,右端がJR武蔵小金井駅
逆斜楕円錐形と透明なガラスカーテンウォールが印象的な(仮称)小金井市民交流センター(完成予想パース)

駅前に誕生するシンボル

南口のまちづくりのシンボルになる本施設のコンセプトは「市民のリビングルーム」。地下1階〜2階部分のコミュニティプラザと3〜5階の文化ホールで構成される。文化ホールには578の客席と舞台,コミュニティプラザは約150席を持つ市民交流ホールや情報センター,ギャラリーなどが配置される。

限られた敷地内に,この上下2段重ねの施設を機能的に実現させる設計が「逆斜楕円錐形」である。楕円状の円錐を逆さに置いたような外観で,楕円の大屋根で全体を包み込むイメージを形にした。

簡略断面図

着工前に自らの施工物件で見学会

工事を指揮するのは青木幹雄所長。ファサードも内部もランダムなアーチ形状からなる多摩美術大学八王子キャンパス新図書館棟を建てた実績を持つ。今回も所員を始め,協力会社など,図書館の施工を経験したメンバーが青木所長の下に集結した。

まずは着工前に,施主と一緒に本図書館を見学した。「当社のコンクリート技術の粋を集めた建物を見てもらうことで,信頼を得ることができました」(青木所長)。


青木所長 3次元アーチ曲面壁の施設を施工した多摩美 術大学八王子キャンパス新図書館棟(2007年 2月竣工)

仮設計画を組み立てる

「逆斜楕円錐形という特殊な形の建物は,予想通りの難物だった」と語るのは森田健一工事課長だ。

この「逆斜楕円錐形」を建てるために,仮設計画が練り込まれた。 水平な床に垂直な柱と壁を持つ一般的な建築であれば,2次元の図面で足場の検討ができる。しかし,「逆斜楕円錐形」は柱や壁が斜めのため,床面と天井面で足場の平面形が異なる。支保工兼用足場や鉄骨をどのように組むか苦慮したが,模型や3次元の躯体モデルを使って検討することで解決した。

モックアップでは,型枠・鉄筋の組み方,PC鋼線の配線,コンクリートの締固めなどを実験。安全・品質・施工性を確認し,実際の施工を開始した。「仮設計画は大変ですが,モックアップで施工実験が成功したことで,自信を持って工事に臨めました」(森田工事課長)。



鉄骨を3次元の躯体モデルで検討 モックアップの施工実験が自信に

「逆斜楕円錐形」の難工事に挑む

斜壁の隣に立つ森田工事課長

“チーム青木”の「逆斜楕円錐形」の施工が始まった。本工事は,斜めの柱・壁に加え,それに接する梁・スラブなどが様々な方向,色々な大きさ,高さで絡み合ってくる難しさがある。

複雑な支保工兼用の足場を組み立てた後,壁の外側に仮スラブを設置する。仮スラブは壁型枠を正確に斜めに立てる役目を果たすもので,壁面端部(A)と墨出しで床面に描いた楕円曲線上の点(B)から垂直に立ち上げた仮スラブの小口(C)を結ぶことで出来上がる直角三角形の斜辺が型枠面となる。

次に柱筋を圧接し,外側の壁型枠を建てる。「逆斜楕円錐形」という3次元の曲面の型枠は,工場で加工(プレカット)される。

最初に設計図から躯体図を作成。作成された躯体図を元に型枠業者がパネル割り図を作り,そこから加工図を起こす。加工図通りに寸分の狂いもなく,コンピュータ制御されたカッターで,型枠用コーティング合板が切断され,現場に搬入される。「工場で加工した方が,精度の良いものができる。工期短縮やごみの減量にも繋がりました」と森田工事課長。高精度の型枠の組立てには,高い施工精度が求められる。

斜壁の施工方法

次に柱・梁・壁に鉄筋を配置し,コンクリートに圧縮力を加えるPCストランドを配線。内側の壁型枠を建て,型枠の建て入れを調整し,締め固め,コンクリート打設という手順だ。

取材に訪れた時は,屋根以外の各階が建てられ,地階の設備工事が始まっていた。青木所長は「安全と品質に妥協せずに良い物を造る。施工が難しい建物だからこそ,完成の喜びは大きい」と話した。仮囲いには,子どもたちが描いた50年後の武蔵小金井の風景が掲げられている。


子どもたちが描く50年後の小金井が仮囲いを飾る

西側上部から現場を望む
最上階での集合写真(楕円壁・梁配筋中)。後列左から森田工事課長,篠端工事係,亀田さん(大木組),中條さん(渡部工務店),鈴木さん(龍埜建設),松本工事係。前列左から工藤工事係,青木所長,坂本工事課長,村形工事係,西垣工事係
「逆斜楕円錐形」の施工手順
1.外側の支保工兼用足場(左)を組んだ後,型枠の定規になる仮スラブ(右中央)を建て込む 2.外側壁型枠(左)を立て,内側の足場を組む 3.配筋作業
4.PC鋼材の配線。緑の線が,コンクリートに圧縮力を加えるPCストランド 5.これらの作業の後,内側の壁型枠を建て,コンクリート打設へと進む  
Column1 密実なコンクリートの製作
打放しの曲線が美しいコンクリート 

逆斜楕円錐形の建物は,打放しのコンクリートで仕上げられる。そのため,いかに美しいコンクリートを造るかが,この工事の最重要課題でもある。建築物のコンクリート施工には,水分の逸散により生じる乾燥収縮ひび割れへの対応が必要となる。一般にはひび割れを誘発する目地を予め設けることで対処するが,この施設では意匠上難しい。当社技術研究所がひび割れを予測解析し,これを生じさせないためのコンクリートを検討。楕円壁のコンクリートには,骨材に収縮が小さい石灰砕石,発熱が少なくひび割れ抑制に効果の高い中庸熱セメント及び膨張材を用いた。




Column2 音・振動への対策
文化ホールのイメージパース 

(仮称)小金井市民交流センターは,構造躯体コンクリート工事後,床・壁・天井に防振ゴムなどを使用し,騒音・振動を遮断する。配管などの貫通部処理や,音漏れを防ぐ基本となる各種仕上げ材取合いのすき間ふさぎにも気を使って施工している。
  当社の技術研究所・建築管理本部・東京建築支店の音響専門メンバーが加わった定例会議で音響関連の施工計画検討を行うとともに,「音響パトロール」により実際の施工状況を確認しながら工事を進めている。