現場から:

湖畔によみがえる縄文文化
三方町縄文博物館新築工事



 福井県敦賀市より少し西に三方五湖という5つの美しい湖がある。すぐ北には若狭湾が広がり,国定公園に指定されている。三方五湖の一つ三方湖のほとりに,縄文文化を紹介するため博物館の建設が地元三方町によって計画され,現在当社が施工に当っている。今回は,この三方町縄文博物館新築工事の現場を紹介する。


全景
全景 ドーム屋根の型枠を施工中

●古代遺跡のまち

 三方町は国内でも有数の古代遺跡が残っている。なかでも,三方湖畔の鳥浜貝塚は海抜0m以下の地点から縄文時代草創期(約1万年前)〜前期(約5千年前)の遺物が出土する大変貴重な低湿地遺跡である。日本最古の丸木舟をはじめ,漆塗りの櫛・弓・石斧の柄・編物・縄など数多く発掘された。これらを紹介するために計画されたのが,今回施工中の縄文博物館である。


●生き物ような博物館

  縄文博物館の形はドーム型の屋根がすべて土で覆われ,その上に芝と笹を植えるという大変ユニークなものである。昨年設計競技で選ばれた横内敏人建築設計事務所(京都市)の横内敏人氏の設計だ。
 縄文文化を紹介する博物館ということもあり,近代建築にあるような無機的な建物ではなく,有機的な建物を考えたという。「周辺の自然と一体化された,何か生き物のような建物にしたいと思いました。この博物館の形は,ちょうど大地が妊娠した女性のように,縄文の文化を胎内に宿したようなイメージで設計したものです」と横内氏は話してくれた。

完成予想図
完成予想図 博物館を含む約7haの敷地が縄文公園になる

●鬱蒼とした杜をイメージして

 縄文時代というと有名な縄文杉などがあるように,杜の文化・木の文化が連想される。この縄文博物館は古代文化遺産を所蔵するので耐火性のある鉄筋コンクリート造だが,杜の文化を演出するための工夫が施されている。
 まず様々な大きさの円柱が所々に立ち,仕上げがコンクリートの打ち放しで,型枠に杉の板ばりが使用されていること。型枠の杉の木目がコンクリートに写り,仕上りが杉の柱のようになる。こうした工夫によって,館内はまるで杜の中にいるような造りになり,発掘された遺物の他に縄文当時の生活を再現したものが展示される。

杉板ばりの型枠
杉板ばりの型枠 
14・10・6cm幅のものを使い分け,多面的に組んで曲面をつくっている

●複雑な造りを実現するために

 この縄文博物館は形が複雑だ。円弧の外周にドーム型の屋根,様々な大きさの円柱で構成され,地上2階建ではあるがホールや展示室部分など高い吹き抜けの空間がある。構造的にもバランスが難しく,一つも同じ形状の柱や梁がない。「確かに複雑な造りではありますが,この博物館が三方町のシンボルになるよう,鹿島の施工技術をもって完成させたいと思います」と,大藤所長は語ってくれた。

 三方町縄文博物館は,三方町で募集した愛称から「DOKIDOKI館」と名付けられ,初代館長に梅原猛氏(哲学者)を迎える。2000年4月のオープンを目指し,現場は今佳境を迎えている。


三方町縄文博物館新築工事
<工事概要>
場所 福井県三方郡三方町鳥浜122新開田61
発注者 三方町
設計 横内敏人建築設計事務所
規模 鉄筋コンクリート造 地上2階
延べ2,609m2
工期 1998年6月〜1999年10月
施工 北陸支店施工