クローズアップ
かじまじん:

紫綬褒章受章者は多芸多才
   <元知的財産部長 野尻 明美さん >



 この春,当社としては故武藤副社長らに次いで紫綬褒章を受章した野尻さんは,仕事以外にも多くの趣味を持つマルチな人物。今月のクローズアップかじまじんは,公私にわたり活躍中の野尻さんをご紹介します。


野尻 明美さん
のじり あけみ/1963年入社,技術研究所に配属。 建築技術部を経てアルテス取締役, 技術研究所所次長を歴任。 本年3月まで知的財産部長。 現在は建設コンサルティング会社 技術顧問


 特許出願件数174件,登録件数106件。これまでに書いた論文は116編。野尻さん個人の記録だ。特許出願,論文ともに研究職を離れた40歳以降に増加している。「40歳を過ぎてからは管理部門に移って,“仕事”で研究はできなくなった。ですから研究論文は私の“趣味”なんです」と笑う。

 1960年代から70年代初めにかけて大規模な山留め崩落事故が起きていた。当時は施工ミスであると受け止められたが,根本的な設計法に問題があるのではないかと考えた野尻さんは現場において自身が発明した計測装置を用いて挙動測定を繰り返した。その結果,全く新しい考え方による山留め設計法「仮想支点法」と施工法「切ばりプレロード工法」が誕生した。これは国の基準や指針に取り込まれ,74年以降山留め崩壊事故防止に大きく貢献した。79年に科学技術庁長官賞を受賞し,96年,57歳で博士号を取得する。そしてそれまでの研究開発成果が評価され,今年4月紫綬褒章を受章した。

授賞式
5月14日,科学技術庁長官から紫綬褒章を授与される

その発想の源は?「般若心経に“観自在(かんじざい)”という言葉があるのですが,いつも一つのものを固定観念で捉えるのではなく,いろんな角度,いろんな視点から見るようにしています。今の時代は創造的な発想力が欠けているような気がしますね」

 野尻さんは7年前,勤続30年の休暇と資金を利用して大工道具一式を揃え,木彫りを始めた。初めて作った木製のおもちゃが「世界・木のクラフト展」に入選。以来,多くの作品を手掛け,東急ハンズ大賞や日本DIY協会クラフト部門などでも入賞している。また,府中アカデミー合唱団でバスバリトンを担当。年1回の定期演奏会の舞台に立ち,来年にはローザンヌへ遠征する予定とか。ゴルフもシングルの腕前と,まさに多才。


モビール
東急ハンズ大賞を受賞した「101匹熱帯魚ちゃんの空中遊泳」


 「独創的なアイディアは多才の中から生まれると信じています。仕事以外で何かを極めるように努力して欲しいですね。それを上司も妨げないで欲しい(笑)。また,創造的なアイディアは40歳以降に出てくるようです。40歳までは現場などでいろんな経験をし,感性を磨いて欲しい。その後生まれるものが具体的に活用できる新技術だと思いますよ」と,私たちにアドバイスをくれた。