特集:六本木ヒルズ・レポート2002

都市再生のモデル事業として注目を集める「六本木ヒルズ」――。
職・住・遊・文化の多彩な都市機能を備え,民間の市街地再開発事業としてはわが国最大規模を誇る。
今月の特集では,来春オープンとなる街の全体像を紹介するとともに,この歴史的な大プロジェクトで,当社が果たしている役割を紹介したい。



roppongi hills
完成予想パース
施設概要:北からA・B・Cの3街区で構成される。六本木通りに面するA街区には,街のメインエントランスとなる駅前プラザと店舗,美容専門学校などが入居する複合棟。B街区には,東京の新たなランドマークとなる事務所棟A(仮称)の他,グランド ハイアット 東京,ヴァージンシネマズ 六本木ヒルズ,テレビ朝日が配置される。事務所棟の最上部5層には,展望台,美術館,教育施設,会員制クラブからなる「森アーツセンター」が開設される。C街区には,地上43階の超高層棟を含む4棟の住宅棟(約840戸)と,寺院などが整備される。低層部には,敷地全体に緑地と店舗(200超)が広がる。
六本木ヒルズ
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着工までの歩み
 六本木ヒルズの着工は2000年4月。事業の始まりは,1986年に六本木六丁目地区が「再開発誘導地区」に指定されたことに遡る。その後,地権者の一人である森ビル,テレビ朝日などが,他の地権者に対し再開発の呼びかけを行っていった。だが,この地区の地権者は500名以上にも上り,意思の統一は容易ではなかった。その後の地権者間の粘り強く,徹底的な話し合いが,1998年に400名以上の地権者が参加した「市街地再開発組合」の設立に繋がった。この間,森ビルはデベロッパーとして,また総合的なコーディネーターとして,潤いある文化都心の実現に情熱を傾けてきた。構想から完成まで実に16年余。住民と開発事業者が一つになってつくりあげた夢が,来春,実を結ぶ。

六本木ヒルズ 着工前の六本木六丁目地区(2000年3月撮影)
六本木ヒルズ
着工前の六本木六丁目地区(2000年3月撮影)


街のコンセプトは「文化都心」
 六本木ヒルズのある東京・港区六本木六丁目地区は,東京のビジネスの拠点である丸の内や新宿,品川などから半径5kmの範囲にある。幹線道路である六本木通りと環状3号線が交差する地点に位置し,周辺には各国の大使館や文化・情報施設が点在している。敷地の広さは約11ha。この広大な敷地に職・住・遊・文化の機能をあわせもち,緑豊かで潤いのある「文化都心」を創出する大規模プロジェクトである。
 当社は,敷地の造成から街なかを走る幹線道路,上下水道といった新たな街の活動を支える重要なインフラ整備等の土木工事,街のシンボルとなる事務所棟Aの建築工事,再開発全体街区の施工調整業務(施工調整室)をJV(いずれも大林組との50:50)で,駅前プラザ・複合棟の建築工事を単独で担当している。
 完成後の就業者数は約2万人。居住人口は約2千人を想定しており,平日は約5万人,休日には約10万人の来街者が見込まれている。さらに,公園,広場など公共公益施設も整備され,広域交通・地域防災の拠点としても期待されている。


インフラ整備等土木工事で街の基盤づくりに貢献
 この地区は,もともと北西に面した六本木通り方面から南東の麻布方面にかけて,最大高低差が17mもある傾斜地であった。安全で快適な街の実現には,この高低差をある程度解消する必要があった。このため,当社は各建築物の建設が始まった2000年6月から造成工事を行い,5カ月の間に全体で約30万m3に及ぶ土砂を掘削し,敷地の平面化を図った。
 現在は,環状3号線をまたいでA街区の駅前プラザから,住宅棟のあるC街区まで繋がる歩行者専用デッキの工事にとりかかっている。その中でも地下鉄日比谷線・大江戸線の六本木駅からの来街者を迎え入れる,広場となるデッキ部分は約4,300m2もの広さがあり,まさに巨大な人工地盤と呼ぶに相応しい。
 道路の整備と各施設の建築工事が同時進行する現場では,資材の搬入車輌など極めて数多くの工事車輌が行き来し,錯綜している。そのため,施工調整室と連携し,各現場との連絡調整,並びに諸官庁との調整を密に行い,工事は順調に進捗している。

施工中の歩行者専用デッキ(土木JV施工) 1カ所あたり,HiDAXを2台設置している
施工中の歩行者専用デッキ(土木JV施工)
1カ所あたり,HiDAXを2台設置している


先端技術が導入された事務所棟A
 街のランドマークとなる事務所棟Aは,地上54階建て,高さ238m,延べ床面積約38万m2にも達する巨大なオフィスビルである。外観のデザインは,超高層ビルの設計で世界的にも有名なKohn Pedersen Associates PCが手がけている。
 この建物は,グローバルに活動する企業の拠点となるように,情報通信インフラの整備や2層式のスーパーダブルデッキエレベータの採用など,様々な配慮が施されている。基準階の貸室面積はわが国最大の約4,500m2もあり,窓からの奥行きが最大22mの無柱空間を確保した。
 制震装置としては,特殊ブレースと当社が開発したセミアクティブ・オイルダンパ「HiDAX」(計356基)が使用されている。阪神・淡路大震災クラスの地震から通常の風揺れにも対応し,安全で快適なオフィス環境を提供する。

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超短工期を実現した施工技術
 当社は2000年6月から大林組とのJVにより,この建物の建設に着手した。建設当初から34カ月という極めて短い工期が課題となった。そのため,現場では掘削工事の効率化をはじめ,地下躯体と地上躯体の同時施工など,徹底的な施工の合理化を図ってきた。
 鉄骨建方では,国内最大級のタワークレーン6基を用いて施工を行った。建物の中心部に2基(JCC-1500H),外周部に4基(JCC-900H)のクレーンを配置し,先に中心部の2基がコア部分を建ち上げ,続いて4基が外周部を建ち上げてゆく施工法を採用した。その6基の姿勢をコンピュータで一元管理(K-3D・クレーン3次元衝突防止装置)することによって作業の効率化を図り,工期の短縮を実現した。
コア部分には日本で最大の揚重能力があるクレーンを配置  また,鉄骨が建ち上がっていくのに合わせ,速やかにコンクリート工事を進める施工法も検討された。地上からの高さが200m以上にも及ぶ高所へコンクリートを効率良く圧送するため,わが国に2台しかない,通常の超高層ビル建設に使用する倍の圧送能力がある定置式コンクリート圧送ポンプを使用した。鉄骨上部には,20mの範囲をカバーできるディストリビュータを配置し,地上から圧送されたコンクリートを効率良く打設していった。
 こうした施工法を採用したことで,10日間で3フロアを構築し,躯体は10カ月で地上238mの高さに到達するという驚異的なスピードが達成された。事務所棟Aは,今年の4月に上棟式を終え,現在,内装工事などの仕上げ工事にとりかかっている。1日2,000人以上の作業員が働き,来春の竣工に向けて一丸となって工事を進めている。

わが国に2台しかない高性能ポンプ ディストリビュータによるコンクリートの打設状況
地上から,わが国に2台しかない高性能ポンプで鉄骨最上部にコンクリートを圧送する
ディストリビュータによるコンクリートの打設状況


街の玄関となる駅前プラザ・複合棟
 六本木ヒルズは,地下鉄日比谷線・大江戸線の六本木駅と地下のコンコースで接続される。
 当社は,街のメインエントランスとなる駅前プラザと,隣接する複合棟の建設も手がけている。駅前プラザは,六本木ヒルズのメインエントランスとなる,まさに街の顔の役割を果たす建物だ。このため全面がガラスで覆われ,未来的でシンボリックなイメージが街の魅力をアピールすることを意図して,高さ21mの円柱と,上部に丸いお皿を載せたデザインをとっている。内部は開放的で明るいダイナミックな吹き抜け空間となっており,地下コンコースからの来街者を一気に地上へと導く,高低差11.5mの大型エスカレータが設置されている。
 駅前プラザと地下で連結する地上12階建ての複合棟は,ハリウッド株式会社,ビューティーサロン,美容専門学校などが入居する予定である。昨年のクリスマスには,複合棟の最上階に,クレーンを利用したツリー型のイルミネーションを施し,建設途中からも街の顔の役割を果たしていた。

 六本木の街に新たなページを開く,「六本木ヒルズ」。超高層ビル建設に豊富な実績とノウハウを持つ当社の建設技術が最大限に発揮された大規模プロジェクトである。オープンは2003年春。

駅前プラザ(左)と複合棟(右) 複合棟に飾ったツリーのイルミネーション
駅前プラザ(左)と複合棟(右)
複合棟に飾ったツリーのイルミネーション