現場から:
![]() ■歴史的建築と現代建築の融合 現場は神奈川県庁や山下公園から歩いて数分の距離にある。横浜市情報文化センター整備工事は,1929(昭和4)年に竣工した「旧横浜商工奨励館」と「旧横浜市外電話局」を改修・耐震補強し,この二つの建物を取り込んだかたちで,地上12階建の「新館」をつくるもの。但し,旧横浜市外電話局については,本工事では新館との結合工事だけとなった。これら三つの建物は,完成後一体となった情報インテリジェントビルに生まれ変わる。 ![]() 本町通りからの全景(今年1月現在) 手前が旧横浜商工奨励館,後ろが新館,左奥が旧横浜市外電話局 ■気品と重厚さを併せ持つ装い 本町通りから現場を眺めてみる。深みのある黄土色の外壁の高層部と,重厚な人造石の低層部とを併せ持つアールデコ調の高層ビルが都会の喧騒に堂々と腰を据えている。落ち着いて気品に満ちた装いだ。 建物の6階から12階の高層部は,新館にあたる部分。そのタイルには,近くの神奈川県庁舎の外壁などにも使われているスクラッチタイルが使用され,景観に調和するよう配慮されている。 一方,旧横浜商工奨励館にあたる前面に大きくせり出した低層部。外観は昭和4年の竣工当時のままで,昭和天皇が立ち寄られたバルコニーも健在だ。1階外壁の石材には,中国福建省で調達した小松石が使われており,突起のついたハンマーで表面を叩き凹凸をつくる“びしゃん”仕上となっている。上層階の外壁には特別な工法でつくられた擬石が使われいる。 ■歴史的建築物の改修から 高層ビルの最新技術まで 三ノ輪所長にお話を伺ったところ,「この現場では,歴史的建造物を改修する特殊な技術から,高層ビルの建築技術まで実に多くのことが学べます。現場経験の中でも,この手の工事は何回もあるわけではありません。若手社員にはこの機会に貪欲に吸収して欲しい」と語ってくれた。 旧横浜商工奨励館の改修では,長い年月を経て中性化したコンクリートを再生する工法や外壁改修など様々な技術を導入した。 また,本町通りの地下では地下鉄「みなとみらい21線」(他社施工)が,日本大通りでは地下駐車場(当社JV施工)の工事が現場に隣接して行われている。二つの歴史的建物の基礎部への影響に留意して,新館では逆打ち工法や大口径SMW工法を採用した。 ![]() 断面図(A−A’) ![]() 配置図 旧横浜商工奨励館での特殊技術 旧横浜商工奨励館を改修・保全するにあたり,中心となったのが躯体コンクリートの再アルカリ化工事と外壁の洗い出し工事だ。ここでは,工事で採用された2つの特殊工法について紹介しよう。 ■再アルカリ化工法 再アルカリ化工法は,中性化したコンクリートを電気化学的に正常な状態に戻す技術である。中性化は空気中の二酸化炭素や水がコンクリートの毛細孔・空隙から侵入することにより,コンクリートのPHを低下させてしまう劣化現象。コンクリート内の鉄筋のさびを誘発する。 この工法の原理はプラス・マイナスの電極からの電流移動だ。コンクリートの微細な間隙内部は電気二重層を形成しており,外部電極(+)と内部電極(−)に所定の電流密度で直流電流を与えると,溶液保持材に含んだ特殊アルカリ溶液(アルカリート溶液)が(+)側から(−)側に浸透する。その結果,コンクリートを再アルカリ化させることができる。 ![]() 再アルカリ化の仕組み ![]() システム概要図 ■洗い出し工法 洗い出し工法とは,左官工事で特別な工程を経て仕上げる技術。2階から4階の外壁修復工事で採用された。擬石ではあるが,表面は本物の石材のようにザラザラした仕上がりになる。現在,オフィスビルの建築ではめったに使われない工法である。 作業はコンクリート躯体にモルタルを塗り付けることから始める。塗り付けは,下塗り・中塗り・上塗りを行うが,最後の上塗りをする際に,モルタルの中に種石を混ぜて押え込んでおく。その後,噴霧器から出る水の勢いで仕上モルタルの中に混入されていたセメントを洗い流す。すると,モルタルの中に埋まっていた種石がしだいに浮かび上がり,石の質感が出てくるのだ。仕上がりまで,養生を含めて2週間ほどの作業となる。
ファイバー(溶液保持材)の吹付け(中央) 10日間程通電する(右) 新館での特殊技術 新館では,逆打ち工法や大口径SMW工法の他,応力開放ジャッキアップ工法が採用された。 ■ジャッキアップ工法 12階建の新館には,1階から5階まで吹き抜けの巨大なアトリウムがつくられている。施工が進むにつれ,この天井にかかる大梁は,上階の荷重を受けるため重さで下方へ歪む。これに伴い,大梁上階の柱も下方へと沈み,上階のそれぞれの梁を押し下げ,梁に無用な力がかかってしまう。しかも,上階の梁は二段梁構造となっており,特に下段の梁は地震時にエネルギーを吸収,先に降伏する構造となっている。この機能を働かせるためにも,施工時にかかった力を無くす必要があった。 この問題を解決すべく採用されたのがジャッキアップ工法だ。施工にあたり,6階フロア5本の鉄骨柱の両脇に設けられた10台のジャッキで,ジャッキアップを行い,上階の梁にかかった力を解放した後,ボルトを接合,上下の柱を固定した。 なお,この工法は現在,特許を申請中である。 ![]() ジャッキアップの仕組み
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