極める

極める
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森 靖克
「戸建住宅の達人」

建築設計エンジニアリング本部 建築設計グループ
森 靖克(やすよし)さん

1.2. 3. 森氏が手がけたN−HOUSE。
建築仕上学会の作品賞,東京都建築賞の奨励賞に選ばれた

 「当社が手がける住宅は,営業上のつながりで企業の経営者などから依頼を受けたものがほとんどです。モダンなコンクリート造から伝統的な木造建築まで,つくれない住宅はありません」
 森氏は,1963年に入社してから最初の4年間は,構造設計部で構造に関する基礎的な技術を学んだ。それ以降,「住まいを原点に建築を考えたい」という理由で,住宅に関わる業務に就いてきた。今日まで手がけた物件は60件以上。都心の超豪邸からリゾート地の別荘,高級マンション,学校施設など,建物の種類もバラエティに富む。こうした経験から,設計・構造・設備・インテリアと住宅に関することはなんでもこなせるようになった。
 「当社に依頼してくるお客さまは,自宅で大勢の人を招いてパーティーを開きたいとか,本格的な茶室が欲しいとか,様々な要求をされます。しかも,どれも世界に二つとない独創的な空間をつくり出す必要があります」 そこで,森氏は住宅を設計する際,お客さまの要望を聞きながら,その場で紙に描いてイメージを膨らませていく。「お客さまの想いは,私を通して表に出てきます。それを最大限,品格が持てるように表現しています。建築家は皆,自分を出し過ぎると思います。お客さまの夢や理想を引き出し,それを“かたち”にするのが,建築家の役割ではないでしょうか」
 森氏は,お客さまに心から満足していただくよう,社外の研修会に参加するなど勉強を怠らない。日本建築の衰亡を憂える専門家らによって設立された「日本建築セミナー」では,日本の伝統建築について第一人者達から指導を受けた。また,それとは別に,自らお寺や数寄屋などをつくる棟梁とも付き合い,実物を見に京都へも出かけた。そのため,社寺や重要文化財についても造詣が深くなった。
 「住宅建築という仕事にはきりがありません。住まいやそれに関わる全てのことを理解していなければなりません。その上でお客さまにより多くの選択肢,可能性が提供できるのです。しかし,そうなるには時間がかかります。私も50歳を過ぎてようやく自分の納得のいくような仕事ができるようになりました」と過去を振り返る。
 最後に,住宅建築の真髄を尋ねると,「住宅とういのは,特定の個人が生活し,成長していくプライベートな空間です。デザインだけではなく,住みやすさなど多面的な面から検討する必要があります。その際,我々日本人が歴史の中で育んできたものをベースに考えたらどうでしょうか。自然と一体となって,心が和む日本的な空間は,欧米の住宅では味わえません。我々建築家は,それをもっと世界に発信すべきです」ときっぱり答えた。森氏の住宅への探求は,一日たりとも止むことはない。

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