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![]() 東北新幹線八甲田トンネル 大坪工区JV工事 最大積雪量3m,気温マイナス17℃。厳寒下の施工 新田次郎の小説「八甲田山死の彷徨」。題材となった八甲田雪中行軍の遭難から, 今年で100年になる。その厳しい八甲田の自然をあるがままに受け入れ, 淡々とトンネル掘削を進める男たちがいる。 |
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![]() ![]() 八甲田連峰。標高1,585mの大岳を主峰とする8峰をさす 工事名:東北新幹線八甲田トンネル 大坪工区 発注者:日本鉄道建設公団 盛岡支社 場所:青森県上北郡天間林村国有林地内 規模:斜路740m 本坑4,000m他 2000年3月着工(東北支店JV施工) |
「寒い」と言うよりも「痛い」感覚 「今年は,雪が早いです」と工事を担当する小野塚さんは話す。この冬の初雪は昨年11月14日。前の冬よりも一週間早い。現場は,着工して2回目の冬を迎えていた。 「世界一の豪雪市」と呼ばれる青森市に雪を降らせる,八甲田山系。当工区は,1979年,当社が初めてNATM工法によって施工した,「みちのくトンネル」から東へ約2kmの谷間に位置する。そこは,津軽方面からの季節風の通り道になっているため,雪が吹き溜まる。 去年の冬,最大積雪量3mを記録した。年間降雪量約12m。1日に1mも積もることがあり,除雪機がフル稼働する日も少なくない。気温も日中に,マイナス17℃を記録した。風も強く,体感する温度はそれより低い。「瞼を閉じると,開けづらい」と小野塚さん。厳冬期の1月に入ってからは,最高気温が0℃を超える日は数えるほどしかなかった。 凍結と地吹雪に備える 気象条件の厳しい坑外と比べ,トンネル内は平均温度15℃と暖かく,雪の心配もなく,一見,工事に影響がないように思われる。 しかし,そうではない。水やコンクリートなど坑内作業に必要なものは,すべて坑外から供給しなければならない。切羽での削孔作業,バッチャープラントなど,工事には大量の水を必要とする。その工事用水は近くの沢から引いているが,去年,その配管が凍結した。冬は渇水期でもあり,ただでさえ,水の供給には苦心する。その経験から,今年,坑口周辺の配管はヒーターで保温している。 また,コンクリートを製造するバッチャープラント内の砂利などの骨材も凍り付いてしまうため,プラント内はジェットヒーターで暖められ,その壁は断熱材で被われている。 当現場では掘削ズリの搬出を,作業の安全,坑内環境改善と施工合理化のため,本坑・斜路・坑口の振分けベルトコンベヤーの3系統で行っている。「ローラーが凍結し,動かなくなる場合があるため,しつこいほどの点検が必要」と機械設備のスペシャリスト,千葉副所長自ら,現場内を飛び回る。 ここでは,都会の現場のように電話1本で,何でもすぐに調達できると言う訳にはいかない。比較的大きな町,野辺地町へも車で30分かかる。それに一旦,地吹雪になれば交通は遮断される。このため施工に不可欠なセメント,ボイラー燃料など,一週間分を備蓄している。 また,掘削ズリを2km先の土捨場に運搬することさえ,視界が遮られ危険だ。坑口前に掘削ズリを2日分は,仮置きできるスペースを確保している。 現場を生活拠点とする 新聞の配達はない。毎日,社員が通勤途中に購入している。水道もない。生活用水も現場エリア内の,沢から引いている。電話についても未整備地域で,電話ボックスのある場所までは,約7km。事務所の電話も,去年の1月まで衛星電話だった。もちろん,周辺に人家はなく,カモシカ注意の道路標識も頷ける。コンビニエンス・ストアまで,車で30分もかかる。 このような現場環境のなか,八甲田トンネルの8工区のうち当社JVだけが,現場を生活拠点としている。宿泊できる部屋を用意し,JV社員13人(女性を除く)のうち,9人が現場に泊り込み,24時間体制で現場を見守っている。事務担当,藤村次長の言葉を借りれば「現地化」,現場にしっかりと根を張り生活しているのだ。しかし,そこにいる所員に気負いは一切感じられない。この厳しい環境のなかで,それが当たり前のように生活し,当たり前のように仕事をこなしている。 春になれば,一條所長は所員より一足早く起きて,現場エリア内の山菜採りに出かけるという。それが春の息吹とともに,みんなの食卓を賑わす。 現場にとって「竣工」という本当の春を迎えるためには,あと5回,八甲田の冬を越さなければならない。 |
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木を一本切るにも許可が必要な,国有林地内にある現場エリア。工事が終われば,植林し復元しなければならない | 坑口。740m先に本坑がある |
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極寒のなか,振分けベルトコンベヤーの点検をする | 一條所長の余裕が所員をリラックスさせる |
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綿密な打合せをする千葉副所長(右)と小野塚さん(左) | クラッシャー(破砕機)で掘削ズリを,ベルトコンベヤーの搬出に適した20cm以下のサイズに砕く |
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坑口から伸びる振分けベルトコンベヤー | |
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毎分160mのスピードだ。現在,1回の発破で出る掘削ズリ約230tを坑口まで1時間弱で運ぶ。トラックでは,1.5時間かかる |
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Project 東北新幹線 八甲田トンネルは,八甲田山系の北端に位置する延長26.455kmの長大山岳トンネルである。 完成すれば,当社も施工に参画した岩手一戸トンネル(25.8km)抜いて,世界最長の陸上鉄道トンネルとなる。 当工区は発破を使ったNATM工法で,東京方から青森方へ,本坑までの斜路を含めると 約5,000mのトンネル掘削を担当している。 |