特集:鹿島ブランドを考える……第1回

3.外から見た鹿島
林 慎一氏
interview
日本経済新聞社 編集局 産業部キャップ
林 慎一氏

 では,鹿島は現在,社外からどのように見られているのだろうか?日本経済新聞社編集局産業部の林慎一氏に,率直なお話を伺った。
Q.建設業について,どのようなイメージをお持ちでしょうか?
A.建設業界全体に暗いイメージが定着し,なかなか脱却できていないのが実情ではないでしょうか。特に,不良債権問題がクローズアップされてから,そのイメージが強くなってしまったようです。マスコミの報道の仕方も影響しているのでしょうが,不良債権問題=ゼネコン問題という図式が定着してしまっています。
 ゼネコンは,設計から施工,管理まであらゆる建設業務を手がける総合建設会社を意味するのに,大手も中小もみんな不良債権問題の渦中にあると誤解を生んでいる面もあると思います。つい最近,談合問題が報道されました。その真偽は別として,業界内のもたれ合いのイメージもなかなか抜けきれていない気がします。それは,90年代前半に起きたゼネコン汚職を機に,マスコミに対して意見をはっきり発言する経営者が少なくなったのも影響しているのでしょう。「何を発言しても理解してもらえない」という萎縮した気持ちが行き過ぎていると思います。
 その一方,昨年夏に日建連(日本建設業団体連合会)が中小企業の受注確保をうたった官公需法の見直しを訴えたリポートをまとめたり,鹿島の梅田社長が国土交通省の再編促進政策について,「行政が業界再編を主導するのはおかしい」など,明確に主張するケースが増えています。こうした意見を,業界内で一本化させるよう努力を続けていけば,「政・官・民の癒着」などと言われる業界イメージは薄れていくのかもしれません。

Q.大手5社の中では,それぞれの特徴をどのように捉えていますか?
A.例えば,「清水建設は,派手さはないが民間建築分野を中心にこつこつ実績を積み上げていくタイプ」など,各社それぞれ独自のカラーはあると思います。ただ,一般の人が大手5社に抱くイメージはほとんど差別化されていないでしょう。私が建設業を担当して最初に思ったのは,「なぜ,大手5社の単独売上高は,ここ数年1兆2,000億円前後と横並びなのか」ということです。建築や土木など,特定分野に強み・弱みを持つ違いはあっても,大手5社の中で圧倒的な規模と存在感を示すゼネコンが存在しません。
 供給過剰と言われる産業分野では通常,大手企業が先んじて設備廃棄や合併・再編などで供給能力を絞り,価格支配力を高めようとする動きが活発化するのですが,建設業界ではそうした動きが鈍い。「合併しても公共事業の入札機会が減るだけでメリットはない」とよく経営トップの方は発言されますし,官公需法など,保護行政が続く中では再編の手法を活用するのが難しいのかもしれません。ただ,他社を圧倒する大手企業がいないことは,結果的に大手5社の存在感の希薄化につながっていると思います。

Q.当社のイメージ,または鹿島ブランドをどのように感じていますか?
A.漠然とした印象で,よく「建設業の盟主」などと言われるように,業界内でトップに位置しているイメージが強くあります。また最近,証券化の手法を使った土地再開発事業に業界でいち早く乗り出すなど,「常に先を見越して新機軸のビジネスを展開する努力を怠らない企業」といった印象も持っています。
  JRやNTT,東京電力,東京ガスなど,日本の産業界を支える有力な企業に食い込んでいるとも思いましたし,代官山アドレスや石神井の大型マンション開発など高品質の自社開発事業を行っていることも企業イメージの向上につながっているのでしょう。取材で社員の方に接する機会もありますが,とても真摯に対応してくれるケースが多いです。
  しかし,一般の人からみると「鹿島ブランドとは何か?」と聞かれて明確に答えられる人は少ないのではないでしょうか。弊社が調査した2001年の「企業イメージ調査」では,「好感度」や「成長力」などの項目について,鹿島は上位100社に入っていませんでした。これは鹿島の問題というより,やはりゼネコンという言葉の響きが持つイメージが影響しているとも思います。
 梅田社長は,「鹿島ブランド」について,「技術と品質」「伝統と信用」「国内外での豊富な経験とノウハウ」といった項目をあげられました。しかし,そのイメージが十分広まっているかどうかは疑問だと思います。例えば,「技術と品質」について言いますと,確かに発注者の評価は高いと思います。しかし,大手の他社と比べて圧倒的にブランド力があるかどうか…。大手建設会社が時々発表する技術関連のリリースなどを見ると,「耐震技術で世界一の水準」「耐震技術で国内初の開発」などと,謳い文句が並べてあるケースがありますが,どこも似たような技術で「世界一」と主張していて,よく分からない点もあります。
  企業ブランドはバランスシートに表れない無形資産の一つですが,他社と差別化された企業ブランドが確立されれば,営業でも顧客は好意的に接してくれますし,同じ商品を扱うにしても利益率が高まるなどのメリットが期待できます。ただ,経営トップがいくら旗を振っても,社員の方が共感して行動を示さないとブランド力は高まらないでしょう。企業ブランドを生み出して定着させるのは社員の方がその必要性をどこまで共有できるかにかかっていると思います。建設市場が今後縮小するのが確実な情勢の中で,御社が成長イメージをどう印象づけるかについても期待しています。

 これまでの歴史の中で新しい事業分野を積極的に開拓することで,パイオニアとしての地位を築き,他社との差別化を行ってきた当社であるが,近年では林氏のインタビューにあるように,建設業において抜きん出たブランド力を持つ企業は見当たらない。
 次回の「鹿島ブランドを考える」第2回(2002年5月号を予定)は,建設業におけるブランドの特殊性と,鹿島ブランドを社員がどのように捉えているかについて考えたい。

毎日企業認識度調査2001の結果から
毎日広告社が実施している毎日企業認識度調査2001年度結果を見てみよう。これは,「企業がどの程度知られているか」「企業がどのように評価されているか」「企業がどのようなイメージをもたれているか」について,上場会社管理職,若手ビジネスマン,OL,主婦,大学生など5つのグループ計5,000名以上をサンプルとしている。質問項目は18項目に及ぶ。この中で管理職の回答を中心に見てみよう。

毎日企業認識度調査2001の結果
(図をクリックすると拡大表示されます)
また,鹿島に対して思い浮かぶ「まず第一に頭に浮かんでくること」という自由回答では
○ゼネコン
がどの層でも最も多く,その他
○大手ゼネコン
○超高層ビル
○不良債権
○談合
○土建屋
○同族会社
などがあり,またアントラーズという回答も目立った。
「この会社に注文をつけたいことをひとことで言うと」という質問には
○ガンバレ
が最も多く,以下
○社内体質の改善,改革
○早期不良債権処理
○談合をなくせ
○公共事業に頼るな
○業界体質を変えろ
○環境保護への取組み
○建築物の耐久性アップ
○企業イメージをあげよう
○手抜きはしないで
○頑張っていい日本をつくって
○丈夫で安全な建物を




1.ブランドって何?
2.鹿島ブランドの変遷
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