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第二東名高速道路 矢作(やはぎ)川橋西工事

世界初の波形鋼板ウェブPC斜張橋
本年3月25日の愛知万博の開幕に向け,各地でアクセス道路の建設が急ピッチで進められている。今回紹介する第二東名高速道路矢作川橋は,3月中旬の供用後,現東名高速道路から一般道を経由せずに万博のメイン会場へアクセスすることができる。完成を急ぐ「世界最大級の橋」矢作川橋をリポートする。

第二東名高速道路矢作川橋西工事
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工事概要
第二東名高速道路矢作川橋
(PC・鋼複合上部工)西工事
場所:愛知県豊田市今町
発注者:日本道路公団 中部支社
計画設計:八千代エンジニヤリング
規模:4径間連続波形鋼板ウェブPC・鋼複合斜張橋 橋長820m 総幅員43.8m
工期:2001年8月〜2005年3月(約定工期)
(名古屋支店JV施工)

主塔断面図
矢作川橋の数々の特徴
 愛知県の三河になぞらえて「美河」と称(たた)えられてきた矢作川にふさわしい「水滴」をモチーフにしたユニークな形状の橋(上部工)の建設が2002年9月に始まった。橋梁形式としては世界でも類のない波形鋼板ウェブを用いたPC・鋼複合の斜張橋,矢作川橋の建設である。
 波形鋼板ウェブPC橋は,波形鋼板の持つ高いせん断座屈耐力を有し,アコーディオン効果によってコンクリート床版へのプレストレストを効率良く導入できる。コンクリートウェブに比較して軽量で,支間を長大化でき,現場作業を低減できるため,工期・コスト面のメリットがある。近年,フランスで開発された構造形式で,当社としては2002年に竣工した東海北陸自動車道下田橋(岐阜県)に続く2番目の実績となる。
 最大支間235m,橋長820mは波形鋼板ウェブPC橋としては世界最長を誇る。さらに波形鋼板ウェブ箱桁と鋼製箱桁(橋中央部)の混合構造は世界初の試みであり,上下線一体構造を採用したことにより,主桁総幅員は43.8mと我が国最大規模。将来,第二東名高速道路開通後は上下8車線となる広幅員の主桁を中央で吊る「一面吊り構造」は,波形鋼板ウェブPC橋としては世界初の試みである。主塔高さ109.6mもコンクリート製としては我が矢作川橋国最高と,最高・最大の特徴は枚挙にいとまがない。
 景観・環境配慮設計も矢作川橋の大きな特徴となっている。巨大な水滴の形状の主塔は,構造物である橋に曲線の柔らかなイメージを与え,周囲の景観に溶け込むことに成功している。水をモチーフにした「アクアリズム」の実現である。また,長大スパンを採用し,橋脚数を極力減らすことで周辺環境への負荷も低減している。
主桁構造図
波形鋼板ウェブのアコーディオン効果
高いせん断座屈耐力
主塔脇の900tタワークレーンから対岸を望む。川真上のグレー色の部分が鋼製箱桁。その先は東工事(他社JV施工)
橋脚部・主塔基部の3次元曲線の作り込み
 昨年11月末に現場の山内明夫所長に話を聞いた。「上部工の着工が遅れたため,工期が非常に厳しい現場です。技術的な課題も多かったのですが,最も苦労したのはこの橋の最大の特徴でもある主塔基部の曲線形状の作り込みでした」。
 橋脚部と主塔基部は独特の膨らみのある曲線によって絞り込んだ形状となっており,この部分には大きな断面力が作用する。主塔基部をRC構造とすると太径鉄筋を多段配置することが必要となるため,施工性を考慮して,鉄筋の代わりに大型の鋼殻を使用するSC(鉄骨コンクリート)構造を採用。橋脚部のうち受梁部にはPC鋼材により橋軸直角方向にプレストレスを導入したコンクリートと鋼殻の複合構造であるPC+SC構造が採用された。
 工場製作した鋼殻部材を現場に設置,ボルト締め接合した山内所長後,鉄筋・PC鋼材を配置し,コンクリートを打設する。打設コンクリートには60N/mm2の高強度コンクリートが使用された。高強度コンクリートの大量施工と温度ひび割れに対する配慮が課題となった。
 「型枠は加工性能と精度を考慮した結果,工場製作した鋼製型枠を使用することになりました。綿密な施工計画と高度な技術が要求されましたが,主塔基部はこの橋の外観を決定づける重要な部分だけに,美しい曲線が現れたときはほっとしました」と山内所長が苦労を語った。
橋脚部と主塔基部
橋脚部と主塔基部
主塔分岐部の急速施工
 主塔基部から立ち上がる主塔分岐部の施工では,工期短縮と高所作業低減のため,クライミング足場を使用し,鉄筋をプレハブ化し型枠を大型パネル化した。
 自動昇降式のクライミング足場は総足場と異なり,トラス上に組み立てられた作業足場をジャッキで施工リフト(サイクル)ごとに自動昇降させるシステムである。工期短縮につながり,トラス下の空間を有効に活用できるため,真下となる柱頭部(橋脚上の主桁部分)を同時に施工することが可能となる。
 場内ヤードにおいて地組み・プレハブ加工した鉄筋をクライミング足場上で先行架設した鉄筋架台にクレーンで吊り込み,機械式継ぎ手で接合する。型枠には鋼製の大パネルを採用し,一括架設・脱型による工期短縮,高所作業の低減,型枠の有効利用(転用)を図った。
 試行錯誤の連続となったが,主塔分岐部の1リフト4.5mの標準サイクル15日間をクリアし,作業は計画工程通り10リフト45mを約20週間で完了することができた。
クライミング足場全体図
橋の連結式の際に地元住民約1万6,000人が参加して開催された「矢作川橋フェスタ」
竣工に向け急ピッチで建設が進む現場
 主塔分岐部施工に続きワーゲン(移動作業車)による主桁の施工が進み,昨年10月には発注者である日本道路公団中部支社豊田工事事務所,当社施工の西工事JV並びに他社施工の東工事JVが主催する橋の連結式が行われ,橋の東西が結ばれた。11月末には,主塔の仕上げ工,クライミング足場の降下・解体,主桁の高欄(こうらん)工などが急ピッチで進み,竣工間近い現場のあわただしさが漂っていた。
 12月中旬には別途施工業者による橋面の舗装工事への引渡しが完了し,現在は最終の仕上げ工と周辺整備工が行われている。本号が発行される頃には最終引渡しまで1ヵ月を残すばかりとなる。「世界のトヨタ」の豊田市に世界最大級の橋が完成するのも間近い。
200301 主塔基部の施工が完了
200306 主塔分岐部が立ち上がる
200308 クライミング足場が上昇する
200310 主桁張出し架設が始まる
200403 主桁の張出し施工,主塔頂部の施工も進む
200406 主桁の張出し施工(その2)
200410 主径間の閉合
200411 降下したクライミング足場
column
 トヨタ自動車の本拠地としてあまりにも有名な愛知県豊田市の東部を南北に流れる全長117kmの矢作川。江戸時代から舟運による交通路として,また明治中期からは農業用水として農地を潤し,西三河地方の人々の暮らしを支えてきた。
 現場の1km上流には,近傍の安城市などへの用水として1956年に完成した明治用水の取り入れ口・明治用水頭首(とうしゅ)工(通称水源(すいげん)橋:写真)がある。周辺には豊かな自然が残され,カモやセキレイ等の野鳥の宝庫として住民に親しまれ,鮎が遡上する清流には多くの水棲動物が生息している。豊かな生態環境を保全するため,矢作川橋の建設にあたっては,自然保護,環境保全の観点から水質汚濁の防止等厳重な管理のもとで工事が進められた。
水源(すいげん)橋