concept

concept 個々の建築に宿るユニークなコンセプト。 設計者たちはどのように様々なデザインシーンを仕掛け,その想いを具現化していくのだろうか。
虎屋 京都工場
concept――自然と建築との対峙

 “森の中の工場”をつくりたい――。
 日本の歴史と風土に育まれた和菓子を,自然の恵みに包まれた環境で拵(こしら)える。ものづくりに携わるエンジニアとして,お客様のこだわりが理解できた。眼前に桂川,背後に筏森山の尾根が連なる京都・丹波の森。ここは虎屋創業の地でもある。
 だが食品工場の機能・形態は,自然の中に埋没できるボリュームを超えてしまう。それなら,自然の中に工場を隠すのではなく,自然の雄大さと建築の力強さを対峙させることで,共存を試みた。
 管理棟は左右に迫り出る山と山とを繋ぐ「橋」。工場棟は山々へ連続する「橋」の背景として配置した。有機的な自然と幾何学的建築に関係性を与えることで,自然と建築が応答を繰り返し,既存の風景に馴染んでいく。アカマツの縦格子,蔵をイメージした屋根,丹波生野石の石垣,自然の風合いを意識した壁。建築の細部に日本の伝統美をあしらうことで,老舗の風格を表現した。食品工場に求められる明確なエリア別け・動線計画,開口部を制限して遮蔽性を追求した建築設計も,大切な仕事になった。
 生産施設の設計は,ゾーニング,動線,製造機器への理解,そして働く人の快適性など,未知数の条件をデザイン化していく。複雑な条件が重なれば重なり合うほど,この難解なパズルを解いた時の達成感はたまらない。(菅野忠司・吉野博史)
筏森山の山並みと和の建築との対峙は,ひとつの風景として融合した
虎屋 京都工場
虎屋 京都工場(京都府南丹市)
室町時代創業の和菓子専門店「虎屋」の基幹工場。
餡から羊羹までを一貫して製造する工場棟と事務所・従業員施設・ショップなどからなる管理棟で構成されている。2009年度グッドデザイン賞受賞。
発注者:虎屋/設計:当社関西支店建築設計部/
規模:RC・S造 4F 延べ 5,461m2 
2007年11月竣工(関西支店施工)
菅野忠司 菅野忠司
(かんの・ただし)
吉野博史 吉野博史
(よしの・ひろふみ)


関西支店建築設計部
グループ長
主な作品:
大阪市立大学 高原記念館
御座候 あずきミュージアム
大塚製薬 徳島研究所
関西支店建築設計部
設計長
主な作品:
帝人 先端技術開発センター
ハウス食品 六甲工場
JA兵庫南 JAやすらぎ会館
空と緑と建築の対峙(上)。アカマツの縦格子から垣間見る自然の風景(左下)。「橋」に見立てた管理棟。日本の伝統美を表現した墨色の縦格子と丹波生野石の石垣(右下)
「縁側」を思わせる管理棟テラス 管理棟エントランス 和を想起する繊細な室内空間