テクノ・ライブラリ


Techno Library

電磁波のシールド技術
衛星通信から携帯電話,パソコン,電子レンジにいたるまで,
私たちは様々な電磁波に囲まれて生活している。
本格的なIT時代を迎えた現在,増え続ける電磁波は,機器の誤作動や混信,情報漏洩など,様々な障害を引き起こし,新たな環境問題となっている。
今回のテクノ・ライブラリでは,この環境問題に立ち向かう当社の電磁波のシールド技術について紹介していこう。

私たちがおかれている電磁環境
 電磁波とは,電気と磁気から構成される波動のことで,光や放射線,電波などがある。中でも,電波は情報化時代になり急速に利用され始めた。表「電磁波の種類」をご覧いただくとわかるように,電波は様々な周波数を使って情報を伝える。これだけ無数の電波が混在していると,各々の電波は有効であっても,時として互いの電波が混信したり,電子機器の誤作動の原因となる可能性がある。さらに,近年,電子機器の精密化,高性能化が進み,これまであまり問題とならなかった磁気の影響を受けやすい敏感な電子機器も多くなってきた。
 こうした電磁波による障害を回避するには,私たちがおかれている電磁環境を把握し,適切な方法でシールド(遮蔽)対策をする必要がある。

私たちをとりまく様々な電磁波の発生源
私たちをとりまく様々な電磁波の発生源


電磁波の種類
  名称 発生源または主な用途 周波数 波長
電波 ULF 生体現象、地震震源域 0.03〜3Hz 107〜105km
 
  ELF(極超長波) 高圧送電線、家電製品 3〜3000Hz 105〜100km
 
  VLF(極長波) 電磁調理器 3〜30kHz 100〜10km
 
  LF (長波) 船舶・航空機用通信 30〜300kHz 10〜1km
 
  MF (中波) AMラジオ 300〜3000kHz 1000〜100m
 
  HF(短波) 短波ラジオ、アマチュア無線 3〜30MHz 100〜10m
 
  VHF(超短波) TV、FMラジオ、ポケベル、アマチュア無線 30〜300MHz 10〜1m
 
  UHF(極超短波) TV、携帯電話、PHS、ワイヤレスマイク 300〜3000MHz 1m〜10cm
 
  SHF(センチ波) 衛星放送、マイクロウェーブ、マルチメディア通信 3〜30GHz 10〜1cm
 
  EHF(ミリ波) 無線LAN、電波望遠鏡、レーダ 30〜300GHz 1cm〜1mm
 
  (サブミリ波) リモートセンシング 300〜3000GHz 1〜0.1mm
遠赤外線・赤外線・可視光線・紫外線
1kHz=1000Hz 1MHz=1000kHz
放射線 エックス(X)線・ガンマ(γ)線
1GHz=1000MHz


電磁シールドと磁気シールド
 電波と磁気とは性質が違うため,そのシールド方法も異なる。
 電波を遮蔽する「電磁シールド」は,銅などの導電性の材料で周囲を取り囲み,その表面で電波を反射させ,電波の侵入や漏洩を防止する。建物全体をシールドするには,壁,床,天井にシールド層を造り扉や窓にはシールド扉やシールドガラスを使用する。その他,換気孔などには特殊フィルタを設置し電波の通り抜けを食い止める。当社が施工したフジテレビ本社ビル(東京都港区)には,隣接するスタジオ間でのワイヤレスマイクの混信や,到来する電波による機器の誤作動などを防ぐため,当社の電磁シールド技術を多数投入した。以後,この実績を活かし,様々な規模の放送局建設を手掛けている。

電磁波のシールドのしくみ
電磁波のシールドのしくみ


電磁シールドしたフジテレビ本社ビルの大型スタジオ
電磁シールドしたフジテレビ本社ビルの大型スタジオ


 一方,「磁気シールド」は,遮蔽したい空間を磁気の通りやすい鉄系の材料で密閉し,磁気をバイパスさせて侵入を防ぐしくみだ。磁気の影響を受けやすいEB(電子ビーム)装置を使用する半導体工場や,磁気に敏感である一方,自らも強力な磁気を発生するMRI(磁気共鳴映像)装置を使用する病院などでニーズが増加している。

磁気シールド工事の様子
磁気シールド工事の様子


多様化する電磁環境への対応
周波数選択電磁シールドの概念  当社は,多様化する電磁環境を的確に評価し,低コストで,快適な環境を提供できる電磁波のシールド技術の開発を進めている。
 近年,事業者用PHSや無線LANの利用によるオフィス内のコードレス化が進んでいる。無線通信の場合,電波を上手に制御しないと,混信を起こしたり,外部に電波が漏れて情報が漏洩するなどの障害が発生する。一方,テレビ電波などの必要な電波は遮断したくない。こうしたニーズに応えるため,特定の電波だけを選択してシールドできる技術が登場している。これはガラスや内装材などの表面に,ある周波数の電波だけを反射できるアンテナを配列したものだ。最近は,低コストで十分な効果を発揮し,既存のガラスなどに容易に貼付けできるフィルムタイプが主力で,リニューアルにも対応することができる。
 さらにビルを丸ごと躯体レベルで電磁シールドできるコンクリートも誕生している。この技術は,コンクリート自体にシールド効果を持たせることができるため,躯体の完成を待って行っていたシールド工事が不要となり,大幅な工期短縮とコスト低減が図れる。


周波数選択電磁シールドフィルム フィルム施工状況
周波数選択電磁シールドフィルム
フィルム施工状況


 磁気シールドについても開放タイプの新しい技術が開発されている。周囲をシールド材で覆うこれまでの密閉型に対し,帯状のシールド材を隙間を空けて配列することにより,少ない材料で従来と同等以上の効果を得られる画期的な方法だ。何より開放感を得られることは,病院などで密閉感を改善して患者に安心感を与えたり,鉄道の防音壁に組み込んで,透視性の向上や周辺への日照遮断の影響を低減するなどの効果が得られる。

磁気シールドの新技術
磁気シールドの新技術


ゼネコンが実現する最適な電磁環境
 当社は,電磁波障害が顕在化した当初から,電磁環境に関する研究開発を続けてきた。電磁波のシールドの要素技術は勿論のこと,測定,評価,さらに対策後のアフターケアまで,豊富な技術を備えている。こうした総合力は,計画段階から建物の最適な電磁環境を提案することを可能とし,オフィスから放送局,研究施設まで,多様な施設で施工実績をあげている。また,建築部材のシールドへの利用や,一連の建設工程を考慮したシールド施工時期の選定など,工期・コスト・性能面でもっとも合理的な方法を実現できることも,ゼネコンならではの強みであるといえよう。