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鹿島ニホンミツバチプロジェクト
鹿島ニホンミツバチプロジェクトミツバチが,地域の生態系を測る存在として注目されています。
都会でミツバチが住める環境づくりは「ミツバチプロジェクト」と呼ばれ,都内では銀座や品川区の商店街などで広がっています。当社でも,今年5月から,このミツバチプロジェクトがスタートしました。
「生物多様性」に配慮した都市づくりに活用していく考えです。民間企業が主導するミツバチプロジェクトは珍しく,建設業界では初の試みです。プロジェクトを推進する皆さんに話を聞きました。
ミツバチプロジェクトとは?
 まず,ミツバチの働きについて説明しましょう。ミツバチは,花から花へ飛びまわり,女王バチや幼虫などの食べ物となる蜜や花粉を巣へ運びます。この行動は,ポリネーション(花粉媒介)という重要な働きも担っています。近年,花粉を媒介する昆虫や鳥などの生物が少なくなったことにより,都会の植物は受粉機会を失っています。
  例えばソメイヨシノです。本来,桜の木ですからサクランボが実るはずですが,都心部ではほとんど結実しません。しかし,ミツバチの力で花粉を媒介すれば,結実し種子となり,実を食べる野鳥も集まってきます。野鳥は害虫を捕食するなど,生態系を向上させる手助けをしてくれます。ミツバチと聞くと安全性に疑問を持たれるかもしれませんが,人を刺すことはめったになく,他の都市部のプロジェクトでも事故の報告例はありません。また,ミツバチは少量の農薬でも死んでしまうため,環境指標種としても注目されています。
  我々に蜂蜜や蜜蝋を提供してくれるだけでなく,生態系保全のための重要な生物です。ミツバチが生息できる環境は,人間にとっても安全な空間と言えるのです。このことから,ミツバチプロジェクトが都心で静かなブームとなっています。

行動を数値化して都市づくりに活用巣箱にむらがる8,000匹のニホンミツバチ
 今年5月,当社社宅(東京都豊島区)の階段室最上部に巣箱を設置して,実験を開始しました。ミツバチの扱い方や巣箱の形状などを大学の先生や養蜂家の方に教えてもらいながらの手探りでのスタートでしたが,順調に成育し当初3,000匹だったミツバチも8,000匹を越しています。(6月現在)最終的には,巣箱を増やし30,000匹を飼育します。
  では,このミツバチを使って何をするのか?ミツバチの行動範囲(巣箱から半径2km)で,どの場所のどのような種類の花から蜜や花粉を集めているのかを調べています。これは地道な作業で,私たちが飼育するミツバチにマーキングなどをして,行動範囲を調べています。最近,民家の庭先や生垣として植えられているブラシノキやネズミモチという種類の植物から蜜や花粉を集めていることが確認できました。季節ごとの花の種類も調べます。
  今後は,ミツバチの行動を数値データにして,どのような緑地を作れば,様々な生物が共生できるかをコンサルティングするサービスの展開を予定しています。また,街路樹の設計資料への活用,ミツバチプロジェクトの実施支援,商業施設における地産地消型施設「ミツバチカフェ」などの提案も想定しています。従来の景観重視の緑化だけでなく,人間にとっても安全で快適な「生物多様性」に配慮した都市づくりを目指します。
鹿島ニホンミツバチプロジェクト
社宅近くのネズミモチの花から蜜を集めるミツバチこだわりはニホンミツバチ
 プロジェクトの開始にあたって,こだわったのは日本の在来種であるニホンミツバチを使うこと。これまでのミツバチプロジェクトは,セイヨウミツバチが中心だが,生態系保全は在来種が基本である。そこでプロジェクト名も敢えて「鹿島ニホンミツバチプロジェクト」と強調した。
  最近報道されているミツバチの大量死は,セイヨウミツバチに関するもので,農薬やダニなどが原因と言われている。ニホンミツバチは,高温多湿の日本の在来種なので,ダニに強く,ミツバチ不足の救世主になることが期待されている。

幼稚園児への環境教育にも活用
 実験場のある社宅には児童館(幼稚園)が併設されています。月1回程度,園児向けに,紙芝居でミツバチの生態について教えています。「みんながイチゴを食べることができるのは,ミツバチさんのおかげなんだよ!」と言うと,目をパチクリさせながらうなずいてくれます。今は環境教育が目的ですが,将来は企業の社会貢献活動のメニューとして提案したいと考えています。
  実際に,蜂蜜の採取もできます。子供達が給食の時間にパンにつけて食べていますよ。パリではエッフェル塔やホテルリッツでも養蜂を行い,蜂蜜がお土産となっています。今回のプロジェクトの副産物として,鹿島ブランドの蜂蜜が有名になるかもしれません。

ミツバチの働きを紙芝居で園児たちに解説 → 初めての採蜜で,約1リットルの蜂蜜が取れた → 給食の時間に蜂蜜をパンにつけて食べる園児
マスコミの注目度も高く,NHK「おはよう日本」,日本経済新聞などで大きく取り上げられた
生物多様性の先駆者

 2010年10月,名古屋市で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の開催が予定され,生物多様性の注目度はますます高まっている。当社は,2005年に国内企業ではいち早く「鹿島生態系保全行動指針」を制定。2008年に発足した「企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)」でも積極的に活動している。
  プロジェクトリーダーの山田順之さんは,当社を生物多様性のリーダー的存在とした立役者であり,先駆者でもある。コゲラを指標として,生態系に配慮した緑地の提案も彼の成果。彼のもとへメンバー2人が加わり,プロジェクトが始動した。学生時代に森林や植物の種類について研究してきた曽根佑太さん,そして廃棄物施設など様々な環境技術に携わってきた武藤由美子さんだ。2人は山田さんの右腕であり,園児への環境教育の中心的存在でもある。

「地域本来の様々な生物が共存できる都市は人間にとっても安全で快適な都市です。このような都市づくりをかなえてくれるのは,ニホンミツバチかもしれません」(山田さん)

「どこで蜜や花粉を集めているのかを調査しています。半径2kmは自転車がないと結構キツイですが,ミツバチの行動をしっかりデータ化してお客様に提案できるようしていきます」(曽根さん)

「ミツバチと最初に聞いた時は,怖いというイメージが先行しました。実際接してみると,温和で大人しく,刺すことはまずないです。接し方を知れば人と共生できることを実感しています」(武藤さん)

山田さんがデザインしたプロジェクトのロゴマーク
左から環境本部地球環境室 曽根さん,環境本部環境ソリューショングループ 武藤さん,環境本部地球環境室 山田課長