現場から:

W杯へ向け,兜の屋根持つスタジアム建設中
宮城県総合運動公園スタジアム新築工事



 杜の都・仙台から15キロ。宮城郡利府町の高台に宮城県総合運動公園がある。ここは1990年から整備が進むスポーツ施設群で,木床で日本最大の面積を誇る体育館や国際大会も開催できる屋内プールが既にオープンしている。この運動公園内に現在,巨大な屋根を持つスタジアムの建設が進む。2001年の新世紀・みやぎ国体及び翔く・新世紀みやぎ大会,そして,2002年の日韓共催ワールドカップ(W杯)サッカー大会の会場となる宮城県総合運動公園スタジアムの現場を訪ねた。


空撮
空撮 バックスタンドのステンレス屋根工事は概ね終了

●観客席をまたぐ360mの大屋根

 スタジアムの現場に入ると,まずメインスタンドを覆う巨大な弓形の屋根が目に飛び込んでくる。地面から這い上がっているかのようなこの屋根は,美しいアーチを描いて観客席を覆っている。
 このメインスタンドの屋根は長さ360m。このアーチを支えるために地中にコンクリート製の巨大な梁(プレストレストタイビーム)が埋め込まれている。タイビームはこのアーチ(弓)を支える「弦」の役割をしており,3000tの力で引っ張っているのだ。
 伊達政宗の兜の三日月をイメージさせる大胆なフォルムが,訪れた人全てに強烈なインパクトを与える。膜構造のふわっとした屋根のスタジアムが多い中,スレンダーな曲線を描くトラスが,力強い印象を与えるスタジアムだ。


メインスタンド
施工中のメインスタンド
下部にジャッキをセットしたパネルベントで迫り出した鉄骨トラスを支えている

●工事の全てが巨大なスケールで

 メインスタンドの屋根は鉄骨トラスで構築されている。高所での取付作業をできるだけ少なくするために,大半を地上で構築した。一つのトラスは重さ60t,長さは50m。トラック14台分の鉄骨パイプを組み合わせて制作し,吊り上げた。
 鉄骨量は屋根だけで4,000t,躯体に使われているのが6,000t,合計10,000tにも及んでいる。鉄骨建方の最盛期には超大型750tクレーンなど15台のクレーンが林立した。

●10万m3の打ち放しコンクリート

 このスタジアムはとにかく意匠が複雑だ。バックスタンドのコンクリート柱などは垂直な面は一つもない。施設を通じて同じ部分が見あたらず,左右非対称。しかもそのほとんどがコンクリート打ち放し仕上げ面となる。現場の大塚所長は「複雑な意匠構造に対応するためにPCaが主流となる中,総量10万m3にも及ぶコンクリートを現場打ちしました。一か所一か所の施工精度がそのままスタジアムの出来映えとなるため,正に手作りという感じです。熟練した腕のいい作業員が揃っていましたので打ち放し面が非常にきれいに仕上がりました。見学に来た方が皆さんそうおっしゃいます」

バックスタンド
バックスタンドの柱・梁は垂直な面はほとんどないくらい複雑な意匠設計

全景
全景

 2002年には,世界最高水準のW杯サッカーの舞台として,エキサイティングな試合が繰り広げられることだろう。全世界の人々がモニュメンタルなこの宮城のスタジアムに注目する日が今から楽しみだ。




宮城県総合運動公園スタジアム新築工事
<工事概要>
場所 宮城県宮城郡利府町菅谷地内
発注者 宮城県
監理 宮城県総合運動公園建設事務所
設計・監理 針生・阿部共同アトリエ
規模 敷地面積1,461,000m2
建築面積36,684m2 延べ57,564m2
スタンド=鉄骨鉄筋コンクリート造一部鉄筋コンクリート造
屋根=鉄骨造地上6階,塔屋1階,
収容人員約50,000人
工期 1996年10月〜2000年3月
施工 東北支店JV施工