クローズアップかじまじん 今年3月に発刊された『元気の出る現場のひみつ“土木施工編”』は,建設現場で働く全てのゼネコン社員に向けて贈られた本だ。筆者の豊富な現場経験をもとに,現場を運営するノウハウやビジネスにおける“コツ”が記されている。著者である東京支店赤坂見附駅工事の新川所長に執筆の動機などを聞いてみた。
私は今年で45歳になります。鹿島に入社して22年目です。今でも入社した当時のことをよく覚えています。 その頃,建設業界は“冬の時代”と言われていて,非常に厳しい時代でした。オイルショックを契機に始まった不況の影響は,企業の新卒採用にまで及んでいました。当社においても例外ではなく,私の入社を境に採用が一気に減少しました。 このときの社員は現在,30代後半から40代前半にかけての働き盛りの社員となっています。この年代の社員は徐々に管理職になってきていますが,人数が極端に少ないことから深刻な問題が生じています。 というのは,最近の現場では,若手社員を適切に指導・育成する組織体制がとれなくなってきているのです。昨今の景気低迷の折,大型工事が少なくなり,中小規模の現場が増えています。これらの現場は大体小人数で運営するので,若手社員と中堅社員が一緒に働くという機会を一層減らしてしまっています。私が初めて現場に出た当時は,数年上の兄貴分にあたる先輩が必ず側にいたものです。彼らから実に多くのことを学びましたが,それが出来ないとは残念なことです。 その一方,最近の現場では工事の作業標準や管理のチェックリスト,ISO関係の資料などソフトの整備が行き届いています。また建設機械のハイテク化の進展によりハードの方も充実してきました。これらを通して,現場経験が少ない社員でも工事の進め方や管理状況を容易に知ることができるでしょう。 しかし,現場は多くの人間関係の上に成り立っています。協力会社との工事の進め方や,資材業者との価格交渉方法などは,マニュアルには書かれていません。これらは,知識も経験もある程度ついてきた中堅社員の指導の下で身に付けていくことが最も理想的なのです。 自分が教わってきた現場のノウハウを次の世代に伝えることができない。そんな苛立ちがずっとありました。自分の下に付く社員は,いつもきまってJVを組んだ他のゼネコンの社員でしたから。(なんと私の下に当社の社員がきたのが入社から13年目のときでした。) 私達の世代にも,後輩を育成する義務がある。会社の将来を担う人材を育成するために何か出来ないか。そこで自分が経験した失敗や気が付いたことなどを少しずつ文章としてまとめていったのです。 本には若手社員が現場で役立つ情報やノウハウが載っています。しかし,この本だけで全てを伝えているとは到底言えません。問題を解決する何らかのヒントを与えられればと思います。たとえ挫折したとしてもくよくよしてはいけません。また次があるという気持ちでやればいいのです。元気の出る本当の「ひみつ」は現場を楽しむことですから。 ![]() 現場の仲間と
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