葉山発 海辺通信 |
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vol.6 海を歩く
文:久野康宏 |
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シーカヤックとは海のカヌー。川のカヌーと比べ長くて幅が広いため,小回りが効かないかわりに高い安定性を備えています。中には防水ハッチを備え,200kgと軽自動車並みの荷物を搭載可能な舟もあります。 そもそもシーカヤックは北極圏に暮らすイヌイットの生活に欠かせない道具でした。食料や衣服の素材を得るためにアザラシなどの海獣をシーカヤックに乗って狩りしていたのです。 そんな道具が1980年代アメリカ・シアトルを中心に,レジャーの道具として蘇りました。素材はアザラシの皮から繊維と樹脂でプラスチックを強化した素材(FRP)にかわりましたが,船体デザインはイヌイットたちのものがそのまま継承されたとか。水への抵抗のなさ,波に対する安定性や直進性など航海のための性能は,はるか昔に確立されていたのです。 この人類の叡知といえる道具に10年ほど前に出会い,当時暮らしていた東京からステーションワゴンに舟を載せて毎週末,三浦半島西海岸を目指すほどその魅力にとりつかれてしまいました。 相模湾は理想的なシーカヤッキング・フィールド。入り組んだ海岸線,ひっそりとしたビーチ,エンジン付きボートでは侵入できない浅瀬,澄んだ透明な水に囲まれた無人島など,都会に近いのに豊かで多様な自然が息づいています。 自分が感じるシーカヤックの楽しさを多くの人に伝える本を作りたいと願い,東京への通勤に2時間半かかるけれど,夢を成し遂げるため三浦半島の海辺への移住を決意したのです。 シーカヤックに乗ると海と一体になれる気がします。独特の浮遊感に包まれ,海抜ゼロのアングルから街や山を眺めゆっくりと舟を進めます。 耳に届くのはパドル(櫂)から滴り落ちる水の音や海鳥のさえずりだけ。夢のように心地良い海の散歩ですが,同時に風や波に対して常に注意を払ってもいます。相模湾といえど,いったん荒れ始めると鏡のような海が瞬時に白波砕ける海へと変貌するからです。 五感を研ぎ澄まし,うねりの波動や,気圧が変化する様を全身で感じ取っていると,忘れていた生存本能を取り戻せたような想いがします。命を守るのも自分次第という環境,状況では底なしの開放感を獲得できるようです。 本当の自由を求めて,これからも海という荒野へ漕ぎ出ていきたいと思います。 |
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【著者紹介】 くのやすひろ 1965年東京・佃島生まれ。 現在,神奈川県葉山の海辺に在住。 スキューバダイビング専門誌の制作に13年間携わり独立。 フリーの編集者&ライターとして四季感と多様性に満ちた相模湾の魅力を水面上と水面下,両方の視点で伝えようと取材活動している。 海辺暮らしを綴ったホームページはhttp://homepage.mac.com/slowkuno |